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「人とロボットの理想的な協働」 その秘訣はリスペクトにあり

Forbes JAPAN のロゴ Forbes JAPAN 2018/05/16 18:00 Forbes JAPAN 編集部

© atomixmedia,inc 提供 ”ロボット社員”による遠隔ワークは今後ますます増えてくる。同分野で数多くのフィールドテストを行う認知心理学者を米国カリフォルニア大学サンタクルーズ校に訪ねた。

IT産業の中心シリコンバレーのお膝元にあるカリフォルニア大学サンタクルーズ校。同校で代理准教授を務める認知心理学者のレイラ・タカヤマは、ある日、心が躍っていた。初めて韓国に海外出張することになったからだ。

海外出張とは言っても、飛行機に長時間乗って行くわけではない。大学の自分のオフィスにいながらの出張である。それでも、タカヤマは韓国のオフィスの中を歩いてみなに挨拶し、会議で意見を述べることができる。そこには”拡張された自分自身”がいるからだ。それは、タカヤマ自身が開発に加わった、遠隔操作で動かすことができるテレプレゼンスロボットである。タカヤマは人とロボットが円滑にインタラクションできるよう、ロボットを”ヒューマン・フレンドリー”なプラットフォームにするための研究開発を手がける第一人者なのだ。

テレプレゼンスロボット開発のきっかけとなったのは、かつてタカヤマが働いていたロボット開発企業ウィロー・ガレージでインディアナ州から遠隔ワークしていた同僚ダラスの存在だった。ダラスは、会議にはデスク上のボックスを通して出席していたが、ある時、別の同僚が、カートの上にラップトップを載せ、オンラインを通じてダラスを会議に参加させた。しかし、ダラスは苛立ちを感じた。カメラを通して見たいところを見るためにはいちいちカートを動かしてもらわなければならなかったからだ。タカヤマはこの問題を解決すべく、遠隔操作できるテレプレゼンスロボットを開発した。

「このロボットは当初、その見かけから、”棒上のスカイプ”と呼ばれたり”ダラスボット”と呼ばれたりしていたのですが、やがてダラスと呼ばれるようになりました。ロボットがダラスという人格を持った人として、同僚たちに認識されるようになったからです」

ロボットの開発が進む中、ダラスのようにテレプレゼンスロボットを使って遠隔ワークする”ロボット社員”は、今後確実に増えてくる。そんな”ロボット社員”はどうすれば職場にいる人々と理想的に協働できるのか? その答えは、タカヤマが1年以上かけて、12社でロボットをフィールドテストした結果から、導き出されそうだ。

テストの結果”ロボット社員”は様々な形で仕事に貢献したことがわかった。例えば、遠隔操作機能を生かして、子育てや病気など様々な理由で出社できない場合でも会議に参加をして意見を述べることができた。タカヤマ自身も身体を痛めて松葉杖に頼らなくてはならなくなった時、ロボットを利用して会議に参加したという。同僚のオフィスに出向いて自己主張することも可能になった。メールの返信をしない同僚のオフィスを”ロボット社員”として訪ねて、返事を催促することが可能になったのだ。

職場の人々との絆も深めることができた。”ロボット社員”としてパーティーやスポーツなど職場の人々が集まる機会に出席できるようになったからだ。”ロボット社員”と職場にいる人々のインタラクションしながらの協働は仕事効率の向上に貢献したのだ。

一方でタカヤマは、テストを通して、ロボットを遠隔操作する人々(パイロット)と職場の人々(ローカル)の間で起きる様々な問題にも遭遇した。

© atomixmedia,inc 提供

エミュー3の開発に携わる日立アメリカの本間健シニア・リサーチャー(左)とレイラ・タカヤマ(右)

よく問題となったのはパイロットの声の大きさだ。パイロットはロボットを通した自分の声が、職場ではどれだけの大きさで聴こえるのか知るすべがなかったため、知らず知らず、音量を大きくしていた。

また、ロボットの操作法がよくわからず、物や壁にぶつかって職場の人々に迷惑をかけたり、ロボットを使用後、電源ステーションに移動させるのを忘れ、廊下に放置したままにしたりするパイロットもいた。

ローカルの方もパイロットに様々な問題を与えた。一つに距離感の問題があった。ローカルの中には、ロボットに接近し過ぎる人もいたため、パイロットの中には不快に感じる者がいたのだ。

「人によっても、文化によっても、自分がプライベートだと感じられる空間の広さは異なります。パイロットとローカルが互いに快適でいられるような距離感を取ることが重要です」

パイロットに不快感を与えるローカルの行動は他にもいろいろあった。ロボットのボトム部分に、脚を投げ出して話す行儀の悪いローカルや、パイロットの好みではないTシャツや帽子などを飾り付けるローカルもいたからだ。

また、パイロットと議論になって折り合いがつかない時、まるで電話でも切るかのように、ロボットの電源を乱暴に切ってしまうローカルもいたという。

様々な問題を目の当たりにしたタカヤマは言う。

「パイロットはロボットを自分の身体の一部だと考えています。そのため、ローカルは人と接するようにロボットに接する必要があるし、パイロットもまたローカルの仕事の邪魔となるような行動を取ってはなりません。重要なのは、相互にリスペクトしながら接することです」

