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全米が大谷フィーバー! 「カネではない」純粋な野球愛に感動

Forbes JAPAN のロゴ Forbes JAPAN 2018/04/11 19:00 長野 慶太

© atomixmedia,inc 提供 3試合連続ホームランや投手で2連勝し、大谷翔平が大リーグの週間MVPを受賞したが、日本人が想像している以上に現地の大リーグファンは大騒ぎをしている。

筆者は在米21年になるが、ひとりの日本人がここまでアメリカを揺り動かすことはなかった。実はアメリカ人の大リーグファンにとって、大谷はこれまでの日本人大リーガーと大きく違う根源的なポイントがある。

まず、こちらでは大谷を評する修飾語がどんどん大きくなってきたのに驚く。ベーブ・ルースと大谷を比べる記事が日本側に多く見受けられるが、今日のESPN(全米最大のスポーツ専門チャンネル)では、むしろベーブ・ルースは二刀流ではなく、当時の所属チームであったレッドソックスが愚鈍で、投手か野手かどっちで使うべきかわからなかっただけのなりゆきだから、ベーブ・ルースと比べるのは大谷の偉業に対して「不十分」だとさえコメンテーターのキース・オルバーマン氏は言った。

オルバーマン氏は80年代から活躍するスポーツと政治の超一流ジャーナリストであり、このレベルのジャーナリストが神格化されたベーブ・ルースを抑えて大賛辞を送ることは大谷フィーバーがアメリカでホンモノであることを物語っている。

さらにMLBネットワークの著名な野球記者、ジェイスン・スターク氏は、「大谷は大リーグ史上、最高の才能を備えた選手だ」と語っている。これほどの修辞はかなり珍しいことだ。

こうなってくると、オープン戦でさんざんに大谷を批判したメディアも信頼回復に右往左往だ。前出のオルバーマン氏は「Deke」(フェイントという意味)のスポーツスラングを使い、「スポーツメディアは化かされていたのでは?」とユーモアたっぷりだ。

たった2億6000万円で大リーグに

もちろん野茂英雄以来、たくさんの優れた日本人選手が大リーグで活躍してきた。しかし、正直、フィーバーというほどのものはなかった。大谷がなぜ「大谷フィーバー」を起こし、他の選手がフィーバーを起こせなかったのかは、いくつか根源的な問題がある。

まず、ほとんどの選手は、「果実」で言えば、熟してからアメリカに渡っている。みな、約10年日本でプレーしてからアメリカに来ている。松井秀喜で10年、イチローで9年、田中将大や前田健太で8年。

これはFA権の問題に加え、25歳未満だと大リーグ側に契約金に上限ルールがあるので、契約金と年棒を跳ね上げるためにはそのくらいの実績を日本で積んでおいたほうがいいという代理人の思惑も働いている(代理人はパーセンテージで報酬を得るので、一攫千金型の契約ほど魅力がある。例えば田中将大は7年契約で約160億円)。

しかし、大谷はわずか5年の日本でのプレーで大リーグに渡り、「争奪戦」と伝えられたところで、約2億6000万円にとどまった。カネの話はおおっぴらになるのがアメリカなので、ファンはシーズンが始まっても球団がいくら選手に払っているかということをいつまでも覚えている。

シビアな話だが、「払っているだけ働いているのか?」という視点でファンは見ている。選手はみなマイクの前では「カネじゃない」というが、最後は代理人の誘導のまま、「カネのいいところへ転職」というのが大リーグの現実だ。

しかし、20年の選手生活で複数の球団を渡り歩く選手や、それを商品のように売り買いする球団本部とは違って、ファンは一生、ひとつのチームを応援し、忠誠を誓い、浮気をすることはない。

資本主義が強烈に進化したアメリカスポーツ界において、ファンの「純愛」はときに切なすぎるほどだ。なので、25歳まで待てば大金と複数年契約を掴めるのに、そのシナリオをあえて捨ててアメリカへ渡り、「カネではなく、世界最高峰のリーグでプレーしたい」という野球愛を、身をもって示したこの純粋な「青い果実」にはファンは驚きとともに大きな敬意を払っている。純愛の復活である。そしてカネ以上に働いている大谷に対して、ますますファンサイドの純愛もまた燃え上がるという図式だ。

歴史が塗り替えられるのを目撃したい

それと、アメリカのファンを夢中にさせているのは、今後の大谷の史上空前な活躍を同時代で観戦できるチャンスへの期待だ。筆者は幼少から、世界記録の868本のホームランを打った王貞治氏のファンだが、残念ながら大リーグファンは、「違う物差し」で測られた記録を評価しない。

イチローはおそらく最も尊敬されている日本人プレーヤーだが、アメリカ人にとってのイチローは首位打者や盗塁王、大リーグシーズン最多安打記録保持者であって、世界一の安打記録保持者ではない。

つまり、日本の報道とアメリカの報道の根本的な差は、日本が日本時代の記録を常に合わせて報道するのに対し、アメリカでは大リーグという統一規格の中での数字を報道する点だ。それがフェアだという感覚で、それはプエルトリコ選手もメキシコ選手も韓国選手もみな同じ扱いを受ける。

実は、アメリカ人にとって、その選手がどこの国の人間であるかはまったくどうでもいい問題だ。そこも日本人が日本人大リーガーをことさらに応援する熱狂とはかみ合わない。人間社会だし、スポーツの現場だから、悪口のなかについ差別用語が入ることは今後もあるだろう。

しかし、筆者が大リーグの全30球場を観戦した個人的な経験に照らし合わせても、オリンピックじゃあるまいし、人種や国籍にこだわるファンはいないと断言したいほど少数だ。そもそも大リーグの選手の3割は外国人だし、出身は19か国にのぼる。

それより、「空前絶後の二刀流(two-way player)」に自らの人生で邂逅し、その記録が(統一規格)どんどん伸びて歴史が塗り替えられていくのを目撃していきたいと高揚する。選手仲間の冷静さと比べて、アメリカの大リーグファンが大谷の活躍に興奮しているのはこの同一規格での同時代性だ。

もし、日本から駆けつけて、球場で大谷を応援するなら、日の丸の旗を振りたい気持ちを抑えたほうが良い。そこにいるすべてのエンジェルスファン同様、エンジェルスの帽子を被り、大谷のTシャツを買って、奪三振やホームランのたびに隣のアメリカ人とハイタッチをして思い切り叫ぶべし。

この際、資本主義も、国威発揚も、野球に関係ないものはすべて捨てて大谷を応援すべきだ。大谷翔平がアメリカ人を揺り動かしているものは、純粋な野球愛だから。

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