古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

日本びいきのマハティール首相、焦る中国走らす

JBpress のロゴ JBpress 2018/11/09 06:00 末永 恵
アンワル元副首相と会談する中国の王毅外相(中国外務省のHPより) © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 アンワル元副首相と会談する中国の王毅外相(中国外務省のHPより)

 「身にあまる光栄です」

 今年の秋の叙勲で桐花大綬章を受章したことを受け、マレーシアのマハティール首相は、民族衣装、バジュ・マラユを身に纏い大綬章親授式に臨み、受章の喜びを感慨深く語った。

 これまでアジア諸国からは、インドのマンモハン・シン前首相や故リー・クアンユー、シンガポール前首相が受章している。

 アジアの指導者として、かつてライバル関係だったリー氏は没後に授与されている。日本政府はマハティール氏には生前授与することで、最大限の敬意を払ったと言えるだろう。

 7日の離日前には、皇居で天皇皇后両陛下の招待の下、夫人で医師のシティ・ハスマ氏を伴って、昼食を共にした。

 最高レベルの配慮は、安倍普三首相との首脳会談でも見られた。

 前回の記事でも言及したが、両政府は6月の首脳会談でマハティール氏から要請されていた日本からの財政支援に合意した。

 前政権から引き継いだ莫大な負債を抱え財政再建が急務になっていることから、両政府は、マレーシア政府による円建て外債(サムライ債)を2000億円、国際協力銀行の保証付きで発行する方針を確認した。

 さらに、安倍首相は、円借款による交通、教育、人材育成などの分野の援助も行う用意があることを表明した。

 記者発表では公表されなかったが、この円建てによるサムライ債は、親中のナジブ前政権時に中国から高金利で受けた債務の元利払いに活用される見通し。

 日本政府の保証付きサムライ債は、早ければ今年中にも発行される予定で、期間は10年で年率0.65%という超低利となる見通しだ(マレーシア政府筋)。

 マレーシアは、マハティール氏が前任の首相時代にも、日本政府から最長40年間の長期低利貸付(0.7%)を受けていた。

 サムライ債は、円建ての中では利回りが高く、諸外国の政府や企業が調達した円をドルに戻すコスト面でも有利だ。

 マレーシアの財政再建の救世主になると大きな期待が寄せられており、マハティール氏も「マレーシアの財政問題解決の策を提案いただき感謝している」と安倍氏に謝意を表明した。

 日本円にして27兆円を超える債務を抱える国に、ある意味、「大判振る舞い」を表明した日本政府。

 その狙いは「中国からの借金を日本の財政支援で返済することで、マレーシアの『中国による債務トラップ』の箍を外し、『中国による依存度』を軽減するところにある」(政冶アナリスト)。

 それだけでなく、「国際的に信用評価が高い“サムライ支援(ジャパンマネー)”で中国を牽制するとともに、マレーシアだけでなく、地域への日本の覇権を高めることだ」と見られる。

 アジアへの中国の覇権阻止があるが、もう1つの背景は、トランプ政権後の米国のアジア軽視による影響力激減と、アジア域内でのリーダーシップの欠如がある。

 日本にとってはASEAN(東南アジア諸国連合)を見ただけでも、「マハティール首相以外、強いリーダーシップを持ち、域内の指導者に影響力を持つ政治家が現在いないこと」(アジア政冶史専門家)が大きい。

 安倍首相も「ルック・イースト政策で日本の経済発展を模範に国の発展を引っ張った、36年間という長年の友人であるマハティール首相に深い敬意を示したい」と語る。

 あらゆる面での支援をスタンバイさせることで、日本の影響力を拡大したい狙いがある。

 一方、こうした日本の動向にいち早く対抗しているのは、紛れもない中国だ。

 日本がマハティール氏に秋波を送る一方、次期首相と目されるアンワル元副首相に影響力を及ぼそうと画策している。

 マハティール氏は10月初旬に訪れたロンドンでのBBCとのインタビューでも「2年後に首相の座をアンワル氏に禅譲する」と明言している。

 しかし、双方の間で具体的な時期は約束されていなく、11月3日、訪日前の記者会見では「アンワル氏の許しをもらえば、2年半後になるかな(笑)」と冗談交じりに禅譲時期をカモフラージュして、記者団に語っている。

 しかし中国の目は、すでに「ポスト・マハティール」を据えているのだ。

 2度の投獄により、刑務所生活を余儀なくされたアンワル・イブラヒム元副首相。

 5月に国王の恩赦を受け3年ぶりに釈放された直後、日本のメディアで初めて筆者のインタビューに応じたアンワル氏は「数か月後に下院の補選で勝利し、国会議員に復帰したい」と早期の政界カムバックを誓っていた。

(参考:「マレーシア”陰の首相”、戦略的パートナー日本に期待」 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53166)

 その言葉通り10月の下院補選で政界復帰を果たし、国会議員に返り咲いた。それから10日後の10月24日、北京の中国人民大学の招聘で一帯一路のフォーラムで特別講演を行った。

