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iOS 11の「Apple Pay」は何が便利になったのか

ITmedia Mobile のロゴ ITmedia Mobile 2017/09/24 06:00
iOS 11の「Apple Pay」は何が便利になったのか: 日本でも利用できる「Apple Pay」。iOS 11ではこれがより便利になる © ITmedia Mobile 提供 日本でも利用できる「Apple Pay」。iOS 11ではこれがより便利になる

 9月20日に配信が始まったAppleの「iOS 11」。この新しいモバイルOSでは数多くの新機能や細かい改良点に加え、国内でもサービスが提供されている「Apple Pay」の大幅な進化にも注目したい。

 Apple Payはその名の通り、Appleが提供する電子ウォレット(財布)および非接触型の決済サービスだ。日本におけるモバイル決済の利用率はまだ低い水準だが、iPhoneをかざして駅の改札を通過したり、店頭での支払いに利用していたりする場面を見かけたことがある(あるいは使っている)人も少なくないだろう。

 今回のアップデートでは、米国での提供が予告されている「個人間送金(P2P)」や「Apple Pay Cash」のようなサービスはまだ日本にやってこないものの、「非接触通信による店頭での決済」「アプリでの決済」「Webブラウザでの決済」の3つについて、日本国内のユーザーが大きな恩恵を受けることになりそうだ。

●iOS 11のApple Pay新機能を整理

 ソフトウェアのiOS 11だけでなく、9月22日に販売が開始されたハードウェアの「iPhone 8」「iPhone 8 Plus」「Apple Watch Series 3」、そして11月に発売される「iPhone X」を加えた、今回のApple Payに関するアップデート内容を見ていこう。

 Apple Payは指紋認証機能の「Touch ID」で認証を行い、支払いを済ませるが、iPhone Xでは操作方法が変わる。iPhone XではTouch IDがホームボタンとともに省かれ、新たに顔認証機能の「Face ID」が搭載されたためだ。Apple Payを利用する際は、画面を見つめるだけで認証が完了し、支払いを済ませられるようになる。

 Apple Pay自体の主なアップデート内容は次の3点になる。

1. 個人間送金(P2P)とApple Pay Cash

2. iPhone 8/8 Plus、iPhone X、Apple Watch Series 3以降のデバイスで国内外販売のモデルを問わずにFeliCa系サービス(iD、QUICPay、Suica)が利用可能に

3. 日本国内発行のクレジットカードまたはデビットカード(プリペイドカード)をApple Payに登録してType-A/B系の非接触決済サービス(NFC Pay)が利用可能に

 順に説明していこう。

(1)個人間送金(P2P)とApple Pay Cashはもう少し先

 Apple Payにおける個人間送金(P2P)とは、iMessageのインタフェースを介してiPhoneユーザー同士が個人間送金を行えるサービスで、Apple Pay Cashはそれを受け入れる側として対になる仕組みだ。

 P2Pで相手のユーザーに送られたお金は、いったん受け取り側のApple Pay Cashというバーチャルカードにプールされる。この資金はApple Payアカウントにひも付いた銀行口座などに出金が可能な他、そのまま別のユーザーに再度送金したり、Apple Payでの支払いに流用したりできる。

 ただし、この機能は9月20日に配信されたiOS 11の時点では有効化されておらず、10月以降に配信されるiOS 11.1のアップデートで正式に実装されるとみられる。米国のApple Pay公式ページには「Coming this fall」とあり、日本ではその告知もない状況だ。

 そのため、まだ実際にテストできておらず推論の域を出ないが、Apple Pay Cashの仕組みそのものは日本のユーザーでも利用可能だと予測している。P2PとApple Pay Cashは当初機能がローンチされる米国ユーザーのみが対象だが、日本のユーザーであっても地域設定の変更でApple Pay Cashを有効化して「お金の受け取り」だけは可能になり、これを応用すれば再送金やApple Payでの再利用が行えるとみている。

