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ユナイテッド「乗客流血事件」が物語る航空業界の死角

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/04/13 鈴木貴博
ユナイテッド「乗客流血事件」が物語る航空業界の死角: ユナイテッド航空が降機を拒否した乗客を機内から引きずり出し、流血させた事件は、同社自身や株主に多大な損害を与えた。なぜこんなことが起きたのか(写真はイメージです) © diamond ユナイテッド航空が降機を拒否した乗客を機内から引きずり出し、流血させた事件は、同社自身や株主に多大な損害を与えた。なぜこんなことが起きたのか(写真はイメージです)

ユナイテッド航空「乗客流血事件」を招いた、信じがたい3つのミス

 今週、世界を一番騒がせたビジネス関連のニュースは、ユナイテッド航空の乗客が血まみれで機内から引きずりだされた事件だろう。この記事を書いている時点では、まだ情報は限られていて細部はわかっていない。一方で、航空業界のコンサルティングを多く経験した立場からニュース以上にわかる部分もある。今回はその「わかる部分」を解説しよう。

 この事件は3つのミスが重なって大事件になってしまった。結果はとにかくひどいものだった。

 シカゴ発ルイビル行きのユナイテッド航空3411便は、乗客を一旦機内に案内し満席になった後で、さらに4人の従業員を乗せなければいけないことが判明した。これが第一のミス。

 航空機で乗れる人数よりも多くの予約をとってしまうオーバーブッキングは頻繁に起きるが、通常は搭乗前に振り替えの処理をするので大きな騒ぎは起きない。乗客が乗り込んでしまった後の満席のフライトで、さらに4人の乗員を後から乗せなければならないことに気づいたというのは、明らかなオペレーションミスだ。

 第二のミスは、降りてもらう乗客を募集するにあたって通常の手続きを踏まなかったと言われていることだ。代わりの便に乗ってもらうために、通常は400ドルのクーポンから始めて、誰も応じなければ金額を上げて800ドル、その次は1350ドル(約15万円)まで補償金を上げて自主的に降りてくれる乗客を探す。ところが現場のマネジャーは、なぜか途中の段階までしか金額を上げず、申し出る乗客がいなかったため抽選で降りる客を決めるとアナウンスした。

 これは経験則だが、インセンティブを上限まで上げていれば、他の乗客が降りると申し出る可能性は十分あったと思う。逆に降りるのを拒否したのは、翌日に診療を控えていた医師だった。どのような勤務事情かは現時点ではわからないが、仮にその人が開業医で、月曜日の診察だけで2000ドルの仕事が予定されていたのであれば、飛行機を降りると損害の方が大きい。なぜ中途半端な補償金に止めて逸失利益の大きい人を降ろそうとしたのか。現場のマネジャーが通常の手順を踏んでいたとは思えない。

 そして第三のミスだが、話がつかなかったため、治安当局を呼び入れた際に不適格な担当者が混じっていたことだ。治安当局はユナイテッド航空の職員ではなく、空港の警察官である。シカゴは全米有数の犯罪都市であり、当局には手荒な担当官が少なくない。

 担当官はユナイテッド航空の株価などには関心がないので、黙々と乗客を排除しようとしたようだ。目撃者によれば、3人いた保安員のうちの2人は穏やかに対応をしていたが、残る1人の職員は最初からけんか腰で、暴力的に顧客を排除した結果注意を受け、現在は休職処分を受けている。

 こうして起きた惨事により、血まみれになって通路を引きずり出されていく乗客の映像は、瞬く間にSNSを通じて世界を駆け巡った。この段階で不祥事としてアウトなのだが、ユナイテッド航空のオスカー・ムニョスCEOが第四のミスを犯す。

 従業員宛てのメールで、「従業員は規定通りの対応をした」と伝えた上で乗客が抵抗したことで問題を増幅させたと書いたのだ。従業員宛てのメールはそのまま地元メディアの知るところとなり、このことも瞬く間に世界に向けて報道された。

15万円をしぶったために株主に与えた1100億円もの損失

 騒ぎはさらに大きくなり、全米の消費者が「ユナイテッド航空には乗りたくない」という反応を示し、ユナイテッドの株価は翌日最大で1100億円も下がった。これは株主が今回の事件で被った直接の被害額である。

 経験則で言えば、今回の被害者への賠償金も安くて数千万円、高ければ1億円前後はかかることになるだろう。売上の減少はおそらく数百億円以上の規模。株主から見れば、最初から15万円の補償金で降りてくれる人を探してくれていれば起きなかった大損害である。

 では、なぜこんなことが起きてしまうのか。これも「細部の情報はわからない段階での話」という断りをした上で、航空業界の状況からそれが起きてしまうメカニズムについて要点を挙げてみたい。

