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【星野リゾート・星野佳路代表】「久しぶりに代表としてお呼びがかかった」。倒産確率を示して社員と共有した現状と未来

BUSINESS INSIDER JAPAN のロゴ BUSINESS INSIDER JAPAN 2020/06/30 05:45 浜田 敬子,三木 いずみ
© 撮影:三木いずみ

コロナショックによる「在宅シフト」で、会社と個人の関係や働き方、ひいては世の中の産業そのものに大きな影響が出ている。経営・マネージメント層に、新たに気づいた課題を聞くシリーズ。9回目は、星野リゾートの星野佳路代表。

星野リゾートは10年ほど前からリモートワークの体制を整え、テレカンファレンスの設備にも投資をしてきた。星野代表自身、毎年夏はスキーのために1カ月間はニュージーランドに滞在しながら、遠隔で仕事をしてきた。

しかし、肝心のホテルの現場はリモートワークとはいかず、コロナによって最もダメージを受けている産業の1つだ。星野代表と同社はどんな対策を打っているのだろうか。

今は社員から久しぶりに「お呼びがかかった」という状況ですね。久しぶりに代表として期待されている感があります。ここ4〜5年は、細かいことを社員に言わなくても、社員が自ら考え動いてくれ、組織として問題ない状況が続いていましたからね。

東日本大震災前後に比べると、組織も充実し、役割も明確になり、各拠点に優秀なリーダーも生まれた。リーダーをサポートする人材もいる。私が出ていく必要はありませんでした。

私自身は本来ならコロナの感染が拡大し始めた冬の時期はリモートワークが増えるはずでした。「年間60日間スキー滑走」を目標にしているので、各地の雪山にいることが多い時期だからです。今年も3月初旬までの何日間かは雪山からリモートワークをしていたのですが、通算53日目でオフラインに戻ってきて、コロナの対策にあたりました。

コロナに関しては全社的なダメージですから、社員たちも普段とかなり違うことをしなくてはいけません。そのためには指針が必要です。コロナで生き延びるというのは、要するにナロー・パス、細い導線の上を歩くようなイメージです。足を一歩でも踏み外すと崖下に落ちる。選択肢の少ない中で細かい判断を全て正しくやっていかないと乗り切れない。

非常に慎重にならざるを得ないと同時に、しっかり全施設の足並みをそろえる必要がある。そこで、久しぶりに私に役が回ってきたというわけです。

毎週社員へメッセージ、悩みにフィードバック

星野さんが社内向けにアップした記事。 © 提供:星野リゾート 星野さんが社内向けにアップした記事。

星野リゾートでは私が代表に就いてから顧客満足度などのあらゆる経営情報をデジタルで共有し、社員なら誰でもアクセスできるようにしています。全施設に早くからテレカンファレンスのシステムも整備し、国内外42施設とのリモートでのやり取りは従来から支障はありません。

ただ3者以上のオンライン会議がこんなに簡単に無料でできてしまうようになるとはね。テレカン設備に費やした額はちょっと惜しかったかなという気もしなくはないです(笑)。

私の役割は明らかに増えています。例えば、月に1回だった重要な会議を2回3回に増やし、意思決定もいつもより頻繁に行っています。社員に対するメッセージ発信も2週に1回ぐらいだったのが、今は毎週出すようにしています。

私のメッセージに対する社員からのフィードバックを見ていると、やはり普段とは違った悩みが多いですね。そういう悩みに対してどう考えればいいのかを、私からまたフィードバックして戻す。そんな風にやり取りしながら、いろいろ進めています。

企業として生き残ることに集中

星野さんが社内向けに発信した記事。刺激的な内容の「倒産確率」の記事は、社員にも好評だったという。 © 提供:星野リゾート 星野さんが社内向けに発信した記事。刺激的な内容の「倒産確率」の記事は、社員にも好評だったという。

4月6日には社内ブログに、「観光の大義」という私が書いた記事をアップしました。施設の営業を続ける・休館する判断基準をどこに置いているのか。何が今、観光業に携わる者として正義なのか。営業を続けていると周りから意見を言われることもある。どう考えればいいのかを私なりに説明しました。

特措法に基づく休業要請が(対象となる業界に対して)出ている地域では施設を休館にしましたが(現在は営業再開)、それまでは営業を続けることをどう考えるべきか。社員にとっては非常にジレンマだったと思います。国からはっきりとホテルや旅館への休業要請が出ればすっきりしたのですが……。

防疫はもちろん大事ですが、地方経済との両立を図っていくことも私たちまた社会にとって重要だというメッセージは早くから打ち出しました。

あとは、企業の責務に関するメッセージも早めに社員には出しましたね。生き残るということが企業の役割として一番重要であり、仕事を維持していくことにいかに集中するかといった話をしました。