(2)海外販売のiPhoneで国内のFeliCaが利用可能に

 iPhoneの海外販売モデルによる「FeliCa」の利用についてだが、「iPhone 7」「iPhone 7 Plus」の世代では日本市場向けは別のモデルという扱いだった。例えば、米国で購入したiPhone 7では日本国内発行のクレジットカードを登録して「iD」や「QUICPay」のサービスを利用したり、あるいは「Suica」カードを登録して交通系サービスを「タッチ&ゴー」で利用したりすることはできなかった。

 これに対して、iPhone 8/8 Plus、iPhone X、Apple Watch Series 3以降のデバイスではこの縛りがなくなり、国内外を問わず、FeliCa系サービスの利用が可能になった。具体的なメリットとしては、日本のユーザーが海外で販売されているiPhoneを購入して日本に持ち帰った場合などでも、日本国内発行のカードを登録して非接触通信による電子マネーサービスが問題なく利用できる。

 また外国のiPhoneユーザーが日本を訪問した際に、SuicaのバーチャルカードをiPhoneに設定し、これで公共交通の利用や電子マネーによる支払いが容易になる。現在、海外発行のクレジットカードでSuicaのICカードにチャージを行うのは至難の業だが、Apple Payの仕組みを用いることでiPhone上でのオンラインチャージが容易になる。これはインバウンド需要を見込むうえで非常に大きなステップアップだ。

(3)国内発行カードでApple Payの海外利用が可能に

 この「国内発行カードによるApple Payの海外利用」が、本稿のメイントピックだ。国内のFeliCaとは異なる、海外で一般的な「Type-A/B」系の決済サービスである「EMV Contactless」が、日本国内発行カードでも利用できるようになる。世界標準に対応するという言い方が分かりやすいだろうか。

 具体的には、JCB、Mastercard、Visaなどの国際カードブランドが従来の決済ネットワークを介して、NFCの非接触通信による支払いを可能にするものだ。Mastercardでは「PayPass」などのブランドで提供されている。

 正確には日本でも少数ながら利用可能な拠点が存在しており、今後の増加が見込まれているが、海外では既に広くインフラが展開されて多くの場所で使えるようになっている。特に出張や旅行で海外に行く機会の多い人には、大きなメリットとなる新機能だ。

●Apple Pay新機能の対応状況は?

 2016年10月に日本での提供がスタートしたApple Payだが、その仕組みは少々特殊なので、おさらいしつつ解説していこう。

 Apple Payに対応したクレジットカード(デビットカードやプリペイドカードも含む)をiPhoneに登録すると、そのカードの発行会社に応じてiDまたはQUICPayの機能が付与され、「デバイスアカウント番号」と呼ばれるそのiPhoneでのみ有効なバーチャールカードの決済番号がひも付けられる。

 またこれとは別に、クレジットカードの券面にある国際カードブランドの決済機能がバーチャルカードに付与され、こちらもデバイスアカウント番号がひも付けられる。

 つまり、1枚のカードを登録するごとに2つのデバイスアカウント番号が登録される仕様だ。iOS 11の配信直前までの段階では、前者が「店頭での非接触通信による決済」に用いられ、後者が「アプリまたはWebブラウザでの決済」という形で役割が分けられていた。

 ただし現時点では、Visaカードが日本のApple Payに対応しておらず、Apple Pay対応を表明するカード会社発行のクレジットカードであっても決済のブランドがVisaの場合、後者のデバイスアカウント番号は付与されない。つまり、店頭での支払いは可能だが、アプリまたはWebブラウザでの支払いには対応しない。また、iOSのWalletアプリからはSuicaにチャージできず、VISAカードを登録したSuicaアプリからチャージする必要がある。

 今回のiOS 11が配信されたことで、後者の国際カードブランドにひも付くデバイスアカウント番号を使って、いわゆるType-A/B系の決済サービスを日本国内発行のカードでも利用可能になったわけだが、関係各社の対応をもう少し詳しく見ていこう。

