古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

規格外の大型新人ブラック・カントリー・ニュー・ロード、ポストジャンル世代のバンド哲学を語る

ローリングストーン日本版 のロゴ ローリングストーン日本版 2021/02/09 17:45 Mariko Sakamoto

© ローリングストーン日本版 提供 2018年に結成。定評のあるライブはアルバム・デビュー前から完売が続き、「現在イギリスで最高のバンド」(MOJO誌)を始め異例のお墨付きと注目を集める話題の7人組ブラック・カントリー・ニュー・ロード(以下BC,NR)。シェイム、ブラック・ミディ、フォンテインズD.C.ら近年人気のギター・バンド同様、彼らの変則リズムや鋭角なギターにも音楽的支柱としてポスト・パンクのラディカルな実験精神が据わっている。

しかしサキソフォンやバイオリンを含む編成、民族音楽モチーフ、ポエトリー・リーディングに近い歌唱等の溶け込んだサウンドは、性急なロック・ソングではなく異なる質感がせめぎ化学反応が連鎖する、緩急に富んだ空間を編み上げていく。ピンと張り詰めた音世界はプログレ、ジャズ・フュージョン、前衛音楽とも通低するが、と同時に踊り出したくなるビートや印象的なリフ、ポップの快感も備えている。そんな高尚と軽佻のてらいのない交錯ぶりは最高にスリリングだ。

ずばり『For the first time』(初めて)と題されたアルバムは6曲入り約40分、ライブ・セットの流れをゆるく反映した作りになっている(2月8日付けのUK Midweek チャートにて初登場3位を記録)。今回バンドの成り立ちや本作に対する思いを語ってくれたルイス・エヴァンス(Sax)、タイラー・ハイド(Ba)、メイ・カーショウ(Key)の3人も屈託のない素直な受け答えが印象的で、自らの音楽の生んだ反響に興奮し驚いてもいる様が初々しい。何も世紀が変わったからと言って、暦に応じて新波が生じるわけではない。だがポスト・ジャンル世代を体現するカリスマとして、ニュー・タイプな感性の象徴として彼らの登場は必然だと思っている。BC,NRは音楽シーンの地図を刷新してくれるはずだ。

© ローリングストーン日本版 提供

左からチャーリー・ウェイン(Dr)、タイラー・ハイド(Ba)、ルーク・マーク(Gt)、ルイス・エヴァンス(Sax)、ジョージア・エラリー(Vln)、アイザック・ウッド(Vo,Gt)、メイ・カーショウ(Key)

―現在イギリスはロックダウン中ですが、どうお過ごしでしょう? 暇を持て余し手持ち無沙汰?

タイラー:(苦笑)今日は取材があるからそうでもない。

ルイス&メイ:(笑)

―1stアルバムのリリースまであと3日ですが、今はどんな気分ですか? 待ち遠しい? それとも不安?

タイラー:やっと世に出てくれるんだなって、興奮してる。ほんと長かかったから。妙な気分でもあるけど、こうして出ることで次の課題に目を向け始めることもできるわけで、そこは最高。

ルイス:すごくどきどきしてる。待ち遠しいよ! だから今週は本当にエキサイティングな週だし……そう、「ここまで長くかかったなあ」って気がしている。

―昨年録り終えていたものの、COVID絡みで発売を待たされたかと思います。普通だったらアルバム発売に連動してツアーに出る頃でしょうが、現在はそれもままなりません。フラストレーションを感じていますか?

メイ:もう発売は何カ月か延期したし、とにかくここで発表してしまおうよと、みんなが思った。とてもライブ向きなアルバムだから、リリースに合わせてツアーに出られないのはすごく残念。ただ、私たちとしても、もうこれ以上じっと待つのはごめんだってところじゃないかと(笑)。

タイラー:特に今って、ギグがやれるのはいつか――というか、次のライブがいつになるやら知りようがない状況なわけで。だからアルバム向けにライブ/ツアーをやれる時機をひたすら待つことにしたら、それこそもう1年待つかもしれない。

メイ:だよね。

タイラー:それは誰だって避けたいところ。

―昨年末からの再ロックダウン以降、ここ1、2カ月はどんな風に過ごしていますか? 音楽を書いたり、生産的に時間を費やしている?

