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「北朝鮮3つの切り札」が鍵を握る半島有事恐怖のシナリオ

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/04/17 牧野愛博
「北朝鮮3つの切り札」が鍵を握る半島有事恐怖のシナリオ: 写真:「労働新聞」ホームページより © diamond 写真:「労働新聞」ホームページより

米原子力空母カールビンソンと、空母を中心とした打撃群が朝鮮半島近海に間もなく姿を現す。豪州に向かう予定を変更しての行動。誘導ミサイル駆逐艦ステレットを含む水上戦闘群も合流するとされる。米韓関係筋によれば、北朝鮮が6回目の核実験や大陸間弾道弾(ICBM)の発射に踏み切れば、「施設への攻撃」も検討されているという。朝鮮半島は事実上の“臨戦態勢”に入ったといえる。(朝日新聞ソウル支局長 牧野愛博)

米軍、北施設への攻撃も検討金正恩委員長は「対話」模索のポーズ

 米空母派遣が何を意味するのか。米軍が4月6日にシリアの航空基地に対してトマホーク巡航ミサイル59発を撃ち込んだような事態が起きるのか。

 複数の日米韓政府関係者は「2つの警告」を意味すると証言する。1つは「北朝鮮問題を傍観することは許さない」という中国への警告、もう1つは「ここまでやって、なお核実験をしたら、ただでは済まさない」という北朝鮮への警告だ。

 米韓関係筋によれば、空母は5月中旬まで日本海周辺にとどまる見通しだ。北朝鮮が25日に軍創建85周年の行事を控えているほか、4月末まで米韓合同軍事演習が行われている。5月9日には韓国大統領選が投開票される。空母と打撃群は、この不安定な期間限定の「抑え」として投入されたのだという。

 仮にカールビンソンを中心とした部隊が北朝鮮への攻撃を想定しているのであれば、全面戦争に備えた動きがなければならない。北朝鮮が反撃するかどうかはわからないが、最悪の事態に備えるのが、軍の常識だ。少なくとも4月15日現在、在日米軍や在韓米軍に対して大幅な兵力の移動や非常呼集はかかっていないし、日韓両政府への協議の申し入れもない。16日に北朝鮮が東北部の新浦(シンポ)付近から弾道ミサイル1発を発射しようとして失敗したが、米軍に動きはなかった。

 では北朝鮮が米国の警告を無視し、6回目の核実験や大陸間弾道弾(ICBM)の発射に踏み切ったらどうするのか。トランプ米大統領らは繰り返し、「すべての選択肢がテーブルの上にある」と語っている。米韓関係筋の1人はこう語る。「都市攻撃ということはないが、facility(施設)への攻撃は検討されている」

 北朝鮮側はどうか。金正恩委員長は11日の最高人民会議に出席したのに続き、13日には外国メディアも集まった平壌・黎明通りの竣工式典に、そして15日の軍事パレードでは詰めかけた平壌市民ら群衆の前に姿を現した。一見無防備にも見えるこの姿勢は、「対話」を模索するためのポーズとみられる。となれば、朝鮮半島の危機は、当面、避けられる見通しが高いと考えられる。

 だが、正恩氏の基本政策は、経済改革と核保有を同時に進める「並進路線」であり、北朝鮮市民は「核保有なしには生き延びられない」と徹底的に教育されている。駐英公使を務め、韓国に亡命した太永浩氏が語っているように、正恩氏は決して核を放棄しないだろう。

 今回、危機を脱して対話が始まっても、どこかで必ず行き詰まる時が来る。では、そのとき、日米韓は力ずくで北朝鮮を屈服させることができるのか。

全面戦争を避けるはずが北が「全滅覚悟」で打って出る恐れも

 米国はある程度、北朝鮮の核関連施設の位置を把握しているとされる。2010年11月に米国のヘッカー博士が寧辺(ニョンビョン)にあるウラン濃縮施設を訪れたとき、米国は西位里(ソウイリ)や亀城(クソン)近辺の、少なくとも別に2ヵ所のウラン濃縮施設があることをつかんでいた。