 トヨタファイナンスは同社発行のクレジットカードで、MasterCardの非接触決済サービス「Mastercardコンタクトレス(PayPass)」とJCBの「J/Speedy」が利用可能になったことを報告した。KDDIは「au WALLET」(クレジットカードとプレイペイドカード両方)でのMastercardコンタクトレス対応を認めている。

 一方でNTTドコモが「dカード」の対応について「現時点では未対応だが、対応を進めている最中」とのコメントを出しており、必ずしも全てのApple Pay対応カードがこの機能をサポートしているわけではないようだ。

 この他、iOS 11配信開始から2日ほどかけて、幾つかのカードでの利用可否が判明しつつある。

 au WALLETの場合、Apple Payに登録することで国際カードブランドとしてはMastercardコンタクトレスへのひも付けが行われるが、これに関してKDDIが対応状況について面白い回答をしている。

【 iOS11以降のApple Pay(au WALLETプリペイドカード)は、国内外のMastercardコンタクトレス加盟店(一部店舗を除く)でご利用いただけます。

 Apple Pay(au WALLETクレジットカード)は、国内のMastercardコンタクトレス加盟店(一部店舗を除く)でご利用いただけます。海外利用も対応予定ですが、時期は決まり次第ご案内いたします。】

 つまり、同じau WALLETでありながら、カード種別によって利用可能な店舗に違いがあるのだ。この対応の差は、カード発行会社の違いに由来すると推測される。「au WALLETクレジットカード」の発行主体はUFJニコスで、「au WALLETプリペイドカード」の発行はクレディセゾンだ。

 これ以外には、オリエントコーポレーション(オリコ)のカードがApple Pay経由でMastercardコンタクトレスを利用可能なことが確認できた。

 一方でdカードが未対応であることを考えれば、この発行主体である三井住友カードは未対応または何らかの機能制限が現状ではあると予想できる。

 現時点での各社の対応はまちまちで、恐らくAppleやカード各社がこの新機能をアピールしない理由はこの辺りに由来する。今後は2017年中くらいをめどに残り各社の対応が進み、あらためてアナウンスされるとみている。

 また、対応機種による制限についても判明している。トヨタファイナンスによれば、「iOS 11.0以降にアップデートしたiPhone X、iPhone 8、iPhone 8 Plus、Apple Watch Series 3ならびに日本国内で販売されたiPhone 7、iPhone 7 Plus、Apple Watch Series 2」が対象となり、「iPhone 6s」以前の機種や海外で販売されたiPhone 7については未対応となっている。

 機能的にはMastercardコンタクトレスはFeliCaを必要としないため、ここで未対応となっているiPhone 6s以前の機種などでも問題なく利用できそうだが、現時点では未対応だ。これは「日本国内発行のカードを登録して、iDまたはFeliCaが利用できる機種」という縛りがあるのだと思われる。

 この他、トヨタファイナンスの説明によれば「Apple Payを設定済みの場合、再度設定する必要はない」とあるが、au WALLETのケースで「カードを一度削除して再設定しないと、読み取りエラーが発生して決済できない」という現象が確認できており、iOS 11以降の新機能を利用するにあたっては再設定を行った方がいいようだ。

 いずれにせよ、まだまだApple Payにおける新機能の提供は混乱状態にあり、正式発表があるまでは暫定的な対応と考えた方がいいかもしれない。

●VisaのApple Pay国内参入はあるのか

 日本国内で現在Apple Payを利用可能なのは、Appleが公開している対応カードのいずれかになる。このうちアプリまたはWebブラウザ経由のオンライン決済で使えるのは、アメリカンエクスプレス、JCB、Mastercardの3つのカードブランドで、Visaについては「iDまたはQUICPay」のみでの利用となる。

 これは「Visaが日本でのApple Payに対応していない」ことによるもので、特にアプリ経由での支払いやSuicaのオンラインチャージなどの面で利便性を大きく左右する(VisaはSuicaアプリで別途ユーザー登録する必要がある)。