ルイス:ああ、すごく有意義に過ごしている。先週は良かったな、みんなで曲作りに取り組んで、2nd向けのマテリアルを書いて。そっちはほぼ出来上がりつつあって。

―えぇっ! もう2ndアルバムを?

ルイス:(笑)うん。

メイ:(笑)フフッ、そう!

ルイス:ほぼ書き上がっている。かなりの曲を書いたし、ほんと、このロックダウン期もとても良い状態だ。それに実にラッキーなことに、職業としてやっていれば(近隣での食料の買い出し、エクササイズ等の理由以外での)外出移動は認められるから、リハーサル・スタジオに入りたければ僕たちは集まれる。だから、ここのところグレイトだね。リハーサルもすごく良い感じで、一緒に過ごせて本当に楽しい。それにもちろん、また音楽を書けるのは最高だ。

タイラー:それもあるし、以前の自分たちは音楽的にあまり生産的ではなかった、というか。でもロックダウンのおかげで、私たちも本当に、とにかく少しチルアウトしてリラックスさせられる羽目になった。人間として、そして友人同士としての自分たちの面倒をちゃんと見て、自分の健康等々にもちゃんと気を遣わざるを得なくなった、みたいな? だから、そんなに物事を急くのはやめにしよう、と。というのも、ロックダウンに入る前までの私たちの状況は、ほんとに混沌としていたから。バンドにまつわるハイプはものすごく強烈だったし……もしもロックダウンが強制的にもたらした休止期間とそれに伴うセルフ・ケアの時期がなかったら、自分たちはスピードが速過ぎて衝突しバラバラになっていてもおかしくなかったと思う。どうなっていたことやら。

ルイス:たしかに。

めざしたのは「ポップ・アルバム」

―アルバムの話の前に、軽くこれまでを振り返らせてください。BC,NRの前身に当たるバンドの結成はケンブリッジでとのことですが、当時(2015〜2016)のケンブリッジの音楽シーンはどんなものでしたか?

タイラー:(苦笑)そうだなぁ……。

―あんまりイケてなかった?

ルイス:いや、かっこいいことをやってる人だって何人かいたよ。たとえばピート・アーム(Pete Um)って人がいて。

タイラー:ああ(うなずく)。

ルイス:彼はかなり……時代を先取りしてるっていうか。その意味ではたぶん、2050年くらいにならないと時代が彼に追いつかないんじゃないかな。未来から来た音楽をやっている人。

―それはどんな音楽なんでしょうか?

ルイス:いやぁ、どこから説明すればいいのやら、自分でも……(苦笑)。

タイラー:彼は、ちょっと(詩人の)アイヴォー・カトラーっぽい人というかな。

―あ、なるほど。良いですね。

タイラー:ああいうタイプの人。で、(フーッ!と息をついて言葉を選びながら)すごく短い歌をやってて、それを混ぜて奇妙な……うう〜んっ! 困ったな、説明できない!

ルイス:(笑)だからきっと、彼の音楽を形容する言葉は今後出てくるんだよ。でも僕は、彼は時間旅行者か何かに違いないと思ってる。時間を越えて過去に戻ってきて、今の時代の僕たちに未来の音楽を授けてくれているんだ、ってね。少なくとも僕たちにとって、ケンブリッジの音楽シーンにおける彼の存在は重要だった。必ずしも僕たちの作る音楽に直接影響したわけではないし、音にはっきり聴いて取れる影響ではないかもしれない。でも、僕たちに影響したと思う。彼の音楽はしばしば、本当に面白可笑しく、と同時にかなりダークなところも備えていてね。彼の音楽へのアプローチの仕方、音楽の中にあるコメディの要素とダークな要素、それに対する彼のアプローチは僕たちにも確実に霊感を与えてくれた。

BC,NR制作のプレイリスト。バンドの音楽性に直結していそうな実験的バンドから、最近のメインストリーム・ポップまで幅広くセレクトされている。

―お話を聞いていると、以前からアウトサイダー・ミュージックやちょっと毛色の違う非メインストリームな音楽に強い興味があったようです。その興味はどこから生まれたのでしょう? 巷のポピュラー音楽が退屈だったから?

