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AIとシンギュラリティは情報セキュリティに何をもたらすか

ITmedia エンタープライズ のロゴ ITmedia エンタープライズ 2017/02/16
AIとシンギュラリティは情報セキュリティに何をもたらすか: 勝負の世界でAIが著しく台頭してきている © ITmedia エンタープライズ 提供 勝負の世界でAIが著しく台頭してきている

 最近、ちまたでは「AI(人工知能))と「シンギュラリティ(技術的特異点)」が、時代の先端キーワードのとして急浮上しはじめた。実は筆者が主査(責任者)を務める日本セキュリティ・マネジメント学会の「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」で、2014年の7月と8月に、シンギュラリティがテーマの研究会を2回開催した。

 7月の研究会では、米国シンギュラリティ大学のエグゼクティブ・プログラムに参加された学会の理事で筆者の友人でもある佐々木健美氏が、8月の研究会では日本シンギュラリティ協会(旧科学技術特異点協会)の広口正之氏が講演された。筆者は仕事の関係で直接お聞きできなかったが、資料や佐々木氏との会話から、AIやシンギュラリティに関する知見の先進性に驚き、その後独学で知識を吸収した。

 実はAIについては、30年ほど前に「人工知能学会」の事務所にまで話を聞きにいったことがある。当時は情報処理学会の論文にもその手の内容が散見されるほどだったが、AIの限界は筆者の予想にはるかに及んでいないことが分かり、静観の構えでいた。改めて最近の動向を知り、「こんな急成長をしたのか!」と驚いている状況だ。

 こういう経緯からこれらのキーワードと筆者が住む「情報セキュリティ」の世界に、何か融合点があるのではないかと考えるようになった。現在は「サイバーセキュリティ月間」の中でセミナーを開催しているが、つい先日も大学生と思われる人から、このシンギュラリティとAIについて質問が来た。

 やや前置きが長くなったが、本題の結論を先に言うと「これらに夢のような期待をまだすべきではない」――である。その理由を紹介したい。

 少し前に、プロ棋士がカンニングの疑いで一時的に対戦ができないことがあった。その疑いは晴れたものの、疑われたカンニングの方法はAIソフトを使って次の手を教えてもらうという、ちょっと前までは考えられなかったものだ。AIが問題の可能性とここまで騒がれるようになったのは、ある意味でAI技術の成長ぶりを示す出来事だとも言える。

 筆者が話を聞いたあるプロ棋士は、プライドを賭けて「真剣勝負」をしているという。しかし定石とは全く異なる「AIに勝つための定石破り」が存在し、通常の棋士なら将来的にそういう「邪道?」を多々実践する可能性があるだろうと語っていた。

 人間なら「愚かな一手」と思うものも、AIはその一手を真剣に分析するはずである。その「愚かな一手」がしきい値を超えるほどのものだったら、AIは大きな計算違いを引き起こす可能性があり、そこに人間の付け入る隙があるという考えだ。その「AI専用の禁じ手」が10年後には評判になるかもしれない。

 基本的にAIは、人間が作ったプログラム通りにしか動けない。ただ、現在のAIがかつてと違うのは、人間が作った論理回路をベースにしているとはいえ、学習を多数実行し、いわゆる「定石」に加えて、圧倒的な量のパターンを生みだす点にある。将棋では、名人戦などように実際に人間と対戦したり、コンピュータ同士で超速度の対戦を行ったりすることで、シミュレーションのケースを学習していく。このようにしてナレッジベースを再構築したり、パターンテーブルを数兆通りも作り出したりすることが、論理的には可能だ。

 あるAI技術者によれば、AIの進化において「何手先を読むか」という論理設計もあるが、それよりも全体の論理を描画しながら、最もバランスの良い駒の手を考察することに取り組み。一部具現化しているという。それが具体的にどういうことなのか。筆者はあまり将棋に詳しくないが、多くの人にとってはそれが未知の領域に映るのだろう。

 AIの進化がもたらすシンギュラリティには、さまざまな定義があるが、「人間の脳がAIと融合するとき」「人間の脳のニューロン構成密度をしのいで知性や自我に目覚めるとき」といった状況を迎えるのが、2045年だとか、2035年にもその兆候が現れるなどと言われている。

 そうした中、情報セキュリティの狭い分野においてさえ、現在の暗号が一瞬で破られるといわれている「量子コンピュータ」の存在が無視できないものになっている。現状の認証方式も同じで、認証が役に立たないという状況もすぐそこに来ているという専門家もいるほどだ。こうした混沌とした状況は、今後どうやって進むのだろうか――。

 一部の学者は、AIによって現在の雇用や政治経済が劇的な崩壊を迎え、大きく変化すると予測している。AIが1つの人格を持つ人工物となった先に、もはや「愚かな一手」は通用しないだろう。筆者は、シンギュラリティの世界において、この人工物(AI)と自然物(人間)の境があいまいになるだろうと想定している。人工物の方が優秀なら、手も足も人工物に置き換わる時代が訪れるかもしれない。そう考えると、いまは人間の手や足に頼り切らざるを得ない情報セキュリティでも、「シンギュラリティ」としての技術的特異点が必然的に発生するだろう。その先にあるのは、人工物にまるごとセキュリティを“おまかせ”今とは異なる世界かもしれない。

 現在、こういう“地殻変動”の1つが金融界を中心に起こりつつある。だが当事者たち、特に地方の金融機関はこの現実に目を背けているところが多い。AIだけでなく、FinTechやIoT、ブロックチェーンなどのキーワードも具現化された“地殻変動”の後の世界を想像してみると面白いが、目前の融資案件だけを見ている多数の金融マンには見えないのかもしれない。しかし確実にこの“地殻変動”は進行し、2、3年後には大きく変わっているだろう。

 この“地殻変動”の延長に、シンギュラリティが鎮座しているのかもしれない。多くの人の予想を覆す全く別の世界が出現しているかもしれない。現在は、その変化の真っただ中にあるとても面白い状況だ。現在の情報セキュリティにおいては、サイバー攻撃や内部犯罪といった脅威に抜本的な対応を打てないでいるが、そんな状況もシンギュラリティ後の世界では激変しているかもしれない。現在のAIがすぐに期待できないものだとしても、その先にある未来を見据えることが、今なすべきことだと思う。

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