古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

北朝鮮の新型SLBM、日本全土が核攻撃の標的に

JBpress のロゴ JBpress 2019/10/06 06:00 数多 久遠
10月2日、北朝鮮がSLBMを発射したことを報じるテレビニュースを見る韓国・ソウルの市民。(写真:AP/アフロ) © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 10月2日、北朝鮮がSLBMを発射したことを報じるテレビニュースを見る韓国・ソウルの市民。(写真:AP/アフロ)

(数多 久遠:小説家・軍事評論家、元幹部自衛官)

 10月2日、北朝鮮がSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を発射した模様です。SLBMは北朝鮮にとって、核兵器の投射手段として当面の最終開発目標と考えられており、北朝鮮は、これ(と核)さえ手に入れれば、アメリカを抑止し、攻撃されることを防ぐことができると考えていると思われます。

 このため、今回の発射は、日本ではそれほど大きく取り上げられていませんが、軍事・安全保障面では非常に大きな意味のあるものです。

 以下では、北朝鮮によるSLBM保有がどのような意味を持つのかを解説します。

報復核攻撃に用いられるSLBM

 冷戦時代、核のトライアド(3本柱)と呼ばれる主な核兵器の投射手段は次の3つでした。

(1)ICBM(大陸間弾道弾)

(2)SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)+弾道ミサイル搭載潜水艦

(3)戦略爆撃機

 ただし、核兵器保有国の中でも、このトライアドを完備しているのはアメリカくらいです。

 航空機での核攻撃には航空優勢が必要で、かつ多大なコストを要します。よって戦略爆撃機での核攻撃は戦闘爆撃機(長距離は飛べない)で一部代替したり、老朽・陳腐化した爆撃機による予備的手段とする国が多い状況です。このため、現代の核保有国の核兵器投射手段は、ICBMとSLBMが主なものとなっています。

 両者は、核戦略上、異なる特質を持っています。まずICBMは、陸上で運用することから管理が容易であるなどの点からコストが低く、数を揃えやすいため、核戦力の主力と言えます。しかし、車両などによる移動式であっても、通常は自国の国土内でしか運用できません。サイロで運用するものに至っては全く移動できないため、偵察衛星などにより敵に把握されやすく、発射前に破壊されてしまうリスクもあります。

 一方、SLBMはミサイル自体が複雑となるため高価です。運用する潜水艦もその運用コストを含めて非常にカネがかかりますので、費用面では負担の大きな兵器です。しかし、いったん出航してしまえば、潜水艦の存在を秘匿しやすく、敵からするとどこから撃ってくるのか分かりません。警戒が困難なため、防衛する側に負担を強いることができる兵器だと言えます。

 こうした特徴の違いから、ICBMは、先制攻撃や敵による先制攻撃を察知した際に即座に反撃するための1次的な投射手段として多くが運用されています。かたやSLBMは、敵の1次攻撃が終了した後に報復核攻撃を行い、抑止力を強化するための投射手段として整備されてきました。

SLBMはアメリカに対する最強の抑止力に

 ただし、冷戦時代のソ連は、アメリカのSLBMを報復用ではなく潜水艦の隠密性を利用した奇襲先制兵器と捉えていました。また、地上で秘匿運用されている移動式ICBMも報復核攻撃に用いられるため、現代ではその特質はあいまいになってきています。

 それでも、SLBMが、その隠密性・生残性の高さから、報復核攻撃用として優れた兵器であることは変わりません。

 そして、このことが、北朝鮮が執拗にSLBMを開発する理由です。北朝鮮によるSLBM開発の執念についてはここでは詳しく触れませんが、技術的・資金的ハードルが極めて高いにもかかわらず、北朝鮮はかなり以前から多大な労力を払ってSLBMとそのプラットフォームである潜水艦の開発を進めてきました。

 北朝鮮、もっと明確に言えば金正日や金正恩は、アメリカによる先制(核)攻撃を恐れてきました。ICBMを手に入れても、そのICBMも含めて先制攻撃で破壊される可能性があったのでは、抑止力として不十分です。ですが、アメリカが先制攻撃を行っても、SLBMを搭載した潜水艦がどこかに隠れているのであれば、SLBMによる反撃が行えます。つまり、北朝鮮のSLBMは、アメリカに対する最強の抑止力になる可能性があるのです。