全員:(考えている)

―あなたたちのアルバムにしても、7人それぞれの個性や異なる音楽性が融合したとてもユニークで型破りなものになっています。たとえばの話、BC,NRのシングルがチャートのトップ40に入ることはまずないだろう、と。

ルイス:いや、っていうか、思うに僕たちがやっているのは……全員、ポップ・ミュージックは大好きなんだ。だからあれは、自分たちとしてはポップ・アルバムを作ろうとしたつもりなんだけど、ただ、あんまり上手にやれなかったってだけのことじゃないかな(苦笑)。

―あれがあなたたちにとってのポップ・ミュージック?

ルイス:だから、あれを良いポップ・アルバムにするにはまだ自分たちの手腕が足りなくて、結果的にああいうサウンドになってしまった、と。

メイ:そういうこと。音楽を聴くのは全員大好きだけど、常に聴いているのはポップだし。いつも聴いているし、私たちみんな、ポップ・ミュージックは大好きで。

タイラー:全員に共通しているのが唯一それだ、みたいな。7人それぞれに興味や趣向はたくさんあって違うけど、そんな私たち全員が心の底から愛しているのはポップ・ミュージックだ、と。で、きっと、私たちが生み出したものって……全員がそれぞれハマっている、本当にバラバラな色んなことの累積なんじゃないかな。だから、狙って風変わりなことをやろうとしたとか、そういう面は一切ない。とにかく私たち全員が友人仲間としてひとつの空間に集い、そこで一緒に何かを作り上げていった、その産物に過ぎないっていう。

メイ:そういうこと!

タイラー:自分たちをハッピーにしてくれる、愉快で楽しくしてくれる、そういう何かをみんなで作ろうとした。ほんと、それに尽きるな。ある意味、個性的であろうとすらしていないっていう。

バンドよりも友情のほうが大事

―BC, NRはいわゆる典型的な「男4人のギター・バンド」ではないですし、男女混成7人編成は残念ながらロックやインディ音楽界ではまだ風変わりと思われがちです。そんなあなたたちがバンドを始めた頃に目指したゴールや動機、バンドとして打ち出したい声明はどんなものだったんでしょう?

ルイス:僕たちはとにかく、みんな友だち同士だったんだよ。純粋に、音楽的に、お互いの演奏の仕方が気に入った。正直、「うーん、これはちょっと一般的な『ロック・バンド』像に当てはまる編成じゃないな」だの、「女の子がいる」だの、そういったことは誰の頭にも浮かばなかったと思う。それよりも第一に、自分たちが友人仲間だった、その事実の方が大きいんじゃないかな。さっき言ったように、全員がお互いの演奏ぶりを良いな、好きだと感じたわけで……うん、バンドをやることにした動機といったら、ほんと、そこだね。それ以上の、ご大層なことはこれといってない。前もってあれこれ考え抜いて始めたものではないし、バンドに7人いるのは僕たちには別に不思議でもなんでもない。周りからすれば妙に映るのは僕も承知だけど、単にずっとこういう大編成でやってきたし、これが普通であって。自分たちにとってやっていて楽しいのはこれだ、そういうこと。

© ローリングストーン日本版 提供

―個性派ぞろいの大集団は基本的にどんな風に動いているんでしょう。完全に民主的? それとも、誰かがリーダー的に指示を出して引っ張っていく?

タイラー:かなり民主的。

―全員が貢献し、それぞれのインプットを加えていく、と。

タイラー:そう。まあ、楽曲の開始点みたいなものを誰かひとりがセッションの場に持ち込む、ということはある。でも、そのとっかかりもあっという間に他の全員が取り込んでしまうし(笑)、誰もがそれに合わせて自分のパートを書いていく。そうしながら、そのアイディアに合いそうだとみんなが思ったパートをあれこれ付け足していく、そんな具合で。

ルイス:それもあるし、特に、7人も――いや、僕の視点から言えば自分以外の6人ってことだけど、このバンドには本当に、非常に優れた演奏家兼作曲家が他に6人もいるわけで。ということは、ひとりじめして自分で曲の何もかもを書こうとするのって、このバンドの持つものすごいポテンシャルを無駄にすることになるわけで、とてももったいないよ。絶対にそうあるべきじゃない。

