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PC産業のイノベーションはどこに消えた?

ITmedia NEWS のロゴ ITmedia NEWS 2014/05/14 08:00 ITMedia

 2013年、PCメーカーが新規ユーザーにアピールできる機能を組み込もうとしてテクノロジーのリリース時期をずらしたことから、PCの売り上げがさらに落ち込むことがあった。

 一方、消費者や企業は一様に、スマートウオッチやウェアラブルといった新しいテクノロジーのメリットに目を向けている。

 アラブ首長国連邦(UAE)を拠点に、通信関連のコンサルタントや投資を行っているDelta Partnersが最近、ホワイトペーパーを公開した。そのホワイトペーパーは、特にサービス業界とハードウェア業界に属する多くの企業が、現在の市場で生き残るために急進的なイノベーション戦術を導入していることを示唆している。

 ところが消費者の目には、新しいデバイスも従来のデバイスとほとんど変わらないように見える。例えば、米AppleのiPad miniとiPad mini Retinaは実質的には同じもので、韓国SamsungのスマートフォンGALAXY S5は前身のS4に非常によく似ていると感じている。

 英ARMの開発者、ソフィー・ウィルソン氏は、PC市場のイノベーションは下降に転じていると考えている。「2006年ごろからPCの進化は止まってしまった」と同氏は語る。

 同氏は、特定の機能の改良が限界に達すれば、スマートフォンでも同じような落ち込みが始まると推測する。「いつかはモバイルデバイスも限界を迎えるが、当分の間はかつてのPCのように、このまま機能が急速に向上していくだろう」と同氏は話している。

 ただ、最近の売り上げデータからは、スマートフォンの出荷台数が既に低迷している傾向もうかがえる。米Gartnerのアナリスト、アンシュル・グプタ氏は、現在のスマートフォンの売り上げが、消費者のテクノロジー疲れにより、特に成熟市場では横這い状態になっているという。消費者は、大した違いもない新機種を購入する理由を見いだせないでいる。

 「これが買い換えサイクルの長期化を引き起こし、この市場での売り上げに影響を与えている」とグプタ氏は言う。

 スマートフォン市場が成熟するにつれて生じている注目度の低下は、今後PC市場と同様、売り上げの低下につながることを示唆している。

●PCの反撃

 Gartnerのもう1人のアナリスト、ランジット・アトワル氏によれば、PCの急激な落ち込みは、PCとタブレットの機能を備えたハイブリッド製品や、米MicrosoftのWindows 8に端を発するタッチスクリーンPCといった、さらに優れたイノベーションを市場で生み出しているという。

 「(イノベーションにより、)PCがタッチ対応になり、バッテリーが長持ちするようになり、より薄型軽量になった。ようやくPCが追い上げを見せ、現在は2〜3年前に実現すべきだったところまで来ている」とアトワル氏は話す。

 同氏は、成熟市場ではPCのハードウェアにのみ投資が向けられ、性能向上が目指される。一方、新興市場では上記のような新しいイノベーションが成長をもたらすと考えている。

 だが、Gartnerによる2013年第4四半期のPC市場シェアに関するデータで、英国でのPC出荷台数が290万台であったことはまぎれもない事実である。これは、2012年同時期比6.7%減を示している。Gartnerは、今後2、3年はPCの出荷台数が減少し続けると見ている。同社の調査によれば、消費者は、かつてPCで行っていた作業にタブレットを使うことが多くなっている。その結果、PCの買い換え頻度が下がり、販売台数の落ち込みを引き起こしている。

 こうした傾向があるにもかかわらず、PCは相変わらず消費者やビジネスマンが使用するデバイスの上位を占めている。これは、PCでしか機能しないアプリケーションが数多く存在するためだ。例えば、売り上げデータの複雑なスプレッドシートを解析するには、大画面のディスプレー、ローカルでの高い処理能力、大量のRAMを搭載したPCの方がはるかに適している。

 中国LenovoのCEO ヤン・ユワンチン氏は米McKinseyに対し、タブレットはデスクトップPCやノートPCと同等のエクスペリエンスを提供できないことから、PC市場は今後も生き残っていくだろうと話した。

 だが、PC出荷台数の減少を無視することはできない。ハードウェア分野でPCの売り上げがタブレットに後れを取っていることに変わりはない。ウェアラブルテクノロジーも、スマートウオッチやパフォーマンスモニターといった形でゆっくりと市場に広がりつつある。今後消費者がより小型のテクノロジーに乗り換えることで、タブレットにも同じような減少が見られることになるのだろうか。

 ARMのウィルソン氏は、ハードウェア企業は今でもイノベーションにあらゆる努力を払っていると考えている。同氏によれば、ソフトウェアへの依存度が極めて高い現状の環境でも、ハードウェア企業は依然として自社製品のアップグレードを続けているという。見た目があまり変わっていないからといって、前回のリリースと同じわけではないと同氏は指摘する。

