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Microsoftの「AIの民主化」に込められた意味

ITmedia エンタープライズ のロゴ ITmedia エンタープライズ 2017/07/28
Microsoftの「AIの民主化」に込められた意味: AI for EarthのWebサイト © ITmedia エンタープライズ 提供 AI for EarthのWebサイト

 米Microsoftが、「AI for Earth」という新たなプログラムを発表した。

 これは、2017年7月12日(現地時間)に、同社が英国ロンドンで開催した、AIに関するイベント「The AI Summit」において発表したものだ。ちなみにこのイベントは、Microsoftの英国ケンブリッジ研究所の創立20周年を祝うイベントでもあった。

 このプログラムでは、Microsoftが200万ドルを投資して、クラウドとAI関連のコンピューティングリソース、テクノロジートレーニング、先駆的プロジェクトへのアクセス環境を提供する。またMicrosoft Researchで、計算生態学の主任研究員を務めてきたルーカス・ジョッパ氏を、主任環境サイエンティストに任命。今後Microsoftは、環境問題の解決に、AIの力を活用することを示した。

 Microsoftのプレジデント兼最高法務責任者、ブラッド・スミス氏は「Microsoftは、地球の持続可能性に、深くコミットしたテクノロジー企業である。自社の業務だけではなく、より良い健全な未来に向けた広範なイノベーションを行うことに責任を負っている」とし、「物理的な世界や自然界における変化の規模とスピードは、新たなソリューションを求めているが、最新の革新的テクノロジーは高額であり、コンピュータに関する専門知識も要求される。そのため、多くの研究者や非政府組織には、手が届かないものとなっていた。Microsoftは、AIを、研究者や組織に提供することで、水資源や農業、生物学的多様性、気候変動に関連した重要課題の解決を支援できる、新たなデータ洞察を獲得できる可能性に大きな期待を寄せている」と話した。

具体的には、研究者などがクラウドおよびAIのコンピューティングリソースにアクセスするため、補助金による新たな出資制度を設ける「アクセス」、どのようなAIツールが利用可能か、それらのツールをどのように使えるか、特定のニーズにどのように対応できるかといった点にフォーカスした教育の機会を提供する「教育」、AIの能力と潜在性に基づいたイノベーションを行うための支援を行い、先駆的プロジェクトを推進する「イノベーション」の3つの観点から同プログラムを実行する。

 AI for Earthでは、すでに3つのプロジェクトが進行している。

 1つは、正確な環境保護活動を支援するための土地被覆マッピングを実現するプロジェクト。2つ目は、センサーやドローン、データ、ブロードバンドネットワークを活用して、スマートアグリカルチャーを実現するプロジェクト。そして3つ目が、リモート追跡と種の健康の監視をするために、Microsoftにおいて、スマート蚊取り装置の有効性をテストするプロジェクトだ。

 スミス氏は、「地球のために、より健全で持続可能な未来を作るためにやるべき仕事はあふれている。だが、時間は限られており、リスクは高まっている」と指摘。そして、「AI for Earth は、長い取り組みの最初のステップにすぎないことを、Microsoftは認識している。だが、今までの経過を見れば、未来に関して安心できそうだ。この信念を現実のものとするために、現在そして将来のパートナーと協業していけることを楽しみにしている」としている。

 Microsoftでは、今回の取り組みを、持続可能性を世界的に推進するという同社のコミットメントを拡張する活動の1つに位置付けている。

 先進的なAIを開発することができる企業は限られている。その1社であるMicrosoftが、自らが持つAI技術を、地球の環境維持のために提供する意義は大きいといえる。

 またMicrosoftは、「AIの民主化」を打ち出しており、さまざまな場でそう公言している。そして、「AIの進化は可能な限り、開放的で、公平でなくてはいけない」とも語っている。その姿勢を、「公平性(Fairness)」「説明責任(Accountability)」「透明性(Transparency)」「倫理(Ethics)」の頭文字を取り、FATEと呼んでいる。

 これを実現するために、Microsoftのサティア・ナデラCEOは、2016年6月に「AIの規範と目標」を発表した。2016年9月には、Microsoft AI and Researchを設立し、研究所のほか、Bing、Cortana、Azure Machine Learningなどの製品グループから、合計で約7500人のコンピュータサイエンティスト、研究者、エンジニアを集結させた。

 Microsoft AI and Researchのエグゼクティブバイスプレジデント、ハリー・シャム氏は、「50年以上前に、AIという研究分野が生まれた当時、コンピュータサイエンティストたちは、ただ夢見るしかなかった。だが今、AIは、進化の黄金時代を迎えている」と話す。

 「コンピュータビジョン、深層学習、音声処理、自然言語処理といった分野で、コンピュータサイエンティストたちは毎日のように成果を上げ、これらのブレークスルーが、Microsoft Translatorなどの生活に役立つツールとして現実になった。

 ごく最近まで、単なるファンタジーやSFに過ぎなかったツールが誕生し、言語の壁を打ち破り、コミュニケーションを促進することによって、さまざまな形で人々を支援することができている。AIの活用により、重要なメールを判断するといった一見単純な仕事から、パーソナライズされた癌治療法の発見などきわめて複雑な仕事まで、すでに多くの改善が達成されている」(シャム氏)

 だが、「AIのツールと、テクノロジーの開発において、我々はまだ初期段階にあり、触覚、視覚、嗅覚などの感覚を使用して、周囲にある世界を理解し、やり取りできる能力は、幼児に遠く及ばない。Microsoftは、人間の創造性を広げるだけでなく、共通の社会的価値基準と期待に対応する形で、AIを進化させていくことに対して、責任があると考えている。人間性を支援するとともに、人間の能力を強化できなければならない」とも言う。

 一方で、シャム氏は、AIの民主化を実現する上で、AIがブラックボックスのままではいけないことにも言及している点が興味深い。

 「MicrosoftのAIやツールを使用している人々は、それがどのように機能しているのか、そして、どのようなデータに依存しているかを理解できる必要がある。AIを作り出した人々、そしてそれを使用する人々が、AIがどのように機能し、なぜそのような意思決定が行われたかを説明できれば、AIはさらに有用になり得る」とする。

 AIのブラックボックス化は、今後、重要な課題の1つになってくるだろう。特に、自動運転をはじめとして、人の命に関わるような領域にAIが使われるようになると、AIのブラックボックス化は大きな課題になってくる。中身が分からないものに、命を預けることはできないからだ。

 Microsoftはその点にも気が付いているといえる。シャム氏は「Microsoftは、AIの進化のスピードにブレーキをかけることはできないし、それを望んでもいない。しかし、AIを責任ある形で進展させていくことを望んでいる」とする。

 AIをどういう姿勢で扱い、それを世の中に示し、広めていくのか。7月の英国でのイベントを通じて、Microsoftの姿勢がより明確になったのは明らかだ。

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