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対北朝鮮で当事者能力ない日本、日朝平壌宣言の外交力も今は昔

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/09/14 06:00 山田厚史

 対話45%、圧力40%。北朝鮮への対応で、どちらを重視するか。朝日新聞の世論調査でそんな結果が出た。

 対話か圧力か。一方しか選択できないということはないだろう。圧力を掛けながら対話の糸口を探る外交もある。そうであっても「対話」を選んだ人が多かった。解決は武力ではなく話し合いで、という願いを表した数字である。政府は、こうした思いに応えているだろうか。

 戦争になれば米軍基地が標的になる。日本に戦火が及ぶことを回避するのが政府の責任だ。現状はアメリカと北朝鮮のチキンゲームを傍観するだけ。

 安全保障は、まず外交である。攻撃されない関係をつくる。ところが対北朝鮮で政府は当事者能力を失っている。

日本がトランプと金正恩を仲介!?幻に終わった「対話」の提案

 象徴的な出来事があった。テレビでお馴染みの田原総一郎が「週刊朝日」のコラムで明らかにした「入れ知恵外交」の顛末。

 田原は7月28日、官邸で首相に会い「政治生命を賭けた冒険」を提案したという。

 トランプと金正恩の仲立ちをして新たな6ヵ国協議を始める、という筋書きである。安倍は「強い関心を示した」という。2+2会合で訪米した外相の河野太郎がティラーソン国務長官にこの提案をしたが、拒絶されたという。

 「日本の政府首脳は、米国の思惑がつかめなくて困惑しているようである」と田原は書いた。日本外交の現状はこの程度なのか。

 田原提案は、多くの国民が望んでいることでもある。トランプと金正恩は、互いに相手の本心が分からない。威圧して出方を見ているが、挑発合戦は引くに引けないまま武力行使に踏み込む恐れがある。相手を読み違うと戦争に発展しかねない。

 まずは話し合って相手の考えを聞く。つまり対話の窓口を開くことが常識的な手順だろう。この程度のことは政府部内で検討されていなかったのだろうか。

 2+2会合で河野が切り出したというが、ティラーソンは戸惑ったに違いない。初対面の日本の外相が、事前協議もないまま、いきなり持論を展開したのである。外相会談は事前に筋書きがつくられている。閣僚が自分の思いで発言することがあっていいが、個人的な信頼関係がないと、「不規則発言」で終わる。

 河野の思いは決して悪くない。が、ティラーソンから見れば「新米の外相が来て、いきなり説教された」と映るだろう。

 「アメリカは何を考えているのは分からない」と反応する政府首脳も困ったものだ。何を考えているか分からないアメリカに、この国は付き従っている。

 田原が書いている通りなら、安倍首相も「対話路線」を望んでいるようだ。評論家の助言を待つまでもなく、外務省を動かし、米国や北朝鮮に働きかけないのか。外相会談でいきなり持ち出せば、相手は困惑する。アメリカの外交に日本が口を挟み、新6ヵ国協議を開催しろ、といきなり言うなど、立場をわきまえない発言と映るだろう。

画期的な外交成果だった日朝平壌宣言のその後

 今の日米同盟で、日本は北朝鮮に対し外交の自主性がない。ないのは対北朝鮮だけではないが、北との関係はとりわけ顕著だ。北朝鮮も「日本は相手にできない」と一人前扱いしていない。きっかけは2002年の日朝平壌宣言である。

 時計の針を15年前に戻してみよう。小泉純一郎が平壌で金正日と会い国交正常化交渉を謳った共同声明を発表した。

 「国際法を遵守し,互いの安全を脅かす行動をとらない。朝鮮半島の核問題およびミサイル問題に関しては、関係諸国間の対話を促進し、問題解決をはかる」

 確認事項にこう書き込まれた。

 日本は北朝鮮を国際舞台に引き出す大事なカードを握りながら、国内とアメリカを説得できなかった。

 当時の外務省には、田中均アジア太平洋州局長を中心に、経済援助に絡めて北朝鮮に非核化を促そうとする動きがあった。田中は北の高官である「ミスターX」と極秘の交渉を重ね、小泉が電撃訪問するおぜん立てをした。今から見れば「朝鮮半島非核化」へ進む画期的な外交だった。

