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北朝鮮の核開発はもう停止不能、本気で中国を動かす時が来た

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/03/16 武藤正敏

 

北朝鮮の核ミサイル開発を断念させるため、これまでは中国の主導による6者協議(日、米、中、ロに南北朝鮮)や、北朝鮮に対する経済制裁を行ってきた。

 しかし、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)は力に頼って国を統治している人である。人民がいかに苦しもうと、お互いを監視させ、反抗の兆しがあると厳しく取り締まってきた。金正恩体制の中核幹部でさえ、反抗すれば即時粛清され、処刑された。察するに金正恩は、弱みを見せれば、自分がやられると考える人なのだ。そのような指導者が対話で関係改善の道を開くであろうか?少しでも譲歩すれば、弱さの証明と映ると考えるのだろう。

 金正恩は今年の新年の辞で、「米国と追随勢力の核の脅威と恐喝が続く限り、戦争演習騒動をやめない限り、核戦力を中核とする自衛的な国防と先制攻撃能力を強化する」と述べている。北朝鮮の核は自衛ではなく、「先制攻撃」に使われかねない。

 それを端的に示したのが、VXによる金正男(キム・ジョンナム)の暗殺だった。3月8日付の寄稿「北朝鮮VX使用が示唆『北朝鮮は本気で核を使いかねない』」でも書いた通り、化学兵器禁止条約で使用、生産、保有が禁止されている猛毒のVXを平気で使ってきたように、もはや常識が通じる相手ではない。

 これまで、北朝鮮が核実験を行うたびに経済制裁を強化してきた。しかし、中国の非協力からその効果は限定的であった。

 昨年1月6日の核実験後、北朝鮮からの石炭、チタン、レアアースなどの鉱物資源の輸入を禁止し、北朝鮮に出入りする全貨物の検査などの措置をとった。しかし、石炭の輸入禁止も民生用は除外されているため、これが抜け穴となった。

 制裁が導入された当初の4月こそ中国の石炭輸入量は対前年度比19.3%減であったが、8月から増加に転じ、16年全体として12.5%増となった。特に11−12月には対前年同期で2倍を超えている。昨年9月の第5回核実験後、民生用除外をなくし、北朝鮮からの石炭輸出の上限を年間4億ドルもしくは750万トン以下に抑えることにした。

 今年2月18日、中国は「安保理決議が定めた輸入上限額に近づいたため」として、北朝鮮からの石炭輸入を19日から今年末まで禁止した。「これは国際的義務を履行したものだ」とも述べた。これは米国をはじめとする国際社会の目を意識したものであろう。

 しかし、前回と同様、時間の経過と共になし崩し的に反故にされないか見守っていく必要がある。中国の非協力が続く限り、制裁の効果は限定的である。

 さらに問題は、制裁が効果を上げるためには時間が必要であることだ。トランプ大統領は、大統領選挙の遊説中、核ミサイルの開発を断念させるために、「ハンバーガーを食べて対話する」と述べていた。しかし、23日のロイター通信とのインタービューでは「決してノーとは言わないが、遅すぎるかもしれない」「彼(金正恩)の行いにとても怒っている。率直に言えば、オバマ前政権が対処して置くべきであった」として戦

略的忍耐政策をとってきたオバマ政権を批判した。北朝鮮の核問題では時間を掛けるだけ状況は悪くなるとして、強硬路線に転じようとしている

非協力的だった中国をいかに矢面に立たせるか

 北朝鮮の核ミサイル開発がここまで進んだ大きな原因は中国の非協力である。北朝鮮との6者協議を主張して時間を無駄にし、北朝鮮に対する制裁破りをして北朝鮮に核ミサイル開発の資金を提供してきたのである。権力を一手に集中した習近平であれば、北朝鮮が対話で核・ミサイル開発をやめないことはわかるはずである。

 THAAD配備が必要となったのは、中国が時間を浪費させてきた結果であることを、肝に銘じてほしい。THAAD配備に反対であればその元凶を取り除く努力をしてほしい。

 北朝鮮の元駐英大使館の太永浩(テ・ヨンホ)氏は「仮に米朝交渉などを通じて、北朝鮮が核実験やミサイル発射を凍結する見返りに、軍事演習の中止や制裁解除、経済支援に応じれば、自ずと北朝鮮の核保有国認定につながり危険だ」、北朝鮮の核問題を解決するためには「政権を崩壊させる方法しかない」と述べている。

