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緊急インタビュー・石破茂「〈誰のための政治なんだ!〉という怒りにこたえることこそが政治の基本」

婦人公論.jp のロゴ 婦人公論.jp 2020/05/12 20:00 石破茂
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〈本日発売の『婦人公論』5月26日号から全文掲載!〉新型コロナウイルスの感染が拡大し、危機的な状況が続いています。しかし日本では「緊急事態宣言」発令の遅れや自粛要請にともなう補償をめぐり、国民の不満は高まるばかり。そんな中、衆議院議員・石破茂さんの発言に注目が集まっています。与党議員でありながら政権批判を続けるのはなぜなのか。また普段、国民からの声をどのように集めているのか、ジャーナリストの中村竜太郎さんが斬り込みます。(構成=中村竜太郎 撮影=本社写真部)

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【写真】「政治家の仕事はたったひとつ、勇気と真心を持って真実を語ること」

民主主義はプロセスが大事

中村 安倍総理が緊急事態宣言を出して、国民へ外出自粛を呼びかけていますが、状況は日々、深刻さを増しています。私たちは我慢をしつつ大きな不安を抱える毎日なのに、政府が最初に行った施策は、466億円を使って「1世帯に布マスク2枚」。生活に余裕のない個人や企業がいつ潰れるかもしれないのに、経済補償は後手に回っていて、政権への不満は強まるばかりです。

石破 政府は感染拡大を阻止するために真摯に取り組んでいますが、それが不十分かもしれませんし、批判があるのもまた事実です。特に、誰が何に困っているか、何に怒り、何に悲しんでいるかという想像力が政権に欠けていると思われています。新型コロナに関連して、世の中の人がどんな思いでこの苦しい状況を闘っているか、それを肌で感じて迅速に対応しなければ期待は失望に変わってしまいます。

大恐慌以来とされる国難ですから、問題は山ほどありますし、いろんな意見や考えも調整しながら進めていかねばならず、すべてがうまくいくとは現実的には考えられません。ですが、世の中の人が求めているのは、正確な情報を知って、不安を払拭したいということだと思います。

中村 どんなプロセスで対応を決定しているかが、まずわかりませんよね。

石破 私は、民主主義はプロセスが大事だと思っています。形式的ではなくて、どれだけ多くの人の意見を反映し、そしてどれだけ少数に配慮するか。反対意見の人に対しても、ある程度納得してくれるように話し合わなくてはならない。政府の説明が世間の人に伝わらないということは、おおいに反省すべき点ですね。

中村 海外で感染者が急増し社会機能が停止している前例を見ていながら、それを活かしきれず、非常事態宣言が遅かったという批判もあります。

石破 日本での非常事態宣言というのは、いきなり戒厳令が敷かれて、警察の方が検問したりするわけじゃない。知事が権限行使できるということですから、もっと早くてもよかった。じゃあ、いつかというと、東京で初めて死者が報告された2月26日、あるいは東京で感染経路が不明な感染者が出た3月半ば。ここできちんとした説明をし、理解を求めればもっと良かったかもしれない。

中村 人的接触を8割減らせば感染増加を抑えられると言われているのに、遅きに失した感があります。

石破 やはり、アベノミクスで成功したということ、オリンピック・パラリンピックの開催、習近平国家主席の国賓来日、という予定の中で、もちろんアベノミクスが失敗したとは言われたくない、オリパラや習主席来日はできれば予定通りに、という思いは政権のどこかにあったでしょう。それで非常事態宣言が遅れたとは私は思いませんが。

中村 政府の対応の遅さを目の当たりにするといろいろ勘ぐってしまいます。例のマスクにしろ、生活者との感覚のズレは、いかんともしがたい。

石破 福田(康夫)総理の頃、私は防衛大臣としてお仕えしましたが、最高権力者たる総理の孤独をしみじみと目の当たりにすることがありました。総理の嫌がりそうなことは、周囲も言いたくない。耳障りなことを言うと遠ざけられてしまうこともあるから、結局ご機嫌取りのようになってしまうことも多いでしょう。マスク2枚配布も、必ずしも総理自身のご意向ではなかったのかもしれません。

石破茂さんのインタビューが掲載された『婦人公論』5月26日号(表紙は元ブルゾンちえみこと藤原志織さん) © 婦人公論.jp 石破茂さんのインタビューが掲載された『婦人公論』5月26日号(表紙は元ブルゾンちえみこと藤原志織さん)