 ところが、日本の主導権にアメリカが反発しブレーキを掛けた。自分たちを差し置いて日本が勝手に、と小役人根性まる出しの米国務省が貴重なチャンスを潰し、今日の危機を招いた。

 アフガニスタン・イラクに目を奪われたブッシュは北東アジアに関心がなかった。国内では「拉致問題をうやむやにするな」と声が上がった。小泉政権は、国交正常化交渉を断念し、北朝鮮を非難する安倍晋三が拉致問題を煽って政権に就き、日朝平壌宣言は白紙となった。

「米との直接交渉しかない」暴走する金正恩の胸のうち

 振り返れば、この顛末が今日の危機の遠因になった。私が北京で会った北朝鮮の政府関係者は「日本と話し合っても無駄だと分かった。米国と直接話すしか方法はない」と語った。

 核保有国となって米国を引き出すしか話し合いの道はない、と北は鮮明に覚悟した。日本と平和条約を結び、経済援助を得て産業を固め、米国との朝鮮戦争に終止符を打つ、という段取りを放棄したのである。

 核を振りかざしてラブコールする北朝鮮にオバマは関心を示さなかった。その気になればいつでも踏みつぶすことができる小国の罵声に付き合ってはいられない、という冷やかな対応だった。その間に北朝鮮は、国民生活を犠牲にして米国に届く核ミサイルの開発に心血を注いだ。

 日本から見れば「狂気」にしか思えない北朝鮮の振る舞いだが、金正恩の立場で考えると当たり前のことをしているだけなのだろう。

 アメリカには「ならず者国家」のリストがある。北朝鮮は1990年代にイラン、イラク、アフガニスタン、リビアと一緒に指定された。その後、イラクやアフガニスタンは理不尽な言いがかりで攻撃され、サダムフセインやウサマ・ビン・ラディンは殺害され、リビアのカダフィ大佐も殺された。アメリカに逆らえば国家も指導者も殲滅される。北朝鮮もいつ攻撃されるか分からない。

 国家の存立にはアメリカの保障が必要だ。アメリカと平和条約を結びたい。話し合いは拒否されている。原爆を持てるのは第二次大戦の戦勝国だけ、という世界秩序は時代遅れだ。なぜアメリカやロシアが核を持って北朝鮮が持ってはいけないのか。内戦に勝利した中国共産党は世界の反対を押し切って核実験を強行し、そうやって米国と外交関係を築いた。インドもパキスタンも自力で核を開発している。北朝鮮も核を持てば国家として認められ、アメリカも交渉のテーブルに着くだろう。苦しくても核開発を続けるしかない。

 「ならず者国家」はアメリカだ。圧倒的な軍事力を持ち、「斬首作戦」などとテロを公言している。攻撃してきたら一斉にミサイルを発射してソウルや日本の米軍基地を火の海にしてやる。攻撃力は最大の抑止力だ――これが北朝鮮の論理だ。

 窮鼠猫を噛む、というが、体制の存亡を賭けて北は必死の思いで米国に対抗している。

今の北朝鮮はかつての自画像交渉開始は早ければ早いほどいい

 そんな金体制を日本人は笑い、怖がるが、第二次世界大戦に突入したころの日本は、あんなものだったのではないか。

 「天皇陛下万歳」で男は戦場に赴き、戦死が誇りとされ、女は夫を失っても「名誉の戦死」と気丈にふるまうことを求められた。

 孤立し、経済制裁を受け、石油を止められ、追い詰められて戦争に突入した。ボタンをどこかで掛け違い、日本人だけで300万人の命が失われた。

 骨身に沁みたはずの日本人が、北朝鮮を笑い、恐れている。いま隣国で起きていることは、かつての自画像ではないのか。

 北朝鮮で戦争が起きたら、被害はどれほどになるのだろう。1994年、父ブッシュ大統領の頃、北朝鮮の核開発を封じるため米軍が作戦を検討したことがある。核施設の破壊はたやすいが、北朝鮮が反撃すればソウルは火の海になる。全面戦争に発展する恐れが指摘された。

