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【日本ハム】今季最終戦はファイターズのカーテンコールだった

文春オンライン のロゴ 文春オンライン 6日前 えのきど いちろう

今日一日はこのチームのことを考えよう

 コボスタは曇天だった。ファイターズにとっては今季最終戦だ。体育の日の祝日とあって客の出足が早い。自由席がまず埋まって、指定席も人の流れが途切れない。これは2万5千は行くんじゃないかな。楽天は明日、ロッテ戦がレギュラーシーズンの最終戦になる。で、中3日空けて、14日からはいよいよCS第1ステージの西武戦だ。つまり、イーグルスもファンも意気軒昂だった。勘を鈍らせないためにハム、ロッテとの実戦は大変貴重だ。

 試合に向かう気持ちが残念ながらぜんぜん違う。目標のあるチームはいいなぁ。うちはカーテンコールみたいな試合だ。2017年シーズンを惜しんで、チームを離れることになるコーチ、選手らに盛大な拍手を送っていたら、緞帳(どんちょう)が上がって、もう1試合だけコボスタで試合を見せてくれた、という感じ。野球やってくれるだけで儲けものだ。

 これから長い間、冬ごもりなのだ。ファイターズはゲームなしだ。ぶっちゃけ12月3日あたりに偶然、札幌ドームの近くを通りかかったら待機列が伸びていて、どうもヤミ開催の楽天戦を1試合だけやるらしい、と聞いたらふらふらっと入っちゃいそうではないか。南ゲート3だけ開けるらしいんだな。「先発は有原と美馬」「大谷が3番打つ」。サングラスした係員が言葉少なに情報をくれるんだ。本当のファイターズなのかは入場してみないと何とも言えない。案外、茨城県に本拠を置く「水海道日本公ファイターズ」(にっぽんおおやけ?)というまったくの別物だったりして。

 そこへ行くと楽天25回戦はれっきとした公式戦だ。チケットも正規料金。係員もサングラスはしていない。有難いことに両チームとも本物。有原航平は2ケタ勝利をかけてマウンドに立つ。なんくるないさー。見るさー。嬉しすぎて意味不明に沖縄弁だ。そして野球の面白いところは、「CSを控えモチベーション高いチーム」が「カーテンコールで出てきたようなチーム」に必ずしも勝つとは限らないことだ。

 ファイターズはこっそりだけど、昨年日本一のチームに戻っていた。大谷翔平は投打に完全復活し、近藤健介は順調に回復、リタイア前より打率を上げている(!)。レアードはいとこがラスベガスの銃乱射事件の犠牲になり、緊急帰国してしまった(哀悼の意を表します)けれど、中島卓也がこの日、1軍登録されている。西川遥輝は死球禍の後、抹消されずに帯同しているから久々に「ハルタク」が揃った。ベンチはにぎやかだ。中田翔がいて、杉谷拳士がいる。白井一幸コーチ、黒木知宏コーチの姿もある。

 今日一日はこのチームのことを考えよう。今日一日は永遠だから。みんないる。誰もどこへも行かない。野球シーズンは終わらない。オーケー?

今季、国内FA権を取得した中田翔 ©文藝春秋 © 文春オンライン 今季、国内FA権を取得した中田翔 ©文藝春秋

「いかんなぁ」の顔をする王様

 立ち上がり有原が自身の暴投も込みで簡単に点を与えた。ポンスカ打たれて満塁まで行ったがビッグイニングになるのだけはどうにか防いだ。僕は有原の顔が好きだ。特に思い通りにいかなくて、「あぁ、これはいかんなぁ」という顔をするとき、「いかんなぁ」なのにけっこう立派な顔をしているのが好きだ。この人の面白さは身に付いた立派さだ。投手陣がいつだったかのキャンプで「有原キングダム」のTシャツを作って、皆で着るジョークというか趣向を楽しんだことがあったが、有原は本当に「有原王国」に住んでるような感じがある。立派なのだ。王様なのだ。

 「王様は球が来てない」

 今季どこかの時点で臣下がそう言うべきだった。だから何度も有原は「あぁ、これはいかんなぁ」という顔をしなければならなかった。カットボールとチェンジアップで術中にはめていく投球術も、力のあるストレートが前提であるはずだった。昨シーズンのベスト時と比べて、威圧感がまるで違う。この日は1回に続いて3回にも満塁をつくってしまった。が、大事には至らなかったのは王様のご威光か。

