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やはりトランプは強運の持ち主かもしれない ハリウッドスキャンダルを「深読み」してみた

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/10/20 湯浅 卓
トランプ大統領に追い風が吹き始めた?(写真:ロイター/Joshua Roberts) © 東洋経済オンライン トランプ大統領に追い風が吹き始めた?(写真:ロイター/Joshua Roberts)

 ハリウッドの大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏のセクハラ疑惑が全米で大きなニュースになっている。ハリウッドといえば、美男美女が集まる白人至上主義者の“聖地”であり、これまで筆者が指摘してきたように、ドナルド・トランプ米大統領を徹底的に批判する、ハリウッドメディアを地盤とする全米メディアの影の支配者でもある。

 そのハリウッドを中心に、過去30年以上にわたって、女性たちの人権をないがしろにするセクハラ行為を続けてきたワインスタイン氏のスキャンダルを暴露したのは、ハリウッドがある西海岸のメディアではなく、東海岸のニューヨーク・タイムズ紙(10月5日付)だった。

映画芸術科学アカデミーから追放

 同紙のスクープが報じられて以来、これまで見て見ぬふりを決め込んできたハリウッドの欺瞞が次々に暴かれ、「アカデミー賞荒らし」「オスカー荒らし」と畏怖されてきたワインスタイン氏は、ついにアカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーから追放された。

 ワインスタイン氏自身は、不同意の性行為を全面否定しているが、ハリウッドでは、同氏のセクハラ行為を「公然の秘密」だったという意見が圧倒的である。

 このハリウッドスキャンダルを契機に、トランプ大統領には思わぬ神風が吹き始めたと筆者は分析している。ざっと3つの神風が吹いている。1つは、ハリウッドスキャンダルをFBI(連邦捜査局)が捜査に乗り出そうとしていること。2つは、ハリウッドスキャンダルを暴いたニューヨーク・タイムズ紙が、北朝鮮をめぐるトランプ大統領と共和党上院外交委員長との感情的対立を報じたこと。3つは、ハリウッドスキャンダルがトランプ氏の政敵中の政敵に飛び火したことだ。

 1つ目のFBIの捜査は何を意味するのか。今回のセクハラ疑惑、性的犯罪疑惑をすっぱ抜いたのはニューヨーク・タイムズ紙であり、ニューヨーク市警は独自の判断で、ワインスタイン氏をめぐる刑事事案を立件しようした。しかし、これまでのところ実現していない。

 ところが、国際的にも被害者がいることが英メディアで報じられ、ロンドン警視庁(スコットランドヤード)が動き出したと速報した。米最新報道では、ワインスタイン事件は5件の被害者の告発があるようだ。

FBIのクリストファー・レイ長官とは?

 外国の捜査当局が動き出すことになれば、それだけで国境を超えた事案ということになり、米国ではFBIが出動することになる。慣習法の国である米国においては、刑事事案として証拠がなくとも、その事案がメディアに報じられれば、FBIは捜査を開始してもよいということになっている。

 FBIが捜査に乗り出すことになれば、当然、クリストファー・レイ新長官の出番ということになる。トランプ大統領が指名したFBI新長官のレイ氏については、辣腕、腕利きの法律家として定評がある。

 この5月にトランプ大統領に解任されたジェームズ・コミー前FBI長官、その先輩で目下「ロシアゲート」疑惑を捜査中のロバート・ミュラー特別検察官と比べても、勝るとも劣らない実力の持ち主だ。

 そのレイ氏は、かつてニュージャージー州のクリス・クリスティ知事が窮地に立たされたとき、同知事を弁護して救ったことがある。クリスティ知事とトランプ氏とは無二の親友である。くしくもトランプ氏がレイ氏をFBI長官に指名したのも、トランプ氏一流の勘が働いたか、トランプ氏とレイ氏との間には、何らかの因縁とか、相性のよさがあるのかもしれない。

 このレイ氏とトランプ氏との間接的な近さについては、もちろん上院で厳しく審議されたが、結果的には、上院は圧倒的多数でレイ氏の長官就任を承認している。

 ともかく、ハリウッドスキャンダルにFBIが捜査に乗り出すということは、その捜査を通じて、これまで見て見ぬふりをしてきたハリウッドやメディア関係者の目を覚まさせ、捜査の広がりや掘り下げによって、メディア報道そのものがバージョンアップ、シェイプアップする可能性がある。

