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五輪選考で男女差別? 自転車女子選手と競技連盟、確執の6年

産経新聞 のロゴ 産経新聞 2019/05/15 15:27 株式会社 産経デジタル
五輪選考で男女差別? 自転車女子選手と競技連盟、確執の6年: 2018年の全日本個人タイムトライアルロードレース選手を制した與那嶺恵理(中央) =2018年6月17日、石川県志賀町(撮影:Cyclist編集部 松尾修作) © 産経新聞 提供 2018年の全日本個人タイムトライアルロードレース選手を制した與那嶺恵理(中央) =2018年6月17日、石川県志賀町(撮影:Cyclist編集部 松尾修作)

 自転車女子ロードレースの全日本選手権を3連覇中で、リオデジャネイロ五輪にも出場した與那嶺(よなみね)恵理(28)が、東京五輪の代表選考基準に男女で差があるのは不当だとして、日本自転車競技連盟(JCF、橋下聖子会長)に見直しを求め、日本スポーツ仲裁機構に仲裁を申し立てた。実は、與那嶺とJCFの対立は今回が初めてではなく、6年前から何度も繰り返され、現在は裁判でも争っている。女子トップ選手と競技団体との軋轢は昨年来、レスリング、体操などでも露呈したが、自転車界で何が起こっているのか?

五輪選考で男女差別? 自転車女子選手と競技連盟、確執の6年: 2016年の全日本選手権ロードレースを制した與那嶺恵理 =2016年6月25日、東京都大島町(撮影:Cyclist編集部 松尾修作) © 産経新聞 提供 2016年の全日本選手権ロードレースを制した與那嶺恵理 =2016年6月25日、東京都大島町(撮影:Cyclist編集部 松尾修作)

オリンピック憲章に違反

五輪選考で男女差別? 自転車女子選手と競技連盟、確執の6年: 自転車ロードレース女子の国内第一人者として、ヨーロッパのトップレースに参戦している與那嶺恵理 =2019年3月、ベルギー(提供写真) © 産経新聞 提供 自転車ロードレース女子の国内第一人者として、ヨーロッパのトップレースに参戦している與那嶺恵理 =2019年3月、ベルギー(提供写真)

 今回、與那嶺が仲裁を申し立てたのは、JCFが昨年9月に発表した五輪代表選考基準が男女間であまりにも異なることが発端だ。

 男子は世界トップレベルの「ワールドツアー」で60位以内に入るなど国際レースで獲得できるポイントが主な選考基準になる。ところが女子は、同様にワールドツアー40位以内などで獲得できるポイントは一切考慮されず、国内外のレースごとに3位以内、15位以内などと定められた上位に食い込まないと評価されない仕組みになっている。

 また、男子の選考対象レースは今年1月から来年5月末まで17カ月間に約800レースあるが、女子は今年4月下旬から来年5月末の13カ月余りで約100レースと大きな開きがある。

 この結果、ワールドツアーを中心に出場している2人の男子選手が五輪代表に近づく形となった一方、女子でただ一人ワールドツアーを転戦する與那嶺はメリットを削がれた格好だ。

 與那嶺は「スポーツのあらゆる場面における男女平等を基本原則としたIOCのオリンピック憲章に違反し、代表選考における男女の機会均等を大きく損なう」と主張している。

過去に2度「勝訴」

 與那嶺は堺市出身で、神戸女学院中学・高校時代はテニスに明け暮れたスポーツウーマン。筑波大学在学中の2011年に自転車競技を始めると、翌12年のロードレース全日本選手権でいきなり2位に入賞し、ひのき舞台に躍り出た。

 以降、全日本選手権のタイトルをロードレースで4度、ロード個人タイムトライアル(TT)で5度、マウンテンバイク・クロスカントリー(MTB・XCO)でも2度獲得。オリンピックや世界選手権に複数種目で出場しており、誰もが認める国内最強選手だ。

 しかし、JCFと與那嶺の確執は根深い。

 6年前の13年7月に行われたMTB・XCO全日本選手権で、與那嶺はトップでゴールしたが、JCFは「レース中に他チームから部品の提供を受けた」ことを理由に降格処分とした。與那嶺は「ルール違反ではなく、世界各地のレースで行われている」としてスポーツ仲裁機構に申し立てた結果、異議が全面的に認められ、全日本女王のタイトルを取り戻した。

 16年リオ五輪の代表選考をめぐっても対立。JCFは與那嶺が同年1月に日本チームの指示や方針に従わなかったとして、五輪直前の6月になって代表選考外と発表した。與那嶺はただちに仲裁を申請。スポーツ仲裁機構はJCFの対応を「客観的な証拠に基づくものではない」と断じ、処分取り消しの裁定を下した。

 その結果、與那嶺はリオ五輪出場権を獲得し、ロードレース17位、個人TT15位と、ともに日本女子選手で過去最高位を獲得した。

 さらに、JCFから日本代表チームで活動中の機材搬送費用が支払われなかったとして、與那嶺が支払いを求めて東京地裁に提訴。裁判は今も係争中だ。

個人へのハラスメント?

 対立が何度も表面化する背景には、JCF幹部や日本代表チームのコーチ陣と、與那嶺や彼女の個人コーチとが日常的に反目している事情がある。

 ただ、JCFがリオ五輪の代表選考をめぐり與那嶺を外した処分を取り消したにもかかわらず、東京五輪の代表選考で再び與那嶺に不利な基準を設定したことについて、競技関係者やファンの間では「選手個人へのハラスメントではないか」との見方も出ている。JCF関係者は、特定の選手を有利・不利にする想定はないとしている。

 女子スポーツをめぐっては昨年、オリンピックを4連覇したレスリングの伊調馨に対し日本レスリング協会幹部がパワーハラスメントをしていたとして、この幹部が辞任。また体操の女子選手も日本体操協会幹部によるパワハラ疑惑を告発し、注目を集めた。重量挙げの女子選手に対する日本ウエイトリフティング協会幹部のパワハラ疑惑も取り沙汰された。

 スポーツ競技団体では、現役時代に実績を残した選手が要職に就くなど、身内で意思決定の枠組みを作るケースが多い。このため社会常識とのずれに気付かず、ガバナンス(組織統治)の欠如に陥りやすい-との指摘もある。

男女に差「JCFだけ」

 今回、東京五輪の代表選考をめぐる與那嶺の仲裁申し立ては、新聞各紙をはじめ、NHKニュースや週刊文春のウェブサイトなどでも取り上げられ、注目を集めている。

 代表選考基準の男女間の差異については、「男女で競技レベルや競争環境が異なるため、やむを得ない」と理解を示す声もある。ただNHKは、東京五輪で競技が実施される33の国内競技団体にアンケートし、22団体から回答を得た中で、団体競技を除けば「男女で選考基準に違いがある」としたのはJCFだけだったと報じた。

 與那嶺自身は現在も欧州でワールドツアーを転戦中だが、自転車専門サイト「Cyclist(サイクリスト)」の取材に対し、「女子は選考レース数も少なく、選考期間も短い。とても公平で公正な選考とは思えません。この男女格差、差別を私は認めることは出来ません」などとコメントした。

 JCFは産経新聞の取材に「相手方と係争中のため、お答え出来ません」としている。

 スポーツ仲裁機構は3人の仲裁人による仲裁パネルを組織し、今後、証人尋問などを行った後に仲裁判断を行う。来年の東京五輪に向けて日本中でスポーツ機運が盛り上がる中、女子選手の競技環境の健全化という観点からも“告発”の行方が注目される。

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