 最初の90日で、死傷者は米軍5万2000人、韓国軍49万人、民間人含む死者は100万人、との推計が出た。

 作戦は見送られた。いまだったら被害はどれほどなのか。

 安倍首相は「さらなる圧力を」とトランプを後押ししているが、「制裁や圧力で問題は解決しない」というロシアのプーチン大統領の方が冷静に見える。

 北朝鮮を追いつめ軍事衝突した時、日本にどれだけの被害が出るのか、政府は推計し、国民に伝えるべきだろう。

 北は核搭載が可能なノドンを既に配備している。第7艦隊の母港横須賀や米空軍横田基地などが標的になっている。首都圏が攻撃を受けたらどれだけの犠牲者が出るのか。

 いま戦争が始まっても米国に核ミサイルは届かない。戦火を浴びるのは日本と韓国だ。北朝鮮にもおびただしい犠牲者が出る。トランプと金正恩のチキンゲームで危機にさらされているのは我々なのだ。

 爆撃で問題は解決しない。ならば対話しかない。「今は圧力を掛ける。対話の時ではない」「対話のための対話は意味がない」。もっともらしいコメントを有識者とされる人が言っているが、ではいつから対話を始めるのか。

 「経済制裁の効果が出て、北が音を上げるようになったら」などと希望的観測を語る人もいる。経済制裁は軍部の力を強めるばかり。ビジネスに携わる文民の力を削いでしまった。孤立は軍への求心力を高め、先軍政治を強めた。開戦前、経済制裁で日本はどうなったか。追い詰められればムキになり冷静さを失う。

 日朝平壌宣言をまとめるまでには、水面下で交渉が続いていた。当事者が信頼関係を築くのは容易なことではない。交渉開始は早ければ早いほどいい。

構図は「没落・孤立した独裁国家」米中だけに任せておくのは危険

 トランプと金正恩。何をするか常識で測りかねる二人の意地の張り合いが世界を危機にさらしているが、「北朝鮮問題」は、それほど複雑な問題ではない。

 イスラムとユダヤの歴史的対立を引きずるパレスチナ問題や、宗教と国家が絡まったインド・パキスタンのカシミール紛争などと比べると、北朝鮮問題は「底の浅いもめごと」ではないか。

 大戦終了後の冷戦で分裂国家になった朝鮮半島の北側が社会主義国家の没落で取り残され、孤立しただけである。金ファミリーと軍が結託した上層部の独裁体制が問題なだけで民衆は「被害者」でしかない。宗派や部族で殺し合い、怨念の連鎖が脈々と続いている紛争地とは違う。

 金ファミリーを一掃し、中国など近隣が後見役になれれば正常化できる。それをやりそこなった高官が粛清される、という経過を辿ってきた。

 金正恩はスイスで教育を受け国際常識に触れている。一族に生まれたばかりに大役を背負ったが内心、心配でたまらないだろう。

 肝は金正恩を破綻国家の経営者から解放してやることだ。命の保証を与え、どこかで安寧な暮らしを保証する。中国でもスイスでもいい。逃げ道と資金を与えることで、朝鮮半島や日本列島、将来の米国の安全を買う。これが米国や中国、日本がなすべきことではないか。日本には朝鮮半島を植民地化した過去がある。分裂国家は日本からの独立によって生まれた。責任があると同時に、大国の米中に任せておくのは危険でもある。韓国と手を組んで地域の独自性に配慮する処理を模索することが必要になるかもしれない。

 新6ヵ国協議を表舞台に、北を除く5ヵ国で現代版ヤルタ会談を持つのもいいだろう。求められいるのは、ミサイル防衛網ではない。北東アジアにおける「中朝露三角地帯」の大きな未来図だ。

 日本は経済援助で新生朝鮮を応援する。シベリア開発を含めた処女地の振興に北朝鮮を組み込む、という構想力が問われている。

 宗教や民族の対立のない地域に、正気を失う爆撃を持ち込むことだけは避けてほしい。対話を重視する日本人はまだ正気である。

(デモクラシータイムス同人・元朝日新聞編集委員 山田厚史)

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