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ノムさんに酷評されたリードは過去。西武・炭谷銀仁朗が榎田復活を支援!

Number Web のロゴ Number Web 2018/05/16 10:30 永田遼太郎
炭谷(中央)はWBCに2013年の第3回、2017年の第4回と2大会連続で出場している。 © photograph by AFLO 炭谷(中央)はWBCに2013年の第3回、2017年の第4回と2大会連続で出場している。

 連敗を止めたのはまたこの2人のコンビだった。

 埼玉西武の榎田大樹と炭谷銀仁朗。

 今季初の同一カード3連敗の危機もあった5月13日の対千葉ロッテ戦。埼玉西武は、前日、前々日のゲームで千葉ロッテ打線に序盤から打ち込まれ、福岡ソフトバンク戦から続く連敗を4に膨らませていた。

 1戦目は12-3、2戦目11-2と千葉ロッテが連日の勝利を飾った。

 一方、西武としてみればどちらが首位か分からなくなるような大敗。それも左肩に張りを訴えた菊池雄星が、しばらくの間ローテーションに穴を空けるという悪いニュースが飛びこんで来た矢先での痛い連敗である。

 そんな悪い流れを断ち切ったのが、この試合まで3戦に先発して無傷の3連勝を飾っていた榎田大樹だった。

榎田の好投に“山賊打線”が応えた。

 榎田は、この日最初から飛ばした。

 1回表、荻野貴司から内角直球で見逃がし三振を奪うと、藤岡裕大をレフトへのファールフライ、続く中村奨吾に対してもサードゴロに仕留め、三者凡退で切り抜けた。

 その直後、チーム打率2割8分を越える“山賊打線”が目を覚ます。

 先頭の秋山翔吾の二塁打を皮切りに、一気に無死満塁のチャンス。そこから山川穂高のライトへの犠牲フライ、外崎修汰の左中間二塁打、木村文紀のタイムリーと計4点を先取した。

 序盤から大量リードをもらった榎田は、2回以降も右バッターの胸元をつく直球と、外のボールゾーンから巻くスライダーを武器にしてロッテ打線に付け入るスキを与えない。

 彼の制球力と炭谷の好リードが光ったのだ。

 実はこの日と似た状況が開幕直後にもあった。

 4月12日のZOZOマリンスタジアム(対千葉ロッテ戦)だ。

打撃では猛打賞、守備では好リード。

 開幕8連勝後、敵地に乗り込んだ埼玉西武は前日、前々日のゲームで千葉ロッテの足にかき回され連敗を喫していた。27年ぶりの開幕8連勝で沸きに沸いていたが、自分達の“専売特許”ともいえる機動力野球でかき回された。

 3連敗を避けたい3戦目、先発はトレードで阪神から移籍してきた榎田だった。

 1回表、西武の攻撃。1死満塁からエルネスト・メヒアが併殺打を打ち無得点。するとその裏、ロッテは4番・井上晴哉がライトへ2点適時二塁打を放ち、2点を先制した。

 西武は同一カード3連敗がチラつき、嫌なムードが漂った。

 その流れを断ち切ったのが、キャッチャーの炭谷だった。

 2回表の第1打席、1死一塁で中前安打を放って、秋山の左前適時打をお膳立て。さらに4回表には涌井の内角寄りのボールをはじき返し、松井稼頭央の右前適時打、浅村栄斗の押し出し四球を呼び込んだ。5回表にはみたび炭谷が二死二塁のチャンスに、この日3本目のヒットとなる適時打を放った。

 打撃の好結果もあってか2回以降、炭谷のリードが冴えた。榎田は出塁を許すもののボールを両サイドに散らし、ロッテ打線にあと一本を許さない。

 結局、先にマウンドを降りたのは相手エースの涌井秀章で、榎田は6回107球を投げて被安打5、失点は初回に許した2点のみで、嬉しい移籍後初勝利を挙げた。

 その後の榎田の活躍は周知のとおりだ。

初めて組む投手は難しさがあるけど。

 5月13日現在、5試合に登板、先発では無傷の4勝0敗。防御率はなんと1.30。コンビを組んでいるのは全て炭谷だ。

 炭谷は、榎田と初めてコンビを組んだ4月12日の試合後、こんな言葉を残していた。

「初めて組むピッチャーは確かに難しさがあるんですけど、そこも自分は良い経験をさせてもらっています。国際大会とかオールスター戦は(ボールを)受けるのが初めてのピッチャーも多いわけじゃないですか。それと同じように初めて組むピッチャーに、あまり気を使い過ぎると、良くないことがこれまでの経験から多かった。だから僕はとりあえず自分が思ったことをまずやってみるようにしています。