中村 お肉券とかお魚券というのもありました。

石破 たぶん、畜産農家や漁師が喜ぶ、と議員は考えたはずです。その善意は疑いません。しかしそれが国民全体にどう受けとめられるかも考えなければならない。個の利益と全体の利益の峻別をしないと両者を錯覚してしまう。要は国民とのズレですね。

ここでのお金は当然自分のお金ではなく、国民が払った税金もしくは次世代の人々からの借金です。これをどう使うのが国民のためなのか、その発想が一番大事で、権力側は「何々してあげる」みたいな発想を間違ってもしてはいけない。

世間の人の声にきちんと耳を傾けること

中村 医療崩壊の危機は、諸外国のケースから予見できたはずなのに、政府は手立てがないまま医療現場まかせ。石破さんが国のリーダーならばどうしますか。

石破 例えば、1918~19年のスペイン風邪のときは日本でも45万人が亡くなりました。その割合を今の日本の人口に換算すると120万人にも上ります。また、妻夫木聡さん主演の映画『感染列島』も、よくできた内容で、医療崩壊とはどういうことかが描かれています。過去の例に学び、今後も予測できない感染症は起こりうることを踏まえれば、何もないときから準備をしておかないといけないでしょう。

中村 具体的には?

石破 私は以前から防災のためのプロ集団としての「防災省」を作るべきだと言っているんですが、これに、公衆衛生に重きを置いた感染症対策、防疫の機能を付加すべきでしょう。

先日スウェーデン大使とお話ししたんですが、人口1000万人のスウェーデンには感染症対策の常設機関に専門家が300人いるそうで、日本の人口割合に換算したら4000人の規模です。アメリカにもCDC(疾病予防管理センター)がありますが、これら専門機関は独立していて、いざ感染症が発生したら、政府が専門家の意見に従い、専門家が会見を開く。日本では政府が専門家を下に置いて、政府が情報を管理し会見を行う、というやり方をしています。

中村 諸外国とまるっきり逆ですね。

石破 そうですね。総理は大きな方向性を説明し、細かい方策については専門家が解説するほうが、納得感が得られる部分も大きいと思います。このような危機管理の局面では、政治があまり細かいところまで介入しようとすると混乱が生じやすくなります。また専門家集団についても、ただ感染症の専門家というのではなく、それを行政や社会にどのように反映すれば感染拡大を防げるか、という観点が重要です。

今は諸外国の情報もかなり自由に即時に入手できるし、日本にも過去には新型インフルエンザや鳥インフルエンザがあったわけですから、そうした過去の経験も踏まえて平時に対策を練っておいて、いざとなればその知見を存分に生かすのです。

中村 コロナでの休業補償はどうお考えですか。

石破 これも、世間の人の声にきちんと耳を傾けることが大切だと思います。そのすべてに答えが出るわけではないし、すべての人に満足が与えられるとも思いませんが、自分の思いを政府はわかってくれているのか、という問いかけにこたえることはできる。

たとえば私の鳥取の同級生でナイトクラブを経営している女性がいるんですが、電話で、「石破君、わかってる? 行政の書類はもう3ページ読んだだけで心が折れる」って言う。「読んだらすぐパッとわかるようにして! 役所に行ったら、あの書類出せ、この書類出せ、もう1回来いとか、誰のための政治なのよ!」って怒り心頭。けれどそういう声にこたえることこそが実は政治の基本だと思うんですね。

政治家であることは手段であって目的ではない

中村 かつてのインタビューで石破さんは、「権力は弱い人のために使う。それが政治だ」とおっしゃっていました。

石破 それは私が師事した田中角栄先生の言葉なんです。私の父親、石破二朗は鳥取の農家に生まれ、東京帝国大学を出て建設事務次官、鳥取県知事、参議院議員、自治大臣を務めました。私は姉2人がいる末っ子で、慶應義塾大学を卒業後に三井銀行へ就職しました。

父は角栄先生と本当に仲がよくて、81年に父が亡くなったのを機に、角栄先生から「おまえが出ろ」と勧められて政界入りした経緯があります。私が大きな影響を受けた政治家は3人おられますが、角栄先生には、そばにいて多くを学ばせていただきました。

中村 残りのお2人は誰ですか?

