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「なぜ? 目的は? どうして?」 デザインの意味を問う、 “おせっかいな”デザイナー〈minna〉

コロカル のロゴ コロカル 2017/06/19 コロカル編集部
© MAGAZINE HOUSE Co.,Ltd. 提供

これまで5シーズンにわたって、持続可能なものづくりや企業姿勢について取材をした〈貝印×コロカル〉シリーズ。今回からは、刃物やキッチン用品などの商品企画・デザインを手がける貝印株式会社のスタッフが、コロカル編集部と共に日本全国の未来志向のクリエイターを訪ねて、ものづくりの技術から、デザインフィロソフィー、ビジネススキームの話まで引き出していきます。

デザイナーという職能の現在位置

〈minna(みんな)〉というポップでユニークな名前を冠したデザイン会社がある。この社名には、会社として、そしてデザイナーとして目指す方向性が示されている。「みんなのためにみんなのことをみんなでやっていきたい。」というコンセプトに込められた3つの「みんな」が柱だ。

今回、minnaに取材にうかがったのが、貝印商品本部デザイン室チーフマネージャーの大塚 淳さん。大塚さんは、3つのデザイン賞(ジャーマン・デザイン・アワード、レッド・ドット・デザイン賞、グッドデザイン賞)を受賞した〈Pure Komachi〉というグレーターなども担当しているデザイナーだ。

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貝印商品本部デザイン室チーフマネージャーの大塚 淳さん。

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大塚さんがデザインを手がけたもののひとつ〈Pure Komachi〉。

同じデザイナーという職種でありながら、インハウスと外部という違いがある両者。まずは上記の3つのコンセプトについて話が始まった。

美術大学在学中の3年生の当時から、先輩と共同でデザイン会社を立ち上げ、卒業後もそのまま働いていたminnaの長谷川哲士さん。卒業して1年ほどで独立したが、多くの人が「一旗揚げたい」と思って独立するのに反して、独立自体が目的ではなかったという。「デザイナーとして達成したい目標、そして社会に対して提供したいバリューについて自問自答を繰り返すなかで、これは独立しないと目標に近づけないかも……と思ったんです。角田と話し合い、考えを深めていき、最後に残った言葉が『みんな』というシンプルな3文字でした。これを僕らの社名にしたいと心底思ったんです」(長谷川さん)

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仲むつまじいminnaのふたり。

公私ともにパートナーの角田真祐子さんもこう話す。

「学生時代から、見た目ばかり重視していては、社会に機能するデザインにならないのではないかと、もどかしく思っていました。社会に出たときにどう機能していくのかイメージできないと意味がないと感じていました」

こうした想いを練り上げていった結果、前述したminnaのコンセプトにつながった。たとえば「みんなのために/for everyone」。まだまだ世の中にデザインが届いていないという思い。

「デザイン業界にいると、みんなデザインに興味があるし、世の中のものが何かしらデザインされなくてはいけないということを理解できますが、役所や病院など、普段の生活を振り返ると、デザインされていない側面がたくさんあることに気がつきます」(長谷川さん)

まだまだデザインされていない場所やものが、たくさんあるということ。そしてもうひとつは、そもそもデザインという仕事がどんなものか認知されていないこと。

「地元の友だちに“デザイナー”をやっていると言うと、『ファッションをやっているの?』と聞き返されます。デザイナーはもっと広いジャンルに関わっているのに、それくらいにしか認識されていない。それはデザインの意味や必要性が伝わってないということ。逆に、僕たちがきちんと伝えられていないということでもあります。どちら側の問題でもあるけど、デザイナー側から歩み寄って解決できることも相当にあると思っています」(長谷川さん)

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髪型が変わったら一大ニュースの似顔絵アイコン。

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ふたりの母校である武蔵野美術大学の広報物。

「おせっかいなデザイナー」でありたい

企業や行政のプロジェクトにおいて、つくるものが決まったうえで「デザインしてほしい」という依頼が通常のデザインオファーの流れ。そんなときでもminnaのふたりは、「なぜ? 目的は? どうして?」とそれをつくる意味を問うていく。

minnaの仕事は、一般的なデザイン業よりも役割が拡大している。責任を持ったアウトプットをするために、可能な限り発注の上流から関わるようにしている。ときにはプロデュースやコンサルタント業のような内容になることもあり、プロジェクト名や商品名を決めるなんてことはしょっちゅうだ。

