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エリアだけでなく料金にも不安要素 3キャリア社長が「楽天モバイル」を冷ややかに見る理由

ITmedia Mobile のロゴ ITmedia Mobile 2019/11/09 06:05
数カ月でネットワーク構築に大きな進捗があったと語る三木谷氏 © ITmedia Mobile 数カ月でネットワーク構築に大きな進捗があったと語る三木谷氏

 「この数カ月で大きな進捗(しんちょく)があった。今年(2019年)末までには、電波発射済みの基地局が3000以上になる」――こう語るのは、楽天の代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏だ。同社傘下の楽天モバイルは、10月からのサービスインを事実上見送り、5000人のユーザーを対象にした「無料サポータープログラム」を開始した。三木谷氏は「ネットワークのクオリティーについては、極めていいものができた」と自信をのぞかせる一方で、有料サービス開始後の料金については沈黙を貫く。

●エリアは十分? 基地局展開にはまだまだ課題も

 大手3社の幹部は、こうした状況を冷ややかに見る。「うちの技術者は、そんなに簡単にできるもんじゃないと思っている」と語ったのは、ソフトバンクの代表取締役社長兼CEOの宮内謙氏だ。宮内氏は、かつてソフトバンクがボーダフォンを買収し、携帯電話市場に参入したときのことを引き合いに出しつつ、次のように語った。

 「僕らがどれだけ苦労したか。昔、孫(正義会長)さんがこういう場に出てくると、いつも『つながらない』と怒られていた。7年、8年、ずっと『つながらない』と言われ続けてきた。(携帯電話のエリアを作るには)基地局のサイトを交渉して、そこに作り、バックホールも光でつながらなければいけない。ソフトバンクはYahoo!BBのときにバックホールで苦労して、なおかつボーダフォンを買っても、たった1万5000局しかなく、『つながらない』と言われた」

 楽天モバイルにローミングサービスで回線を貸す、KDDIも辛らつだ。同社の代表取締役社長、高橋誠氏は「春先からずっと言ってきたが、(楽天モバイルが売りにする)完全仮想化ネットワークと、実際にネットワークを作るのは別問題。基地局の整備は、そう簡単ではない」と一刀両断する。高橋氏は「偉そうな言い方になったら申し訳ないが、10月1日に基地局がそろうとは思っていなかった」と語り、楽天モバイルが“競合”になるまでには時間がかかることを示唆した。

 ドコモの代表取締役社長、吉澤和弘氏も「(キャリアとしての)基本中の基本はつながること」と言葉を選びつつも、「エリアの構築をされている最中だと感じる」と口をそろえる。既に20万前後の基地局を整備し、2020年には5Gのサービスインを目指す大手3社にとって、楽天モバイルが脅威になるにはまだまだ時間がかかるというのは共通の見方だ。

 実際、楽天モバイルの基地局数は、電波を出しているものが10月時点で2300しかない。12月にはこれが3000まで拡大する予定だが、依然として2桁の違いがある。他社の数値にはトラフィック対策でスポット的に利用する高い周波数の基地局も含まれてはいるが、全国をカバーするには、圧倒的に数が足りない状況だ。三木谷氏は「8月、9月ぐらいはつながらないところもあったが、私が行く範囲ではつながらないところはほぼなくなった」と語るが、全国区でサービスするには心もとない。

 筆者も楽天モバイルのSIMカードを使ってエリアをチェックしてみたが、確かに三木谷氏の言う通り、東京23区内では「路面はほぼつながる状況」だった。一方で、エリアを稼ぐ必要から、1つの基地局で広い範囲をカバーしているためか、電波状況が悪化しても、なかなか次の基地局にハンドオーバーしないことが多い。こうした場所では、通信速度が極端に低下してしまう。冒頭で引用したような、クオリティーの高いネットワークができているのかという点には疑問符が付く。あくまで東京23区内でしか利用していないが、筆者の見解も大手3社の社長のそれに近い。

 しかも、今は無料サポータープログラムの最中で、ユーザー数も5000人に限定されている。そのため、1つの基地局につながっているユーザーは、他社よりはるかに少ない。時間や場所によっては、1人で基地局を占有している可能性も高い。このようなネットワーク環境でユーザーが増えても、十分な速度が本当に出るのか。無料サポータープログラムでは、こうした点も十分検証できないように見える。クオリティーの高さを誇るのは、時期尚早といえる。

●もろ刃の剣となるauローミング、低料金は本当に打ち出せるのか

 それでも、破格の料金を打ち出せるのであれば、勝機はあるかもしれない。ただ、KDDIの高橋氏は、こうしたメディアの論調にも懐疑的な見方を示す。「楽天はMVNOとして既に参入しているが、そこからMNOに移行してくると考えると、むちゃくちゃな料金をつけると採算が悪化してしまう」というのが、その理由だ。楽天モバイルのサービス開始が事実上延期されたことで値下げ圧力が弱まったというより、もともと値下げ圧力は感じていなかったというのが高橋氏の見解だ。