石破 2人めは渡辺美智雄先生。先生からは「おまえたちは何のために政治家になるんだ。金がほしいのか、先生と呼ばれたいか、良い勲章をもらいたいのか、女性にモテたいのか。そんな奴はなるな。よく聞け、政治家の仕事はたったひとつ、勇気と真心を持って真実を語る。それができない奴は絶対になるな」と、政治家とは何かというのを教わった。

3人めは竹下登先生。私は政治改革を志して自民党を出て、失意のどん底で自民党に復党したのですが、竹下派でもなかった私が再び自民党から選挙に出るとき、先生は鳥取県の関係者を20人以上集めてくださって、「石破を頼む」と一番下座から頭を下げてお願いしてくださった。

中村 下座から頭を下げて……。

石破 普通、できることではないと思います。批判も多々ありましたが、お三方とも、地方出身者で、庶民であり、庶民の味方でした。そして、政治家であることは手段であって目的ではない、ということをそれぞれ教えてくださいました。

中村 石破さんは当選11回、議員34年。農林水産大臣や防衛大臣など閣僚を6年間、幹事長と政調会長の党三役を4年間おやりになって、2世議員のエリートではないですか。

石破 「ポストも歴任し選挙も強い、両方持っている。それがない人が圧倒的多数であることを忘れるな、おまえが政権批判すればするほど嫌みに聞こえる」と耳の痛い指摘をしてくださる方もあります。それはありがたいことです。厳しいことを言ってくれたのは両親もそう。私が子どもの頃は知事公邸が住居で、家政婦さん、庭師さん、そして多くの役所の方々が出入りしておられた中で、忘れられない経験をしています。

中村 どんなことでしょう。

石破 未就学の年齢だったと思いますが、あるとき私が家政婦さんに生意気な口を利いたことがありました。すると父が「おまえには人に仕える者の気持ちがわからないのか!」と、それはもう烈火のごとく怒りまして。母親も「おまえが偉いわけじゃない。出ていけ!」と真冬の夜に一晩、放り出された。まあ、本当に怖かった。その記憶は忘れようもないですし、子ども心に人との接し方を叩きこまれたような気がします。

中村 そんなことがあったんですね。そして今、石破さんは世論調査の結果からも「ポスト安倍」として有力視されています。

石破 ありがたいことです。おそらく国民の多くは自民党を支持してくださっているが、安倍政権はちょっと違うんじゃないかと思う方々が出てきて、自民党で政権とは違う方向性を発信しているのは石破だと。そういうことかなと思います。

中村 安倍総理は石破さんを嫌っていると聞きますが。

石破 そうだとすれば不徳の致すところです。平和安全法制をめぐって私と総理の見解が違ったところからなのかもしれません。自分の考えと内閣の考え方が違うのであれば、大臣をお受けしても内閣不一致になって結局ご迷惑をかけます。一昨年の総裁選では現職総理と一騎打ちという形にもなりましたし。

中村 来年の総裁選に出ようにも、現時点では、石破さんは推薦人が2人足りないですよね。

石破 来年の話はどうかわかりませんが、長年、総裁選を見てきて、最後の2、3日間でガラッと変わることもありました。角栄先生は「総理大臣は努力してもなれない。それは天命だ」ともおっしゃっていた。私は、だいたい顔が怖いんだよとか、おまえは言うことが難しいんだよ、とかいろいろ言われますけど。

石破は面倒見が悪いという悪口も聞きますが、金とポストを配れば面倒見がいいというのもナンセンスですよね。そもそもポストは国家国民のためにあるもので、議員のためにあるものじゃない。金を配らないって言われても、私、お金ないんだもの(笑)。ただ、ご存じないかもしれないけれど、私ができる面倒見は選挙の応援。選挙応援は、できるだけ多くの議員のところに行こうと思っています。

妻と戦って勝てる確率は……

中村 石破さんといえば永田町一の愛妻家という話も聞きました。

石破 それは嘘です。(笑)

中村 地元の支援者をまとめているのは妻の佳子さんだとか。馴れ初めや2人の娘さんについても教えていただけませんか。

石破 妻は大学の同級生で、同じ講義を受けていた仲間。私の高校は男子校で、男女交際とは無縁でした。やがて大学に入り、三田のキャンパスで妻が図書館から本を小脇に抱えて階段を降りてくるのを見て、こんなきれいな女性が世の中にいたんだと。まあ一目惚れです。(笑)

中村 どうやって接近されたんですか?

石破 なんとか彼女の関心を引こうと思って、試験の山掛け講座をしたり、気に入られたい一心でやっていました。

中村 奥さまの石破さんへの第一印象はどうだったんですか?

石破 なんか変な人、みたいな。感じ悪い、そう言っていましたね。在学中からアプローチしていたんですけど、大学の卒業式のときに満を持して求婚したんです。

中村 どうなったんですか?

