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Uni-Vibe復刻は30年止まった楽器の考えを一新させるため

ザテレビジョン のロゴ ザテレビジョン 2014/06/07 (C)KADOKAWA CORPORATION
Uni-Vibe復刻は30年止まった楽器の考えを一新させるため © KADOKAWA CORPORATION 提供 Uni-Vibe復刻は30年止まった楽器の考えを一新させるため

前回に続き、三枝さんと森川さんにお話をうかがいます 前回に続き、三枝さんと森川さんにお話をうかがいます  ジミ・ヘンドリックスがアメリカ国歌の演奏に使ったことで知られる「Uni-Vibe」。その伝説のエフェクターを回路設計したのが、現・コルグ監査役の三枝文夫さんだった。  その三枝さんもまた、1970年に国産初のシンセサイザー「試作一号機」を開発して以降、miniKORG、800DVと現在につながる製品を数多く産んだ電子楽器界の伝説の人でもある。  しかし、Uni-Vibeは名前はよく知られていても、個体数が少なく実機に触れる機会はほとんどない。同じ回路で再現しようにも、その回路の中心を成すパーツのCdSが、RoHS指令により使えない。それを置き換える回路も難しい。  それゆえ設計者自身も再現を諦めていたにも関わらず、新たに配属されてきた若いエンジニアの森川悠佑さんが「CdSが使えないなら作ればいい」と動き始める。それを見た三枝さんは、一晩でCdSをトランジスタに置き換える回路を書いてきてしまった。  ……というのが前編のあらすじ。伝説のエンジニアと血気盛んな若者の共作。なんだかマンガのようなでき過ぎた話にも思えるが、実際にはなかなか回路は思う通りには動かず、森川さんは何度も基板設計をやり直して改良を重ね、やっと「Nuvibe」は完成した。  後編は謎の多いエフェクターの真実を振り返りながら、Uni-Vibeを再現することの難しさ、そして新しい楽器の生まれにくい状況について語ってもらった。 Nuvibeは現在発売中で、Amazon価格で4万9680円 Nuvibeは現在発売中で、Amazon価格で4万9680円 (次ページは、「伝説のプレッシャーより音が似ていないことのほうが悔しかった」) 伝説のプレッシャーより音が似ていないことのほうが悔しかった ―― オリジナルの設計者としてNuvibeの評価はいかがですか? 三枝 厳密に言ったら違う素子を使っているので、細かいところまで言えば違う面もあると思います。でもね、彼はずいぶんいいところまで追い込んだなと思っていますよ。これはほとんど彼が仕上げたものですから。 ―― 三枝さんは、なぜご自身でNuvibeの設計を全部されなかったんですか? 三枝 若い人のほうが馬力ありますから。なにしろCdSに代わる素子を作りたいと言ったくらいですからね。 ―― 任された方のプレッシャーもあったと思うんです。なにしろ伝説のエフェクターなわけで。 森川 プレッシャーはですね、まあ早く作れと言われるくらいで。 ―― なんか、あんまりプレッシャーなかったみたいですね……。 森川 Uni-Vibeをあまり知らなかったから、できたのかもしれないですね。最初に作ったものは音も似ていなかったですから。伝説のエフェクターを再現しているからというより、自分は負けず嫌いなので、そういう所で悔しかったです。 ―― 音を近づけるにあたって、どこに気を使いましたか? 森川 できるだけ波形を正確に測るというところです。計測そのものはオシロスコープでできるんですけど、それを数値やグラフに置き換えなければいけない。そのデータを分析するのに、随分苦労しました。 ―― CdSを置き換える手法はどうしたんですか? 森川 トランジスタの性質をうまく使っているんですね。動作点を変えて、あたかも抵抗器のように使うんですけど、そのままではトランジスタは歪んでしまうので、大きな信号が入っても歪まないように工夫しています。そして、CdSは抵抗値の範囲がすごく広いんですけど、それもうまく再現するように、回路を改良したというところですね。 ―― それにしてもなぜこんなにトランジスタが必要なんですか? 森川 フェーザーというのは同じ回路が4つ入っているんです。その1段あたりのトランジスタが1、2、3……9個です。だから4段で36個。それがCdSの代わりなんです。この辺がCdS1個分ですね。 指を差した部分が、CdSを置き換えるトランジスタの回路 指を差した部分が、CdSを置き換えるトランジスタの回路 ―― この一角のパターンが4つあるわけですね。 森川 トランジスタは基本的に電圧を増やすために使うものであって、抵抗器として使うものではない。