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The Flaming Lipsが生み出す新たな白昼夢ーー“サイケデリック”を更新する新譜5選

Real Sound のロゴ Real Sound 2017/02/05 株式会社サイゾー
© Real Sound 提供

 ひとことで「サイケデリック」といっても、その表現の仕方は様々。混沌としたものもあれば、余白だらけのサウンドで異空間を生み出すこともある。今回はサイケデリックな感覚を持ちながら、メロディーを大切にした歌をしっかりと聴かせる新作を紹介したい。 (参考:ラムチョップが4年ぶり新作で切り開いた新境地 USインディー・シーン注目の5枚)  まずは、30年以上に渡ってサイケデリックなロックを探求してきたThe Flaming Lipsの3年ぶりの新作『Oczy Mlody』。デビュー以来、60年代サイケデリック・ロックを独自に昇華してきた彼らだが、本作はシド・バレットとラッパーのエイサップ・ロッキーにインスパイアされたらしい。バレットはサイケ好きなら外せないアーティストだが、ラッパーのエイサップ・ロッキーからも刺激を受けているあたりがThe Flaming Lipsらしいところ。ヒップホップやエレクトロの音作りからもヒントを立体的な音響空間が広がるなか、メロディーはメランコリックでコインの歌声は子守唄のように優しい。最近のThe Flaming Lipsは深く沈むこむような内省的なムードが特徴だが、本作もThe Flaming Lipsというゆりかごに揺られながら、白昼夢を見ているようなアルバムだ。  The Flaming Lipsの作品にも参加して親交が深いのが、ジョナサン・ラドーとサム・フランスによるカリフォルニアのデュオ、Foxygenだ。昨年、ラドーがプロデュースしたThe Lemon TwigsやWhitneyのデビューアルバムが話題になったことで、最近ではUSインディー・シーン新世代の兄貴分的な雰囲気もある彼らだが、新作『Hang』では40人編成のオーケストラと共演。そのオーケストラ・サウンドは、タガが外れたヴァン・ダイク・パークスのようにドラマティックで変化自在だ。さらにThe Lemon Twigs、スティーヴン・ドロゾ(The Flaming Lips)、マシュー・E・ホワイトなど個性的な面々をゲストに迎えて、引き出しの多いポップ・センスを全開にしつつ、芝居っけたっぷりの歌声で遠慮なしに歌いまくる。ルイス・フューレイを彷彿させるような官能的で毒気たっぷりな歌は、世紀末のキャバレー・ソングのようでもあり、「フォクシジェン劇場」なんて呼びたくなるような奇妙な世界へと誘ってくれる。  Entranceはガイ・ブレイクスリーのソロ・ユニット。近年はThe Entrance Band名義で活動していて、サーストン・ムーアのレーベルからアルバムを出したり、Animal Collectiveがキュレーターを務めた『All Tomorrow's Parties』に参加するなどミュージシャン仲間から高い評価を受けていた。そんな彼が久し振りにEntrance名義で発表した新作が『Book of Changes』だ。The Entrance Bandではギター・ノイズが渦巻くズブズブのサイケデリック・ロックを聴かせていたが、本作ではアコースティックな楽器を中心にして、アメリカン・ルーツ・ミュージックに根差した歌をしっとりと聴かせる。リバーブをたっぷり効かせて、ストリングスやチェンバロ、女性コーラスをフィーチャーした優美なサウンドは、アシッド・フォーク的な浮遊感もあって、デヴィッド・バーンを思わせるガイの歌声は妖しい魅力を放っている。グロテスクさと美しさが融合したようなその歌の世界は、デヴェンドラ・バンハートもお気に入りだとか。  歌をしっかり中心に据えながら、そこにサイケデリックな空気感を漂わせる。そんな音楽が「歌もの」と呼ばれていた時期があったが、日本のロック・シーンを代表する歌ものバンドのひとつが渚にて。バンド結成から今年で25年目を迎えるベテランだ。彼らの新作『星も知らない』には、前作『遠泳』に続いて頭士奈生樹(元・非常階段、IDIOT O'CLOCK)が参加。ゆったりと、力強くグルーヴを生み出していくリズム・セクションに支えられて、表情豊かで凛としたギターが高らかに鳴り響く。60〜70年代のロックを消化しつつ、そこには彼らならではの緻密に計算された間や空間があって、そこからじわじわとサイケデリックな揺らぎが生まれるのが彼らの魅力だ。そんな鉄壁のバンド・アンサブルにますます磨きがかかるなか、感情を抑えて歌う柴山伸二、竹田雅子によるボーカルは、淡々としていながらも胸に染み渡っていく。音の立体感にだわったミックスにも注目したいところ。  そして、日本からもう一枚。ウリチパン郡の中心メンバー、オオルタイチとウタモが結成した新ユニット、ゆうきがファースト・アルバム『あたえられたもの』を発表した。「いろんな垣根を越えて、多くの人へ届けたい」という想いで作られたという本作は、元SAKEROCKの伊藤大地と田中馨、ジム・オルークや石橋英子のバンドでも活躍する波多野敦子、シャンソンシゲルなどインディー界のツワモノ達が参加。それぞれに曲作りやアレンジに工夫が凝らされているが、何よりも“歌”に焦点があてられていて、親しみやすく、どこか懐かしいメロディーが春風のように吹き抜けていく。ロック、ソウル、歌謡曲、民謡など、いろんな色を重ねながら、それが次第に透明になっていくような、じっくりと蒸留されて澄み渡った歌。そんな歌が、日常にエアポケットみたいな余白を作ってくれる。心地良い浮遊感に身を委ねたくなるようなアルバムだ。 (村尾泰郎)

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