 また、米韓両軍は戦時にたたくべき、北朝鮮の舞水端里(ムスダンニ)や東倉里(トンチャンニ)にあるミサイル発射場や新浦の潜水艦基地など、約500ヵ所に及ぶ軍事拠点の座標軸を巡航ミサイルなどにインプットしているという。トマホーク巡航ミサイルのほか、米軍の誇るB2爆撃機やF22ラプター、F35などのステルス機を使えば、いくら高性能レーダーや高射砲などでハリネズミのように武装した北朝鮮とて、相当な被害は免れない。

 ただ、それで北朝鮮を本当に沈黙させることができるかといえば、答えはノーだ。北朝鮮は、朝鮮戦争を教訓に、全土を細かく区分けし、それぞれに通信や食糧、医療、戦闘など最低限の機能を持たせ、国土が寸断されても独自に抗戦できるようなシステムを作り上げている。

 別の米韓関係筋によれば、米国は1990年代の第1次朝鮮半島核危機の際に寧辺核施設への限定爆撃を検討したが、その際に北朝鮮の反撃を封じるために叩くべき攻撃目標が計2000ヵ所にも及んだという。

 北朝鮮もできる限り、全面戦争は避けようとするだろう。平壌に住む特権階級の人々は、北朝鮮が存在してこそ自分たちの特権が維持できるという現実をわかっている。米国が先に手を出しても、国家としてのメンツを保つのに必要最低限の反撃にとどめようとするだろう。しかし、米国がそれに反撃し、果てしなくエスカレートしていけば、北朝鮮も最後は全滅覚悟で戦争に踏み切る可能性がないとは言えない。

米韓が恐れる「3つの切り札」3年後、50個の核爆弾保有の可能性

 その場合、米韓両軍が恐れる北朝鮮の「3つの切り札」がある。核や生物化学兵器という「大量破壊兵器(WMD)」、韓国全土や、もしかしたら日本の一部をも混乱に陥れるであろう20万人に及ぶ「特殊部隊」、そしてソウルなど韓国各都市を火の海にする「長距離砲」の3つだ。

 WMDだが、韓国国防省が17年1月に発表した国防白書(2016年版)によれば、北朝鮮は兵器用プルトニウムを50キロ以上保有している。北朝鮮の技術力があれば、プルトニウム4~6キロで核兵器1個を製造できるとみられる。

 ヘッカー博士によれば、北朝鮮は年間約80キロの高濃縮ウランを製造する能力があるとみられる。博士は、北朝鮮が2020年までに計50個の核爆弾を保有する可能性を指摘している。VXガスによる金正男氏殺害で有名になった化学兵器も約25種類、計2500~5000トンを保有。ミサイルの弾頭にするほか、野砲や航空機を使った攻撃もできる。

 また、1000発以上の弾道ミサイルを保有。うち85%が主に韓国を攻撃する短距離のスカッドだが、約200発を保有するノドン(射程1300キロ)は日本と在日米軍を、約40発を保有するムスダン(射程3000キロ以上)は米領グアムを攻撃する兵器とされる。

 韓国は、北朝鮮による攻撃の兆候が出たときに先制攻撃する作戦「キルチェーン」と韓国独自のミサイル防衛(MD)システム「KAMD」で対抗しようとしているが、完成は早くても20年代初めとされる。

 米韓は、高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD」を今年前半にも韓国に配備し、日米のイージス艦搭載の弾道ミサイルを迎撃するミサイル「SM3」や低高度で迎撃する地対空パトリオット誘導弾などで対抗するが、あくまでも「相互確証破壊理論」に基づいた抑止力用兵器であり、北朝鮮の全ミサイルを撃ち落とせるわけではない。北朝鮮のWMDを弾頭にした弾道ミサイルが1発でも命中すれば、甚大な被害が出ることは避けられない。