メイ&タイラー:うん。

ルイス:だから、みんながそれぞれ自分の意見を出せる、その点は大事なんだ。他の人間の考えの方が自分のそれよりも優れているってケースはしょっちゅう起きるし、だったらそのより良い意見に従う。メンバー全員がお互いに対して抱いている相互のリスペクトの念、そのおかげで僕たちはかなり民主的にバンドをやれているんじゃないかな。たとえば、僕が思いついたアイディアがあって、でも、ジョージア(・エラリー/バイオリン)はそれをやりたがらなかったとする。でも僕たちは、たとえ自分の意見に同意しないとしても相手を尊重しているから、その思いつきはボツにしてそれ以上探らない、みたいな。「自分の『これをやるべきだ』という考えよりも、彼らにはもっと良いアイディアがあるんだろう」と考えて自分の意見を引っ込めることができる、それくらいリスペクトがあるわけ。

だから何もかもは、僕たちがお互いに対して抱く敬意、そして双方の間で育んできた友情を基盤にして機能している。ってのも、もっと大事なのは――僕たちの間にある友情、そっちの方がバンドよりもずっと大事だから。せっかくのこの友情がバンドのせいで、ちょっとしたくだらない音楽のせいで台無しになってしまったら、意味がないよ(笑)。

メイ:(笑)

タイラー:(笑)すごく良いこと言うね〜!

ルイス:(照れ笑い)

歌詞と音楽は別の場所に存在している

―バンド名に含まれるBlack Countryという言葉は「Science Fair」をはじめとしてアイザック(・ウッド/Vo,Gt)の書く歌詞にも何度か登場します。この言葉は何を象徴していると思いますか。まさかイギリスのことじゃないですよね?

タイラー:特に……「これ」といった意味はない。

ルイス:バンド名にまつわるものであって、自己参照して内輪受けしている程度のことじゃないかな。

タイラー:そう(苦笑)。

ルイス:だから、僕は意味を特定するつもりはないというか、自分には分からないし……その質問はたぶん、彼(アイザック)にぶつけた方がいいんじゃない? ぶっちゃけ僕たちプレイヤーの側は、彼の歌う歌詞の内容についてはやや曖昧だから。

メイ:何を言っているのか、あんまり分からないことは多い。

―(笑)そうなんですか。あれは音楽に触発されて生まれる歌詞ですよね? 音楽が先で、そこに彼が歌詞を乗せるスタイルなんじゃないか、と。

ルイス:うん。

―あなたたちなりにそのコンポジションの雰囲気を解釈していると思いますが、演奏中に歌詞を耳にして「えっ、そういう歌詞なの?」と驚くことはありますか? それとも、彼の歌っていることには大体共感できる?

タイラー:正直、彼が何を言っているのか、演奏中はほとんど聞こえない(苦笑)。

―かなり激しくシャウトしているように聞こえますが。

タイラー:(笑)演奏にものすごく集中しているから、他は聞こえない! それとか、誰かを相手にプレイしていると歌は耳に入ってこない。演奏している間、私は主にルーク(・マーク/Gt)とチャーリー(・ウェイン/Dr)の演奏に半々ずつ耳を傾けながらプレイしているし、アイザックが何を歌っているかは聴いていなくて。でも、たまに彼が歌っていることが断片的に耳に入ってきて、そこで「うわっ、強烈!」とか「ああ、良いな」、「エモーショナルだな」程度には感じるけど、それ以上になることはない。だからある意味、アイザック本人を除く残りの6人にとって歌/歌詞は別の場所に存在している、ふたつの異なる世界が存在しているのに近い、みたいな? でも、私自身がコネクトしているのは音楽パートの方であって、歌詞ではない。最初に出来るのは音楽だし、全員で一緒に作った音楽だから、そうなって自然。それにアイザックの書く歌詞にしても、あれは彼が自分ひとりで書いてきたケースが多い。もう出来てる。彼の作詞はまた別の場所から出て来たってことだし、そうやって書いたものを、彼が私たちの作った音楽に持ち込んでくる。そんな感じ。

―ステージ上で同じ空間で演奏し即興やジャムが起きていたとしても、そこで全員がインタラクションしているわけではない、ということ?