 Visaが未対応の理由だが、関係者らの話によれば「iDまたはQUICPay経由での相乗りによる決済」を嫌った他、世界標準であるEMV Contactlessによる非接触決済のインフラ展開を推進する立場として、初期の日本版Apple Payにあったような仕様は受け入れられないと判断したからだと言われている。

 Visaにしてみれば、「Visaという1つのブランドできちんと決済できる」ということが重要で、ユーザーの混乱を招く相乗り方式は論外なのだろう。

 ところが今回、日本版Apple PayについてもMastercardコンタクトレス(PayPass)やJ/SpeedyといったType-A/B方式(ISO 14443)の非接触決済がサポートされ、その潮目が変わってきた。

 対応カードのiDまたはQUICPayへのひも付けという問題はあるが、少なくともType-A/B方式への対応によって同インフラ展開の阻害という側面は弱くなり、VisaがApple Payに参入するハードルが低くなっている。同社がApple Payに参加することで、同じ非接触決済技術の「Visa payWave」の提供が可能になるからだ。

 Visaに同件について問い合わせたところ「ノーコメント」との回答だったが、東京五輪のワールドワイドパートナーという立場も合わせて、次のような声明を発表している。

【 Visaは金融機関を始めパートナーの皆さまとともに東京2020オリンピックに向けて、国際標準として定められた非接触ICカードの規格ISO 14443に準拠すると共に、高いセキュリティレベルが要求される決済に特化したEMV基準を満たす非接触決済を、カード発行サイドでも加盟店サイドでも拡大していくように努めております。近い将来日本でも世界基準の非接触決済が普及していくと期待しており、高い利便性と安全性を消費者にもたらすものと考えています。これからも、その普及に努め、官民一体となったキャッシュレス化の促進に貢献してまいりたいと思います。】

 Visaの立場は複雑だが、Type-A/B方式の日本国内での普及において、Apple Payはほぼ必須のパートナーとも言える。それはインフラ整備以前の話として、payWaveを利用可能なICカードやモバイル端末向けの提供がほとんど進んでおらず、「鶏と卵」のような関係に陥ってしまっており、もしApple PayがpayWaveをサポートすれば、この状況を一気に打破できる可能性が高いからだ。

 実際、VisaのApple Pay参入を示唆するような動きが幾つか出てきている。例えばオリコが提供していたモバイル端末向け決済サービスの「Orico Mobile Visa payWave」は、2017年9月中での終了がアナウンスされている。もともと設定が面倒などの理由であまり評判の芳しくなかったサービスだが、日本のユーザーがpayWaveを利用するための数少ない手段の1つであり、この動きはVisaにとって大きなマイナスだ。

 しかしVisaがApple Payに対応するならば、国内携帯電話市場で半数近くを占めるというiPhoneユーザーを軸に、一気に利用者を増やすことが可能なわけで、オリコのサービス終了はこれを見込んでのものだと考えられなくもない。

 また日本版Apple PayがType-A/B方式を標準サポートすることで、Visaと同じく同インフラの整備を見込むMastercard側にも大きな影響がある。

 例えば、日本のユーザーが海外でMastercardコンタクトレス(PayPass)を利用する手段として、NTTドコモが提供しているおサイフケータイ向けの「iD/NFC(旧iD/PayPass)」があるが、このサービスが終了するといううわさが出ている。

 前述のオリコと同様に利用者が少ないという理由もあるが、これもまたApple Payの今回の新機能提供を受けた動きだと考えれば合点がいく。その場合、Androidユーザーが利用可能なサービスを失うことになるが、遠からずおサイフケータイとAndroid Payは何らかの抜本的な改善策が必要となるだろう。

 Apple Payの参入が契機となって、長らく停滞期にあった日本のモバイル決済サービス事情が動いており、図らずも「黒船」的な存在となりつつある。

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

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