 太元公使が核施設などへの先制攻撃に言及しなかったのは、最初の一撃ですべてを破壊できるはずがなく、それが反撃を生み大変危険だからであろう。しかし、米国や韓国が政権の転覆をはかることも非常に危険である。だとすれば、まず中国をどう使うか、北朝鮮のエリートの中の不満分子をいかに手なずけるか、を考えるのが順当であろう。

 前述の太元公使は「中国が金正恩政権を崩壊させようとすれば2、3年もかからない。北朝鮮とあらゆる貿易を中止し、中朝国境を封鎖すればいい」。ただ、「中国にとって北朝鮮は緩衝地帯で、核を奪うより政権の安定の保証が一番の関心事だ」と述べている。

 中国が北朝鮮の経済制裁に真剣に協力していたならば、この問題は既に解決していたかもしれない。しかし今となっては、北朝鮮の核ミサイル開発は待ったなしの状況であり、2、3年は待てないのではないか。米国も北朝鮮の核ミサイル開発を放棄させるためには、すべての選択肢を用意する必要があるとの見方に傾いているようである。ティラーソン国務長官も21日、中国の楊潔〓(=竹かんむりの下に厂、虎)国務委員との電話会談で、中国に対しあらゆる手段を使って挑発を抑制するよう要請しているそうである。

 それに対して中国は、王毅外相が全人代の場で記者会見し、北朝鮮には挑発行為の停止を、米韓には軍事演習などの強硬策をやめるよう提案した。中国は北朝鮮の挑発行為によって、日米韓の結束が固まり、在韓米軍にTHAADが配備されるなど、外交的に極めて不都合な状況が生じており、北朝鮮の核ミサイル開発は思いとどまらせたいに決まっている。他方、日米韓の圧力で北朝鮮を崩壊させたくないのである。王毅外相は自分たちにとって都合のいいことを言っているに過ぎない。

 ただ、トランプ政権になって、このままではもたないとの雰囲気になっているように思える。中国は、「テロ支援国家」再指定の検討など米国の強い姿勢に裏打ちされた要請に答え、暴走を続ける北朝鮮の抑制に動き始めた。中国が北朝鮮からの石炭の輸入を年内いっぱい停止しことや、3月4日、訪中した北朝鮮の李吉聖外務次官に自制を要求したことなどはこれを反映したものであろう。

 しかし、これは始まりに過ぎない。中国をさらに動かし、北朝鮮政権の交代を促すためには、中国の緩衝地帯がなくなるとの懸念に、いかに答えるかが課題であろう。そのため、中国とより現実的な対話を行っていくべきときに来ているのではないか。ティラーソン国務長官の中国訪問はその手始めかもしれない。

 オバマ政権の頃、中国はこうした対話には乗ってこなかった。しかし、中国はトランプ政権の予想外の行動には一目置いているのである。2月27日、トランプ大統領が米国を訪問した楊国務委員と会談したのも米国の危機感を示したものではないか。

 また、北朝鮮政権を交代させるためには、内部からの手引きが必要である。それは米韓にできることではなく、中国の方が人脈もあるはずであり、誰が自分の身の危険を感じているかもわかっているはずである。その意味でも中国がキーパーソンである。

大統領を罷免している場合ではない韓国はもっと危機感を抱くべき

 こうした北朝鮮の状況にもかかわらず、韓国の危機感の欠如については2月20日付の寄稿「邪魔なら兄をも殺す国を隣に、韓国の絶望的な危機感欠如」で詳細に記した。

 金正恩は既に自分の脅威でなくなっている異母兄の金正男を殺害した。自分の権力の少しでも邪魔になるものは除外するのである。最大の邪魔ものは韓国のはずである。

 そうした中で、北朝鮮に断固対応しようとしていた朴槿恵大統領を弾劾訴追し、3月10日に罷免した。次の大統領の有力候補はいずれも北朝鮮に融和的な姿勢を示す候補者であり、韓国の有力紙朝鮮日報も、「韓国の大統領候補者たち、それでも『親北』を続けますか」と題する社説を掲げ嘆いている。

