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ラッキンコーヒー転落、匿名リポートから始まった

The Wall Street Journal. のロゴ The Wall Street Journal. 2020/06/30 08:59 Jing Yang in Hong Kong, Juliet Chung in New York and Julie Steinberg in London
© Yan Cong for The Wall Street Journal

 中国のコーヒーチェーン、ラッキンコーヒー(瑞幸珈琲)は今年1月、ナスダック市場で株価が過去最高値をつけ、時価総額は120億ドル(約1兆3000億円)に達した。そのころ、複数のショートセラー(空売り筋)に謎めいた電子メールが送られていた。

 メールは「中国詐欺2.0の新世代が登場した」という内容で、「根本的かつ構造的に欠陥のある事業モデルとして始まった企業たちは、詐欺へと発展する」と書かれていた。発信者はラッキン店舗の顧客レシートやビデオを共有すると申し出、同社に関する長文のリポートを添付。空売り筋がこのリポートを公表して自社の功績としてもいいと述べた。

 ラッキンが売上高を水増ししていると批判するこのリポートに、複数の米資産運用会社が目を通した。マディー・ウォーターズのカーソン・ブロック氏は1月31日、89ページに渡る同リポートをツイッターに投稿。続いてラッキンの監査会社が、従業員数人が売上高と経費をごまかしていたことを突き止めた。ラッキンは4月2日、2019年売上高のうち最大3億1000万ドルが捏造(ねつぞう)されていたと公表した。同社株は上場から11カ月足らずで地に落ち、間もなく上場廃止となる。

 中国でスターバックスの向こうを張る新興企業のラッキンは、コーヒーチェーンとして国内最大の店舗数を誇っていた。そのラッキンの驚くべき転落を受け、投資家はしきりと内省している。上場している数々の中国企業を空売りしてきたブロック氏の推奨に従うべきだったのだろうか。匿名リポートが指摘した疑惑に反論するラッキンを疑うべきだったのか。ラッキンが報告する成長は出来過ぎな話なのかどうか、もっと精査することができたのではないか――。

 ラッキン株の急落で損をした著名投資家には、スティーブン・マンデル・ジュニア氏率いるローン・パイン・キャピタルや、スティーブ・コーエン氏のポイント72アセット・マネジメントも含まれる。ラッキンと手を組んでコーヒー焙煎(ばいせん)ベンチャーとジュース事業に参入した商品(コモディティー)取引大手ルイス・ドレイファスや、中国の二大プライベートエクイティ会社も、ラッキンにかなりの額を投資していた。

 ラッキンに早期から投資した複数の資産運用会社は、ラッキンがブラックロックやシンガポール政府投資公社(GIC)など他の有力投資家からも支援を受けていたため、疑う理由はほとんどなかったと述べた。

 やはり売上高を水増しした植林会社シノ・フォレスト(嘉漢林業国際)など、過去に中国の上場企業による不正で痛手を被った米ヘッジファンドの中には、ラッキンへの投資を決める前に一段の調査を行ったところもある。

 あるファンドは個別店舗の抜き打ち調査を行い、繁盛店の様子や、青と白のデザインの紙カップがどこでも目につくかを調べた。独立機関のデータを見たところ、ラッキンの注文・決済に顧客が使うモバイルアプリのダウンロード数は、同社の公表する売上高の増加に沿って増えていたという。

 ラッキンの店舗を訪れた投資家には、同社の事業や戦略について疑念を感じた者もいた。

 英資産運用大手のベイリー・ギフォードがウェブサイトに掲載した記事によると、同社は昨年、ラッキンを含む複数の企業を視察するため、アナリストを中国に出張させた。中国語が話せるこのアナリストはラッキン幹部と面会し、深セン市の店舗を訪れて顧客と話した。ベイリーは結局、投資を見送った。

 上海に拠点を置く調査会社BCCグローバルは2019年9月、複数の投資ファンドに対し、慎重に選出したラッキンのサンプル店舗で来客状況と販売状況をモニターすることを提案。関心が寄せられたので調査と分析を実施したところ、ラッキンが報告する数字に食い違いが見つかった。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した電子メールや関係者の話で明らかになった。

 今年初め、マディー・ウォーターズのツイートで匿名リポートが広まった際、ラッキンが売上高を水増ししているとの指摘に懐疑的な空売り筋もいた。米シトロン・リサーチを率いるアンドルー・レフト氏は、ラッキンの大株主と話した後、同社株の取得を決めたと語った。この大株主はレフト氏に、チャネルチェック(サプライヤーなどからの情報収集)を済ませており、財務報告書は正確だと考えていると請け合った。レフト氏は大株主が誰かは明かさなかった。

 マディー・ウォーターズのブロック氏は、他人の調査報告を広めながら、それに基づくポジションを取ったのは初めてだったと述べた。

 ブロック氏は取材に対し、「われわれがやったことは壮大なことではない。ただリポートが方向的に正しいと確信したので、われわれが発信地点になれると判断した」と語った。リポートの著者とは数年来の知り合いで、信頼できると考えていると述べたが、その名を明かすことは控えた。

 事情に詳しい関係者によると、ラッキンに関する匿名リポートを作成したのは中国ヘッジファンドのスノー・レイク・キャピタルだ。スノー・レイクは、中国生まれで米国の教育を受けたショーン・マ最高投資責任者(CIO)が2009年に立ち上げた。

 スノー・レイク・キャピタルの広報担当者はコメントを控えた。会社ウェブサイトによると、運用資産はおよそ25億ドルとなっている。スノー・レイクのリターンを知る関係者によると、同社が大部分の利益を稼いだのは、ラッキンが売上高の捏造を公表して株価が暴落した4月上旬だった。一方、別の関係者によると、旗艦の中国ファンドは5月末時点で年初来マイナス1.3%のリターンとなっている。

 マ氏とスノー・レイクがなぜ、ラッキンのリポートで功績をわが物にしようとしなかったのかは不明だ。ただ、空売り筋は時として、企業幹部とのつながりを維持し、規制当局の追及を避けるために、正体を明かさないことがある。

 ラッキンを巡るこのリポートは、2019年10-12月期に1500人余りが、ラッキン全店舗の約15%にあたる中国全土の4000店以上を訪問するという、大掛かりな取り組みのたまものだった。

 訪問員は店内の顧客を数え、1万1000時間余りのビデオを記録。大量のレシートも集めた。リポートの著者は全てのデータを分析し、店舗売上高が会社報告よりはるかに低いことがチャネルチェックで示唆されたことから、ラッキンが売上高を水増ししていたと結論付けた。

 リポートによると、財務報告で売上高を押し上げるため、ラッキンが実際に裏で何をしていたのかは不明だ。

 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は先月、複数のラッキン従業員が2019年5月の新規株式公開(IPO)を前に、架空の業務処理を画策し始めていたと報じた。WSJが確認した記録や関係者の話によると、従業員らはまず、個人の携帯番号の登録アカウントを使ってコーヒー券を購入。その後、ほとんど無名の企業を使ってコーヒー券を大量購入していた。大半のラッキン従業員はこうした企てを知らなかった。

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