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未来の物流に変革をもたらす3Dプリンタ最前線

ITmedia PC USER のロゴ ITmedia PC USER 2018/09/14 17:57
3Dプリンタ「Jet Fusion 3D 4200」 © ITmedia PC USER 3Dプリンタ「Jet Fusion 3D 4200」

 ここ10年余で、一般にも広く知られるようになった3Dプリンタ。ホビー用途での手軽な造形の他、メーカーにとっては組み立ての検証や機構の確認など、金型を製造する前の試作段階において、欠かせない存在となりつつある。

 まさに日進月歩の勢いで進化を続ける3Dプリンタだが、ここに来て物流工程にまで影響を与えるようになりつつあるのだという。「HP Jet Fusion 3D 4200 プリンティングソリューション」を展開する日本HPと、3Dプリンタの販売と試作サービス事業を展開するSOLIZE Productsに、3Dプリンタビジネスの最新状況を聞いた。

●進化を続ける3Dプリンタ

 3Dプリンタの進化は目覚ましい。表面は不均一で手触りはザラザラ、樹脂がはみ出て溶けたような造形しかできなかった一昔前とは異なり、現在の3Dプリンタは解像度は1200dpiクラス、積層ピッチは0.1mmを切るところまで精度が向上。3Dプリンタによる出力物を見慣れていない人であれば、金型を使った出力と比べてもほとんど見分けがつかないレベルで、部品の出力が可能になっている。

 造形速度についても、かつてのように時間がかかるイメージはもはや皆無だ。例えば、日本HPの「Jet Fusion 3D 4200」の場合、プリントヘッドを用いて面単位で造形することから、ノズルやレーザーにより点で造形する従来のFDM方式・SLS方式と比べ、最大10倍もの造形スピードを誇る。かつては二晩近くもかかって出力していたのが、いまや数時間あれば終了するレベルだ。

 素材についても日進月歩の勢いで進化が進んでいる。ナイロン樹脂が中心であることは現在も変わりはないが、最近ではアルミやチタンなど、金属の出力にも対応した3Dプリンタが普及しつつある。「このパーツがまさか」と思うような部品が、実は3Dプリンタで出力されたものだったりするのだ。

 3Dプリンタでの造形におけるネックだった異方性、つまり高さ方向と水平方向の機械特性が異なる問題についても改善が進んでおり、縦向きに出力したときと横向きに出力したときとで、ほぼ変わらない強度を実現できるようになりつつある。

●試作品のみならず最終製品の出力が可能に

 こうした進化の積み重ねによって可能になったのが、最終製品の出力だ。これまでの3Dプリンタといえば、品質や素材、さらには前述の異方性の問題などもあり、あくまでも試作品レベルの出力しかできなかったのが、いまやダイレクトに最終製品の出力が可能になりつつある。

 もちろん、量産という観点から見ると、何万個といったロットでは従来の金型の方がコストが安いため、あらゆる部品を3Dプリンタによる出力に置き換えられるわけではない。しかし、1ロットを何年もかけて使い切るといった具合に消費ペースが著しく遅く、生産頻度が低い部品の場合、在庫の保管費がかかるだけでなく、倉庫に長期間眠らせておくことで材質が劣化し、使い物にならなくなるケースもある。また金型の保管コストやメンテナンスの工数も、こうした部品の数が多ければ多いほど、メーカーにとっては大きな負担となる。

 こうした場合に、必要なときに小ロットですぐに出力でき、在庫は最小限に保ちつつ、金型の保管費やメンテナンスの工数が発生しない3Dプリンタは、TCOの削減という観点においても、メーカーにとってうってつけというわけだ。

 こうした3Dプリンタの特性を生かし、海外で導入が進んでいるのが、車のカスタマイズパーツだという。車の内装および外装のカスタマイズを行うためのパーツは車種ごとに異なる上、色や素材などの好みも顧客によって多種多様。全てのバリエーションについて在庫を保有しておくのは現実的ではない。金型も必要になるため、サービス向上を狙っていたずらにバリエーションを増やすと、メーカーの首を絞めることになりかねない。