 まず現場サイドの問題だが、とにかく極限まで乗客を詰め込むことが航空産業の常態になっている。30年前なら航空機の搭乗率は70%が平均だったところが、現在はほぼどの便も満席で運行されている。

 これはITの進化の成果なのだが、ダイナミックプライシング(動的価格設定)という仕組みで、要するに空席が出ないようにインターネットなどで航空券の投げ売りをする仕組みが進化した結果、最後の席まできちんと埋まるようになってきたのだ。その予約数はキャンセル分を予めAIで予測して、空港で空席待ちをしている人たちを最後に詰め込むことで、最終的な辻褄を合わせている。

 このような実情があるから、搭乗ゲートでは昔と違い、常にオーバーブッキングをさばかなければいけない状況になっている。今回のような問題が起きる確率は、以前よりもずっと高まっているのだ。

ITの進化で飛行機は常にオーバーブッキング

 今回の報道の中で、抽選で降りる人を選んだにもかかわらず「降りる人が全員アジア人だった」ことが差別ではないかという指摘もあった。

 たぶん、この推測は少し実態とは違っている。抽選で降りる人を選ぶ場合、安い航空券を持っている人の中から選ぶのだ。航空券はファースト、ビジネス、エコノミーの3種類しかないと我々は思いがちだが、価格や利用条件の違いで(航空会社によって異なるが)、実は全部で23種類くらいの航空券がある。

 その中で降りる抽選に当たる確率が多いのは、安い航空券を買った人が中心になる。昔で言えば、このような場合、所得が低い層が選ばれることになった。そう考えると、黒人やヒスパニック、アジア人が選ばれる確率が高くなるのは当然だったのだが、最近は少し事情が違う。

 ネットやスマホの普及で、最近では富裕層も格安な航空券を発見して購入するようになってきた。だから今回のように、医師が抽選で当たってしまい、目的地に到着できなかった場合の逸失利益が大きすぎて、降機に抵抗するというような事態が起きる。安い航空券を持っていた人が電話で弁護士に連絡をとろうとするような事態は、航空会社がマニュアルをつくった際には想定していなかったのかもしれない。

 おそらく抽選でアジア人に差別があったのではなく、我々アジア人は、他のおっとりしたアメリカ市民よりも経済的な航空券を見つけるのが上手だという傾向があるからというのが、今回の事態の背景にあるのだと私は思う。

 さて、一歩引いてみると、会社のあらゆる現場では、以前よりもはるかに収益向上のプレッシャーが大きい。より少ない人数でより機械的に乗客をさばいていかないと、航空会社の経営は成り立たない。結果、現場のマネジャーに対する収益プレッシャーも、以前より強まっている。

 真相はこれから解明されていくと思われるが、ユナイテッド航空が乗客を4人下ろしてまで従業員4人をルイビルに送らなければならなかった背景には、おそらくオペレーションコスト上の理由があったはずだ。

 降りる乗客に対する補償金が少なかったのも、現場のマネジャーがそうしたかった何らかの理由があるに違いない。そして大概のケースでは、その理由は経営者や責任者が現場に利益を出すように求めた何らかの通達や指示が根拠になっている場合が多いはずだ。

CEOが従業員を向かざるを得ないユナイテッドの複雑な社内事情

 最後に、CEOはなぜ従業員の側を向いたメールを送ってしまったのか。ユナイテッド航空の取締役会では、昨年株主との間で内紛が起きている。現CEOはユナイテッドと合併したコンチネンタル航空出身だが、合併会社の中での微妙な政治的バランスの中で、リーダーシップをとるのに苦慮していることが推察される。

 中でも、旧ユナイテッド航空側の組織を経営するのは難しいはずだ。ユナイテッド航空は1990年代に経営破綻をして従業員が会社を買い取るという前例のない形での経営再建が行われた。この形態は2000年までに完了したのだが、その当時から経営が顧客ではなく従業員を向いていることの問題が指摘されていた。

 事件が起きた直後でまだ情報が少ない段階で、CEOが従業員に向けて、「従業員の皆さんが適切な対応をしていることを理解している」といった内容のメールを拙速に送るという状況を見るにつけ、CEOの地位が何らかのパワーバランスの中で従業員たちの支持を期待しなければ維持できない状況なのではないのかと、勘繰らせてしまう事件だった。

 今回のミスは、治安当局の暴力を除けば、すべてユナイテッド航空が「従業員ファースト」の企業であったがゆえに発生したミスだと私は考えている。その結果起きたことは、前代未聞の事件である。そしてそれが起きる背景には、業界常識的となっている複数の問題がからみ合っているものなのである。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)

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