沖縄を含む日本全土が射程に

 次に、韓国軍の発表、防衛省の発表の他、北朝鮮の労働新聞が写真入りで発表した情報を元に、今回発射された北極星3号SLBMの実力を考察してみます。

 防衛省は今回のミサイルについて、水平飛距離約450キロメートル、最高高度は約900キロメートルであったと発表しています。韓国軍の発表でも飛距離は同じで、最高高度は約910キロメートルというロフテッド弾道(高い角度で打ち上げて飛距離を抑える弾道)でした。もしもこのミサイルを射程が最大となる最小エネルギー弾道で発射すると、飛距離は2500キロメートルにも及ぶ可能性があります(防衛省発表)。

 今回発射されたミサイルは、北朝鮮発表では「北極星3号」となっています。2016年8月に発射された北極星1号SLBMと比較すると大幅な性能向上が図られていることになり、北朝鮮の沿岸から撃った場合、沖縄を含む日本全土が射程に入ります。

 しかし、この飛距離では、北朝鮮沿岸からアメリカ本土やグアムには到底到達できません。アメリカ本土を攻撃するためには、西岸のサンフランシスコなどが目標であったとしても、ハワイと米本土の中間付近まで進出する必要があります。静粛性に乏しい北朝鮮の潜水艦では、その位置まで到達するのは到底不可能でしょう。そのため、北朝鮮が最終目標とするSLBMによる対米抑止には不十分です。

 ただし、これは今回の発射が、このミサイルの最大性能での射撃テストであったことを前提としています。今回のテストが、意図的に性能を押さえられたものであれば、飛距離はもっと長い可能性があります。

極めて憂慮すべき存在、嘲笑するのは危険

 北極星3号の性能に関して、日本として1つ懸念されることがありました。それは、防衛省の当初発表では今回の発射が2発だったと報じられ、後に修正されたことです。

 北極星3号は、以前発射された北極星1号との比較や、北朝鮮が公開した画像から2段式のミサイルと見られています。

10月3日に北朝鮮の「労働新聞」に掲載された新型SLBMの写真 © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 10月3日に北朝鮮の「労働新聞」に掲載された新型SLBMの写真

 2016年に沖縄を飛び越えて発射されたミサイルは3段式でした。1段目は韓国西方の黄海上に、2段目はフィリピン東の太平洋上に落下し、3段目以降はさらに南方まで飛翔しています。こうした観測も行い、経験を積んだ防衛省・自衛隊が、なぜ2段式のミサイルを2発のミサイルだと誤認したのでしょうか。

 その理由としては、分離された2段目が点火しなかった、あるいは2段目に燃焼材が少ししか入れられなかったなどの理由で点火後にすぐ燃焼を停止したため、1段目と2段目が非常に近い経路を通って落下した可能性が考えられます。なお、弾頭部も分離しますが、防衛省・自衛隊が弾頭部の分離を2発のミサイルと誤認するとは思えません。

 なお、弾頭部も分離しますが、防衛省・自衛隊が弾頭部の分離を2発のミサイルと誤認するとは思えません。

 この推測が正しければ、2段目のロケットモーターが本来の性能を発揮した場合、飛距離は今回の発射よりも大幅に伸びる可能性があります。発射後、韓国軍が、慌ててGSOMIAに基づいた情報提供を依頼してきた理由も、2段目が本来の性能を発揮したのか否かを知りたかった可能性が考えられます。

 以上のことから、北極星3号を搭載した北朝鮮の潜水艦は、まだ米本土への直接脅威となる可能性は高くありませんが、極めて憂慮すべき存在であると言えます。

 ネット上では、最大飛距離が2500キロメートル程度に留まり、プラットフォームが静粛性に乏しい潜水艦であるため嘲笑する向きもありますが、これは危険です。防衛省・自衛隊は、レーダーの情報だけでなく、おそらく発射地点近傍で観測していた潜水艦が得た情報などを総合し、詳細な分析を進めているでしょう。

迎撃するための2つの条件

 冒頭で述べたように、北朝鮮SLBMの本来の最終的な目標が米本土であることは間違いありません。しかし、現段階のSLBMが、射程やプラットフォームである潜水艦の能力不足により米本土に対して使えない代物であれば、北朝鮮はこれを日本と在日米軍基地(あるいは韓国や在韓米軍)に対して使用する可能性を考えなければなりません。

