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【小林至教授のスポーツ経営学講義】契約更改交渉 ムードメーカー、リーダー、捕手は困難

zakzak のロゴ zakzak 2018/12/07 17:01 株式会社 産経デジタル

 契約更改たけなわ。現場から離れて4年が経過したいまでは、シーズンオフになってなお人々に野球の話題を提供する、妙味のある年中行事だなあと感心もするが、チーム編成の責任者として当事者ど真ん中だった当時を思い出すにつけ、顔のこわばりを感じる。

 シーズンオフは、選手にとっては長いシーズンの疲れを癒やし、来シーズンに向けて英気を養う戦士の休息期間だが、フロントにとってはここが正念場。この時期の決断がチームの命運を左右するということもあるが、解雇を含む人事、そして契約更改という、やらないで済むのであればそうしたい仕事の連続だからである。各球団フロントの心労には、心よりお見舞い申し上げたい。

 契約更改は、選手にとっては、そこで1年の仕事ぶりが評価され、翌年の報酬が決まる場であるからして、球団フロントは納得して判子を押してもらうべく、これから述べるもろもろの工程を経て金額を弾き出すのだが、これが実に難しい。

 まずはシーズンを通して行われる『査定』という作業がある。これは専門の担当者が、すべてのプレーをポイントに変換する。むろん、その変換の方程式は、状況も加味されてのものだ。つまり、同じヒット1本でも、その価値は場面によって違うということだが、これも長年の積み重ねと統計学の発達により、十分説得力のあるものになっていると思う。

【小林至教授のスポーツ経営学講義】契約更改交渉 ムードメーカー、リーダー、捕手は困難: 3日に契約を更改した巨人・小林。捕手の査定はとりわけ難しい © zakzak 提供 3日に契約を更改した巨人・小林。捕手の査定はとりわけ難しい

 難しいのはここからだ。数値に現れないムードメーカーやリーダーシップなどは、チームの勝敗に少なからぬ影響を及ぼすが、これをどう評価するか。また、捕手の査定も難しい。日本の野球においては、名捕手の存在がチーム力に直結するほど重要だと考えられているが、野手として査定すると、ポイントは非常に低く出る。捕手の多くは打順が下位で、また消耗が激しいから出場イニングも少ないため、そうなるのだが、かといって扇の要としての加点も難しい。たとえばリードを評価する算式はまだないのだ。

 もうひとつポイントの単価も難問だ。年俸1000万円の選手と3億円の選手が、ある年にそろって20勝を挙げたとして、翌年の年俸が同じというわけにはいかない。こうした過去の実績をどう表現するか。各球団それぞれ単価を決める方程式を編み出しているが正解はない。つまり、綿密といえば綿密だが、見方を変えればどんぶり勘定ともいえるのが、プロ野球の年俸の算定プロセスなのである。

 私が在任時、MLB(米大リーグ)の同業者、つまりGMなどの編成担当者に日本のこうした事情を話すと、「保留選手と交渉するの?」と驚かれるのが常だった。MLBでは年俸調停の権利を得るまでの3年間は、仮に3冠王を取ったとしても、最低年俸を提示するだけで交渉の余地なし。そしてその後は、調停というルールに委ねるか、市場という神の手に委ねるのが原則で、裁量や情の入り込む余地はない。

 一方、日本は、新人相手でも納得するまで交渉する。理の世界と情の世界。良い悪いではなく、こういうところに文化が垣間見えて面白い、なんていうのは、現場を離れたいまだから言えることだが。

 ■小林至(こばやし・いたる) 1968年1月30日生まれ。東大から1991年ドラフト8位で千葉ロッテに指名され入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となったが、1軍登板なく93年退団。その後、米コロンビア大で経営学修士号取得。02年から江戸川大学助教授。05年から14年までソフトバンク球団取締役を兼任。現在、江戸川大学教授、専門はスポーツ経営学。

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