そうすると補正や制御にトランジスタを使わなければならないんです。それ以外にプリアンプですとか、LFOの波形を作るところに使っています。それで79個ですね。 テストに使われたトランジスタの一部。特性の揃ったものが必要なことから、マッチングを取るために様々なトランジスタが試された 79個のトランジスタが使われているというNuvibeの基板。今どきの単機能のエフェクターにしては本体サイズは大きいものの、この基板サイズなら仕方ないとも思える テストに使われたトランジスタの一部。特性の揃ったものが必要なことから、マッチングを取るために様々なトランジスタが試された 79個のトランジスタが使われているというNuvibeの基板。今どきの単機能のエフェクターにしては本体サイズは大きいものの、この基板サイズなら仕方ないとも思える (次ページは、「個体差の大きいUni-Vibeと、そのイメージに近づけるNuvibeの仕組み」) 個体差の大きいUni-Vibeと、そのイメージに近づけるNuvibeの仕組み ―― いわゆるUni-Vibeのクローンとも音を比べたりしました? 森川 しましたね。でも、やっぱり違うなと。 三枝 中にはCdSを使ってやっているところもありますよね。 森川 それでもCdSはバラつきが大きいので、音が違うんですよ。 ―― YouTubeなんかを見ていても、オリジナルのUni-Vibe自体も個体によって随分音が違いますよね。 三枝 昔の部品というのは20%くらい各々の部品の誤差があるんですよ。それが全部集積すると100%超えたりしますから。それと、部品が足りないとかで、最初の設計と少しずつ変わってきているんですね。だから物によって音が違うことは間違いないです。それに、世の中にはUni-Vibeの回路図というものも出回っているんです。 森川 検索すると手書きの回路図が出てくるんですよ。 三枝 そのうち、もっとも普及しているあるひとつのものは間違っています。その原図を描いたのは、たぶん私だと思うんだけど。というのは配置がまったく同じですし、言葉も同じなんです。ただ、それを写した人が結線を間違っちゃったんですね。それが世の中に出回っています。 ―― 市場に出回っている数も多くない、個体差も大きい、回路も間違って伝わっている。ということは人によってUni-Vibeの音のイメージも違うわけですね。 森川 最初はこれがなかったんですよ(WAVEスライダーを指さしながら)。CdSが独特な波形を出力していることがわかって、普通のLFOを作る回路ではうまく再現できなかった。だったら、こうやって作ってしまおうと。 オリジナルにはないWAVEスライダーの基板部分。10個のスライダーを動かして、音を揺らすLFOの波形を作る。CdSの揺れ具合を再現するだけでなく、自由に波形を設定できる。ノブには赤いLEDが埋め込まれ、周期に同調して光るギミック付き。森川さんの発案により付加された オリジナルにはないWAVEスライダーの基板部分。10個のスライダーを動かして、音を揺らすLFOの波形を作る。CdSの揺れ具合を再現するだけでなく、自由に波形を設定できる。ノブには赤いLEDが埋め込まれ、周期に同調して光るギミック付き。森川さんの発案により付加された Uni-Vibe(上)とNuvibe(手前)。Nuvibeには10個のスライダーがあり、DC9V仕様(単3形アルカリ乾電池6本orACアダプター)でヒューズホルダーがない Uni-Vibe(上)とNuvibe(手前)。Nuvibeには10個のスライダーがあり、DC9V仕様(単3形アルカリ乾電池6本orACアダプター)でヒューズホルダーがない ―― つまり、このスライダーでLFO1周期分の波形を描くわけですね? 森川  そうです。 三枝 MS-20のオプションでSQ-10というシーケンサーがあったんですけど、最初はまずシーケンサーで波形を作って、これにつないでみたんですね。 森川 それで結構行けるんだなということがわかりましたね。 ※1 「SQ-10」は1978年に発売されたアナログのステップシーケンサー。iPad用アプリ「iMS-20」にもシーケンサーのインターフェース画面として登場する。 (次ページは、「言葉が音を作る上での縛りになってはいけない」) 言葉が音を作る上での縛りになってはいけない ―― 三枝さんがUni-Vibeを設計したときに、こういうものを作ってくれというニーズはあったんですか? 三枝 なかったような気がしますね。 ―― でもニーズがないところに「こんなものができたから売ってみるか」というのも、いま考えるとすごい話ですよね。 三枝 それは簡単な話です。お金がかからなかったんですよ。