ルイス:いやだから、ステージで演奏している時に僕たち(ヴォーカル以外のプレイヤー)があまり耳を澄ませていない、反応する率がいちばん低いのはヴォーカル部だ、ということ。楽曲のセクションが変化する箇所、歌詞の流れを聴きながら「あ、ここで曲が別の方向に切り替わる」というタイミングをたまに掴む場面を除くと、ヴォーカル部とはまったく関わり合っていない。もちろん、アイザックの弾くギターとはがっちりインタラクトしているよ。ただ、彼のヴォーカル部とはそんなに相互作用していない。さっきタイラーが言ったように、確実に別個の存在なんだ。ほんと、(苦笑)それ以上は僕にもなんとも答えようがないなぁ。少なくとも自分に関して言えば、ライブで使うモニター・スピーカーのミックスでヴォーカルの音量は確実に低い。モニターに入れるのはバイオリン、シンセ、ベース・ギターにハイハットくらいだ。

タイラー:同時に何もかもに耳を傾けるのは、どだい無理な話なわけで。自分のモニターにどのサウンドを含めるのが必須か、そこはすごく慎重に決めなくちゃならないし、たぶん私たちの誰ひとりヴォーカルをモニターに含めていないと思う。そうは言っても、私たちにとってはヴォーカル部も楽器のひとつみたいなものであって。歌詞そのものとはあまり結びついてはいないけど、楽曲の中で何かが起きるポイントとしてあれらの言葉を耳にしている。言い換えれば、意味のある言葉として歌詞を聞いてはいなくて、純粋に楽器演奏の目的であれらに耳を傾けているっていう。

アルバムは「声明」ではなく「録音時の記録」

―1stアルバムが完成し、これまで変化してきた歌詞も歌詞カードに印刷され、内容を細かく分析されると思います。これらの楽曲は固定したとも言えますが、収録された6曲はいずれ変化したり、バンドとして再訪して別の形に変わっていくと思いますか? それとも「とりあえず現時点での自分たちはこういう姿」という記録を残した、そういうアルバムに近い?

メイ:うん、間違いなくそういうもの。自分たちの現在地点を記すドキュメントだと思う。でも、と同時に、ここから自分たちはまた音楽家として絶対に変化していくだろうと思っているし、「Athens, France」と「Sunglasses」の2曲(アルバムの前に発表されたシングル)をアルバム向けに再録した理由のひとつもそれだった。というのも、あの2曲はライブでさんざん演奏してきたからずいぶんと、丸ごと変化したし。それに私たちも初期ヴァージョンには少々飽きてしまって(笑)。古びて生気に欠けるものにしたくはないし、新鮮さを保ちたいわけで。だからちょっと変化させることにもなるし、たぶん今後の私たちの進み方もこんな風になっていくんじゃないかな?

―ライブが基本のバンドだけに、音楽も流動的で常に進化しています。そんなあなたたちのアルバム制作へのアプローチはどんなものでしたか? ライブと録音音源とはまた別物だと思いますし、自分たちを盤に固定してしまうことに不安はなかったでしょうか? あなたたちを生で体験できない日本や世界各地のファンの多くにとって、このアルバムは一種の動かしがたい教典みたいなものになるわけです。

ルイス:アルバムを作るとして、それが純然たる「アルバム」的なアルバムだったとするよね。何もかもが作品そのものに貢献し、収録されたどの曲にも必然性がある、そういうアルバム。「アルバム」として書かれ、アルバムを作ることを目指してレコーディングされたものであり、それはバンドの最初の声明としては実に大きいものだ。で、それはとある時間の中に完全に固定された何かになっていく、と。そうやって作ったアルバムをライブで別のやり方で演奏すると、観客の反応は「アルバムの音と同じじゃないから気に入らない」か「アルバムとは違うけど良いヴァージョンだから気に入る」、そのどっちかだと思う。でも、僕たちは可能な限りライブ・パフォーマンスをやっているつもりでこのアルバムを録ろうとしたんだ。