 3月3日現在の世論調査でトップを走る「共に民主党」前代表の文在寅(ムン・ジェイン)氏。同氏は北朝鮮への宥和的姿勢で知られ、開城工団の再開やTHAAD配備の検討延期などを主張している。同氏が22日京畿道安城市で行われた農業関係者との会合で、「われわれが北朝鮮にコメを輸出し、北朝鮮が保有する地下資源やレアアースと交換すれば、韓国におけるコメの在庫問題を解決でき、同時に地下資源やレアアースを国際相場よりも安く購入できる道が開けるであろう」と語った由である。これは当然国連安保理の北朝鮮決議に違反する行為であり、与党ばかりでなく野党からも批判の声が一斉に上がっている。

 これが国家の指導者の見識か?しかし、前述の世論調査では文氏の支持率は上昇しているのである。韓国国民は自分たちの安全をどう考えているのであろう。あきれるばかりである。

 韓国の国民は、努力が報われず、生活への不安が増大していることが大統領への不満となり、北朝鮮の脅威への対抗よりも朴大統領弾劾だけに目を向けているのである(詳細は2月14日付の寄稿「韓国人に生まれなくてよかった」参照)。

 大統領選挙によって韓国に親北政権ができれば、北朝鮮の核・ミサイル開発を断念させようとする日米韓の結束を壊し、北朝鮮の核・ミサイル開発を助長することになるであろう。韓国政府は、北朝鮮を庇う中国に接近するかもしれない。

 そうなった時に米国のトランプ政権は韓国を見放すことにならないであろうか。そして、韓国が北朝鮮に首根っこをつかまれ、北朝鮮の言いなりになる可能性すら排除できない。そうなれば、北朝鮮の核・ミサイルの脅威は日本にとってより切実なものとなるであろう。北朝鮮の核・ミサイル開発に韓国ばかりか日本も、より危機感を抱くべき時が来ている。

日本の平和主義は各国がそれを尊重してくれてこそ

 戦後の日本の発展の基礎には憲法にうたわれた平和主義がある。日本が今後とも平和国家として歩んでいかなければならないのは当然である。今後とも、日本は他国を脅かすような軍事力を持つべきではない。しかし、日本が平和愛好国であれば世界はこれを尊重するという前提は崩れているのである。

 北朝鮮のような国がある以上、日本は自衛のための努力を強化するべきである。安倍政権のもとで進められた集団的自衛権の行使や日米安保条約のもとでのガイドラインの改定は当然必要とされるものである。また、政府は「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案を与党に提示したが、これは多国間で捜査情報などを共有する「国際組織犯罪防止条約」を締結するために必要な法整備である。

 ところが、野党などはこれを「共謀罪」法案だなどとし、「国民の言動を過度に委縮させ、思想や活動、内心の自由やプライバシー権など基本的人権を侵害する可能性が極めて高い」として強硬に反対している。

 日本人が考えなければならないことは、テロは警備の薄い、起こしやすいところで起きるということである。これまでイスラム原理主義者のテロが起きたところでは、国民の安全が第一だとの考えが定着している。日本ではこれまで幸いに、イスラム原理主義者のテロは起きていないから、このようなことを言っていられるが、日本では中東から来たテロよりも北朝鮮によるテロを警戒する必要があるかもしれない。北朝鮮による日本人拉致事件が起きたことを忘れてはならない。今政府が進めていることは不可欠の防衛努力である。

 しかし、日本国内には安全確保のために必要な措置に対しても否定的な見解がある。日本人は人命を非常に大事にする。ならば、国家が自分の身を守るのに自分で努力することになぜ反対するのか。日本は既に、平和国家になっている。日本の軍国主義復活を心配しているのだとすれば、現実離れも甚だしい。

 戦争の悲劇が忘れられないのは当然である。しかし、北朝鮮のような国は強い者に手出しはしないが、弱い者は平気で叩く国であるとの認識が深まった。中国も、戦争を仕掛けたりしないが、経済報復などの態様では同様である。しっかりとした自衛力を保つことが平和への第一歩であることを肝に銘じるべきではないか。

(元・在韓国特命全権大使 武藤正敏)

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