 表向きは、大学招聘という形式になっているが、実際は、中国政府の招待だ。

 同大学は、中国国内でトップレベルの研究大学に指定されており、共産党本部の資金が投入されている中国政府配下の筆頭の大学の1つだ。

 これはチャイナウォッチャーを驚かせた。なぜなら、国会議員に復帰直後の外遊に、アンワル氏は「中国」をあえて、選んだからだ。

 しかも、アンワル氏は国会議員に復帰したからといっても政権内で要職についたわけでもなく、内閣の一員でもない。

 親中政権だった前ナジブ政権の「膿」を出し切ろうと、新政府率いるマハティール氏が、一帯一路の習国家主席肝いりのプロジェクトを中止し、外国投資の中でも「中国案件」を精査しようとしている矢先に「次期首相」が最初の外遊先として訪中したのである。

 関心事は、講演の内容云々より、北京で中国政府や共産党幹部に会うのかどうかだった。

 結局、王毅国務委員兼外相および共産党幹部と会談した。アンワル氏の非公式の訪中目的は、講演ではなく中国政府との会談だったのだ。

 会談後、アンワル氏は自身のフェイスブックで、会談が有意義であったことを公表。

 中国政府は即座には発表しなかったものの、後日、両手を大きく広げ、アンワル氏を歓待し、満面の笑みを浮かべる王外相とアンワル両氏の会談写真を公表、親密ぶりを内外にアピールした。

 中国外務省の公式ホームページには、中国がアンワル氏を歓迎したことと、「中国とマレーシアは1000年以上の長い友好の歴史の礎のもと、今日の両国関係がある」と二国間関係が今後も、ゆらぎなく発展すると書かれている。

 また、アンワル氏が外遊の最初に中国を訪問したのは、馬中関係が外交関係で最も重要な証だからだ、とアンワル氏の中国訪問を大歓迎した。

 一方、アンワル氏も「国会議員復帰後、最初の外遊先に中国を選んだ。今日、中国の成功は、周辺国が羨望するほどで、この訪問で私も中国の成功について学びたい」と約10年間、マレーシアの最大の貿易相手国となった中国を持ち上げた。

 中国問題の専門家は「アンワル氏の中国訪問は、マハティール氏の登場でギクシャクした対中国関係に新たな光を投下し、アンワル氏と王外相は、友好的な関係を築いた」と分析する。

 アンワル氏は、筆者とのインタビューで「中国との関係の重要性」を語るとともに、外交関係で重要な国は、中国と日本などを挙げている。

 同氏は、マハティール氏と同じくナショナリストで、ナジブ前首相のように中国に対し、売国的行動をすることはない。

 しかし、日本は、マハティール氏が前回、首相を辞任した際、準備期間が1年ほどあったにもかかわらず、後継者のアブドラ首相への対応が不十分で、アブドラ政権と日本政府の関係は、良好ではなかった。

 マハティール氏の路線を受け継ぐと見られたが、実際は「脱マハティール路線」を走り、日系企業や日本政府は辛酸を嘗める事態となった。

 当時の奥田碩経団連会長(当時トヨタ自動車会長)が投資促進ミッションでマレーシアを訪問した際にも、クアラルンプール国際空港に到着していながら「アブドラ首相との会談の申し入れの返事が取れない」ということもあった。

 また、御手洗冨士夫経団連会長(当時キヤノン会長)がマレーシアを訪問した際も、アブドラ政権の対応の不手際で御手洗会長が立腹したとされる。その当時の日本の首相は安倍首相だった。

 マハティール氏は日本にとって公私ともに極めて重要な戦略的パートナーだ。しかし、同時に「ポスト・マハティール」を見据え、新生マレーシアとの関係を構築することも非常に重要だろう。

 マハティール氏が日本を訪問していた11月6、7日、アンワル氏はニューヨーク市長を務めた米メディア、ブルンバーグの創業者、マイケル・ブルンバーグ氏が主宰するシンガポールでの国際会議で講演し、「アンワル時代のマレーシア」を強調した。

 この国際会議には、ヘンリー・キッシンジャー米元国務長官やクリスティーヌ・ラガルド IMF(国際通貨基金)専務理事らも出席した。

 その中で、マハティール首相について次のように語っている。

 「皮肉を交えていろいろ評価する人がいるが、彼はよくやっている。『レフォルマシ』(マレー語で「改革」)が必要だと言っているくらいだから」

 「レフォルマシの民主化運動は、マハティール氏に反対、対抗する民衆のうねりとして20年前に始まったものだが、それを受け入れているんだからね」

 そのレフォルマシの旗手こそ、アンワル氏だ。

 あえて、マハティール内閣に入らないのは、民主化の指導者は自分で、後継者ではなく、マレーシアの次期首相としての地位を内外で発揮したい意向がある。

 その人物に中国が急接近している。このことを日本政府は真剣に考える必要がある。アブドラ政権のときのように、マハティール路線を引き継ぐかは、未知数だからだ。

(取材・文 末永 恵)

JBpressの関連リンク

image beaconimage beaconimage beacon