だからこのアルバムにはさっき言ったような「バンドとしてのでかい第一声」的なフィーリングが伴っていないし、とにかく、この作品の録音時に自分たちはどんな場所にいたか、その姿を反映したものに過ぎない。それは本当に重要なんだ、ということはアルバムに収録された楽曲にもまだ育つ余地があるってことだし、アルバムに入れたものはあれらのトラックの「決定版」ではない。というか、今後も生まれないと思うし、おそらく自分たちのどの楽曲も「これで決まり、何も変えない」という決定的なヴァージョンは出てこないんじゃないかな? 

僕たちはとても飽きっぽいし、すぐ退屈になるから常にあれこれ変化させざるを得なくなる。実際、僕たちはこの1stをあまりにも「いかにもアルバムらしいアルバム」にはしないようにしたんだよ。それって妙な話だと思われるだろうけど、このアルバムは何もご大層な声明ではなくて。これらの楽曲は純粋に、最初の1年半の間に僕たちが書いたものであって、収録曲の間にもそれほど大した繫がりはない。それこそ、リハーサルをやっている現場に誰かがマイクを一本立てて一週間録音し、その中から自分たちにやれたベストなヴァージョンを選んだ、それがこのアルバムだ、みたいな。

―他にも候補曲はあったと思うのですが、この6曲だけに絞ったのはなぜでしょうか?

タイラー:しばらく前にライブで演奏していた歌は、たしかに他に2、3曲あった。ただし、結局ボツにしたんだよね、ライブで演っている段階ですら良い曲ではないのが分かったから。で、もうちょっと後で、割と最近になって書いた曲が2曲くらいあるんだけど、そっちは逆に、2枚目のアルバムのサウンドを示唆し過ぎるというか。その2曲は、私たちがこれから向かいつつある方向、その始まりを記している。私たちが次に乗り出す旅路にとってとても重要な楽曲だってことだし、だから1stに含めて発表してしまうのはもったいない、と。それに、1stに「Track X」って歌があって、あれは私たちのサウンドがこれからどうなっていくか、それを知るちょっとした手がかりになる曲というか。あれに留めておくことにしたんだ、他の曲も入れてしまったら今後を明かし過ぎることになってしまうし。

―その「Track X」は、私もアルバムの中で一番好きです。

タイラー:良かった、ありがとう! きっと、あなたは2枚目も気に入るはず。

―エレクトロニック・ミュージックが主体のニンジャ・チューンは生楽器を弾く若手のインディ・バンドを送り出すことで有名なレーベルではありませんが、彼らと契約したのはなぜでしょう。

メイ&ルイス:えーと……(と同時に答え始めて譲り合う)

メイ:(笑)答えたい?

ルイス:(笑)いやいいよ、メイ、どうぞ答えて。

メイ:ん、いくつかのレーベルと会って話をしたんだけど、中でもニンジャ・チューンの人たちは本当にこちらをサポートしてくれる感じだった。それに、彼らは私たちに近いタイプのバンドと仕事したことのないレーベルだし、そのぶんこちらにエキサイトしている感覚があって。だからたぶん彼らの側も私たちに全力投球してくれるんじゃないか、そんな気がした。そんなところだと思うけど、(他のふたりに対して)どう思う?

タイラー:うん、今話に出た、彼らの所属アクトに私たちのようなバンドが他にいない点だけど、そのおかげで私たちは同じレーベル内で競合する必要がないんじゃないかな。たぶんリリース日程も被らないだろうし、何をいつ発表するかの面をコントロールする自由がこちらにもっとあると思う。でもとにかく、彼らは他のレーベルの誰よりも私たちに対してすごく熱心な人たちだった、というか。初めて対面した時から、彼らとは繫がりを感じてすごく意気投合した。自分たちがこれまで仕事してきたあらゆる人々に関してそうなんだけど、そうやって結びつきを感じるのは私たちにはとても大切なことで。BC,NRが成り立っている、その核になっているのがそこだから。