職場では、人とロボットがそれぞれの責任の所在を明らかにして、棲み分けながら協働することも重要だ。タカヤマは、1951年、国立リサーチカウンシル委員会が人とコンピュータのインタラクションについて言及した”MABA―MABA”(menare better at,machines are betterat)という考え方(人が得意なところは人が行い、機械が得意なところは機械に任せる)で協働することを勧める。

例えば、病院では、患者に今後の治療方針を説明したり励ましたりすることは人(看護師)が行い、枕を分類したり、薬を数通りに正確に詰めたりすることはロボットが行うのだ。学校では、生徒の進路相談は人(教師)が行い、テストの採点はロボットがするのである。

「今後、仕事自体は変わっていくでしょう。しかし、仕事の中の細かなタスクは、人とロボットの間で棲み分けができてくると思います。誰にでもできるような単調な作業や、不潔で危険で退屈な、人がやりたがらない仕事はロボットがするようになるでしょう。そんなふうに棲み分けながら協働することで、仕事効率を向上させることができると思います」

利用者の参加型デザイン

フィールドテストを通して、パイロットやローカルがどうロボットに対処するか目の当たりにしたタカヤマは、常に、利用者目線でロボットを開発することを重視している。

「ロボットというと、どうしても技術の産物という印象が強いのです。それを人間中心のデザインにすることが私にとってのゴールです。そのためには、人をデザインサイクルに組み入れていくような”参加型デザイン”をする必要があるのです」

自分の頭で考えたデザインではなく、人々が抱えている問題を的確にとらえ、それを解決するようなデザインが、仕事の効率や生活の質の向上に繋がるというのだ。そのため、タカヤマはロボットを利用しそうな人々にインタビューを行った。例えば、老人ホームの入居者たちだ。タカヤマは、入居者たちは、孫や子供がロボットとして老人ホームに訪ねてきたら喜ぶだろうと考えたのだ。しかし、実際に入居者たちにインタビューしてみると、彼らは親族のロボットに訪問されたい以上に、自身が外出したいと考えていることに気づいた。自身がロボットとしてコンサートに行ったり、家族と野球観戦に出かけたりすることを望んでいたのだ。

想像していたアイデアとは異なる結果を得たタカヤマにインスピレーションがわいた。そうだ、博物館にロボットを置こう!

そうそれば、博物館に行くことができない人々でもロボットとして行き、楽しむことができる。タカヤマのアイデアは生かされ、現在、サンタクルーズにある科学博物館にはロボットが置かれ、来館できない人々の分身となって館内を見学している。

現在は、人型自律ロボットの開発も世界的に進んでいる。職場で、人とロボットがよりよく協働するには、人と円滑にインタラクションができる”ヒューマン・フレンドリー”な人型自律ロボットを開発する必要があるからだ。

タカヤマもそんなロボットを作るべく、様々なアドバイスを行っている。それには自らの経験も手伝った。初めて遭遇したPR2というロボットの頭部が急速に回転したのに驚いたタカヤマはロボットの動きを低速にした。また、ロボットが人間らしい動きをするよう、ピクサーのキャラクターアニメーターと共同でモーションの研究を行った。その結果、すぐに行動に移すことができず思考している時は首を捻らせたり、動き出す前には、それを人々に予測させるために構えるようなポーズを取らせたりといったアニメのキャラクターがする動きを導入した。さらに、静止状態では、完全に停止していると人が”支配されている”という怖さを感じることから、生きているように微妙に動かすことで、安心感を与えるようにした。

利用者のパーソナリティーを分析

個々の利用者にカスタマイズしたロボットの研究も進めている。例えば、家庭用パーソナルロボットの研究では、利用者が、自分流のテーブルの拭き方をロボットに教えて、ロボットを自分用にパーソナライズすることを目指している。

昨年10月からは、日立のロボット”エミュー3”のパーソナライゼーションに取り組み始めた。エミュー3は空港やモールなどの公共の場で、人をガイドすることを目的として作られた人型サービス用ロボットだが、タカヤマは利用者のパーソナリティーを分析して、それに適応できるようなシステムをロボットに組み込もうとしている。

「心理学的に、人は自分と似ている人を好む傾向があります。ロボットが積極的な気質の場合、外向的な人は喜ぶかもしれませんが、反対に、内向的な人は引いてしまうかもしれません。話し方や態度など、ロボットを利用者のパーソナリティーにマッチさせようとしているのです」パーソナライズされたロボットは将来、職場でもその才能を発揮するようになるだろう。

「販売の場では、ロボットは客の個性に合わせて接客方法を変え、販売効率を上げることができるかもしれません。学校では、生徒の性格に合わせて教え方を変え、習得力向上に貢献するようになるでしょう」

ロボットで変わりゆく未来の職場に向けて、タカヤマの実験は今日も続く。

レイラ・タカヤマ◎カルフォルニア大学サンタクルーズ校代理准教授。「Hoku Labs」創業者。スタンフォード大学コミュニケーション学博士。ウィロー・ガレージ、GoogleXで研究員を務めた。ハワイ生まれの日系4世。日立が開発するロボット「エミュー3」と共に。

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