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ウッズが得た「一番幸せな優勝」。なぜ彼の雰囲気は変わったのか。

Number Web のロゴ Number Web 2019/04/16 11:40 舩越園子
2018年のツアー選手権に続き、マスターズを制したタイガー・ウッズ。彼の完全復活をどれほどの人が信じていただろうか。 © Bungeishunju Ltd. 提供 2018年のツアー選手権に続き、マスターズを制したタイガー・ウッズ。彼の完全復活をどれほどの人が信じていただろうか。

 マスターズ5勝目を挙げたタイガー・ウッズがオーガスタナショナルのバトラーズキャビンと呼ばれる特別な一室の中で、前年覇者のパトリック・リードからグリーンジャケットを着せられ、その着心地に酔いしれていた。

「長い道程だった。これまでで一番大変な優勝だった」

 その大変さを「hardest」と最上級で表現したウッズは、だからこそ、過去4度のマスターズ制覇のときにも、過去14度のメジャー優勝のときにも、見せたことがないほどの最上級のスマイルを輝かせていた。

 優勝会見にやってきたウッズは、やはり笑顔をたたえながら、ジョーク混じりに言葉を切り出した。そこに彼の最上級の喜びが溢れ返っているかのようだった。

「いろんなシナリオになり得る展開だった。たくさんの選手に勝つチャンスがあった。大混戦だった。僕たちは、その中に居た。だからこうやって僕の髪は薄くなっていく。僕らの戦いは、それぐらい大変なんだ」

 会見場が笑いの渦に包まれた。おどけ具合も最上級。14年ぶりにマスターズで勝利を収めたウッズの喜びは、かつてはクールであり続けた元王者を、そんなふうにおどけさせ、周囲にも笑顔をもたらしていた。

黄金期とはまた違うウッズのリラックス。

 今年のオーガスタにやってきたウッズは、開幕前から「勝てる気がしている」と勝利を予感していた。

 とはいえ、焦りや気負いは感じられず、むしろリラックスムードを醸し出していた。

 優勝を意識していたことは言うまでもない。だが、「勝たなくてはならない」ではなく「勝ちたい」。そんなウッズの一歩引いた姿勢は、「メジャータイトルを獲るためだけに、ここに来た」と豪語していた黄金期のウッズには決して見られなかったものだった。

 それはウッズの成長なのか、余裕なのか、果たして何によるものだったのか。彼に変化をもたらした要因は1つではなく、「いろんな要素が合わさった末に起こった」とウッズは振り返った。

過去4勝、オーガスタを知り尽くしている。

 4度目の腰の手術後、ようやくツアー復帰した昨年1月以降、ウッズはいろんなステップを1つ1つ踏み、そのたびに一歩一歩、前進してきた。

 全英オープンではフランチェスコ・モリナリと勝利を競い合って敗れた。全米プロではブルックス・ケプカと優勝争いを演じ、やはり敗れた。

 勝つことはできなかったが、「あの2つの優勝争いが、ここで役に立つ」。今年のオーガスタにやってきたとき、ウッズはそう確信できていたからこそ、彼の表情は自ずと和らいでいたのだと思う。

 ウッズの歩みを遡れば、アマチュア時代の1995年にマスターズに初出場したウッズは、プロデビュー直後の'97年大会を2位に12打差で圧勝した。そうやって過去4勝を挙げたオーガスタの戦い方、攻め方、守り方は「すべて頭の中のライブラリーに記憶されている」。

 そう言い切れるほどの豊富な経験と知識を持ち合わせながら戦っているのは、今、ウッズただ一人である。その事実も今年のマスターズに臨んだウッズの心の礎になっていた。

一時は世界ランキング1199位まで。

 2009年の暮れに始まった不倫騒動は世界を驚かせた。その後の不調や成績低迷は無残だったが、4度にわたる腰の手術後、痛みに顔を歪めるウッズの姿は見るに耐えず、2017年5月の逮捕劇は、もはやウッズがゴルフ界のみならず社会から消え去っていく最悪の事態さえ人々に予感させた。

 だが、そんな奈落の底から這い上がり、戦いの舞台へ戻ってくることができた理由は、2人の子供たちが傍にいてくれたこと、母クルティダが見守り続けてくれたこと、そして、一時は世界ランキング1199位まで後退したウッズをチームやツアーの仲間たちが支え続けてくれたことだった。

「一番大変な優勝」が「一番幸せな優勝」に。

 そして何より、マスターズという大会が存在し、輝いていた若きウッズも、輝きを失っていたころのウッズも、再び輝こうとしていた復帰途上のウッズも、どんなウッズをも受け入れてくれたこと、待っていてくれたこと。

 そうした要素要因がすべて絡み合い、ウッズを押し上げてくれた。

「すべての大会に意味がある。初出場した'95年大会。初優勝した'97年大会。あれから22年後の今、すべてが一緒になり、花開いた」

 花開いたその日、その場所で、ウッズは1人ではなく、たくさんの人々に囲まれていた。

「ここに、このオーガスタに、家族がいて、みんながいて、その中で勝つことができた。僕はこの日を決して忘れることはない」

 最上級の幸せを胸に刻んだ日。

「一番大変な優勝」は「一番幸せな優勝」になった。そんなドラマを見守った世界中の人々も、ウッズとともに心を震わせ、最上級の幸せを授かった――。

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