 というのは、ハリウッド業界でも、メディア界でも、関係者がFBIの尋問に対して、でたらめなことを言えば、その時点で連邦犯罪が成立するからだ。これまでの情緒的な「トランプたたき」一辺倒が、もっと骨太の論理的なものに修正されるかもしれない。

「第3次世界大戦への道」発言を批判した人物

 2つ目の北朝鮮をめぐる感情的な対立とは、上院外交委員長のボブ・コーカー共和党議員とトランプ大統領とのツイッターでのやり取りだ。それがきっかけになって、議会での感情的な戦争論に発展しかねないリスクがある。そのリスクを回避させるような反論が意外な人物から発せられた。

 コーカー議員は、来年の中間選挙には出馬しないと表明した。その前後にトランプ大統領との間で感情的ないさかいがあった。ハリウッドスキャンダルを暴いたニューヨーク・タイムズ紙は、10月9日、コーカー議員のインタビューを掲載した。

 そのインタビューのなかで、コーカー議員は「トランプ氏は大統領の仕事をリアリティショーのように進めている」と揶揄し、北朝鮮に対する分別のない威嚇は「第3次世界大戦への道に導くおそれがある」と警告した。この発言は、上院外交委員長としての発言であり、ただごとではない。

 この発言を批判して、コーカー議員はすぐ辞めるべきだと公言した論客はほかでもないスティーブン・バノン前首席戦略官・上級顧問だった。トランプ大統領に、事実上、更迭されたバノン氏は、つい最近行われた講演で、コーカー議員の「第3次世界大戦への道」発言は、極めて感情的であり、捨て置けないと論難したのだ。

 米議会や米メディアには、「プリベンティブウオー(予防的戦争)」という考え方がある。たとえ戦争になっても、それを米本土以外の日韓を含む極東や、アジアの一部地域だけの限定的な戦争にとどめるという考え方だ。ウォール街を含む東海岸と比べると、米ソ冷戦時代から核・ミサイルの脅威が実感として薄かった米西海岸が支配する多くの米メディアにも、いまだにその考え方が根強い。

 北朝鮮情勢の緊迫化という現実のなかで、コーカー議員の発言は、そのプリベンティブウオーの引き金になりかねない。バノン氏のコーカー議員発言に対する反論は、コーカー議員にとっては意外だろうが、米国社会の情動的な現状を極めて的確にとらえていて、米議会やメディアに冷静さを取り戻させるきっかけになりうる。バノン氏の感情に流されない論調には、トランプ大統領も同調しているのではないか。

ハリウッドスキャンダルはアマゾンに飛び火

 3つ目のトランプ氏の政敵中の政敵に飛び火したスキャンダルとは何か。アマゾン・ドット・コムの映画製作子会社のアマゾン・スタジオのトップ、ロイ・プライス氏が、セクハラ行為の疑いで休職扱いとなり、その後、辞職することになった。

 プライス氏処分の理由は2つある。1つは、プライス氏の女性プロデューサーに対するセクハラ行為、もう1つは、女優のローズ・マッゴーワン氏が、ハリウッドスキャンダルの張本人ワインスタイン氏による性的被害を訴えたにもかかわらず、プライス氏や親会社のトップに無視されたというのだ。

 親会社アマゾンの最高経営責任者(CEO)は、言わずと知れたジェフ・ベゾス氏だ。同氏は、世界一の大金持ちと報じられ、同時に、トランプ大統領に批判的な論調で鳴らすワシントンポスト紙のオーナーでもある。トランプ氏にとっては、政敵中の政敵といっていい。

 セクハラ、レイプなど性的被害について、米国のビジネス社会では、CEOは「オープン・ドア・ポリシー」(ドアをつねに開けておく政策)を貫くことが常識となっている。つまり、性的被害が起こったときには、即座に対応しなければならない。

 そのビジネス界の常識となっている、あるべき企業としてのコンプライアンスを、アマゾン・グループは十分に守らなかったのではないかということが、今後、議論される可能性が出てきた。これはトランプ氏の政敵中の政敵であるベゾス氏にとっては、大きな失点となる。

 大きな失点といえば、実は、バラク・オバマ前大統領やヒラリー・クリントン氏にとっても痛手は大きい。なにしろワインスタイン氏は、オバマ氏やヒラリー氏にとって、抜群に有力なスポンサー兼プロモーターであったからだ。

 今回のハリウッドスキャンダルは、トランプ氏にとって「最大のライバル」であるオバマ氏には将来的にも長引く可能性のある逆風となったが、トランプ氏にとっては追い風になったことは間違いない。

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