北の特殊部隊が日本に侵入も南北境界線に数百門の長距離砲

 また、朝鮮中央通信は4月13日、正恩氏が北朝鮮軍の特殊作戦部隊を現地指導したと伝えた。

 北朝鮮軍は20万人の特殊部隊を保有する。

 1996年に韓国東部・江陵(カンヌン)で座礁した北朝鮮潜水艦から上陸した工作員3人は、道のない山中を時速10キロで移動。交戦した韓国軍兵士の頭部と胸部を正確に撃ち抜いた。射殺された工作員のポケットからは、逃走中に確認した韓国の発電所やダムなどの施設の位置が正確に記されたメモが発見された。49日間にわたる戦闘で、投入された韓国軍は延べ150万人。当時の指揮官は「韓国軍の一般兵士では全く歯が立たない」と語る。

 軍事関係筋によれば、北朝鮮軍特殊部隊は、米海軍精鋭特殊部隊シールズと同じように、7~8人の少人数で1戦闘単位を構成。有事となれば、AN2軽飛行機やホーバークラフト、潜水艦、特殊工作船などで韓国や日本に侵入する。

 それぞれの戦闘小隊は平時には、日韓の特定の施設、たとえば「官庁」「放送局」「駅」など、市民生活を混乱に陥れる重要なソフトターゲットを一つずつ割り当てられ、全く同じ模型を相手に連日、襲撃・制圧する訓練を続けているという。同筋は「狭くて暗い場所での戦闘能力などに優れ、1人で一般の兵士5~6人に相当する力がある」と語る。

 そして3番目の切り札が、かつて北朝鮮が「ソウルを火の海にできる」と豪語した長距離砲だ。北朝鮮軍は射程20キロ程度の小口径砲から、ソウルを射程に収める240ミリ、米軍基地があるソウル南方の京畿道(キョンギド)平沢(ピョンテク)まで届く300ミリなど、多彩な長距離砲を全部で1000門程度保有しているとされる。

 うち、南北軍事境界線沿いにソウルなどをにらむ砲門が300~500門展開している。米韓両軍は長距離砲での攻撃の兆候が出た瞬間から航空機による攻撃などで制圧する作戦だが、北朝鮮軍は長距離砲を山脈沿いにくりぬいた坑道に隠し、複数の出口を使って攻撃するとみられている。

 韓国・慶南大学の金東葉博士によれば、航空攻撃で、50%の砲門を破壊した場合でも、1時間で3000発以上がソウルに降り注ぐ計算になる。その場合、ソウルの5~7%程度が破壊されることになる。

 たかが5~7%と言っても、高層ビルや発電所などが破壊されれば被害は大きくなる。特殊部隊と組み合わせた攻撃が起きた場合、市民は簡単には避難できなくなるだろう。

 韓国には在留邦人だけで約4万人が住んでいるし、地理に不慣れな旅行客もいる。攻撃が始まれば外に出ることすら難しくなるだろう。日本政府は有事の際、米軍の支援を仰ぐ考えだが、米軍が日本人一人ひとりを救出に来てくれるわけではない。

 米軍の集結ポイントまでたどり着く必要があるが、それには自衛隊などの救援が必要になる。日本政府は現在、救援活動に必要になる、空港や道路の使用情報、韓国軍の展開計画などの情報共有を求めているが、韓国側は「一般の不安をあおる」として、協議を拒んでいる。

「生き残り」を目指すが核は放棄せず北との対話の余地は少ない

 金正恩政権の最大の目標は「政権の生き残り」であり、自滅につながる米軍との戦闘は徹底して避ける戦略を持っている。北朝鮮が繰り返し、米韓合同演習の中止を求めているのも、その戦略の一環だ。

 だが、トランプ政権が「核を持った北朝鮮」を絶対に認めなければ、最後には自滅も覚悟して、戦闘に至る可能性は捨てきれない。

 訪韓中のペンス米副大統領は17日午後、核・ミサイル開発や軍事挑発を続ける北朝鮮について言及し、「シリアやアフガニスタンでの行動を通じ、(トランプ)新大統領の力を見せた。北朝鮮は大統領の決意やこの地域の米軍の力をテストしない方がよい」と警告した。

 これから、金正恩政権とトランプ政権は、「北朝鮮の核」を巡って、硬軟取り混ぜた丁々発止のやりとりを繰り広げるだろう。そして徐々に対話の余地は狭まっていき、最後は衝突しか出口が残されていない事態に至っていくのかもしれない。

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