 その点、3Dプリンタであれば、素材やカラーを顧客の要望に応じて自由に選べ、オーダーが入るたびに1点から出力できる。金型も不要であるためバリエーションを増やすのも容易で、納品までにかかる時間も、何週間、何カ月と待たせていた従来に比べて桁違いに短い。これらによって売上が向上するのはもちろんのこと、顧客満足度の向上も見込めるというわけだ。

 日本HPで3Dプリンティングビジネスを担当する秋山氏は「こうしたカスタマイズサービスは、お客さまの製品への愛着度をより高める、カスタマーエンゲージメントの一環として非常に有効です。そうした観点で、自分たちの製品に何かしらカスタマイズという付加価値を付けられないかという相談は、自動車メーカーはもちろん、家電メーカーなどからも多くいただいています」と語る。

 また、同じく自動車業界では、3Dプリンタを使った補給部品の出力サービスも、実用化が進みつつある。

 補給部品は強度の問題もあり、3Dプリンタで出力したパーツは長期間の利用を前提とした品質保証をクリアできないこともしばしばだが、短期間の利用に限定すれば、何ら支障がないことも多い。こうしたケースにおいて、本物のパーツと同じ形状を持った部品を3Dプリンタで出力し、本物のパーツが届くまでの一時的な代替として使用するわけである。また、シガーライターの灰皿やエアコンの噴き出し口のように、安全面で影響の少ない部品でも使われるケースは少なくない。

 SOLIZE Products代表取締役社長の後藤氏は、「例えば、トラックで営業されている方の場合、交換用の部品がなく車を走らせられないと、事業が完全にストップしてしまいます。そのため、いかに早く補給部品を用意してもらえるかがポイントになるわけですが、3Dプリンタがあれば、たとえ本物の部品がなくとも暫定でトラックを使えることができ、ダウンタイムを短縮できます。ヨーロッパではこうしたサービスが実際に起こりつつあります」と最新の事例を紹介する。

 こうした3Dプリンタの活用については、自動車業界のみならず、家電業界でも前向きに取り組んでいこうとする動きが見られる。部品の数が多く、個別に在庫を抱えておくのが現実的でないという点もまた、3Dプリンタによるオンデマンド出力向きだといえる。

 「日本の製造業の慣例では、補給部品は長期間保管しなければならず、またオーダーから48時間以内の納品が必須という業界もあるため、オーダーをもらってから生産に着手しては間に合わず、常に在庫を用意しておかなくてはいけないという結論になりがちです。その点、3Dプリンタでのオンデマンド生産であれば、これら保管費の大幅な削減が可能です。一般的にこうした補給部品は、3Dプリンタとの親和性が極めて高いといえます」(秋山氏)

●3Dプリンタが設計を変える

 3Dプリンタから最終製品を直接作るメリットとして、金型が不要になり、金型の保管費およびメンテナンスの費用が浮かせられることは述べた通りだが、金型による量産にはつきものだった制約がなくなる点も見逃せない。例えば、長期間使用していなかった金型につきものの、テストショットを繰り返すことによる材料ロスは、3Dプリンタでは発生しない。時間のロスも、それに伴って減ることになる。

 「射出成形品は、金型を持っておかなくてはいけませんし、さらに金型を磨いたり、肉盛りするといったメンテナンスのコストもかかってきます。これらが全部なくなり、デジタルのデータだけになるのが、1つの大きな削減ですね」(秋山氏)

 さらに面白いのが、金型や切削で作られていたパーツを3Dプリンタで置き換えることで、従来の工法では不可能だった設計の最適化が可能になることだ。金型を用いた量産では、流し込んだ樹脂がスムーズに行き渡るための勾配を設けるのが一般的だが、3Dプリンタではそうした制約がないため、必要な形状をそのまま作れる。

