古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

サッカー韓国代表は燃えているか。W杯に向けての「マッチメイク論」。

Number Web のロゴ Number Web 2017/10/13 吉崎エイジーニョ
現役時代には6回のリーグ優勝とアジアクラブ選手権優勝などのキャリアを誇ったシン監督。五輪代表、U-20代表の監督を務めた後、48歳でA代表の監督に。 © photograph by FIFA via Getty Images 現役時代には6回のリーグ優勝とアジアクラブ選手権優勝などのキャリアを誇ったシン監督。五輪代表、U-20代表の監督を務めた後、48歳でA代表の監督に。

「マッチメイク論」について考えさせられる代表ウィークだったのではないか。

 6日のニュージーランド戦後、香川真司による「何の意味のある試合なのか」という主旨の発言が話題になった。10日のハイチ戦は周囲から見れば「対戦相手に困って呼んできたんでしょ?」といった感もあったが、開けてびっくり、相手は個人能力に長け、日本は終盤に必死に1点を奪いに行く展開になった。

 11月に欧州遠征でのブラジル、ベルギーとの対戦が控えている。だから今月はホームで。W杯本戦に向けた新競争を繰り広げるチームのお披露目も意義ありかな、というところだった。マッチメイクに関しては日本がサッカー地図の極東に位置する以上、どこかに落とし所を探らなくてはならない。お金、選手のコンディション、相手国のスケジュール、協会のマッチメイキング能力……エトセトラ。

 そんななか、これについて考えさせられる事例が今回の国際Aマッチデイであった。

 シン・テヨン新監督率いる韓国代表だ。

日本とまったく異なる強化プランを打ち出した韓国。

 同じ極東の国。同じく主力が欧州との長時間移動を強いられる国。そこが打った手は……ぶっ飛んでいた。

“海外組のみで欧州に遠征(というか、メンバーの約4分の1は現地集合)”

“10月7日にアウェーでロシアと対戦”

“10月10日はチュニジアとの対戦を断られ、急遽モロッコとスイスで対戦”

 9月25日に発表された遠征メンバーには、Kリーグ組が完全に抜けていた。

 ゼロ。

 欧州組(6人)のほか、日本(9)・中国(6)・中東(2)でプレーする選手のみで代表チームを構成したのだ。ちなみにGKは3人がすべてJリーガーだった。バルセロナB(スペイン)から他チームに移ったばかりのイ・スンウ(ベローナ/イタリア)、ペク・スンホ(ジローナ/スペイン)は「新チームで適応の時間を与える」(同監督)とし、選出されなかった。

“海外組のみ”の代表、という奇妙な計画。

 海外組のみの招集となった理由はこの点にある。25日の会見でシン監督ははっきりと明言しなかったものの、国内最大の通信社「聯合ニュース」がこう記した。

「今年、2度ほどKリーグの選手の早期招集にクラブ側が応じた。だから今回は配慮して選ばなかった」

 付け加えるならば、12月に日本で行われる東アジアE-1選手権では、欧州組抜きの招集が確実視されている。だから今回は海外組のみで、という見方もできる。

 この欧州遠征、海外組のみという選手構成はとにかく妙だった。なにせ、つい先日とも言える9月5日のワールドカップ予選最終戦(ウズベキスタン戦)の先発メンバーには、DFに1人、MFに2人、FWに1人、国内組の選手が存在したからだ。

海外組だけで代表を組んだことによる問題点。

 海外組だけで遠征を組んだ場合……まずDFの構成が「左サイドバック不在」となった。招集直前にCBと左サイドバックをこなせるユン・ソギョン(柏レイソル)が負傷したからだ。

 さらに23人のエントリーでFW登録選手がわずか2人という事態に。仕方がないので、所属のアウクスブルグ(ドイツ)で出場機会を得られていないチ・ドンウォンが選ばれている。シン監督曰く「(同じくFWの)ファン・ヒチャン(ザルツブルク/オーストリア)、ソク・ヒョンジュン(トロワ/フランス)はより出場機会がない」。その一方で、負傷のために最近はプレーしていなかったキ・ソンヨン(スウォンジー/イングランド)を招集する荒業に。これについては「チームでは練習復帰している。試合に備えよ、という意味の招集」と説明した。

 当然、遠征前から批判的意見が多く出た。海外組と国内組を分ける。その弊害もあると。

「その時は『国内組だけでやるのか』という批判が」

 シン・テヨン監督は25日の会見でこう答えた。

「確かに今年の1月には国内組だけの合宿をやり(シン監督は一時フル代表コーチとして前任のシュティーリケとともに仕事をしていた)、その時は『国内組だけでやるのか』という批判が出た。コーチングスタッフで綿密にプランを練り、問題が出ないように取り組んでいる」