 「iPad Airは、機械的な構造や、非常に小型かつ軽量にまとめあげたという点から見ると革新的な製品だ。iPad Airの容積重量は28%削減された。このエンジニアリングは非常に優れたものだ」と同氏はいう。「(iPad miniは)以前のiPadと見た目はほとんど変わらないが、Retinaディスプレーと驚くほど高速になったプロセッサを備えている」

●ハードウェアの進化

 英国の求人サイトReed.co.ukのテクノロジーディレクターを務めるマーク・リドリー氏は、われわれが目にしているフォームファクターは、人間生理学上あまり変わらないものによって決まると指摘する。「携帯電話は人の手に収まる必要があり、耳と口の距離はほぼ変わらない」と同氏は言う。

 同氏によれば、イノベーションは消費者のニーズによって起きることが多いため、スマートフォンの分野で次に起こる大きな変化は限定されるという。

 同氏は、スマートウオッチやコネクテッドデバイスなどのテクノロジーは、次世代コンシューマーハードウェアへの過渡的なステップで、その後、このコンシューマーハードウェアがビジネス現場のテクノロジーに変化をもたらすと話す。「このようなデバイスは最初に爆発的に広がり、その後着実かつ順調に売り上げが伸びていく」と同氏は言う。

 ビジネスの現場でこうした新しいテクノロジーをどのように使えばよいか、既に検討が始まっている。米AIA Worldwideは、ビジネス現場でのGoogle Glassの使用方法をデモするコンセプトビデオを公開した。英PA Consulting GroupのITエキスパートであるアラステア・マコーレー氏は、企業が生き残るには、ウェアラブルテクノロジーをどのようにIT戦略に組み込むかを考え始める必要があると話す。

 だが、Gartnerのアトワル氏によれば、クライアントデバイスは前世代のテクノロジーを土台にいまだ進化を続けているという。「何よりも、(タブレットは)ネットブックの次の進化段階だ。過去を振り返れば、PCの次の進化段階としてリリースされたのが小型軽量薄型タイプのネットブックだった」

 では、ハードウェアのイノベーションは衰退してしまったのだろうか? リドリー氏は、ウェアラブルテクノロジーが次世代ハードウェアをよく表している例だと考えている。「われわれは次の大きな変化を待っている。最後の大きなイノベーションから数年がたったとしても、次の変化は必ず起こる。そしてこのような変化は次々と続いていくものだ」と同氏は言う。

●イノベーションの形態は変わる

 ハードウェアのイノベーションは、ムーアの法則に従って引き起こされる。ムーアの法則では、1つのマイクロチップ上のトランジスタの数は18カ月ごとに約2倍になるという。だが、トランジスタが増え続けるというイノベーションには物理的な限界がある。

 英ケンブリッジ大学のコンピュータラボで講師を務めるサイモン・ムーア氏は、高速かつ安価で、省電力のものをこれほど速いペースで生み出した産業は他に類を見ないと話す。「産業が制限される理由の大部分が、その産業自体にあることに異論はないだろう。ハードウェア産業は成熟しつつある。既に超小型サイズに近づいているため、製品の小型化には限界があるが、それでも数多くのイノベーションが起きている」と同氏は言う。

 消費者の求めに応じて、テクノロジーを小さなウェアラブル製品に小型化する動きが進んでいる。大手PCメーカーが、この流行に合わせてスマートウオッチとウェアラブルの市場でSamsungやAppleに対抗する商品を開発するかどうかは、まだ明らかになっていない。

 ムーア氏は、永遠に小型化を続けることはできないと指摘する。今後、インテリジェントデバイスの小型化はやがて止まる。恐らく実際のイノベーションはソフトウェアで行われることになるだろう。

 スティーブ・ジョブズ氏が本当に天才だったのは、iTunesによってAppleのハードウェア製品をソフトウェアプラットフォームに結び付けた点にあると話す専門家もいる。米Microsoftと日本のソニーは、自社の各ゲーム機本体に合わせたソフトウェアやホームエンターテイメントハブを生み出すことで、その可能性を示してきた。また、Samsungをはじめとするメーカーが提供するスマートテレビは、アプリによってもコンテンツによっても浮き沈みがある。

 PC産業の鍵となるのは、メーカーがいわゆるWindows PCを超えるユニークなソフトウェアやコンテンツのアイデンティティーを作り上げられるかどうかだ。エンタープライズ分野では、米Dellと米HPが何十億ドルも投じてソフトウェアビジネスを構築している。オンラインサービスを利用できるようになったことが消費者の選択に影響を与えたように、こうしたソフトウェアがプロの購入者の購入決定に影響を及ぼすかどうかは今後の様子見というところだ。

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