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中国人の「スマホ依存」が極限まで進んでいる理由

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/05/11 中島 恵
中国人の「スマホ依存」が極限まで進んでいる理由: 中国の大都市では、スマホ決済が当たり前になっている Photo by Kei Nakajima © diamond 中国の大都市では、スマホ決済が当たり前になっている Photo by Kei Nakajima

中国社会は「スマホありき」が前提となり、大都市ではスマホによる決済が当たり前になっている。スマホがなければ、日常生活にも支障をきたすほどであり、買い物だけでなく、タクシーを捕まえることにも苦労を強いられるのが実情だ。スマホが使えない高齢者や出稼ぎ労働者との「スマホ格差」もますます広がりつつある。なぜ、中国で「スマホ依存」がここまで進んだのか、取材してみた。(ジャーナリスト 中島 恵)

中国の都市部はスマホ決算が当たり前

「現金?そういえば、もうすっかり持ち歩かなくなりましたね。確か、2月の春節のときに1000元(約1万6000円)下ろしたのですが、まだ財布に300元以上も残っていますよ(笑)。レストランでの食事代やコンビニでの買い物はスマホで決済していますので、もう現金は使わないんです。財布から小銭を出すのも面倒ですしね」

 4月下旬、久しぶりに上海を訪れたときのこと、友人の王さん(35歳)は涼しい顔でこう話してくれた。1年ほど前から中国の都市部では至るところで「スマホ決済」が当たり前になってきた。それは私も知っていたが、中国がここまで急速に発展し“脱・現金化社会”に突入するということは、日本人の日常生活からはとても想像できない。

 中国でスマホが爆発的に普及し始めたのは2013年末ごろからで、まだ3年ほどしか経っていない。1000元(約1万6000円)以下の低価格帯のスマホが出てきたことや、高速通信の4Gが使えるようになり、スマホ自体も大型化、魅力的なアプリも続々と出現した。日本のスマホにももちろんアプリはたくさんあるが、日本の場合「遊び」の部分が大きく、生活する上で必要不可欠、というほど重要なアプリは多くない。

 一方、中国のスマホのアプリは日常生活と切っても切り離せないものが多い。タクシー不足の北京や上海でタクシーを呼ぶアプリなどは必需品の一つだが、公共料金などさまざまな支払いも瞬時にできる。それだけではない。行列に並ばなくていい、銀行に行かなくていい、遠くまで買い物に行かなくてもいいなど、とにかく人口が多く、町が広く、店員等のサービス業従事者のレベルがまちまちの中国では、スマホで簡単に手続きが済ませられることは、日本人が想像する以上に便利で、楽で、ストレスの軽減になるのだ。

 中でも中国人が頻繁に活用しているのが、アリペイ、ウィーチャットペイなどの決済用のアプリだ。アリペイは中国の通販大手、アリババが行っている決済サービスで中国語名は支付宝(ジーフーバオ)という。ウィーチャットペイはインターネットサービス大手のテンセントが行っている決済サービスで中国語名は微信支付(ウェイシンジーフー)。16年のスマホ決済額は日本円にして約600兆円といわれるまでに膨らんだ。

 店によって両方とも決済が可能な場合、どちらか片方でしか決済できない場合などがあり、利用者側は両方のアプリを入れていることが多い。このほかにも決済ができるアプリはいくつかあり、町の新聞屋や軽食を売る屋台などでさえ、スマホ決済を導入するほどになった。

スマホがないと日常生活に支障をきたす

 ここまでくると、大都市ではもはやスマホ決済ができない店を探すことのほうが難しく、いざその便利さに慣れたら、もうスマホを手放せなくなってしまう。日本人ならば「別にそこまでしてスマホで支払わなくてもいいんじゃない?」と思うかもしれないが、それは私たちがスマホに頼らなくても普通に生活できる国、日本に住んでいるからだ。

 日本であれば、社会インフラが整っているだけでなく、どの小売店に行ってもきちんと現金のお釣り(小銭)が用意されていて、店員の質はほぼ一定、ニセ札を掴まされる心配もまずない。だが、中国はそれらが不便な環境だったからこそ、逆に飛躍的にスマホが発達し、ある面では日本を飛び越えてしまったといえる。

 また、中国人の間に、新しいものにすぐ飛びつく好奇心と、隣人がやっているものは自分もやりたいという意識が強いことも、短期間にここまで「スマホ依存度」を高めた要因の一つだろう。

 スマホがなければ、当然ながら便利なアプリも使用できず、とたんに日常生活に支障をきたす。最近ではビジネスで初対面のときでも名刺交換をせず、スマホのメッセージアプリ、微信(ウィーチャット)で“友だち”になることが慣習化されつつあるので、買い物の支払いだけでなく、家族や友だちとの約束、仕事関係者への業務連絡などもすべてスマホに集約されている。

