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「エレベーター来ないイライラ」解決した意外な物 ヒットを出せる人と出せない人の決定的な違い

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2021/12/02 18:30 阿佐見 綾香
生活のいろいろなところに「ヒットの秘密」が隠されています(写真:Fast&Slow/PIXTA) © 東洋経済オンライン 生活のいろいろなところに「ヒットの秘密」が隠されています(写真:Fast&Slow/PIXTA)

せっかく一生懸命つくった商品が、思うように売れない……といった経験はないだろうか。一方で、手掛けた商品を次々とヒットさせている人もいる。その理由はどこにあるのか。電通現役戦略プランナーの阿佐見綾香氏によると、ターゲットとなるお客さんの「調べ方」にコツがあるのだそう。

そこで、同社で新入社員研修も担当する阿佐見氏の新著『電通現役戦略プランナーのヒットをつくる「調べ方」の教科書』から、ビジネスで成果を上げる解決策(打ち手)の作り方の秘訣を紹介する。

売れない「たった1つ」の原因

 「こんな素晴らしい商品なのに、何で売れないんだろう……」

「そもそも、お客さんはどんなサービスが欲しいんだろう……」

 私が担当しているクライアント企業の担当者からよく受ける相談です。心を込めてつくった自信のある商品やサービスが「なぜか売れない」と、悩みを打ち明けてくるのです。このような悩みは、ビジネスをしている人であれば多かれ少なかれ、つねに抱えるものだと思います。

 この悩みが生まれる原因はどこにあるのでしょうか? 実は、この手の悩みの原因の多くは、その企業がターゲットとする顧客(以下、お客さん)の「インサイト」を見抜けていないことにあります。

 「インサイト」とは、お客さん自身が言語化できていない領域(無意識)まで深く洞察して見抜く「本質」のことです。この「インサイト」を見抜くことができないと、本当の意味でお客さんにとってためになる商品サービスはつくれません。つくれたとしても、メッセージは届きません。つまり、「売れない」のです。

 ただ、今でこそ、多くのクライアント企業の方々からこういった相談を受け、解決策(打ち手)を提案している私も、初めからお客さんの「インサイト」を見つけることができていたわけではありません。むしろ、「あるワナ」からなかなか抜け出せませんでした。

 私は、新卒で電通という会社に入り、マーケティング部門に配属されました。そこでは、クライアント企業のターゲットであるお客さんを調べる調査を、日々行っていました。

 入社したての私は、「お客さんの気持ちは、ちょっと調べればわかるでしょ」と高をくくっていました。インターネットはもちろんのこと、市場・トレンド情報や消費者調査データ、事例が格納されたデータベースといった情報源もあり、分析ツールも豊富にそろっていたため、わからないはずはないと思い込んでいたのです。

 しかし、その思い込みが大きな誤りを生むワナでした。なぜなら、「インサイト」とは、本来的に表に出てきにくいものだからです。

 インターネットや文献に載っている情報はすでに言語化されている情報です。その一方で、お客さん自身が本当に欲しい物は、なかなか言語化されていません。そのため、単に調べてもお客さんの「インサイト」はすぐに見つけられないのです。そのことに気がついた私は、「インサイト」を見つけるために、自分の調べ方を徹底的に見直すことにしました。

「深くて本質的な悩みや欲求」を発見する

 ターゲットのお客さんを動かすための「インサイト」を見つけるには、まず、その人の頭の中に入りこむようなイメージで、本音や、何がモチベーションになっているかをつかんでいきます。人間の深く、どろどろとしたところまで洞察するのです。氷山の一角のように、一部だけ顕在化している人の行動・意識への洞察を頼りに、その底に眠る言語化されていない「深くて本質的な悩みや欲求」を発見していくのです。

 具体的には、お客さんとなり得る人たちにインタビューを行うと効果的です。対話をしながら質問を繰り返し、本音部分を探り当てていくなどの「洞察」を行うのです。

 ところで、正しい「インサイト」を見つけることができないと、なぜ商品やサービスが売れなくなってしまうのでしょうか?

 その理由を一言でいうならば、「インサイトを見つけられないと、間違った解決策(打ち手)を選んでしまう」からです。私自身も、インサイトを見つけないままに解決策を考えた結果、間違った解決策にたどり着いてしまったことが何度もありました。

 このことをイメージしやすいよう、「なかなか来ないエレベーターの問題」のケースを通して具体的に説明します。

 あなたはオフィスビルの所有者で、テナントから「エレベーターがのろくて待ち時間が長い」と苦情を受けていました。

 集まった解決策(打ち手)の案は、「エレベーターを取り換える、強力なモーターに交換する、エレベーターを動かすアルゴリズムをアップグレードする」のようなもの。しかし、エレベーターには、これ以上のスピード向上の余地は残されていませんでした。 実は、この解決策(打ち手)は、非常にシンプルなものでした。

 エレベーターの横に鏡を取り付けたのです。この方法は、苦情を減らすのに極めて有効でした。なぜなら人間は、思わず見入るようなものが与えられると、時が経つのを忘れがちだからです(この場合は、自分自身に見入ってしまう)。

 「インサイト」を見つけ、その解決策(打ち手)を決めていくときに使える戦略プランニングのテンプレートを用いて、この事例を当てはめて考えてみます。

 そのテンプレートを、私は「プランニングの基本構造」と呼んでいます。すでに顕在化している悪い状態(本質的な悩み/欲求が満たされていない状態)で、問題のある現状から、どんな変化を起こしたいか、望ましい理想的な状態であるゴールを設定します。その状態変化を起こすアプローチとして、戦略(what to do)と戦術(打ち手・施策)を設定します。

速度アップは「根本的な解決策」ではない

 この「プランニングの基本構造」に先ほどのエレベーターのケースを当てはめて考えてみます。このケースで、顕在化している悪い状態「エレベーターが遅くて、なかなか来なくてイライラする」という状態から、ゴールを設定すると、望ましい理想的な状態は「エレベーターの待ち時間が短くなり、ストレスがなくなる」というものになります。

 すると、打ち手は「エレベーターの速度を上げる」、そのために「もっと速いエレベーターを開発する」というものになります。

 

しかし、エレベーターのスピードがほんのわずかの時間だけ速くなったとしても、エレベーターの利用者(お客さん)のストレスがなくなるというゴールは達成できない可能性が高くなります。つまり、根本的な解決策(打ち手)にならないことが考えられます。そこで、利用者の「インサイト」を深掘りするのです。

 利用者を深く洞察したところ、「インサイト」を発見。利用者の深くて本質的な悩みや欲求は「(エレベーターのスピードではなく)待ち時間が無駄になっていることに対するイライラ」ということを探り当てます。

 この「インサイト」から、ゴールを設定すると、望ましい理想的な状態は「エレベーターの待ち時間があっという間に過ぎる」というものになります。そして打ち手は、「エレベーターの待ち時間を感じさせない仕掛けをつくる」、そのために「エレベーターの横に鏡を付ける」というものが考えられるのです。

 

いきなり深い分析をすることは難しいため、最初は「エレベーターが遅くてイライラする」のような、顕在的な悩み(浅い分析)を、まずは想定してもかまいません。ただ、浅い分析のまま打ち手に移らないことが大切です。

 お客さんの「インサイト」を深掘りして根本的な「問題のある現状」と「望ましい理想の状態」を設定できると、それを達成できる根本的な解決策(打ち手)を見つけることができるのです。ぜひ、上述の「プランニングの基本構造」を使いながら、お客さんの「インサイト」を見つけ、効果的な打ち手(解決策)をつくってみてください。

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