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Microsoftの歴史あるイベントがなくなった理由

ITmedia エンタープライズ のロゴ ITmedia エンタープライズ 2017/01/13
Microsoftの歴史あるイベントがなくなった理由: 画像:ITmedia © ITmedia エンタープライズ 提供 画像:ITmedia

 サティア・ナデラCEOの就任以来、変革を続けているMicrosoftに象徴的な出来事が起きた。2016年度から「ミッドイヤーレビュー」と呼ばれる社内会議がなくなったのだ。

 これは、Microsoft社員や同社OBなら全員が知っている重要な会議。社外に対して大きな影響を及ぼすものではないが、社員にとってはまさに大きな出来事といえる。ビル・ゲイツ氏のCEO時代から続いていた歴史ある大規模な会議が消えることになったのだから、変革の象徴と位置付けられるのも当然だろう。

 ミッドイヤーレビューは、毎年、1月初旬から2月中旬にかけて米国本社を中心に開催されている会議で、7月に新年度が始まる同社にとってこの時期がちょうど期の真ん中に当たることから、そう呼ばれている。

 この会議では、米Microsoft本社の経営トップに対して、本社の各事業部門単位、及び各地域・各国単位で事業責任者が経営事業の進捗状況を報告する。

 日本からも多くの幹部社員が出席し、経営トップとの対話を通じて上期の状況を深くレビューし、下期に向けた方針や施策などを説明。業績が悪い場合は、その原因を徹底的に追求し、改善策を見つけるまで議論する。業績が良い場合でも、さらに良くするために細かい改善ポイントを見つけて議論し、的確な回答ができない場合は厳しい意見が飛ぶ。

 結果的に、業績が良くても長時間に渡るのが通例だったという。また、市場ごとの中長期的な視点での投資分野についても議題に上るなど、その年度を超えて将来に向けた議論も行われていた。

 いずれにしろ、社員にとっては重要度が非常に高く、過酷な会議だったのは間違いない。かつては朝から会議が始まり、議論が深夜にまで及んだり、ネットワークを使わず、大量の紙の資料を会場に持ち込んだりといったこともあったという。

 そのため、出席する幹部社員は12月から会議の準備として資料作りを始め、1月の渡米に向けて徹底的に資料を整える。毎年1月に、日本マイクロソフトからの対外的なイベントや発表が少ないのは、このミッドイヤーレビューの存在が少なからず影響していたといっていいだろう。

 ここ数年は、会議時間がエンドレスとなる手法を取りやめ、会議にかかる時間を事前に固定するなど参加する社員への負担は減っていたようだが、それでも幹部社員からは「12月から気分的に落ち着かなくなる」「プレッシャーで、正月もゆっくりできない」「ミッドイヤーレビューに関わることで、冬が嫌いになった」という、本気とも冗談とも分からないような声が聞かれたほどだ。

●ミッドイヤーレビューに代わる新体制の胎動

 そんなミッドイヤーレビューが、なぜなくなったのだろうか。

 一番の理由は、必要以上に社内レビューに時間を使っていた状況を変え、社内より、顧客にフォーカスした新たな社内カルチャーを徹底していくためという狙いがありそうだ。そして、最近のMicrosoftの事業方針から推察すると、ミッドイヤーレビューの仕組みそのものが今のMicrosoftにそぐわなくなったことも明らかだ。

 ミッドイヤーレビューの根幹となるのは、売上などファイナンス面の指標と、スコアカードと呼ばれるビジネス状況の評価指標だ。

 年度初めに設定したさまざまなコミットメントの事業成績や進捗を、あらゆる角度から細かく分析して評価するものであり、それを基に各国の現地法人などが得点を競い合い(得点は社内にも公表しない)、新年度が始まる7月には、前年に年間トップとなった現地法人や事業部門などを大々的に表彰していた。年間トップを獲得すれば、投資面などでの援助を得やすいというメリットもあったようだ。

 日本マイクロソフトは、国内でのクラウドサービス事業拡大に不可欠な日本データセンターを、東京と大阪の2か所に開設したが、その投資を本社から得られたのも、トップ子会社として表彰された実績を背景に、本社を説得しやすかったという点は見逃せない。実際、日本マイクロソフトは、2011年度以降3度、トップ子会社として表彰されるという快挙を達成し、本社での存在感を高めていた。