好評だった「星野リゾートの倒産確率」

でも、この辺でちょっと話題がどうしても重くなってきてしまった。そこで、5月12日にみんなが興味を持ってくれそうな話題として、「星野リゾートの倒産確率」をお遊びで計算し、社内に投稿しました。コロナを乗り切るための変動要素を組み入れた簡単な数理モデルを自分で作って。初めてでしたが、経営状況を伝えるには良かったと思っています。

この状況で「うちは大丈夫。安心しなさい。不安はない」なんて言っても、社員だって「経営者はそう言うだろうな」としか思わないでしょう?実際、4、5月は売り上げの8〜9割減という状態だったので、社員にも不安はあったと思います。

© 撮影:三木いずみ

我が社の倒産確率を出したら、みんなが面白がるんじゃないかと思ったら、やっぱりこの記事に一番いいね!が集まりました。コメントもすごい数が来て、スタッフからは「久しぶりの星野リゾートらしい刺激的な内容でした」と。

倒産とは現金(キャッシュ)がなくなるということ。昨年比で売り上げを何%維持できるかでキャッシュの量は変わってくるので、まずそれを最初に計算する。次にコスト削減を計算する。コロナ下では観光需要全体が減っていますから、先送りできる支出は先送りしなければいけない。売り上げが見込めないときは、このコスト削減策はすごく大事で、これによって生き残る率はかなり変わってきます。3つめにどれくらい資金調達できるかを試算します。

この3要素で非常に単純な数理モデルを作りました。昨年比売り上げ70%以上にできる確率は何%か。コスト削減は何%できるか。資金調達はどこまでできるか。

これらの3つの数字から、考えられるシナリオを示す。「売り上げ70%を維持できたけれども、コスト削減ができなかった。しかも資金調達は0だと結構ヤバい」みたいな感じですね。組み合わせになりますから、シナリオは3の3乗で27パターン。この中から「このパターンだと倒産になる」というものを抜き出し、全スタッフに確率で見せてみました。

コロナ期には見るべきデータが変わる

この記事には社員から質問が殺到しました。「現段階で最も起こる可能性が高いシナリオを教えてほしい」とか「倒産するパターンには何が最も寄与しているのか」とか。私も「売り上げ維持率は比較的見えてくるものだけど、コスト削減がどのくらいできるかはまだ見えていない」と答えたりして、自分にとっても社員にとっても一種の楽しいエンターテイメントや学びになりました。

状況は毎日変化しますし、良い刺激にもなる。これをきっかけに毎月、倒産確率を出そうかなと思います。もともと社員には、自分で考えて行動し発想する能力を発揮してもらいたいと思っていますし、それができる人材がいることがうちの最大の強みです。そのためにあらゆる情報をオープンにしているのですが、 コロナ期においては提供すべき情報がガラッと変わります。

顧客がいない中で顧客満足度を見てもしょうがない。売り上げ収益率も落ちるのは当たり前なので、それも見てもしょうがない。じゃあ、何を見ればいいのかというアイデアを提供することが、今の私の最大の役割で最も力を入れてやっていることですね。

感染防止策は社員が自律的に工夫

感染防止策は、社員たちが自律的に提案。多くのアイデアが上がってきたという。 © 提供:星野リゾート 感染防止策は、社員たちが自律的に提案。多くのアイデアが上がってきたという。

社員たちは、4月に入った時には3密回避の徹底を自律的にかなり工夫してやっていました。もともと採用の段階から接客業をする者として喫煙はNG。衛生観念や健康管理に敏感な人を採用していますからね。社員を感染から守ることは顧客を守ることでもあるので、私からも感染防止策を徹底しようとは言いました。

でも、基本的にはオペレーションを担当している部署が矢継ぎ早にアイデアを出して自律的に対策しています。

かなりのペースでアイデアがいろいろと出てくるので、逆にあまり細かいことは見ていないのですが、マスクをつけた接客は、スタッフの表情がお客様に見えないので、私は1月ぐらいまでは反対していました。その後、「それでもやります」ということでマスクでの接客になっています。

1月の段階ではここまで深刻になるという認識が私になく反対したのですが、今も改善は依頼しています。表情が見えるシールド・タイプにするか、マスクのデザインを工夫するようにと。

なぜなら、星野リゾートのサービスにおける顧客満足度というのは、施設よりもスタッフに対するもののほうが圧倒的に高いからです。「スタッフの笑顔が素晴らしい」という感想を毎日のようにいただく。マスクで表情が分からずしてスタッフの笑顔や気持ちが伝わるのかと思うからです。

マイクロツーリズムやワーケーション狙いにシフト

星野リゾートのホテル「OMO5 東京大塚」のOMOカフェ。在宅ワークの定着で、仕事場所としての利用が増えるかもしれない。 © 提供:星野リゾート 星野リゾートのホテル「OMO5 東京大塚」のOMOカフェ。在宅ワークの定着で、仕事場所としての利用が増えるかもしれない。