で、彼らは手紙を書いてくれたんだよね。私たちのためにどういうことをやりたいと思っているか、それらの要望・提案をまとめたものだったんだけど、あれはものすごく熱いエモな内容の手紙で、すごく良くて(笑)。契約しようとしているバンドを夕食会に招くとか、どこかに連れ出してもてなすとか、そういったところは一切なくて、彼らは私たちとコネクトした。あれはほんと、素敵だった。

サウスロンドン・シーンとの繋がり

―BC,NRはおおまかに「南ロンドンのシーン」に含まれています。とても活気のあるシーンですが、ロックから前衛、ジャズまでバラバラなバンドや音楽性をまとめているものがあるとしたらそれは何だと思いますか。なぜ、南ロンドンでこの状況が起きているのでしょう?

ルイス:アーティストのクリエイティヴィティを本当に養って育てくれる、そういう会場がひとつあるからだよ。そこはThe Windmillっていう名前の会場で、南ロンドンで音楽的に多くのことが起きているのはそのせいだ。僕たちもそこには感謝しなくちゃいけないだろうね。

―そのWindmillと言えば、同会場を応援する資金調達のチャリティ・ライブをブラック・ミディとのコラボの形で昨年やりましたね。若い世代のバンドが盛り上がっていますが、中でもブラック・ミディはあなたたちがもっとも親近感を覚える存在?

メイ&タイラー:うん。

ルイス:そうだね、間違いなく。彼らは友人だし仲が良い。

両バンドが合体した「Black Midi, New Road」としてのライブ映像、Windmillにて収録

―そういえば、ルイスはスクイッドの1stアルバム『Bright Green Field』(今年5月7日にワープよりリリース予定)にゲスト参加しているそうですね。

ルイス:うん。

―どんな体験でしたか?

ルイス:すごく良かった。本当に楽しかったし、フリーな即興っぽいことをやって。すごく良い経験だったし、彼らのアルバムは素晴らしい音に仕上がっているよ。あれをやれたのは抜群だった。

―3月7日にはアルバム発表記念のVRライブをクィーン・エリザベス・ホールでおこなう予定だそうですが、演奏中にもっと動き回るつもりですか? 

メイ:アハハハッ!

―あなたたちのライブはいつも、狭い舞台に押し込まれて全員が石像のようにじっとしている印象なんですけど。

ルイス:(笑)

TE:(笑)それくらい演奏に集中してるから、動く余裕なんかない! 

―QEHは広いから、自由に動きやすいと思いますよ。

タイラー:(苦笑)それはどうかなあ〜? まあ、見てのお楽しみ……っていうか、本当に久しぶりのライブだから、すごく緊張して固まっちゃうかも。怖くて、(笑)かえって余計に動けなくなりそうな気がする。

―無観客のギグだから緊張しないのでは?

タイラー:うん、ただ、ライブだし。

ルイス:お客は入れないけど、生でストリームされるからね。なぜだか、そっちの方が逆にビビらされるっていう。

メイ:そうそう。

―イギリス同様、日本でもなかなかライブを観られない残念な状況が続いて久しいです。私自身、ライブってどんな体験だったっけ? 生でバンドを観るのってどんな感じだった?と忘れそうになるくらいで。観客として、あるいはプレイヤーとしての観点からでもいいのですが、ライブを体験することの良さや重要性、その喜びをあなたたちなりに話してもらえますか?

タイラー:ライブ・ギグの良さはやっぱり、音楽をフィジカルに体験できるってところじゃないかな。「フィジカル=肉体的に」っていうのは、まあ、私はベース奏者だからやや常套句な言い方かもしれないけど、文字通り、自分の身体を波動が伝わって走っていくのを実感する。そうやって音楽との繫がりを体感できるし、ハートと頭の双方が直撃されて。そのヴァイブレーションの衝撃は、音楽をラジオで聴いた時とか、各種メディア再生プレイヤーで聴いた時には起こり得ないものであって。うん、ライブで起きる音楽とのフィジカルな結びつき、私はそこだと思う。

© ローリングストーン日本版 提供

ブラック・カントリー・ニュー・ロード

『For the first time』

発売中

詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11526

ローリングストーン日本版の関連リンク

ローリングストーン日本版
ローリングストーン日本版
image beaconimage beaconimage beacon