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元三井物産、異色落語家の「100%すべらないスピーチネタ」

プレジデントオンライン のロゴ プレジデントオンライン 2016/05/21 12:15
元三井物産、異色落語家の「100%すべらないスピーチネタ」: 落語家 立川志の春氏 © PRESIDENT Online 落語家 立川志の春氏

名門イェール大学を卒業し、三井物産鉄鋼石部勤務の経験を持つ落語家・立川志の春さん。好感を持たれるスピーチのコツを落語調で語ってもらいました。

どうも、お初にお目にかかります。落語家の立川志の春と申します。先日プレジデントさんから「今度、話し方の特集があるので、取材をさせてくれないか」とご連絡をいただきましてね。ありがたいことですけど、どうしてビジネスとはかけ離れた落語家の私に取材を? とお聞きしましたところ……。

──志の春さん、あんた、クリントンやブッシュら元大統領の母校、名門イェール大学を卒業して三井物産に入社したにもかかわらず、飛び出して落語家になっちまった変わり者だそうじゃないか。

どうでもいいですけど、記者さんいつもそんなしゃべり方なんですか? それはさておき、はい、3年間大手町に通っておりました。でも、入社して2年が経った頃に落語に出合ってしまい、どうしても落語家になりたいという気持ちを抑えきれず、志の輔門下に入門いたしました。

──そこでだ、ビジネスの最前線の経験を活かして、落語のマクラこそビジネストークのお手本だとかなんとか、いい感じに誌面にしませんかと。

なるほどそういうことなんですね。まあ最前線にいたかどうかは別として、ビジネスと落語両方経験している人間はそれほど多くないでしょうから、及ばずながら落語家のテクニックをどうビジネストークに活かせるかについてお話しさせていただきます。

私たち落語家は高座に上がって、まずは「マクラ」という前振りのようなものから話し始めます。落語一席というのは、このマクラ、本編、そして下げ(オチ)という流れなのですが、基本、落語家は高座に上がるまで、何を話すか、演目を決めていません。

──ほほう、出たとこ勝負ってわけですか!

いや、臨機応変と言ってくださいよ。そのほうが考えてる感じがするでしょう? マクラというのは、リトマス紙のようなもので、自己紹介や、季節の話題、時事問題、定番の小噺などを振りながら、お客様の反応を見て、どんな演目が合うんだろうなということを考えたうえで、スパッと入っていくわけです。

──はは~ん、つまり、個人から直接反応を獲得し、リレーションシップを構築していく<ダイレクトマーケティング>の手法ってわけだ。

あえて英語で言って、難しくしてません? でもまあ、そんなものかもしれません。自己紹介はどの世界でもつきものでしょうから、ビジネスシーンで使えそうな定番をいくつか準備しておいたほうがいいでしょうね。

──じゃ、自己紹介のお手本見せてくださいよ。

お手本ですか? 私が会社を辞めるときに上司がかけてくれた言葉が「サラリーマンも大変だが、芸の道も大変だ。明日どうなっているか何の保証もない世界だから心していけよ」というものでした。

もっともだなと思っていたら、私が辞表を出して実際辞めるまでの間に、会社が不祥事を起こしまして、ちょっとしたゴタゴタの末に会長と社長が退くことになりましてね、私と同じ日に。結果として3人で引責退任、という形になりました。3人同時に退いて、私だけ志の輔一門の門を叩いたということです。

──あー、うちの会社も不祥事起こして社長が引責辞任しねーかな。自己紹介がやりやすくなるのに。

社長さーん、こんなこと言ってる人がここにいますよー。ま、要するにサラリーマンであれ、経営者であれ、芸人であれ、明日の保証なんてないんだってことです。

──でもみんながみんなドラマチックな自己紹介できるわけじゃないでしょう。

いいんですよ、ドラマチックじゃなくて。自己紹介から爆笑を取ってやろうと意気込むと、スベったときのダメージが大きいので、軽いジャブでいいんです。<立川志の春です。でも生まれは夏です>くらいで。たとえ軽くスベったとしても、あいつ自己紹介したときちょっとスベったな、という印象が残っていると覚えてもらいやすい。

