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Meituはなぜスマホ事業から撤退したのか? 中国の“セルフィー競争”を振り返る

ITmedia Mobile のロゴ ITmedia Mobile 2019/05/20 06:00
美・体形モードを搭載したMeitu T8。美顔以外でも差別化を図ろうとした © ITmedia Mobile 美・体形モードを搭載したMeitu T8。美顔以外でも差別化を図ろうとした

 インカメラを強化したスマートフォンとして中国で人気を誇ったMeitu(メイトゥ、美図)がスマートフォンの生産から完全撤退すると発表した。既に2018年11月にXiaomiとスマートフォン事業の戦略的パートナーシップを結び、今後MeituブランドのスマートフォンはXiaomiから登場する予定だ。しかし今やセルフィー機能だけでは他社との差別化は難しいほど中国のスマートフォンのカメラ機能は向上している。Meituの歩んだ道は中国スマートフォンのインカメラの歴史でもあるのだ。

●インカメラに全てをかけたMeituの歩み

 今から数年前のスマートフォンのインカメラはおまけ程度の存在で、ほとんど使われないビデオ通話のために存在するようなものだった。3Gが始まった2000年代初頭、1つのキラーサービスとしてビデオ通話は期待されていた。しかし相手が常にビデオに出られるかどうか分からない上に、ハンズフリー通話となるためヘッドセットを必要とし、さらには画質が悪いこともあって普及しなかったのだ。iPhoneのFaceTimeも当初は3G回線では使えずWi-Fiのみに対応していたことから分かるように、3G回線は「TV電話」するには容量が貧弱すぎた。

 その後、4G時代を迎えると「データ通信単価の引き下げ」「スマートフォンのディスプレイサイズの大型化」「SNSの普及」などが進み、スマートフォンで高画質な写真を送り合うことが当たり前になっていく。スマートフォンのカメラ画質が年々向上していったのは、撮影した写真を高速に送信でき、さらに大きい画面で美しく表示できるようになっていったからに他ならない。しかもメールではなくSNSの画面でアルバムのように見られるとなれば、写真を見ているだけでも楽しくなる。Instagram人気はその象徴といえる。

 とはいえ、スマートフォンのカメラ画質は背面側のアウトカメラの向上ばかりが進み、インカメラの画質は長い間進まなかった。ところがSNSが普及すると、写真はただのコンテンツからコミュニケーションのためのツールになっていく。今の自分の様子を写真で伝えるために、インカメラの利用者が急増。スマートフォンでセルフィーをすることが一般化していった。

 セルフィーがはやりだしたころはインカメラの画質が悪かったこともあり、撮影した写真を後から加工するアプリが次々に登場した。さらには自分を美しく見せることのできる美顔加工アプリも人気となっていった。中でも2008年にMeituが開発した「美図秀秀」は中国語圏で大きな人気となり、グローバル向けには「Beauty Plus」として登場、それ以降今でもMeituの美顔アプリは世界中で大きな人気となっている。

 Meituが美顔アプリを開発した目的は、CEOの呉欣鴻(ウ・シンホン)氏が女性の写真をより美しくするため、Photoshopを買わずに済ませるためだったという逸話がある。逆に言えば当時のスマートフォンでは女性が満足する自撮り写真を撮ることは難しかったのだ。こうして生まれた美図秀秀とBeauty Plusは毎年のようにユーザー数を増やしていくものの、ソフトウェアだけではなかなか利益を上げることは難しかった。

 2011年にXiaomiが低価格、高性能のスマートフォン「Mi 1」を発売すると、中国で爆発的な人気となった。Xiaomiはもともと他社のスマートフォンのAndroid OSを快適に動作させるカスタムROM「MIUI」を開発していた企業で、ハードウェアは一切手掛けていなかった。しかしスマートフォン製造のハードルが年々下がったことで、自社開発ROMを搭載した自社スマートフォンの開発に踏み切ったのだ。

 MeituもXiaomiに遅れること2年、2013年5月に自社の美顔アプリをカメラに標準搭載したスマートフォン「Meitu Kiss」で市場に参入した。最大の特徴は美顔機能をカメラに標準搭載したことだが、アウトカメラのみならずインカメラも800万画素と、当時としては大手メーカーに先駆けて高画質なセルフィーカメラを搭載したことだった。そのまま撮ってもiPhoneやGalaxyより美しく自撮りができ、しかも美顔機能でより美しい1枚に仕上げられる。Meituのスマートフォンはそれまでのスマートフォンでは全くできなかった機能を搭載してきたのである。

 2014年発売となる2世代目の「Meitu 2」では早くも前後1300万画素カメラを実現。セルフィースマートフォンとしての知名度を徐々に高めていく。このモデルからは本体上下に角を付けた六角形のデザインとしたが、これは当時中国で人気だったカシオのセルフィーカメラ「TR」の影響を受けていたことは間違いない。そしてMeituは毎年のようにセルフィー機能を強化したスマートフォンを投入していく。本体カラーはホワイトやピンクで、ターゲットユーザーは女性だった。

