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コロナ後、テレワークは結局「無かったこと」になるのか――第一人者に直撃

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2020/06/02 09:00
【画像】コロナ後、テレワークは結局定着しない? © ITmedia ビジネスオンライン 【画像】コロナ後、テレワークは結局定着しない?

 緊急事態宣言が全国で解除された現在。生活や働き方が今後どこまで「コロナ前」に戻るのか、あるいは戻らないのか模索が続いている。特に働く人にとっての関心事と言えば「今回のテレワークはコロナ後、元通りになるのか」だろう。

 そこで、テレワーク研究の第一人者で、多くの企業を調査してきた東京工業大学環境・社会理工学院の比嘉邦彦教授に前後編インタビューで聞いた。コロナ禍によるテレワーク転換の度合いを評価した前編に続き、今回のテーマは「テレワークは結局、定着するのか」だ。

●定着する企業はわずか「1割弱」か

――コロナ問題の終息後、果たして日本企業にテレワークはどのくらい定着するとみますか。

比嘉: 希望としては定着してほしいと思っているが……。現在、テレワークは3割弱くらいの企業で実施されているとみられるが、終息後にどのくらい残るかと言うと、私は1割弱くらいだろうと考えている。前々からやっている企業は継続するだろうが、(コロナ騒動で)慌てて導入した企業のうち続けるのは4~5%くらいではないか。個人的には、(実施企業のうち)全体の1割が残れば上出来だと思う。

 ただ、この「1割」がコロナ後もテレワークを本格的に実施し続けることがポイントになる。要は、そうした会社では経営者がメリットを実感できた、ということになるからだ。

 例えばTwitter社はコロナ後も恒常的にテレワークを許可すると発表した。生産性が上がることが確認できたからだろう。こうした企業が継続していくことで、1~2年の間にテレワークの定量的な効果が報告されることになる。うらやましがって後を追う企業が出ることで、2~3年後に本当のムーブメントが出ることを期待している。

 そもそも今回の問題が無くとも、日本は台風や地震など災害の多い国だ。出勤できない状態の際にちゅうちょなく在宅勤務に切り替えられるようにする企業は、今後間違いなく増えるだろう。一方で、テレワークを「非常時の事業継続ツール」としか見ていない経営者がほとんど、という問題もある。

●「生産性向上」を安易に目的にしない

――やはり、テレワークが非常時対応に適している点だけでなく、生産性向上といった利点も早々と打ち出す必要がある、ということでしょうか?

比嘉: いや、個人的にはテレワークにおいて「生産性向上を(当面の)目的にはすべきでない」と考える。テレワークで生産性が上がらないわけではない。ただ、その上がり方がすぐにはなかなか測れないからだ。

 既に数年間テレワークを実施していて従業員も慣れている環境なら、生産性は恐らく上昇しているだろう。ただ、導入当初の半年~1年は、従業員が新しい働き方や管理・評価体制に慣れるため、「まずは生産性が落ちなければトントンでいい」という準備期間として捉えるべきだと思う。

 むしろ短期的に出る成果として経営者が取り組みやすいのは、オフィスの賃料を始めとした大幅なコスト削減だ。こちらは確実ですぐ出る効果であり、定量的にも評価しやすい。(オフィス廃止で)通勤費やコピー機などのリース料、紙の費用なども無くなる。東京23区内のオフィスの1人当たりコストは約7万円というデータもある。特に中小企業にとっては大きな削減効果になるだろう。

 他に1~2年で効果が出やすいのが、企業の「人手不足解消」対策だ。特に都内の企業でテレワークをしている企業では、そうでないところに比べて集まる人材の量、質ともに違ってくる。過去には採用で「在宅勤務可」を全面的に宣伝したところ、応募者が数十倍にも増えた企業の事例がある。人材獲得の面でも、テレワークを巡った企業の「二極化」が進むだろう。

 コロナ騒動前から問題になっていた介護・育児離職問題もテレワークで防ぐことができる。そうして(年齢・性別など)人材が多様化すれば、企業のイノベーション力向上にもつながる。こうした効能もあるため、生産性向上の効果について測定するのは実施2年目くらいからでいいと私は考える。まずは、生産性以外の導入目的を据えるべきだろう。

●「部下を一方的に監視」の愚かさ

――とはいえ、長く染みついた「出社して働く」という習慣は、特に管理する側であるマネジャーや経営層の間で強固のようにも思えます。

比嘉: 変化することへの抵抗感は当然、あるだろう。特に、マネジャー側が部下を信用していないのが一番の問題だ。「見えていない部下はサボっているのではないか」と思ってしまうのは、管理職のマネジメントスキルの欠如だろう。

 コロナ騒動以前から、テレワーカーを“監視”することのできるツールはいくつかあった。ただ、コロナ後もテレワーク継続を考えている経営者に聞くと、皆「監視ツールはNG」だと答えている。「あなたを信用していない」ということになり、部下との信頼構築を妨げるからだ。特に、こうしたツールで部下を「一方的に見る」という点が良くない。コミュニケーションは双方向であるべきだろう。

 要は、成果に応じた評価制度ができていればそんなツールも必要ないと言える。単純にオフィスから自宅に働く場所を変えただけだからだ。一方で、ワーカー(部下)側も「見られていなくても成果物を出す」意識が無いと、今後はプロの働き手とは言えなくなるだろう。

●テレワーク改革、できない企業は「淘汰」

――テレワークはもともと、今回のような企業の緊急時の対処法というより、「働き方改革の目玉」でした。政府が旗を振りつつも、なかなか浸透しなかった手法です。むしろコロナ後に、企業や働き手の“本気度”が問われそうですね。

比嘉: コロナ騒動はいずれ終息する。しかしその後も、騒動前から日本企業や社会が抱えていた問題は何一つ変わっていない、ということが判明するだろう。人手不足やイノベーション力、超少子高齢化といったテーマだ。むしろコロナ後にこれらが悪化する可能性もある。そうした状況に向けて、企業も社会も「テレワークという働き方は必要なものである」と、再認識すべきなのではないか。

 例えば、前から言われているのが「就労人口におけるフリーランスの割合」問題だ。米国では2030年に60%に達するという試算もある。日本はもう少し遅れるかもしれないが、いずれフリーランスが過半数を占めるだろう。

 米国の事例を見ると、彼らの多くは「オンラインワーカー」、つまりはテレワーカーだ。こうした働き手が増えていくのは世界的な潮流と言える。日本でも、会社としてテレワーカーをちゃんとマネジメントできるかどうかが必須の能力になるだろう。この流れを日本だけが止めてしまうと、国際的な競争に負けることになる。

 もし今回のコロナを機にテレワークのムーブメントが日本で起きなかったとしても、5~6年は今のままでお茶を濁せるかもしれない。ただ10年単位で見れば、改革できなかった会社は淘汰されていくだろう。大半を占めるオンラインワーカーを管理できず、(就職市場でも)優秀な人材ほどそうした企業を見限るからだ。テレワークのムーブメントは今起きなくとも、10年スパンでは不可避なのではないか。

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