「病院に例えると、体調が悪いときに、自分で病名まで勝手に判断して病院に行きませんよね? デザインの発注はそういう状況です。ポスターつくってくださいと言われて、よくよく聞いてみると『ポスターつくっている場合じゃありませんよ』という、病名違いのようなことがたびたびあります」(角田さん)

デザイナーは、クライアントの想いや根本的な課題をつかんでいないままだと、つくったものがベストな答えかどうかの判断材料がない。デザインの答えは、その想いや課題に隠れているからだ。

貝印の大塚さんも、インハウスデザイナーの立場から返答する。

「デザイナーの役割はここ数年で広がってきています。デザイナーは“提案して受け入れられた”ことが喜びである職能の人間だと思いますので、これからもっと提案していくことができるように、いま取り組み始めています」(貝印大塚さん)

デザインの重要性を丁寧に伝え、幅広く関わらせてもらうこと。一般的なデザインを超えた、minnaのデザインはこう定義される。

「想いを共有し、最適な手段を用いて魅力的に可視化すること。その一連の流れをデザインと考えています。そのすべてに関わることは難しかったとしても、そういったことへ意識を届けたうえで、最後に可視化するのが私たちの仕事です」(角田さん)

角田さんは自らを「おせっかいなデザイナー」という。見た目の形に意味や説得力を持たせるには、前提が大切。そうしたデザインはきっと強い。

「提案時も、1案しか提出しないことも多いです。極論を言うと、つくる必要がないんです。想いや理念までさかのぼって方向性を共有できているので、大きく間違うことはありません。だから決定までは速い。もしそれを否定されたとしたら、僕たちのヒアリングミスと考えます」(長谷川さん)

「最初からひとつのプロジェクトチームとしてやりたいという話をしますね。クライアントとデザイナーという関係性のままだと、腹の探り合いで終わってしまいますから」(角田さん)

このような仕事のスタイルをこなしていくようになったルーツは、長谷川さんが武蔵野美術大学インテリア専攻だったことにルーツがあるのかもしれない。グラフィックなどと違い、インテリアは“生活の行為をデザインする”こと。長谷川さんは、「入学当初はただの椅子好きでしたけどね」と笑う。

「武蔵野美術大学は、当時は名作椅子の所有量が日本一だったこともあり、志願したんです。入学後、かっこいいインテリアショップなどにいくと、椅子はもちろん、内観も、紙袋も、ちらっと見えるバックヤードもかっこいいことに気がつきました。そう考えると、『椅子』をデザインしたかったのか、『椅子を売る』をデザインしたかったのか、迷うようになって。どうやら僕は後者でした」(長谷川さん)

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デザインの流れを図式化して説明。

廃材を利用したプロダクトデザイン

minnaの仕事に、廃材を利用した商品を開発しているアップサイクルのブランド〈NEWSED〉のリブランディングがある。貝印でも同じように工場では端材や切削ゴミが出る。

「シートベルトの廃材からつくられボウタイの商品が、以前からいいなあと思っていました。弊社でも同じように廃材が出てしまうのですが、個人的にはそれをただ売ってお金にするだけでなく、違うかたちにしたいと考えています」(貝印大塚さん)

リブランディングで関わる前のNEWSEDは、社会的な意義からも、廃材を使えば売れるだろうという考えだったが、しかしそれだけではダメだと、角田さんは言う。

「廃材だからこそ持っている背景のストーリーこそが、その廃材の価値。それを伝えていく商品開発をしていきましょうと提案して、リブランディングに関わることになりました」(角田さん)

背景をよく知っている社内デザイナーならば、今後、よりおもしろいアップサイクルプロダクトが生まれてきそうだ。

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〈MONOPURI〉というプロジェクトの〈WOW〉という商品。見る角度によって絵柄が変わる。

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五箇山和紙を使った〈FIVE〉というブランド。

運用を促していくための地域デザイン

地域での仕事は、コミュニケーションを重視しながらつくるminnaの仕事スタイルと親和性が高い。そうした依頼が増えているというが、それも必然かもしれない。島根県津和野町と三重県東員町、ふたつの事例でのデザインを見ていきたい。