今はどの会社もそうだと思うんですけど、型を起こして大量生産して、何万台単位で売りたいですよね。ところがこの当時は、秋葉で部品を買ってきて、注文があったら作ればいいくらいの、軽いノリだったんです。 ―― 量産を前提にはしていなかったわけですね。 三枝 当時のうちのリズムマシーンだってね、ツマミが引き物(旋盤加工)だったんですよ。型じゃないんですよね。楽器の売れる台数なんてたかが知れている。スイッチ屋さんに、音色の切り替えボタンを作るのに交渉しても、そんな台数じゃっていうんで、断られたんですよ。だから既製部品の組み合わせで、楽器を作っていたんです。 ―― では、今Nuvibeを出す意味はどこにあると思われますか? 三枝 答えになっているかどうかわからないですけれど、エフェクターというのは20、30年ほど、考え方がストップしていますよね。単純にいろんな効果をつないだだけで。新しいものができなくなっちゃったんですね。それはね、多分、言葉が定着したからかなと私は思っているんですよ。 ―― 言葉、ですか? 三枝 Uni-Vibeの頃は、エフェクターなんて言葉はなかったですから。エフェクターがなければ、テープの回転を操作したりとか、自分の音楽に合った音を作る、もっといろんな方法を探したはずなんです。でもエフェクターというものがあると、カクカクシカジカでこう操作してと、何か音を作る上での縛りみたいなものができてしまう。特に「空間系」とか「歪み系」とかいう言葉ができると、その範囲でしか考えないですよね。 ―― たしかにそういうくくりは昔はなかったですね。 三枝 それは設計者の中にもあるんじゃないかと思うんです。こういう歪みを得るためにはこうだとか。そういったところが、新しいエフェクターがなかなか出ない足かせになっているんじゃないか。でも、この(Uni-Vibeの)時代というのは、何をやっても良かったんです。 ―― 音が面白ければ。 三枝 そう、音が面白ければ。でも今は若い人が設計するにしても、ミュージシャンや営業から来る要望と言ったら「何とか風」とかね。確かにジャンル分けというのは何かを理解した気持ちになっちゃいますよね。小説でも映画でも。でも、そういったところからは新しいものは出にくいんじゃないかな。 (次ページは、「ミュージシャンは設計者が予想しない使い方でいい音楽を作る」) ミュージシャンは設計者が予想しない使い方でいい音楽を作る ―― ジミヘンのウッドストックでの使い方はどう思われましたか? 三枝 Uni-Vibeを使っていたと知るまでの間にいろいろな情報が入っているので、当時の正確な印象は思い出せないんですけど、その数年前に「エレキ禁止令」というのが日本であったんですね。 ―― ああ、あのPTAの皆さんの。 三枝 青少年が不良になるというので禁止になったんですが、あれから間もないんですよ、ジミヘンがあの演奏をしたのは。でもジミヘンの演奏を見ますと、アメリカの国歌をね、あんな格好で、つまり不良みたいでしょ、あれ。 ―― ……みたい、なんてもんじゃないですよね。 三枝 だから、何であんなバカバカしいお触れを出したんだろうと思いますよ。 ―― 何を使ってどう演奏するか、とやかく言っても意味は無いですよね。と言いつつ、僕らはNuvibeをどう使えばいいでしょう? 三枝 ミュージシャンというのは、設計者が予想しない使い方でいい音楽を作るなと、ずっと昔から思っていました。だから、ああ、音楽家というのはすごいんだなと。 ―― 直接確認したわけではないので真偽の程は定かではないですが、レオ・フェンダーはジミヘンの演奏を見て「ビブラート・アームはああやって使うものじゃない」と怒っていたという逸話もありますが。 三枝 いや、嬉しいですよ。だって、そういう風に新しい使い方で、想像も付かないような新しい音楽ができる。設計者にとってこんな嬉しいことはないですよ。 Nuvibeの裏側には三枝さんのサインと共に(おそらくいつもの笑顔の)似顔絵が! Nuvibeの裏側には三枝さんのサインと共に(おそらくいつもの笑顔の)似顔絵が! ※2 1965年10月、過熱するエレキブームに対して、栃木県足利市教育委員会が青少年の育成に好ましくないとして、エレキギターの購入、バンドの結成、コンサートへの参加を禁止。その後この動きは全国的に広がっていった。 著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)  1963年生れ。フリーライター。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ ■関連サイト KORG

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