 ていうか楽天打線も大概だったと思う。今季、パを盛り上げた最高殊勲チーム・楽天はシーズン終盤になって急降下、優勝争いどころか2位争いにも敗れたのだ。僕は各チームの今季の順位を折れ線グラフにして、推移を表した表を見せてもらったことがある。これが楽天以外はほぼ横ばいなのである。ファイターズで言えばずーっと5位だ。4位に浮上しないかわりに6位にも落ちない。ベタ凪(なぎ)のシーズンにあって、お盆過ぎから楽天だけが急降下している。CSを思うと試合勘よりリフレッシュのほうが必要なのかもしれない。まだまだ本来の元気からは遠い。

 楽天打線が拙攻を繰り返すうち、有原がペースをつかみだす。さすが一国の王だ。コボスタのマウンドを統治する。以前、当コラムで用いた表現を使うと「幽体離脱から有原が戻ってくる」感覚だ。結局、7回を9被安打2四球ながら1失点(105球)でまとめる。9被安打のうち7本が3回までに打たれたものだった。

 一方、美馬はまずまずだった。たぶん大谷翔平との対決をスポーツニュースでご覧になった方も多いだろう。大谷はノーヒットだ。2013年日本シリーズでの活躍を考えても、美馬は短期決戦に強そうに思える。CSになって更に一段、状態が上がると面白い。この試合は若手の横尾俊建、石井一成に打たれて、3失点だった。何かそうなっちゃうんだなぁ、大谷や中田でなく、これからのワカゾーが仕事をした。

 7回表、満塁の好機に石井があっさりセンター前へタイムリーを打って、続く大谷が見逃し三振に倒れたシーン。楽天の変則左腕ルーキー・高梨雄平が「1失点で踏ん張った」というのが全てだけど、大谷の抱えるものがちょっと大き過ぎたね。僕らはホームランを打つものと決めてかかっていた。何でかっていうとスーパースターだから。

何で中島は最終戦に間に合わせたのか

 決めてかかっていたといえば中田も同じだ。この試合、中田のビッグプレーは7回裏、藤田一也のライン際の強いゴロに飛びついて好捕、倒れ込んだままベースカバーの有原へトスした「守備の人」としてのものだが、中田といえばでかい当たりを打つとばかり決めつけていた。ゴールデングラブの守備力を忘れていた。

 勝敗に関係ないシーンでいうと銀次が圧倒的に面白かった。僕は銀次が終わったら早く次の銀次にまわって来ないかと思うのだ。バッティングの無理のきき方がすごい。この日も内角球をレフトへ流し打ちしていた。あぁ、ファイターズ戦の「次の銀次」は来年なんだな。

 個人的にジーンと来たのは8回、鍵谷陽平にスイッチ(60試合登板!)したタイミングで、ショートに中島卓也が入ったことだ。8月末、右内腹斜筋筋挫傷で戦列を離れ、今季絶望かなぁと思っていた。9回裏、最後の打者・茂木栄五郎の当たりはショートゴロだった。これはたぶんファイターズの全員がしっくり来たと思うのだ。今シーズンの最後のアウトは、必死にリハビリし最終戦に間に合わせた中島のところへ飛んだ。

 何で中島は最終戦に間に合わせたのか。CSもない。順位争いもない。個人記録もかかってない。何にもないのだ。読者の皆さんには合理的な説明がつけられるだろうか。この1試合に間に合って8回から守備についたって誰も褒めてくれない。意味がわからない。

 それは僕なりの言い方をすると、野球選手は野球をするからだ。だから中島はけんめいに最終戦に間に合わせた。だから大谷は大きなものを背負う。だから中田はゴロに飛びつく。だから有原は思うようにならないと「あぁ、これはいかんなぁ」という顔をする。

 それをもっとバカみたいな言葉に置き換えると、野球チームは野球をするからだ。戦列離脱しても、チームを離れても皆、戻ろうとする。近藤健介や中島卓也は戦列復帰するとき、それが何のためかなんて考えなかった。吉井理人コーチや高橋信二コーチはチームへ戻るとき、それが何のためかなんて考えなかった。言ってみれば自然修復力みたいなことだ。

 ファイターズは最終戦に3対1で勝利した。有原は10勝目、増井は27セーブをものにした。シーズン成績はやっと60勝に届いた。これで全日程が終了。おつかれさん。平手打ちを食らうように、野球選手・野球チームが野球をしない季節がやって来る。

5月27日の中田翔選手プレイヤーズスペシャルで配られた学習帳 ©えのきどいちろう © 文春オンライン 5月27日の中田翔選手プレイヤーズスペシャルで配られた学習帳 ©えのきどいちろう

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