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余命覚悟で貫いた千代の富士の美学 指導続けるため「抗がん剤はやらない」と選択か

zakzak のロゴzakzak 2017/09/13

 【ドクター和のニッポン臨終図巻】千代の富士 

 横綱・千代の富士(九重親方と呼ぶのが正しいでしょうが、あえてこう呼ばせてください)の特集を先日、テレビで見ました。一周忌追悼番組でした。筋骨隆々、男でもほれてしまうほど美しい全盛期の姿。完璧な肉体を保持していたこの人が、61歳で亡くなるとは、誰が想像したことでしょう。

 彼の命を奪ったのは膵臓がんでした。私の同年代の友人も、ここ数年で何人かが膵臓がんで亡くなりました。著名人でも米アップルの共同創業者、スティーブ・ジョブズさんや歌舞伎役者の坂東三津五郎さん、ジャーナリストの竹田圭吾さんら50代で逝った人の顔が思い出されます。

 千代の富士は2015年6月、人間ドックでがんが発覚し、すぐに手術のため1カ月の入院。職務復帰しましたが、その姿は数カ月前の還暦土俵入りの雄姿とは別人のように痩せていたため、重病説が流れました。

 同年9月には膵臓がんを公表。「早期発見なので問題ない」と語っていたものの、実際は胃や肺などに複数の転移が判明していたのです。

 膵臓がんは他のがんに比べ発見しづらく、進行が早いことも特徴。手術が成功し、いったんは完治したように見えても、再発の可能性が非常に高いのが、このがんの怖さです。

 千代の富士は再発に対する抗がん剤治療を拒否し、4次元ピンポイント照射療法と呼ばれる特殊な放射線治療を選択します。この選択に対し医療界ではさまざまな意見が出ました。「抗がん剤をやったら生きられた」と主張する医師もいれば、「抗がん剤だけはするな」という医師もいます。

 私は抗がん剤を否定はしません。しかし、人それぞれに延命と縮命の分水嶺となる「やめどき」があり、自分で見極めることが大切という考えです。『抗がん剤 10のやめどき』という拙著で詳しく述べています。

 千代の富士の場合、完治を目指す状態ではありませんでした。ですから、彼の選択を後出しジャンケンのように評価するのはどうかと思います。一方「これでがんが消えた!」と高価な民間療法を勧める医療機関が存在するのも事実で、患者さんを惑わせ、お金儲けをしている医師には怒りを覚えます。

 しかし、それすら理解したうえで、お金も持っていて、治らないかもしれないが、いちるの望みに賭けることもまた、患者さんの自由ではないかと思う面もあります。

余命覚悟で貫いた千代の富士の美学 指導続けるため「抗がん剤はやらない」と選択か: 元横綱千代の富士の九重親方(2015年5月撮影) © zakzak 提供 元横綱千代の富士の九重親方(2015年5月撮影)

 千代の富士は、余命を覚悟したうえでギリギリまで後進の指導を続けるため「抗がん剤はやらない」という選択をしたかと想像します。最後まで“歴史上最も美しく、強い横綱”として生きていたいという矜持もあったことでしょう。

 貴花田(後の横綱貴乃花)に敗れた後の引退会見でも引き際の美を見せてくれましたよね。引き際とは、つまりやめどき。男の美学と言ったら女性から怒られるかもしれませんが…。

 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。近著「薬のやめどき」「痛くない死に方」はいずれもベストセラー。関西国際大学客員教授。

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