 「私たちの3Dプリンタをご検討されているお客さまで、実際にこういったパーツを作ってみてほしいと依頼されたデータを見ると、射出成形であれば型抜けのよい形、切削であればパスの数を少なくするなど、従来の設計手法に配慮した構造になっていることがよくあります。つまり、そのパーツで達成したいものが何か、ではなく、生産設計の考え方がデザインを左右してしまっているわけです。私たちの3Dプリンタは異方性も考慮する必要がないので、デザイナーさんやエンジニアさんが作りたいものを、そのまま描いてくださいとお願いしています」(秋山氏)

 これによって、従来は複数のパーツを組み合わせていた部品が1パーツとして出力できるようになり、結果としてパーツ単位での最適化にとどまらず、製品そのものの設計の最適化が図られるケースも出ているとのことだ。これらが次の製品の設計にフィードバックされれば、金型での量産を前提としたこれまでの製品とは異なる、アッと驚くような製品が、将来的に登場する可能性もある。

 「SOLIZEには3次元設計を行うエンジニアリング部門もありますので、今ある製品をそのまま3Dプリンティングするだけでなく、3Dプリンタならではの最適化設計のお手伝いもしています。軽量化だけでなく、複数部品の一体化などを積み重ねていくことで、次世代の製品の開発に役立つかもしれません」(乃村氏)

 この他、ロボットハンドの先端など、産業機械におけるワンオフの部品などでも、3Dプリンタで最適化された設計が取り入れられている。軽量化によってモーターへの負荷を抑える他、樹脂化によって対象物を傷つけるリスクを減らすなどの効果があるという。カスタマイズの義手義足やヘッドギアなどでも、3Dプリンタで設計を最適化した最終製品が、販売されている事例もあるそうだ。

●3Dプリンタが物流を変えていく

 そして、ここまで見てきたような3Dプリンタによる生産革命は、物流にも大きな影響を及ぼす。

 従来の物流と言えば、メーカーの工場から倉庫へ、倉庫からエンドユーザーへと、配送業者によって届けられていた。しかし、前述の自動車のカスタマイズパーツや、補給部品は、3Dプリンタを保有するサービスビューローから、直接エンドユーザーの元に届くことになる。メーカーの倉庫にいったん納品される場合も、メーカーの工場から倉庫へと、製品を輸送する流れは発生しなくなるのだ。

 さらに最近では、そうしたパーツのデータを、ユーザーに対するサービスの一環として、オンラインで配布するメーカーも出現しつつある。そうなると、メーカーを介することなく、ユーザーが最寄りのサービスビューローに発注を行い、出力されたパーツを現地に赴いて受け取ったり、または小口で配送してもらうことが可能になる。

 「補給部品が必要になったときに、お客さまが大阪にいて、サプライヤーが東京だった場合、これまでは東京から送っていましたが、大阪に3Dプリンタがあればその場で出力できるので、輸送費を大幅に削減できます。私たちのお客さまの中にも、設計はアメリカでやって、そのデータを東南アジアに飛ばし、現地でモノを作っているメーカーもいらっしゃいます」(秋山氏)

 海外の製品であっても、わざわざ現地から航空便や船便で送ってもらい、税関で長らく待たされることはない。オンラインでデータを受領し、それを最寄りのサービスビューローに持ち込めばいいだけだ。ユーザーが自ら所有する3Dプリンタを用い、自宅で出力するというケースも今後はより増えてくることだろう。

 一方のメーカーにとっては、工場から倉庫への輸送費が不要になり、コストの削減につながる他、輸送に伴う二酸化炭素排出量の削減など、その利点は多方面に及ぶ。

 「パーツや金型の保管費や物流費について、年間でどのくらいロスになっているかをしっかりと計算されている企業は、実はそれほど多くありません。こういうコストがかかってしまうものだと決め付けて、新製品の原価に振り分けてしまっているわけです。このため、財務効果を計算するときに、補給部品の管理、保管、物流で今どのくらいロスがあるのか、それを算出するところからお手伝いしています」(秋山氏)

 いまもなお進化を続ける3Dプリンタ。広範囲に及ぶその影響は、未来の物流にも大きな変革をもたらすことは間違いなさそうだ。

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