 ピッチャーとコミュニケーションをとりながら、試合を進めることが良い方向に向いて行くと僕は思っているので。もちろん試合中は話しながら進めていくわけですけど、最初からピッチャーに気を使うのではなく、自分の中で『まずは俺の言うとおりに投げてみろよ』みたいな。言い方は悪いんですけど、まずは自分主導でやってみるのが一番という考えになったんです」

オールスターではノムさんから酷評。

 今も忘れられない試合がある。

 2011年7月22日のナゴヤドーム。オールスターゲームでコンビを組んだ武田勝(元北海道日本ハム)のリードだ。

 5回裏、武田は簡単に1死を奪ったが、荒木雅博(中日)、畠山和洋(ヤクルト)、ウラディミール・バレンティン(ヤクルト)、長野久義(巨人)に1イニング4本の本塁打を打たれるなど、この回だけで計8連打8失点を許した。

“お祭りムード”が漂うオールスターゲームとはいえ、それまでのシーズン成績が14試合に先発して防御率1.21だった武田である。彼がマウンドで放心状態になる姿は、ブラウン管を通して痛々しく映った。またこの試合の解説をしていた野村克也氏が、炭谷の配球について批判したこともあって“騒ぎ”は大きくなった。

 試合後はまるで全ての責任が、炭谷にあったかのように方々から言葉が相次いだ。

「大変なことをしてしまった」

 試合後の炭谷はうな垂れた。

 当時のことを彼はこう振り返る。

「2011年のオールスターで、1イニング4本のホームラン打たれて8失点して、本当にあのときはどうしたら良いのか分からなくなりました。それで僕はもっと自分主体で配球を考えようと、考えを改めることにしたんです」

まずは自分の考えをやり切ること。

 試合後、炭谷は武田のもとへ謝罪に行った。打たれたのはあくまでピッチャーであり、責任の全てを炭谷が被る理由はないにしても、さすがに他チームの先輩に恥をかかせてしまったこの日の夜はひどく落ち込んだという。

「自分はそのときがオールスター初出場だったんですけど、そこから国際大会にも行かせてもらって、本当に色々な経験をさせてもらい、良い勉強もさせてもらったんですけど、その経験があったからこそ今は、まずは自分の考えをやり切る。そういう考えに変えたんです」

 もちろん適当な勘に頼って、味方投手をリードしているのではない。

 若手時代からナイター終了後は、自宅に帰ってその日の試合をビデオでチェック。気が付くと夜中の2時を過ぎることもざらだった。

ロッテの試合でも凄く覚えている。

 2016年のオフから、炭谷と共に自主トレを行っている千葉ロッテの江村直也もこう言う。

「炭谷さんは良い意味でとても細かいです。たとえば『あのときの試合のあの場面、こうだったよね』とか凄く覚えているんです。僕が質問したことに対しても、納得が行く答えが返って来たり、自分たちとの試合のこともそうですけど、本当に良く試合を見ているし、覚えています。

 もちろん私生活の部分でも周りへの気配りを怠らないですし、何時に起きると決めたらその時間にちゃんと起きて、待ち合わせでも、絶対に遅れない。野球だけじゃなく全てのことで、自分は学ぶものが多かったです」

 そんな炭谷だからこそ当然、投手陣からの信頼も厚い。

 昨年は菊池雄星が投げた26試合全てでスタメンマスクを被り最多勝、最優秀防御率の二冠をアシスト。一昨年も開幕から8月末までの17試合でコンビを組み、厚い信頼関係にある。埼玉西武に籍を置いてから輝きを増したブライアン・ウルフとも昨年全試合でコンビを組み、今季は前述した榎田大樹の良さを引き出している。

 最近では森友哉がマスクを被る機会も増えたが、まだまだ彼の存在意義は大きい。

 江村は、炭谷についてこうも話す。

「リードだけというよりもプレー全体で自分の意思をしっかり持つことが大事だと僕の中では捉えています。一球、一球、意思を持ってサインを出すのもそうだし、その答えも常に持っておくのが大事だと……。なんでも中途半端にするのではなく、自分の思ったことをまずはやり切ることが一番大事なんだと銀仁朗さんは言っているんだと思うんです」

 様々な痛みや経験をバネに、捕手としての深みは増した。連敗の嫌な流れを止めたのも、ある意味、彼の洞察力があればこそだった。

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