古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

日本一へ「やられたままはイヤ」。千賀滉大、タイトルより登板の信念。

Number Web のロゴ Number Web 4日前 田尻耕太郎
千賀(中央)の最終登板で、サヨナラ勝ちを果たしたホークス。ポストシーズンでもその強さを発揮できるか。 © photograph by Kyodo News 千賀(中央)の最終登板で、サヨナラ勝ちを果たしたホークス。ポストシーズンでもその強さを発揮できるか。

 すんでの所で、スルリとこぼれ落ちかけた自身初タイトルが手の中に戻ってきた。

 ホークスの千賀滉大が今季13勝4敗、勝率7割6分5厘で「勝率第一位投手賞」を獲得した。

 10月6日のバファローズ戦(ヤフオクドーム)。今季レギュラーシーズンの最終登板に臨んだが、立ち上がりに小谷野栄一にタイムリーを浴びていきなり先制点を献上した。5回には若月健矢にプロ初本塁打を許すと、続くT-岡田にも連続アーチを浴びた。この時点でスコアは0-3。ホークスはその裏に反撃するも、千賀が6回3失点でマウンドを降りた時点ではまだ1-3とビハインドの展開だった。

 もし、このまま敗戦投手となれば、エライことになっていた。勝率7割2分2厘となってしまい同僚の東浜巨に抜かれて1位から陥落する危機にあったのだ。言い換えれば、この日の先発を回避して今季はもう登板しなければすんなりとタイトルを獲得できたことになる。

 チームの先輩で同じ先発投手の和田毅は「止めましたよ。だって、タイトルですから。僕なら投げない(笑)」ときっぱり言い切った。

工藤監督らに登板回避を勧められても「大丈夫です」。

 工藤公康監督や投手コーチも登板回避を勧めた。しかし、千賀は「いえ、大丈夫です」と首を横に振るだけだった。

 タイトルよりも大事なもの。千賀にとって、それは一体何だったのか。

「やられたままはイヤ。いい形でCSに入りたいんです」

 決意を語る表情はとても険しかった。この前の登板の9月25日のイーグルス戦(ヤフオクドーム)は散々な結果だった。序盤から失点を繰り返し、3回にはウィーラーにとどめの3ランを浴びるなどして今季ワーストタイの7失点を喫した。千賀は何度もマウンド上で茫然となった。

「お化けフォーク」が全く落ちない絶不調。

 今年、マスコミの前で選手批判を滅多にしなかった工藤公康監督もこの日ばかりは失望した口調でこのように言い放った。

「(千賀)らしくない……らしくなかったですよね。うーん、色々考え方や皆さんの見方もあるかもしれないけど、バッターと戦っている風には見えなかった。このピッチングは残念です。一番大事なのは戦う姿勢。特に楽天さんとはCSでも当たるかもしれないわけですから。次のピッチャーのことも考えないといけないかもしれません」

 まさかのCS先発剥奪の危機。9月以降の千賀はそれくらい絶不調が続いていた。17日のライオンズ戦(メットライフ)は6回1失点にまとめたが、球数を141球も費やした。異常事態だった。あの「お化けフォーク」がほとんど落ちなかったのだ。

「フォームのバランスが良くなかった」

 今年は開幕前にWBCを戦って臨んだ。檜舞台での大活躍で「世界のSENGA」と一気に知名度を高めた。シーズンはトータルで見れば好結果を残したが、じつはコンディションづくりには苦労した。

 5月には先発しながら初回のわずか9球で緊急降板した試合があった。背中の左側につったような症状が出た。その後も思うような投球が出来ず6月8日に登録抹消されて約3週間戦列を離れた。

納得いく投球は則本と投げ合った8月の1試合くらい。

 夏場は先発ローテを回ったが、納得のいく投球をしたのは8月19日のイーグルス戦(Koboパーク宮城)くらいだ。

「則本(昂大)さんと投げ合い、8回で10三振を奪って無失点に抑えた試合です。意識はしましたし、気合も入っていました。気持ちも内容もマッチした、今年で一番印象に残るピッチングでした」

 かつて右肩痛に苦しんだ。肩関節が非常に柔らかいのが千賀の特長だが、関節の緩い「ルーズショルダー」がその裏返し。故障のリスクと常に隣り合わせなのだ。そのため個人トレーナーと契約もして、ケアには人一倍気を遣っている。ただ、今年は体を触ってもらう回数を意図的に減らしたりもした。ケアを怠ったわけではなく、新しい調整法を模索し、自分がどこまで耐えられるのかを知る前向きな意味合いだった。

 若い時分の苦労は成長痛である。

 その努力の姿を、野球の神様はどこかで見ていたのだろう。

9回裏2アウト、上林の一打で負けが消えた。

 かくして一か八かで臨んだ今季最終登板はビハインドのまま降板をしたが、その後に劇的な試合展開が待っていた。

 1点差まで迫り、迎えた9回裏。2アウトながら走者は二塁。ここで上林誠知がライトへ同点のタイムリーを放って、千賀の黒星を消した。

 この瞬間、勝率1位タイトルが確定したのだった。

 白球は相手外野手が差し出したグラブのわずか前方に弾んだ。まさに紙一重で、よりダグアウトの興奮度は増した。千賀はみんなに頭を下げて回り、グラウンドではほとんど見せない満面の笑みを浮かべていた。

「感謝の気持ちでいっぱい。ただ、嬉しかったというより、なんか不思議な感じでした。正直、もう難しいかなと思っていたので」

「自分の中で掴めそうだなと感じた部分もあった」

 そして、この日で2年連続での規定投球回数もクリアした。

 タイトルホルダーとなった価値は、千賀はまだ知らないだろう。

 和田は千賀にこのような言葉を掛けていた。

「表彰式に行ったらすごく実感が出る。そうしたら次もこのタイトル、いや次はあのタイトルをという欲が出てくるよ。オフのいい刺激になって、練習のモチベーションも全然違ってくる。次の野球人生に繋がるから」

 また、肝心のCSへの調整は、6回3失点の投球ながら光が見えたという。特に序盤の3イニングは計6奪三振。うち5つは宝刀お化けフォークで奪ってみせた。いつものキレと角度でボールが落ちた。直球も常時150km台をマークした。

「自分の中で掴めそうだなと感じた部分もあった。しっかりコンディションを整えて、ケアもして臨みたい」

 試合後には“ライバル”の東浜からも「おめでとう」と祝福された。チームのみんなへの恩返し。それは、日本一奪回へと導くポストシーズンでの快投で示すしかない。

Number Webの関連記事

image beaconimage beaconimage beacon