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「日本は5Gで遅れている」という指摘 実際はどう? IDCの予測から考える

ITmedia Mobile のロゴ ITmedia Mobile 2019/06/24 18:05
2004年から2018年にかけての通信サービスの世代別の携帯電話端末出荷台数シェア予測 © ITmedia Mobile 2004年から2018年にかけての通信サービスの世代別の携帯電話端末出荷台数シェア予測

 次世代モバイル通信規格の「5G」の商用化が進んでいる。4月の米国と韓国を皮切りに、5月にはイギリスやオーストラリアでも一般ユーザー向けのサービスが始まった。

 一方、日本では大手キャリアや楽天モバイルが9月にプレサービスあるいは大規模実証実験を実施する予定。商用サービスの開始は2020年の春から夏となる見通しだ。

 現状の客観的な状況を見る限り、日本における5Gに関する動きは鈍い。「日本は5Gにおいて遅れを取っているのでは?」という意見を耳にすることも少なくない。5G関連における海外の展示会における日本企業の存在感が薄いことは事実で、見方次第では正しいともいえる。

 一方で「早く始めればそれで良いのか?」という疑問の声もある。3G(第3世代移動体通信システム)ではNTTドコモが世界に先駆けて商用サービスを始めたが、その後のハーモナイゼーション(国際規格との差分の修正)で苦労した経緯がある。それを踏まえると、早期のサービスインを目指すことが「正義」とは言いきれない。

 果たして、日本の5Gは遅れているのか、そうでもないのか。米国に本拠地を構える調査会社「International Data Corporation(IDC)」の日本法人であるIDC Japanが作成した「国内5G市場予測」から考えていく。

●5Gはゆっくり普及

 移動体(モバイル)通信システムは、おおむね10年おきに新しい世代に交代している。

 現行規格である「LTE-Advanced」が2013年6月に商用サービス化されたことを踏まえると「ちょっと早いのでは?」と思うかもしれないが、同規格の初期段階に相当する「LTE(Long Term Evolution)」の商用サービスが2009年12月に始まったことを考慮に入れると、ちょうど世代交代期にさしかかっているともいえる。

 IDC Japanが集計した日本における世代別携帯電話出荷数を見ると、2011年末にLTE通信サービスが始まり、2013年にLTE端末が過半となった。その後、LTE端末の出荷数シェアは横ばいだったが、2015年にLTE-Advancedに完全準拠した通信サービスが始まると再びシェアが拡大。2017年にはほぼ全数がLTE-Advancedを含むLTE端末になった。

 簡単にいうと、新しい通信サービスに対応する端末の普及には2~3年程度かかるということだ。

 先述の通り、日本での商用5G通信サービスは2020年春から夏に始まる。3Gや4Gの例の通りであれば、2022年か2023年ぐらいには5G携帯電話が主流になりそう……と思いきや、IDC Japanは2023年時点においても出荷台数ベースでは4G携帯電話が主流であると予測している。具体的には、2023年時点での5G通信回線の契約数は約3316万回線でモバイル通信全体の13.5%、5G携帯電話の出荷台数は約870万台で全体の28.2%になるとの見立てをしているという。

 要するに5Gは4G(LTE)よりもゆっくり普及すると踏んでいるのだ。

●「本気を出す」には時間がかかる

 新しい通信規格の普及には「ネットワーク」「端末」に加えて「サービス」が重要な鍵を握る。

 ネットワーク面では、2020年春から夏に商用サービスが始まる。その後、2021年度末までに全都道府県で5G通信サービスを提供し、2024年4月10日までに5G基盤展開率(※1)を50%超にしなければならないことになっている。

※1 全国を10km四方のメッシュで区切った際のカバー率。1つのメッシュの中で通信可能な場所がわずかでもあれば「カバーできた」とみなされる

 つまり、5Gが全国である程度使えるようになるのは2020年代半ばまで待たなければならない。しかも、あくまでも「ある程度」なので、実際にどこまで実用的なエリア構築がなされるかは不透明だ。

 5G普及の初期段階では、4Gネットワークと連携して動作する「NSA(非スタンドアロン)」形式でネットワークが構築されると思われる。5Gのメリットをより生かすためには、ネットワーク制御を5G単独で行う「SA(スタンドアロン)」形式のネットワークへの移行が必要となるが、それにはコストと時間が必要となる。

