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第二の「ヒアリ」か? サシガメが媒介する[シャーガス病]日本上陸の危機

HARBOR BUSINESS Online のロゴ HARBOR BUSINESS Online 2018/09/19 15:56

 日本人にはまったく馴染みのない感染症が今、注目され始めた。潜伏期間が数十年で、慢性化すれば心不全で死ぬこともある恐ろしい感染症だ。日本でパンデミックが起こる可能性は!?

◆中国で媒介昆虫が大量発生。ヒアリの二の舞いになる!?

 中国が「新型エイズ」の恐怖に揺れている。7月、広州市疾病予防コントロールセンターは、市民がシャーガス病を媒介する吸血性のサシガメと思われる昆虫に刺された事例や、目撃情報が相次いでいることを公表。さらに、1匹の捕獲につき8元(約130円)の“懸賞金”を払うと通達し、撲滅作戦を展開したのだ。

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<シャーガス病とは>

●流行地→南米

●推定感染者数(世界)700万人

●媒介→吸血性サシガメ

●発症→数週間~数十年後

感染後の初期では症状は軽度で発熱、頭痛、筋肉痛、呼吸困難など。慢性期になると原虫は心臓や消化器の筋肉に生息し、心疾患や消化器疾患を引き起こす。心筋障害による突然死や心不全にいたることもある

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 南米を生息域とするサシガメが中国で最初に確認されたのは’16年11月、広東省内の家屋で生きているオスと、メスの死がいが採取された。この虫はシャーガス病の原虫であるクルーズ・トリパノソーマを媒介することで知られており、それが遠く離れたアジアで見つかったことには驚きを持って報じられた。ちなみに新型エイズという異名は、感染から発症まで潜伏期間が長いことから米国の研究者によって名づけられた。

 一方、米国立生物工学情報センターも、サシガメの生息域が北半球で広がったとして注意喚起を行っている。シャーガス病はもともと米国ではほとんど症例が見られなかったが、米疾病対策予防センターによると’14年時点で約30万人の感染者が確認されており、感染が急拡大している。

 サシガメは実は日本にもすでに定着している可能性がある。国立環境研究所生態リスク評価・対策研究室長の五箇公一氏は言う。

「広東省といえば、サシガメと同じ南米を生息域とするヒアリが大量発生し、船の貨物に紛れ込んで日本にも上陸したことが記憶に新しい。中国の一帯一路政策で交易が活発化するなか、中国経由で世界の害虫が日本に紛れ込む危険は高まっている。また、広東省くらいの距離であれば渡り鳥が卵や幼虫を運んでくることも決して想定外ではない。近年、マダニが媒介する感染症SFTSによる死亡例が相次いでいるが、これは最初に中国で流行が始まり、渡り鳥が運んだ可能性が議論されています」

 シャーガス病を媒介するサシガメの流入に対し、我が国はまだ何も対策していないようだ。

「検疫などを含め、サシガメを対象とした特別の対策というのは現状では行っていない。サシガメの(南米での)生育環境を見ても、日本で定着する可能性は低い」(厚労省動物由来感染症指導係)

 しかし、五箇氏は反論する。

「サシガメは、ヒト以外の脊椎動物も吸血しますが、日本ではシカやイノシシ、ハクビシンなどが人間の生活圏で増えており、サシガメは栄養補給に困らない。また近年、日本の夏の猛暑は南米の熱帯並みで、冬もヒートアイランドで暖かい。年間を通した気温の上昇で13年前に初めて国内で発見されたセアカゴケグモは、今や44都道府県で定着した。15年前に初めて確認された南米のアルゼンチンアリも全国に拡大しつつある。それなのに、サシガメだけ定着しないとは誰にも言えない」

 サシガメが日本に定着すれば、日本でシャーガス病が一気に流行する可能性もある。寄生虫学の専門家として40年にわたりブラジルをはじめとする南米と日本でシャーガス病対策に取り組んできた、元慶応大学医学部助教の三浦左千夫氏は言う。

「中南米の感染率は献血者でさえ1.2%ほどとされていますが、ブラジルのパラナ州とサンパウロに住む日系人では1.8%、ボリビアの日系人コミュニティでは14%と極めて高い。これは、南米に移住した日系人が当時、サシガメの生息地域で農業に従事していたことが理由のひとつです。シャーガス病は母子感染(5%)するため、日系人の生活が多様化した現代でも感染率が高い。一方、日本には南米出身の日系人を中心とした出稼ぎ労働者や移住者からなる、定住化人口が約27万人います。南米の日系人コミュニティのシャーガス病感染率で計算すれば、2万人以上の感染者がいるとみることもできる。心疾患で医療機関で診察を受けた45人の南米出身者を対象にした検査では、うち6人の末梢血液からクルーズ・トリパノソーマが見つかっている。ちなみに2月にもブラジルからの移民が日本国内で、シャーガス病で死亡しています。原虫を媒介するサシガメが日本に定着すれば、南米出身者が保虫する原虫が日本人にも広まる。アウトブレイクも十分、考えられます」

◆治療薬は日本になく取り寄せに3か月必要

 同原虫の日本人への感染は見えないところで進んでいる可能性もある。’13年、ブラジル出身の男性保虫者が献血した血液から、シャーガス病の陽性反応が出たのだ。当時、すでにその血液が11人に輸血されていたことが判明し、うち5人は後の検査で感染は否定されたが、残り5人はすでに死亡、最後の1人は高齢を理由に再検査を拒否しているのだ。

 日本赤十字社によると、現在は中南米諸国出身者や出身者を母または母方の祖母として持つ人、現地に連続4週間以上滞在した経験がある人からの献血に対しては、シャーガス病の抗体検査による安全確認を実施しているという。

 しかしサシガメ流入の危険性が高まる今、中南米に縁もゆかりもない日本人に対しても、同様の抗体検査を行うべきではないだろうか。何せシャーガス病は、感染したとしても数年から数十年は自覚症状すら出ない「沈黙の感染症」なのである。

 前出の三浦氏によると、シャーガス病の感染者が確認されたとしても、日本国内には感染急性期に対応できる薬がないという。

「感染者に対しては、なるべく早期に治療薬を投与する必要がありますが、日本国内には常備されていない。感染が確認されてから医療機関などを通じWHOから取り寄せることになるのですが、発注から届くまで、手続きを含めて約3か月かかるというのが現状です」

 サシガメ流入に対しても無策、献血時の安全検査についても一般の日本人はノーチェック、さらに薬もない……。日本は、世界的に感染が拡大しつつあるシャーガス病への危機意識が低すぎるのではないだろうか。

 医師で元厚生労働省医系技官の木村盛世氏はこう話す。

「省庁や行政は感染症法で指定された感染症の対策以外まるで興味がない。法定感染症には、その時々の有力議員がゴリ押ししたそれほど危険とは思えない感染症が指定されたままとなっている半面、世界的に感染が拡大している新種の感染症が加えられることはなかなかない。季節性インフルエンザのように、国民が自分の問題として騒ぎ始めなければ具体的な対策は始まらないでしょう」

ハーバービジネスオンライン: photo by CDC © HARBOR BUSINESS Online 提供 photo by CDC

 新型エイズともいわれる恐怖の感染症。泥縄では遅すぎる。

― [シャーガス病]日本上陸の危機 ―

<取材・文/奥窪優木>

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