津和野町は、観光に強い地域と農業に強い地域が合併してできた町だ。依頼は農林課からの「マルシェのデザイン」。もちろんここでもなぜ?どうして?とさかのぼっていったという。

「そもそもマルシェをやる目的は、まちを一体化したいとのことでした。ふたつの町が合併したこともあって、観光と農業が有機的に結びついていなかったんです。それなのにマルシェだけをやっても、農業だけが活性化してしまうと思ったので、もっと大きな『まるごと津和野プロジェクト』というものを提案しました。これならば、その名のもとに『まるごと津和野マルシェ』を開催してもいいし、のちに観光課のほうで『まるごと津和野ツアー』を開催してもいい。じつはこっそり企画書に『まるごと津和野ツアー』のロゴも忍ばせておいたんですよね、頼まれてないですけど(笑)」(長谷川さん)

その結果、マルシェはもちろん成功し、現在も継続している。のちにツアーも開催されたという。

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ぐるっとつなげた丸いロゴ。(写真提供:minna)

一方、三重県東員町の事例。こちらも当初は「健康活躍のまち 東員町」というキャッチフレーズでロゴをつくってほしいという依頼だったという。しかしこれはほかの地域にも使えてしまうような一般的なもので、まちの特長を表現しきれていない。自分たちではなかなかまちの良さを見つけられないという、地域に頻出する課題だ。

「東員町からは、古いだけでなく、整っていて上品な印象を受けました。だからほめ言葉としても、『おみごと!』という日本語の美しさがマッチすると思って『OMIGOTOIN』というプロジェクト名を提案しました。目に見える特産品より、町内の日常で起こる小さな“おみごと”にこそ、このまちのバリューがあると思ったんです」(角田さん)

ここでユニークなのはロゴマークだ。小学生のテストなどで付けられる花マル。これをベースにデザインした3重マルがオフィシャルロゴだ。

「お年寄りも多い町内でみなさんがそのオフィシャルデータを出力して使ったりするのは難しいと思ったんです。できれば個人商店やイベントでもポップなどに使ってもらえるように、3重マルというルールをデザインし、あとは書く人で差が出てもいいという前提にしたんです。整った美しさにはならないかもしれないけど、まずはみんなが気に入って、使いたくなることが大切。絶対コレを使ってくださいと押しつけても、結果崩れてしまうニセモノ感が生まれたり、使われなくて機能しなかったら意味がない。それぞれ自分が描いて味が出ることもポジティブに捉えるロゴのあり方もおもしろいのではないかと。私たちが抜けても、地元の人が運用していきやすいものを念頭に考えました」(角田さん)

「地域の場合は特に、100%ガチガチに固めるというよりは、余地とか振り幅を許容できる仕掛けが有効だと思います」(長谷川さん)

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おみごと! と声をかけたくなる。(画像提供:minna)

デザイナーというよろず相談所へ

minnaにははっきりとしたコンセプトがある。これを軸に据え、デザインをもっとみんなのためのチカラにしていくことが、創業時から変わらないminnaの目標だ。

「ちょっと体調悪いなぁと町の病院に行く。デザイナーもそれくらい気軽で身近な存在になれたら、世の中ももう少しハッピーになるんじゃないかなと思います」(長谷川さん)

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information

minna 

2009年設立。2013年、株式会社ミンナとして法人化。

角田真祐子と長谷川哲士を中心とする、みんなのためのデザインチーム。

【みんな】のために【みんな】のことを【みんな】でやるをコンセプトに、グラフィックやプロダクトなどのジャンルにとらわれず、領域を越えて幅広くデザインを行う。グッドデザイン賞、日本パッケージデザイン大賞金賞、他受賞多数。

http://minna-design.com/

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貝印株式会社

1908年、刀鍛冶の町・岐阜県関市で生まれた貝印は、刃物を中心に、調理器具、化粧小物、生活用品、医療器具まで、生活のさまざまなシーンに密着した多彩なアイテムを製造・販売。現在は、日本だけでなく、欧米やアジア諸国など世界中に製造・販売拠点を持つグローバル企業に発展しています。http://www.kai-group.com/

貝印が発行する小冊子『FACT MAGAZINE』

http://www.kai-group.com/factmagazine/ja/issue/3/

writer profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:岩本良介

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