今後どう盛り返すか検討するうえで、緊急事態宣言が解除された後、6月1週目に2万サンプルという結構大きな規模で市場調査を実施しました。年末までに国内旅行をしたいと思っている人、行きたいけれど迷っている人はどれくらい存在しているのか。どうアプローチしたら、迷っている人の考えは変わるのか。これが分かれば、やらなければいけないことに対する納得感も全スタッフが持てるでしょう。

例えばいま私たちが提案しているのが「マイクロツーリズム」という考え方。県をまたぐ移動が解除されたとはいえ、それでも遠出には心理的なハードルもあるでしょう。でも近県の自宅から1時間ほどの温泉やリゾートにちょっとした息抜き、気晴らしに出かける。そうすることで実は近くにある地域の魅力を再発見することになるかもしれない。

在宅で仕事ができることに気がついた人たちが、ワーケーションにホテルを利用するようになるかもしれない。それに対応できるよう、チェックイン、チェックアウトの前後にパブリックスペースで仕事ができるようにとも考えてます。

Go Toキャンペーンは需要を分散させて

「Go To キャンペーン事業」の一部である「Go To トラベル事業」では国内旅行業者の支援を目指す。 © 出典:観光庁 「Go To キャンペーン事業」の一部である「Go To トラベル事業」では国内旅行業者の支援を目指す。

Go Toキャンペーンに批判があることは承知しています。ただ、一番対策が大変な時に予算も通ったことは、我々としてはありがたいが、想定していた雰囲気とはだいぶ違うのかもしれない。国民の間に違和感が出ることもあり得る。

2020年度予算なので2021年3月までに消化しなきゃいけないなどの事情もあるとはいえ、世論に耳を傾け、修正できる部分を修正し、観光産業に対して本当に意味のあるサポートにしてほしいとは思っています。 

せっかくの大きな金額なので一気に拠出してしまうことで観光地にまた密の状態を作るのは逆に良くない。営業を継続するには、短期的な売り上げより月々の利益が大事なので、旅行者を分散させる方法がありがたい。例えば、1泊あたりのサポート金額をもう少し緩和するとか、1年かけて少しずつ拠出し、コロナのワクチンの治療薬ができるまで下支えをするなどです。

インバウンド市場は国内旅行市場のうち17%しかありませんが、この17%は旅行者の分散に大きく貢献していました。中国の旧正月と日本の正月は時期が違うから、利益も分散できていた。日本の観光の国内市場は巨大ですが、分散できていないところに大きな問題があります。

インバウンドの需要が戻るまでに、国内需要を分散させるようにGoToキャンペーンを使えれば、地方経済にもより貢献しやすい。分散されれば観光客も3密対策をとりやすくなる。人が集中する季節がなくなり、宿泊費など旅費も安くなる。政策もここに目を向けて柔軟に舵を切っていただけるとうれしい。 

インバウンドが見込めない中、今後は?

当面インバウンド需要は見込めないものの、これまで海外旅行に出ていた日本人が国内旅行をするようになれば、インバウンド市場の2/3程度 が国内需要で戻ってくるのではないかというのが星野さんの予想だ。 © 提供:星野リゾート 当面インバウンド需要は見込めないものの、これまで海外旅行に出ていた日本人が国内旅行をするようになれば、インバウンド市場の2/3程度 が国内需要で戻ってくるのではないかというのが星野さんの予想だ。

当分インバウンドの観光客は来日できないと思います。でもコロナ前3000万人が日本に来ていた一方で、2000万人の日本人が海外旅行に出ていた。コロナで海外に行けないとなると、日本人が国内旅行を楽しんでくれるのでは、と思っています。インバウンド市場は4.8兆円なので、そのうちの3兆円くらいは国内需要で戻ってくる計算になります。大事なのは24〜25兆円ある国内の観光市場をどれくらい戻せるかです。  

正直言って、コロナ後に世の中がどう変わるかについてはまだ分からないところがありますね。東京一極集中がなくなるとか地方移住が増えると言われますけれど、企業も含めて日本は保守的。蓋を開けたら、東京にみんな戻ってくることも考えられる。

だからあまりこの種のことは信じていないんです。ただ、リモートワークが出勤日として認められるようになったのは大きい。連泊が取りやすくなりますからね。観光産業にとっては非常に大きな変化になると思います。休みが分散し、平日と土日の値段が同じになる効果があるので、リモートワーク の普及は我々としてはすごくいいことだと思っています。

(聞き手・浜田敬子、構成・三木いずみ)

星野佳路:星野リゾート代表。1960年、長野県軽井沢町生まれ。米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。1991年、星野温泉(現:星野リゾート)社長(現・代表)に就任。自社のリゾート施設を運営するほか、経営が破綻した大型リゾート施設などの再生も手がける。ラグジュアリーリゾートの「星のや」、温泉旅館の「界」、リゾートホテルの「リゾナーレ」、都市観光ホテルの「OMO(おも)」、ルーズに過ごせる若者向けホテルの「BEB(ベブ)」の5ブランドを中心に国内外42カ所に展開する。

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