──で、マクラは、リサーチというわけだね。

それと、お客様に落語本編を聞いてもらいやすい状態にウォームアップするというのが大事。親しみを持ってもらう、仲良くなるというのが私がマクラを振っているときの考えですね。落語家がマクラで大きくスベると、この人、ツマらないという印象だけが残ってしまうんで、私、前座時代にマクラ禁止令が出たことがあります。古典落語というのは面白いものだけが残っているわけで、ちゃんとやれば間違いなく面白いんです。下手なマクラでマイナスの状態から始めるくらいなら、いきなり本編に入りなさいと。

営業トークだって、商品がよければ、ペラペラ薄っぺらなことをしゃべるよりも、武骨に訥々と語ったほうが信頼される場合もあるでしょう。

ビジネスでは、笑いを取らなくったって構わないですし。

──じゃあ、名刺交換のとき、どんな話をしたらいいんだい? 相手を気持ちよくさせるために褒めまくる?

褒めるのは技術がいりますからね。相手が何を褒め言葉と受け取るかも初対面ではわからないわけですから。だからたぶん一番うまくいくのは、こちらが、相手のことに興味があることをどれだけ示せるかじゃないでしょうか。素直にどんどん質問をする。興味を持たれて気分が悪いという人は少ないでしょう?

──んー、じゃあ、志の春さん、年収はいかほどで?

下世話すぎ! いきなりボーダーライン踏み越えてどうするんですか。

でも、名刺交換したときに黙っているよりも、名刺から情報を読み取って、質問をする特訓をしておくといいかもしれません。名刺はヒントの塊ですからね。名前、住所、部署名、ロゴから質問を考え、会話を展開していくんです。

──困ったら、自虐ネタとか出身地ネタと聞きますが。

そうですね。自慢話よりかは自虐ネタのほうがいいですが、自虐っぽくって実は自慢話ってケースもありますからね。自虐自慢みたいな。笑っちゃうぐらい堂々と自慢ばかりするキャラだったらそれはそれで極端で面白いのですが。それに自虐ネタは、初対面の人が笑っていいのか迷うようなものもありますし。

──それじゃあ、いったい何をしゃべればいいんで?

軽い失敗談なんかいいんじゃないですか?

──よく聞いてくれました。こないだ、オヤジ狩りにあったんですよ。ボコボコにされて全治10日。いやー、ひどい目にあいました。

うーん、重すぎますよ。それ聞いて笑ったらひどい人でしょう? そんなこと本当にあったんですか? ウソ? ダメですよ、ウソをついちゃ。誇張ぐらいならいいけど。普段から、おかしかったことはメモするよう心掛けておくといいんじゃないですか。

──志の春さんみたいに、大した話じゃないのに、面白く話す人っているじゃないですか。テクニックを教えてくださいよ。

褒められてるのかけなされてるのか。ま、いいです。コツというか、その場面の絵が浮かぶような話し方ができれば伝わりやすいですよね。

我々落語家がよく使うのは、会話調で話を進めるというテクニックです。落語自体が会話形式ですが、例えば、送別会のスピーチで「○○さんには本当にお世話になりまして、何度もご馳走になりました。お礼を言うといつも〈出世払いだからな〉と言われました」という話し方よりも、「○○さんには本当にお世話になりました。ご馳走になるたんびに『○○さんご馳走様でした!』『ご馳走なんかしてねえよ、出世払いだからな』。『わかりました!』と言いながら心の中で<僕は絶対に出世しないぞ!>と思ってました」。

会話調にすればオチがつけやすくなりますし、「間」で勝負できるんです。これは落語家だけでなく、話の上手な人は本能的にやっています。

──もしも今、志の春さんが物産マンに戻ったとしたら、ビジネスマンとしてのトークの腕は上がってますか?

たぶん、今のほうが面白い話をするというより、相手の話をよく聞くようになっていますね。サラリーマン時代はこちらが伝えたいことを一方的に、自分は、自分は、と話していた気がしますから。

落語家 立川志の春

1976年、大阪府生まれ、千葉県育ち。社会人3年目のある日、餃子を食べにいく途中で、たまたま立川志の輔の落語を聴き、半年間逡巡の末、三井物産を退職。志の輔門下へ。2011年、二つ目昇進。著書に『誰でも笑える英語落語』『自分を壊す勇気』ほか。

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