 5G用のインフラ投資について、IDG Japanでは商用サービス開始後の2021年から加速し、2023年には全インフラ投資の80%超に達すると予想している。実際に、大手キャリアの動きを見ていると、程度に差はあるものの、サービス開始前に大きな投資して垂直立ち上げする可能性は低い。

 5Gの通信サービスが始まっても、すぐに「本気を出す」ことはできないのだ。

 「超低遅延」「超多接続」といった特徴から、IoT(モノのインターネット)関連の通信や産業用途では他の通信方法から5Gへの置き換えも期待されているが、こういった事情から当面の間はローカル5G(※2)を含む他の通信モードとの併用が前提で普及が進むと思われる。

※2 工場や研究所内など、閉じたエリアで使う“自営網”向け5G。日本では4.5GHz帯と28GHz帯のそれぞれ一部がローカル5G用に確保される見通し

●しかし「待つ」のは良くない

 端末の普及速度がゆっくりとしたものになるという予測も、インフラやネットワークが比較的ゆっくり広まるという見通しに基づくものだ。しかし、5Gの特性を生かしたサービスの開発は、今のうちからパートナーを見つけて、しっかりと進めておくことが重要だとIDC Japanは指摘する。

 とりわけIoTや産業分野においては「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と呼ばれる、AI(人工知能)やIoTを活用した業務変革を進める動きが加速している。そのため、同社はテクノロジーリーダーを目指す企業、あるいは他国との競争にさらされる企業なら「まずは始める姿勢も重要」と指摘している。

 一方、同社は消費者向けサービスについても、5G端末をいち早く導入したユーザーとの対話を通じてサービスの設計を進めることが重要だと語る。

 「5Gがある程度普及してから使い方を考えよう」と悠長に構えていると、利活用において「始めた時点で遅れている」可能性もある。サービス提供者や業務に利活用しようとしている企業や団体は、5Gに向けた行動を起こすべき段階に来ていることは間違いなさそうだ。

●5Gの普及は米国を除き「五十歩百歩」に

 冒頭で述べた通り、日本における5Gの動きは鈍いという指摘がある果たしてそれは本当なのだろうか。

 IDC Japanを含め、IDCは世界の主要な国と地域に調査拠点を設けている。各地の拠点のアナリストが「米国」「カナダ」「日本」(以上は国別)「アジア太平洋地域」「西ヨーロッパ地域」に分けて分析した結果、IDCでは2023年時点での5G携帯電話(スマートフォン)の出荷台数シェアは米国で60%超、日本を含む他の国や地域で30%前後になると予測している。

 米国だけ極端にシェアが高いのは、地理的条件などを加味すると、5G基地局の展開が急速に進むと見られているため。エリアがある程度広がれば、端末もある程度は普及するということだ。

 今回の資料には含まれていないが、IDCでは、韓国と中国も予測自体は実施している。2023年時点の5G端末の出荷台数シェアは韓国では30%程度、中国では40%弱と、どちらも米国ほど高くならない見通しを立てている。

 少なくとも、端末の普及面では日本は米国以外の諸外国と大差ないという見立てとなっている。導入の遅れをそこまで気にする必要はなさそうだ。

 5Gではビット当たりの通信コストが4Gよりも下げられる。そのため、データ(パケット)通信容量を無制限、あるいはそれに近い形で提供する通信プランの登場が期待されている。

 日本でもそれは同様だが、IDC Japanでは4G用料金プランをベースに、いくらかの加算をしたプランとなると予測している。先行する米国や韓国と同様のプラン設計だが、この「加算」をなるべく少なくできれば5Gの普及速度が速まる可能性がある。

 端末について、IDC Japanはハイエンド端末から5G対応が始まると予想している。これは4Gと同様の展開だが、5G端末の平均価格は現行の4Gスマホよりもさらに高くなる見通しだという。具体的な金額にこそ触れなかったものの、「5Gスマホをいち早く買いたければ、今から貯金を始めた方が良い」とも分析している。端末の価格をいかに抑えるかという点も普及に向けた課題になりそうだ。

 ただし、5Gの普及のカギを握るのは「5Gならではの使い方」を提案することにある。先述の通り、5Gが本領を発揮するのは早くても2020年代半ば以降。キャリアやサービス提供者は、「5Gならこんなこともできますよ」というビジョンを示しつつ、その実現に向けた課題を解決していくことが求められそうだ。

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