 実は中国では他にも女性をターゲットにしたスマートフォンメーカーが幾つか存在していた。Meituと直接競合する「女子スマホメーカー」としてはDoovやSugarもあった。しかしMeituがセルフィー機能に完全特化し、大手メーカーの隙間を縫うようにして着々とユーザー数を伸ばしていったのに対し、DoovやSugarは本体デザインやUI(ユーザーインタフェース)、機能などでも差別化を図っていった結果、大手メーカーに太刀打ちできずに中途半端な製品ばかりを出す存在になってしまった。どちらのメーカーも今では生き残っているが、製品数はわずかしかなく市場での存在感は全くない。

 Meituの美顔機能は他メーカーのスマートフォンでは全く太刀打ちできないレベルであった。iPhoneで撮影したセルフィーをMeituのBeauty Plusを使って加工すれば近いレベルまで引き上げることはできたが、もともと画質が高いインカメラを使うMeituのスマートフォンのセルフィーには遠く及ばない。Meituのスマートフォン事業が市場参入直後から順調だったのは、この他社にはない圧倒的に差別化された機能を搭載していたからである。

●ライバルとの差が縮まり、セルフィーだけでは勝負できなくなった

 しかし他社スマートフォンの美顔機能も年々性能を高めていった。美顔機能と聞くと目を大きくしたり皮膚を白くしたりするだけ、と思っている人もいるだろう。Meituの美顔機能は初期のからそのような前世代的なものではなく、皮膚の質感を保ったまま美白効果を与えるなど仕上がりは自然なものだったのだ。しかしライバルメーカー、特にOPPOやVivoが美顔機能でMeituを追いかけ始めた。そしてHuaweiがセルフィーを意識したライン「Nova」を2016年に発表すると、中国メーカー同士の美顔機能の競い合いはピークを迎える。

 OPPOはMeituがスマートフォン市場に参入した2013年に、カメラが前後に回転する「N1」を発売した。背面の1300万画素カメラを前面側に回転させることで、高画質なインカメラとしても使えるモデルだ。しかも回転角度は206度。これはN1本体を手に持ったとき、カメラを前に回転させるとちょうど自分の顔が正面に写る角度なのだ。このようにOPPOも古くからセルフィー機能には注目をしており、その後は「R」シリーズとしてセルフィー機能を強化した端末を投入していった。

 OPPOのライバルであるVivoもセルフィー強化端末を開発し、中国のセルフィーフォン事情は「Meituがダントツにトップ、その2、3歩後をOPPOとVivoが追いかける」という状況が2014、2015年ごろの状況だった。ところがHuaweiが翌年セルフィー市場に参入したことで、美顔機能はこの3社だけが強みを発揮できるものではなくなってしまったのだ。

 Meituは2017年に発表した「V6」でインカメラでもボケを効かせたセルフィー機能をアピール、2018年の「T8」では顔だけではなく全身をスリムに見せる美体形モードを搭載した。しかしこれらの機能はもはやMeituのスマートフォンが「顔」の美しさだけでは差別化できない製品になってしまったということを物語ってしまった。またMeituは海外展開も考えていたが、国ごとに求められる「美顔」機能は異なる。ソフトウェアレベルならば各国のプロファイルを用意できるだろうが、スマートフォンで国別に特化した美顔機能を搭載するのは難しかったのだろう。

 気が付けば今やほとんどのスマートフォンに美顔機能は搭載されるようになっている。今でもMeituの美顔機能が最も美しい効果を得られることは間違いないだろうが、そこまでの機能を求めない消費者も多いだろう。さらに最近はインカメラの性能もより高まっており、ボケを効かせた「ポートレートモード」にも人気が集まっている。「自分の顔を美しくする」だけではなく「美しい景色に浮かび上がった自分の顔写真」もスマートフォンのインカメラには求められているのだ。

 Meituが2019年1月に発売した「V7」は、プロセッサにシリーズ初のハイスペック品、Snapdragon 845を搭載。インカメラは2000万画素+1200万画素+800万画素のトリプル、アウトカメラは1200万画素+800万画素のデュアルで、アウトカメラより高性能というMeituらしい仕様になっている。そしてVシリーズの製品の特徴である、本革張りの高級感あふれる本体仕上げも継続されている。Meitu最後のモデルにふさわしく、同社の技術力を全てつぎ込んだ製品となった。

 今後XiaomiからMeituブランドのスマートフォンが投入されるとしても、Xiaomiの幅広い製品ラインアップとの調整を考えると、ミッドレンジクラスのモデルとして出てくる可能性が高い。また美顔を含むインカメラ機能は、Xiaomiのメインラインの製品にも搭載されるはずだ。そうなるとXiaomiの全スマートフォンにおける、Meituブランドの製品の位置付けはあいまいなものになってしまう。

 Xiaomiはゲーミングスマートフォンを開発するBlackSharkに出資し、同社のスマートフォンを自社で販売している。一方では低価格ラインの「RedMi」を分社化することも発表している。セルフィー機能だけでは差別化が難しく、「女子スマホ」という分野でDoovが失敗しているだけに、今後MeituのスマートフォンがXiaomiからどのような形態で出てくるのか気になるところだ。

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