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大量失点を跳ね返した奇跡の大逆転劇【プロ野球B級ニュース事件簿】

AERA dot. のロゴ AERA dot. 2018/01/11 16:00 久保田龍雄

 気がつけば、2月1日のキャンプインまであと1ヵ月を切った。プロ野球が恋しくなるこの季節だからこそ、改めて2017年シーズンの出来事を振り返っておきたい。「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に2017年シーズンの“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「大逆転&どんでん返し編」である。

*  *  *

 5月6日の広島戦(甲子園)、「今日はボロ負けや!」とあきらめて、観戦途中で帰った阪神ファンは、さぞかし後悔したことだろう。

 5回表まで0対9と一方的にリードされ、その裏、梅野隆太郎の中前タイムリーで1点を返したものの、なおも1死一塁のチャンスで、原口文仁が遊ゴロ併殺打。広島の先発・岡田明丈の前に5回までわずか2安打では、どんなに熱心な虎ファンでも、「逆転は無理」と考えてもおかしくないところだ。

 ところが6回、試合の流れは一気に阪神に傾く。2死満塁から鳥谷敬の一塁内野安打で1点を返した後、3連続押し出し四球で5対9。そして、この回2度目の打席となった高山俊が右翼線に走者一掃の三塁打を放ち、あっという間に1点差。

 さらに7回1死一、二塁、鳥谷の二ゴロを西川龍馬が大きくはじく間に二塁走者・江越大賀が本塁へ。果敢なヘッドスライディングでクロスプレーとなり、判定は「セーフ!」も、17分間のリプレー検証の末、一転「アウト!」に……。同点劇は幻と消えたかに見えた。

 しかし、これが虎戦士の闘志をさらに奮い立たせる。なおも2死一、二塁で、糸原健斗が広島の3番手・薮田和樹から右前に同点タイムリー。さらに梅野の右越え三塁打で11対9と大逆転に成功した。

 終わってみれば、球団史上初の9点差をひっくり返しての12対9の勝利。金本知憲監督も「僕も長い間プロ野球にいるけど、初めてですね。最初はお客さんに申し訳ない気持ちで一杯で、ちょっとでも盛り上がるシーンを作ってほしいと思っていたけど、まさか逆転するとは」と驚くばかりだった。

 阪神の9点差大逆転勝利から2カ月半余り。「世の中、上には上がある」ことを思い知らされたのが、7月26日の中日vsヤクルト(神宮)だった。

 6回を終わって中日が10対0とリード。高校野球の地方予選なら5回の時点でコールドゲーム成立である。ところが、ここから奇跡の大逆転劇が始まる。

 6回まで中日の先発・大野雄大に3安打に抑えられていたヤクルトは7回2死、代打・中村悠平の左越え2ランで反撃開始。2試合連続スタメン落ちした正捕手が意地を見せた。

 この一発で目を覚ましたヤクルト打線は8回、バレンティンの左越え2ランなど6長短打で6点を返し、なおも2死満塁で、「チームの勢いに乗せてもらった」という山田哲人が左前に快打。一気に10対10の同点に追いついた。

 そして、延長10回1死、代打・大松尚逸が伊藤準規の初球、147キロ直球をフルスイングすると、高々と上がった打球は、ヤクルトファンが総立ちで迎える右中間席へ劇的なサヨナラ弾となって吸い込まれていった。

 10点差からの逆転劇は、セリーグでは1951年5月19日の松竹13対12大洋以来、66年ぶり3度目の珍事である。

 右アキレス腱断裂でロッテを戦力外になり、2月のキャンプ中に入団テストを経てヤクルトに拾われた大松は、5月9日の広島戦(神宮)に続いてシーズン2本目の代打サヨナラ弾。

「去年のことを考えれば、野球をやれていることが幸せ。ライトスタンドのファンの皆さんの声援で伸びてくれと思ってました。いつかこういう日が来ると信じていた」と感無量の面持ちだった。

 今度はタイトル争いをめぐるどんでん返しの話である。

 最高勝率のタイトルを狙う千賀滉大(ソフトバンク)が10月6日のオリックス戦(ヤフオクドーム)で先発した。この日まで13勝4敗の勝率7割6分5厘。基準の「13勝以上」をすでにクリアしているので、登板を回避してタイトルを確定させる手もあった。

 だが、あと6イニングで規定投球回数に到達することと、前回登板した9月25日の楽天戦(同)が7失点という不本意な内容だったので、「不調のままCSを迎えたくない」と、異例の消化試合での登板となった。

 ところが、初回にいきなり失点。5回にも若月健矢、T-岡田に連続本塁打を浴び、0対3とリードを広げられる。味方はその裏、中村晃の右越えソロで1点を返すも後が続かない。千賀が6回で降板した時点で、1対3の劣勢だった。

 もし負け投手になると、13勝5敗の勝率7割2分2厘となり、2位のチームメート・東浜巨(7割6分2厘)に抜かれてしまう。ソフトバンクは7回に1点を返したが、8回を終わって2対3。逃げ切りを図るオリックスは最終回、守護神・平野佳寿を投入してきた。ベンチで見守る千賀もあきらめの表情になった。

 ところが、9回2死二塁、あと一人でゲームセットという緊迫した状況で、上林誠知が右前に起死回生の同点タイムリー。この瞬間、千賀の黒星は消え、最高勝率の初タイトルも確定した。

「(タイトルは)ないと思っていたのが手元に来て、うれしいのはもちろん、不思議な気持ちになった。ありがたいし、点を取ってくれた野手の皆さんに感謝したい」(千賀)

 まさに「上林様様」だが、意外にも当人は何も知らず打席に入り、「ベンチに戻ったら、千賀さんが来て『ありがとう』と言われて、そういうことか!」とあっけらかん。美談仕立ての記事を書こうとしていた記者たちも、思わず拍子抜けするオチだった?

ヤクルト・大松尚逸 (c)朝日新聞社 © dot. ヤクルト・大松尚逸 (c)朝日新聞社

●プロフィール

久保田龍雄

1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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