 宮内氏は「どんな料金を出してくるのか分からない」と前置きしつつも、「微修正で対応できる」と自信をのぞかせる。「ソフトバンクはギガモンスター+をやっているが、これが非常に強い商品に育ってきている。10GB以下であれば、Y!mobileが順調。楽天がどういう値段を出してきても、(LINEモバイルを含めた)3つのブランドで戦えると思っている」と語ったように、現行の料金プランで十分対抗できるとみているようだ。

 三木谷氏は「他社がまねできない料金」を実現できると語っていたが、auローミングを利用しているうちは、構造的にその難易度が大きく上がる。KDDI高橋氏はローミングの料金には「固定部分と従量部分がある」と言い、トラフィックに応じて楽天からKDDIへの支払いが発生するという。KDDIが公開したユーザー向けの約款によると、その金額は1GBあたり約500円。KDDI広報部は、この金額がそのまま楽天から支払われるわけではないとするが、ある関係者によると、差分は「誤差」に近いという。

 無料サポータープログラムは100GBのプランとして提供されているが、仮に全ての容量をauエリアで使ってしまうと、ローミング料金は5万円に跳ね上がる。10GBでも5000円。現状では、首都圏でも「23区から外に出ると、ほぼうちのネットワークになる」(高橋氏)というように、全国区で見れば、auに接続するエリアの方が広い。ビル内などの基地局展開にも課題があり、「かなり整備しないと、室内浸透が厳しくなると感じている」(同)という。

 楽天モバイルのエリアも徐々に広がっていくため、ローミング料の支払いは「当初の予定よりかなり抑えられる」(三木谷氏)というが、従量制である以上、“容量無制限”などの大胆な料金プランを打ち出しづらい。一方で、auローミングを別建てにしてしまうと、魅力は半減してしまう。3GBで1500円程度であればauローミングを含んだ形の料金にはできそうだが、既存のMVNOと大きな差がなく、インパクトは弱くなる。

 極端な言い方かもしれないが、auのネットワークに頼っているうちは、KDDIに料金設定権の一部を握られているようなものだ。そんな楽天モバイルの懐事情を踏まえると、高橋氏が「むちゃくちゃな料金で参入してくるとは思っていなかった」と語るのも納得できる。楽天モバイルが自社のネットワーク整備を急がなければならない理由の一端も、ここにある。

●MVNOからのMNOへのマイグレーションも必要に? 他社回線はいつまで使えるのか

 楽天モバイルはMVNOも展開しているが、このユーザーを自社回線にどう巻き取っていくのかも、今後の課題になりそうだ。MVNOとしての楽天モバイルは、ドコモとauの2社からネットワークを借りているが、大半はドコモ回線。そのドコモは、MVNOを継続する楽天モバイルに対し、警戒心をのぞかせる。吉澤氏は「楽天モバイルのMVNOについては、どういう方向でいくのか、話し合いを進めていきたい」としながら、原理原則を次のように語る。

 「楽天モバイルはサービスを開始したが、(携帯電話のサービスは)周波数という資源を配分され、それを使って自分たちでやるとういこと。周波数は有効に使って、お客さまを収容していくべきだ。MVNO側に収容し、周波数を有効利用しないでいるのはいかがなものかと思う。ある時期には、MVNOを解消すべきだと思っている」

 三木谷氏は「MVNOについては法律の範囲内でバランスよくやっていきたいが、順次MNOの方にシフトできればいいと思っている」と言うが、ネットワークがドコモに見劣りしていたり、料金的にMVNOとMNOの差が出せなかったりしたら、ユーザーがあえて移る動機はなくなってしまう。仮に強制移行のような事態になれば、200万を超えるユーザーが他社に流出してしまう恐れもある。

 現行のルールでは、ドコモがMVNOからの相互接続を打ち切るのは難しいものの、MNO本体がMVNOとして他社から回線を借り続けるのはやはり自然な形とはいえない。吉澤氏が語っていたように周波数の有効利用ができないだけでなく、情報漏えいの観点からも問題があるように見える。総務省を巻き込む形で、一定のルールは作るべきだろう。

 一方で、現状の競争環境は、ゼロから新規参入する楽天モバイルに対し、必ずしも条件が平等とはいえない。基地局数はもちろんのこと、保有する周波数の帯域にも大きな差がある。いくら楽天モバイルがエリア整備のペースを上げても、他社は7~9年前から4Gを展開しているため、ギャップを埋めるハードルは極めて高い。

 こうした事情をふまえると、総務省が安易に新規参入を許可していることには疑問符が付く。認可のハードルを上げる一方で、イコールフッティングが実現するよう、料金まで含めた形でローミングを義務付けたり、端末割引の上限を楽天モバイルだけ緩和したりと、新規参入事業者を優遇する措置を取ってもよかったのではないか。三木谷氏は「できるだけ早期に商用化したい」と語っていたが、まだまだ課題は山積みのように感じた。

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