 歩きながらでも電話やメッセージが送れるスマホはせっかちな中国人にうってつけのツールで、よくメッセージを打つよりもスピードが速い音声入力でしゃべりながら歩いている人を見かける。まるで何かに追い立てられて常に焦っているかのようだ。行政からのアンケートやお知らせなども微信を通じて送られてくるそうで、スマホ(とスマホアプリ)がなければ、もう世の中についていけない。

 その結果、寝ているとき以外はスマホが手放せないという「中毒症」の人が増え、大げさにいえば「命の次にスマホが大事、スマホと身体は一心同体」という状況まで生まれ始めている。

 私が中国人のスマホ依存症を最初に感じたのは14年初頭。北京と上海の地下鉄に乗っていたとき、車両を見渡す限り、ほぼ全員がスマホ画面を覗き込み、必死に画面を触っていたときの衝撃を「これまで見たことがなかった光景」として鮮明に覚えている。

 当時(14年)、人口14億人弱の中国で、スマホ人口は約5億5000万人だった。それからわずか2年半でスマホ人口は8~9億人にまで到達。今もそのスマホ依存症ともいえるほどの熱は冷めやらない。

 友人のキャリア女性、張さん(37歳)は、平日はあまりにも仕事が忙しすぎるため、週末は家から一歩も出かけないそうだが、週末の食事はすべて、出前アプリで注文した料理で済ませていると話していた。独身の彼女は「お見合いアプリ」を導入し、そこでの出会いも毎日チェックしている。

 お見合いアプリは生活必需アプリではないが、強いプレッシャーがかかる仕事の合間の“一服の清涼剤”として、彼女にとっては大事なものだ。微信は電話も掛けられるため、中国人は「いわゆる普通の携帯電話」はもうあまり使用しない。スマホは連絡手段、決済手段として必要不可欠なものに進化し続けている。

スマホを紛失した日は大騒ぎになる

 こんなふうにスマホに首ったけの中国人なので、スマホを紛失してしまった日には大騒ぎとなる。

 上海市郊外で会社を経営する男性、黄さん(56歳)の妻は今年初め、小売店で買い物をしていたとき、ふとレジ横に置いたスマホを一瞬で盗まれてしまい、大変な目に遭った。6000元(約10万円)の高級スマホだったが、大事なのは中に入っている個人情報だ。即座に銀行口座への引き落としをストップしただけでなく、あらゆる手続きのために丸2日を要して疲れ切ってしまったという。

 黄さんは「スマホは便利な反面、頼りすぎるとその数倍も大変なことがある」と苦笑するが、そんなひどい目に遭ってもなお、スマホは手放せない。周囲のすべての人間がスマホを使って仕事をしているため、スマホがないと人間関係を維持できない、他の人と同じ社会生活を営めないのだ。

 だが、スマホ依存症が増える半面、スマホが十分に使えない高齢者や農民工(出稼ぎ労働者)などにとっては、スマホの普及によってより格差が開き、不便な社会となってきていることもまた事実だ。60代以上でもスマホを持っている人が多いが、使い方がよくわからない。そのため、詐欺などのトラブルに巻き込まれるだけでなく、「スマホ上級者」から遅れを取ってしまい、不公平や疎外感を感じる。

 複雑な詐欺は数え上げたらきりがないが、身近な例でいえば、冒頭でも触れたタクシーがその一つだ。スマホにタクシーを呼ぶアプリをインストールしていない場合、町中でタクシーを捕まえるのは至難の業となっている。多くの人がアプリでタクシーを呼び、それが優先的に配車されてしまうからで、上海などでは流しのタクシーはほとんど捕まえられなくなってしまった。

中国社会は「スマホありき」が前提アプリは「公共サービス」にも拡大

 先日、私自身も、上海の道端でタクシーを捕まえるのに30分以上もかかってしまい、疲れ果てた。同じ路上で私のように困っている人を何人か見たが、すべて70代以上の老人だった。振り込み等も、自身で足を運ばなければならないなど時間がかかって非効率的だ。スマホがあるかないか、スマホがあっても役立つアプリを使いこなせるかどうかで生活の質は大きく異なり、5年前には中国に存在しなかった深刻な“スマホ格差”が生じている。独居老人なども増えている上海では、この先、スマホを巡る事件が社会問題となってくるのではないだろうか。

 中国の報道によると、今後、スマホ上のアプリは個人的に使う決済機能や予約・購入、ショッピングなどだけにとどまらず、教育、医療、行政機関、交通、保険などの分野でも従来以上にサービスが拡大されていく予定だという。

 望む、望まないにかかわらず、中国社会は「スマホありき」の前提で動き始めている。中国に住む限り、もはやスマホから逃れることはできない。そのことを私は今回の上海取材で思い知った。

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