石破 あっさり断られまして、生きる希望を失いました。それでしょうがないから銀行の仕事に励んだわけです。すると父が死んだ。当時丸紅に勤めていた妻が弔電を送ってくれて、それがきっかけで交際が始まりました。彼女は「こんなはずじゃなかった」と思っているでしょうが、政治家の妻になるはめになった。彼女は幼稚園から大学まで東京暮らしで、鳥取へ来た当初は、言葉はわからないし、友達もいない。

中村 それはつらかったでしょうね。

石破 まあ、よく辛抱してくれましたね。当選回数が増えて、私が大臣や党役員になり、選挙区に帰れなくなると、私の代わりに彼女が選挙カーに乗るように。でも、もともと彼女は人前に出て話したりするのが嫌いだし、華やかなことは大嫌い。あるとき私が「(選挙カーに乗らなくても)落選はないんじゃないか」と口を滑らせたことがあって、そのときは、「あなたが帰らないのに、私が選挙カーに乗らなくてどうするんですか!」と無茶苦茶叱られました。

中村 地元では、石破さんよりも佳子さんのほうが人気があると聞きました。

石破 本当にそう。今は私が帰らないほうが、票がもらえるという話もあるくらい。(笑)

中村 普段、感謝の言葉をかけていますか。

石破 彼女が地元にいるときは、どんなときでも、1日1回は電話で話しています。なるべく、「ありがとう」とか、「すまないね」とか、伝えようと思うんですけど、言い方を間違えると大変なことになる(笑)。「心がこもっていない」と怒られたり。「ご苦労さん」なんて言ってしまったときは、「そんな上からの物言いをするもんじゃありません」とか。私は防衛大臣経験があり、安全保障は専門ですが、負ける戦はしてはいけません。妻と戦って勝てる確率は100%ありません。(笑)

中村 全面降伏ですね。

石破 それはやっぱり、家庭内紛争はないほうがいいですから。

古い価値観の男性を再教育する必要性

中村 2人の娘さんを含めて、石破さんは女性陣3人に囲まれていますね。

石破 娘2人とは都内の3LDKで同居していまして、長女が32歳、次女が29歳、どちらも会社勤めの社会人です。洗濯や炊事は2人が分担してやってくれますけど、私も家事をやることはありますよ。私の趣味のひとつに料理があって、得意なのはオリジナルの「石破カレー」。和洋中ひと通りできますし、片付けも自分でやります。

中村 意外ですね。ところで家族の団らんに上がる話題は何ですか?

石破 うーん、やっぱり政治の話になっちゃうかなあ。娘からは、「お父さん、世の中の人はこう言っているよ」「私のまわりはこう言っているよ」と意見が出ます。妻は妻で、地元の人から「佳子さん、私たちこう思うわよ」と、いろんなことが伝わってきますしね。

私がテレビ出演した際は、妻から「私はあなたと長く一緒にいるからわかるけれど、あの言い方は普通の人が聞いてもわからない」とズバッとダメ出しされ、娘たちも折に触れて厳しく指摘してくれますね。それも一種の世論だと思うんですけど、女性や、違う年代の意見が聞けるのは助かります。

中村 最後に質問です。この先、もし日本のリーダーになった場合、女性の生活や地位向上についてはどう考えていますか。

石破 日本は女性の持っている能力を最大限引き出さないと存続できません。この国は51%が女性で男性は49%という人口比ですが、男性がGDPの7割を稼いでいる。少子化・高齢化の中で、女性の力なしには間違いなく破綻します。しかし現状は女性の意見がほとんど反映されなくて、あきらかにシステムが間違っている。クオータ制議員の一定数を女性に割り当てる制度も積極的に推進すべきですし、早急に変革しないとならない。そのためには古い価値観を植え付けられた男性を再教育することが必要なんですね。

中村 再教育、というと?

石破 私も妻と一緒になって37年になりますが、妻から「あなたは政治家としてはそれなりに評価しますけど、父親として、夫としてはまったく評価できません」とグサッと刺され、頭を抱えることもあります。日本の既婚男性が掃除・洗濯・炊事・育児に費やす時間は1日59分というデータがあり、先進国で最低。フランスでは育児ができる父になるために、公費で教育するというシステムがありますが、そういうものを導入する時期かもしれません。

女性も子どもも、高齢者も、そして社会的弱者も幸せになる社会を目指して、自分たちの子ども世代が「日本に生まれてよかったな」と思える世の中を、みんなで力を合わせて作っていかなくてはなりません。

中村 これからもぜひ、党内から声を上げていっていただきたいです。

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