 北極星3号は、今回の発射が最大性能のものだったとすれば、弾道ミサイルとしての能力はノドンミサイルと大差ありません。イージスSM-3とパトリオットPAC-3ミサイルで迎撃できるでしょう。

 ただし、これには2つの条件が付きます。

 1つは、北朝鮮潜水艦の位置を把握できており、弾道ミサイルを迎撃する準備ができていることです。

 詳しい説明は省きますが、弾道ミサイル警戒を行うレーダーは、あらかじめ方位を絞り集中監視を行う必要があります。(詳しい理由は、もう7年も前に書いたブログ記事ですが、こちらを参照して下さい「脅威の旧式ミサイルJL-1(巨浪1号)」)

 SLBMを搭載した潜水艦が出航し、その位置を自衛隊が把握できていない場合、アメリカの早期警戒衛星がSLBMを感知しても、弾道ミサイル警戒を行っているレーダーの設定変更が間に合わず、目標の発見が遅れた結果として、迎撃が間に合わなくなる可能性があります。

 もう1つの条件は、潜水艦が日本に近づき過ぎていないことです。

 接近されていた場合、弾道ミサイルを発見できたとしても迎撃が間に合わなくなる可能性が高くなります。また、今回の発射とは逆に、到達高度の低いディプレスト弾道で発射された場合には、弾道ミサイル迎撃の主力であるイージスSM-3での迎撃が不可能となるかもしれません。

 つまり、このSLBMが日本にとって脅威であるか否かは、ひとえに北朝鮮の潜水艦の動向を常に把握し続けられるかどうかにかかっていることになります。

 現状では、日米の対潜水艦作戦能力は、北朝鮮潜水艦の能力大きく凌駕しています。ただし、「能力的にできる」ことと「実際にできる」ことは同一ではありません。北朝鮮がSLBMを開発していたことも鑑みて、海上自衛隊は潜水艦の拡充や対潜戦能力の拡充を図っていますが、複数の北朝鮮潜水艦を常時監視するとなれば、自衛隊にも大きな負担がのしかかることは間違いありません。

 なお、こうした日本にとっての問題は、韓国と在韓米軍にとっても同じです。特に、韓国の場合、北朝鮮潜水艦が出航すると、警戒・ミサイル迎撃するための方位が、地上発射の弾道ミサイルからの方位から大きくズレてしまうため、問題はより深刻です。日本にある在韓米軍や自衛隊レーダーの情報で補完できるので問題はないという意見もありますが、レーダーによる目標捜索・追尾や迎撃ミサイルの運用は、それほど単純ではありません。また、韓国の場合、角度が大きく異なるため、ランチャーの設置方位も動かす必要が出るかもしれません。

なぜこのタイミングだったのか?

 最後に、なぜ今発射実験が行われたのかについて触れておきたいと思います。

 北朝鮮は、数カ月前より、イスカンデル類似ミサイル、放射砲と呼称するロケット弾、ATACMS類似ミサイルの発射を続けてきました。これらは最大射程で撃てば日本まで届くものが含まれていたものの、基本的には短射程のミサイルでした。

 しかし、今回のSLBMは、ロフテッド弾道での発射だったため450キロメートル程しか飛んでいませんが、本来の能力では2500キロメートルも飛翔するものでした。

 当然、北朝鮮は、国連決議違反などを理由として批判を受けることを予想していたでしょう。特に、停滞しているアメリカとの交渉が決裂し、軍事攻撃を受ける可能性さえ予想したに違いありません。にもかかわらず、北朝鮮は発射を強行しました。

 今のタイミングならアメリカは動けないことを読んでいたと思われます。

 サウジアラビアの石油施設に対する巡航ミサイルと大型ドローンによる攻撃にイランが関与している疑いから、アメリカとイランの関係は急速に悪化しています。軍事行動の可能性さえ噂される状況ですが、中東に加えて、極東でも軍事行動を行うほどの余力は、今のアメリカにありません。

 北朝鮮とイランは、ともにアメリカと敵対していることもあり、弾道ミサイル開発などで協力しています。今回のSLBM発射は、1週間ほど前にはアメリカの北朝鮮分析サイト「38ノース」が発射準備の兆候を報じていましたが、実際に準備を始めたのはもっと早かったはずです。北朝鮮は、9月14日に行われたサウジアラビアへの攻撃を事前に聞いており、この機を狙ってSLBMの発射を行ったとみるのが妥当だと思われます。

JBpressの関連リンク

image beaconimage beaconimage beacon