 いっぽう、メリットについてはこうも。

「国内組にとっては、緊張感を感じる機会になるだろう。同時に海外組にも機会を与えたい。新しく入ってきた選手をベースにお互い力を合わせることで、チームへの相乗効果を期待したい」

オール海外組という挑戦と、シン監督の意志表明。

 欧州遠征は、シン監督にとっては8月31日に就任後初ゲームを戦って以来となる、3戦め、4戦めの試合となった。

 この遠征は、ワールドカップまで1年を切った状態での就任、さらに予選突破を渋いスコアレスドローで決めたこと、降って湧いたヒディンク就任待望論……などに対するシン監督なりの返答も意味していた。「オール海外組の代表」はそういった状況でのドタバタ劇にも見えたが、シン監督は目的だけはしっかり見据えていた。

「私はコーチとしても前任者と仕事をした。その立場から選手に要求したとき、そして監督の立場から要求したとき、選手によってどんな反応の違いがあるのかを見たい。選手のスタイルは頭の中に入っているから、実際に接するとどうなのかという点を知りたい」

 試合の結果については、「もちろんすべての親善試合には勝つつもりでいるが、負けることもある。ベストを尽くす」と。

思い切った計画の結果は……。

 かくして、結果はボロ負けだった。

 7日のロシア戦は2つのオウンゴールもあり2-4。

 10日にスイスで行われたモロッコ戦は1-3。

 これで韓国は3月28日のワールドカップ最終予選シリア戦(ホーム)以来、半年以上も勝利がない状態になった。

 初戦のロシア戦では、FC東京、大宮アルディージャでもプレーした左利きのCBキム・ヨングォン(広州恒大/中国)を3-4-3の左MFで起用せざるを得なかった。キムは確かに左サイドバックでのプレー経験もあるが、184cm74kgの体躯。サイドを駆け上がるタイプではない。不似合いだった。

 モロッコ戦では初戦に続き、チャン・ヒョンス(FC東京)を3-4-3のフォアリベロ的な位置に起用したが、これも機能しなかった。

一斉に新監督をバッシングした韓国メディア。

 メディアは一斉に、結果を叩きまくった。

「ロシア戦での守備の問題は明確だった。変形3バックは両サイドMFとの関係が不明瞭で、不安を露呈した。シン・テヨン監督はこれを修正せず、モロッコ戦に臨み、同じように敗れた」(SPOTV NEWS)

「雰囲気を変えようとしたが、より窮地に。危機のシン・テヨン」(NEWSIS)

「シン・テヨンの無謀な挑戦、韓国サッカーに傷だけを残した」(スポータルコリア)

 また、この遠征の企画自体が失敗だったとの指摘も多数見られた。

「協会の怠惰な企画が生んだ“10月の惨事”」(インターフットボール)

 この媒体は「欧州遠征の機会は多くないのに、その機会で万全の準備をしない協会への批判は免れえない」と糾弾した。来月に日本がブラジル、ベルギーと対戦することを引き合いに出しつつ。

 それでも、だ。わざわざスペースを割いてまでこのニュースを紹介する理由がある。日本もすぐに「これをやってみよう」と強くは推薦できない。いっぽうで、ワールドカップ本戦直後の4年間の仕切り直しの時期(つまりまだ時間のある時期)あたりに、トライしてみる余地があるのではないか。そういう話だ。

海外組と国内組をキッチリ分けてみた意味はあった。

 今回の遠征後、韓国主要メディアからこんな意見が出てきてるのだ。

“やっぱり、国内組の存在は重要”

「不安な“シン・テヨン”コリア。11月には海外組・Kリーガー総集結のテストマッチ」(聯合ニュース)

「コスタリカ? ウルグアイ? “シン・テヨン”コリアの“精鋭招集”で臨む11月のAマッチデーの日程は?」(スポーツソウル)

 次に登場する国内組のモチベーションはとてつもなく高い。想像に難くない。

 海外組と国内組。一度思いっきり分けてみたことで、価値が再発見された。結果的にそうなったとも言える。

W杯で戦うレベルの国ならば、参考になるはず。

 日本は2013年、'15年の東アジアカップなどで国内組のみの代表構成はあるが、逆の事例はない。どんな反応が出るだろうか。海外組のみの代表チーム。日本も人数的には構成が可能ではないか――。

 そうなれば、多くの選手が内面で抱える「欧州組の移動の負担、所属チームでのレギュラーはく奪の心配」は軽減される。もちろんいい結果が出れば、それ自体が収穫になる。

“突貫工事感”のあるマッチメイキングは日本文化にそぐわないかもしれないし、たった今、ワールドカップに向かうチームにとっては直接的なプラスになる話でもない。

 ただただ、今後の論点の一助になれば。いま、日本がやっていることを別角度から照らし出す、この韓国の事例を徹底的に分析し、頭の片隅にでも置いておいて損はない。

Number Webの関連記事

image beaconimage beaconimage beacon