 しかし、かつてのライセンス販売中心のMicrosoftにとっては、年度初めに設定したコミットメントに対する達成度合いの状況を細かくチェックするスコアカードの評価基準を優先する仕組みが適していたのだろうが、クラウド中心のビジネスモデルへとシフトする中で、その中身とともに評価の考え方・仕方にも変革が必要になってきたといえる。

●制度やKPIにも変化が

 それは、日本マイクロソフトにおける社員の評価基準が変化してきたことからも分かる。

 クラウドビジネスの評価基準として、日本マイクロソフトの平野拓也社長が掲げているのは、売り上げ目標の達成やシェアだけではなく、「消費(コンサンプション)」だ。

 ソフトウェアを販売したら、その出来高の達成度合いに対して報奨金を支払うのではなく、ユーザーにどれだけ使ってもらえたかという観点から報奨金を払う仕組みへと移行。同時に自分の仕事だけでなく、自分の組織以外の成功のために貢献できたか、あるいは自分の成功のために他の人に助けを求めたかという点も、評価に盛り込んでいる。

 「クラウド時代には周りを巻き込んだ活動が大切であり、バーチャルチームのような動き方をする必要がある。従来のライセンス販売では1人でも製品を売ることができたが、クラウド時代は、1つのプロジェクトとして複数人、ときには30人、40人が一緒にならないと達成することができない。1人のヒーローがビジネスを成功させるのではなく、チームでビジネスを成功させるスタイルに変更している。だからこそ、他の組織や他人に対して、積極的な貢献ができたかといったことを重視する」と平野社長は語る。

 言い換えれば、従来のスコアカード式では推し量れないような点が重視され、新たな指標が採用され始めているわけだ。そして、これは日本マイクロソフトだけの話でなく、グローバル共通の考え方である。

 一方、これまでのスコアカードの手法を持ち込んだ米Microsoft COOのケビン・ターナー氏が、2016年7月に突然退任したことも、この変革に影響していると推察される。

 実はターナー氏は、ミッドイヤーレビューの中心人物でもあった。ターナー氏は、米国最大の小売業であるウォルマートの出身で、29歳のときに史上最年少の役員に就任。約20年間のウォルマートでの経験と実績を引っ提げて米Microsoft入りした。スコアカードはこのウォルマートでの経験を基に作られたものといわれ、成長路線にあったMicrosoftの事業体質を強化することに大きく貢献した。

 実際、ミッドイヤーレビューの期間中、ターナー氏は、全世界のさまざまな事業責任者と60回以上の会議を行い、スコアカードの中間成績を基に議論。その後、ターナー氏が全世界の主要な事業責任者を従えた形で、当時のCEOであったスティーブ・バルマー氏に全事業の状況を報告していた。

 つまり、ターナー氏の退任、そしてそれを前にしたバルマー氏からサティア・ナデラ氏へのCEO交代といった経営トップ体制の変更が、ミッドイヤーレビューという会議の消滅につながったともいえるだろう。

 現在では、米本社幹部と日本マイクロソフトの幹部は3カ月に一度、状況や情報交換を行う定期的な会議を通じて方針や施策についてきめ細かく検討しており、2017年1月には上期や第2四半期のレビューがプロセスに沿ってしっかりと行われる。

 さらに、日常的に情報交換する体制が確立されたことも、ミッドイヤーレビューの役割を補完することになったといえよう。ナデラCEOは、就任以来毎月、社員に対して直接対話を行う「サティアマンスリーQ&A」を開催。日本マイクロソフトでも同様に、従来の四半期ごとの社長・経営陣によるビジネスアップデートを行う報告会に加えて、2016年9月から平野社長が「平野さんマンスリーQ&Aセッション」を開催。テーマを特定せず、平野社長が1時間とことん社員との直接対話を行って、情報共有を密にしている。

 Microsoft社内では、ミッドイヤーレビューがなくなることを、過去のものを破壊するという見方ではなく、今あるものを生かしながら新たな時代のスタイルへと進化させたものだと判断している。そして、それが「サティアイズムの浸透」につながると見る社員も多い。

 ミッドイヤーレビューがなくなったこともあり、2016年12月は日本マイクロソフトの社員は例年よりも少し早い時期から年末休暇を取るという例も出ていた。平野社長も12月〜1月にかけて、例年とは異なって社内向けの業務より対外的な仕事に多くの時間を割いていたようだ。

 もし、この1月や2月に日本マイクロソフトで大型会見などが行われるようであれば、それはむしろ対外活動を積極化することになり、メッセージを発信する機会が増えるというメリットが生まれることになるのではないだろうか。

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