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日本の銀行が直面する「危機的状況」とは

ZUU Online のロゴ ZUU Online 2019/10/23 17:45
(画像=Anton Violin/Shutterstock.com) © 銀行 (画像=Anton Violin/Shutterstock.com)

(本記事は、大前研一の著書『大前研一 稼ぐ力をつける「リカレント教育」』インプレス2019年6月15日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

■五年先の展望さえ描けない

かつて銀行といえば高給かつ安定した就職先として、就職希望ランキングの上位に挙がっていた業界である。しかしながら今となってはテクノロジーの進化に取り残され、五年先の未来像も描けない状況に陥っている。

銀行のビジネスは、主に「金を預かる」「運用する」「貸す」という三つから成り立っている。今まさにこれまでの銀行の役割が、フィンテックに取って代わられようとしているのだ。

現在、金融の世界で起こっている変化を、先行する中国の事例から紹介したい。

中国のアマゾンとも呼ばれるアリババグループのアント・フィナンシャルが提供する金融サービス「余額宝」(ユアバオ)と呼ばれるMMFは、ロボットにより運用され、人間を超えるパフォーマンスを生み出している。4%超の利回りを達成し、この実績により世界最大の28兆円もの資金が集まっているのだ。

資金の貸し付けにおいても、日本と中国の差は大きい。私が40年近くつき合っている日本のメガバンクで、資金調達の相談をしたときの話をしよう。私が資金調達を申し出ると、いつもの担当ではない他の行員が出てきて、分厚い申請書類を書けと言うのだ。しかも昔ながらのカーボンコピーに手書きである。さらに、借り入れには担保の設定が必要だと行員から真顔で言われて驚いた。私はこれまで電話料金の引き落としなどの期日に一度も遅れたことがないが、それでも担保がないと銀行は一切お金を貸さないと言い張るのだ。

数十年前と何も変わらない対応をされたわけだが、これが中国であればどうか。中国のフィンテックを代表する企業であるアント・フィナンシャルの融資は、次のようなものだ。

アント・フィナンシャルはビッグデータで個人の信用情報を平素から蓄積しているため、融資では瞬時に与信の判断をすることができる。同社は、この技術を活用して小規模企業や個人事業主向けの融資サービスを提供しているが、スピードがすさまじい。これを端的に表すのが、 融資サービスを説明するときに使う「3・1・0」だ。つまり、3分で融資申請をネットで記入すると、1秒でシステムが融資の審査をし、携わる社員はゼロである。

このような融資サービスを、人工知能の力を活用して実現しているのだ。日本の銀行員が申請書類や担保とにらめっこをして、時間をかけて融資を実行しているのとまったく異なる。

アント・フィナンシャルが本気になれば、日本で銀行ビジネスを展開することも可能だろう。 経営的に苦しい信託銀行か地方銀行でも買収してしまえばいいのである。彼らのサービスはスマホだけでも可能なので、買収をせずとも日本の市場を奪うこともできるだろう。

日本の銀行が生き残るためには、中国のような蓄積したデータベースをフィンテックで活用するビジネスを再構築するほかない。しかし残念ながら、古い業務を漫然と続けている日本の銀行員はそういった思考の転換をすることができない。

■日本の銀行の危機的状況

日本の銀行には、「今までの仕事のやり方を変えずに生き残りたい」と言う行員もいる。しかし、そのような甘い考えでは金融業界の変化についていけず、これまでのやり方で課された収益のノルマを達成するために不正に手を染める危険をはらんでいる。分かりやすい事例が、スルガ銀行だ。スルガ銀行は数年前までは「地方銀行の優等生」と言われ、森信親金融庁長官(当時)が「他の銀行もスルガ銀行を見習え」と絶賛していたが、その後、2018年に「かぼちゃの馬車」の事件が起こった。

この事件は、都内を中心に展開する女性専用のシェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営するスマートデイズが、高い家賃や利回りを保証して会社員などから投資を募ったことに端を発する。かぼちゃの馬車のスキームを利用するには、出資者は一億円程度かけてシェアハウス物件を購入する必要があるが、これだけの資金を個人だけで用意できるはずもなく、銀行に借り入れを頼むことになる。ここで登場したのがスルガ銀行だ。

スルガ銀行は、他の銀行であれば融資を断られるような人に対して、積極的に貸しつけを行っていた。つまり、通常行われるべき審査を行わなかった結果、過度な借金を背負いシェアハウスを購入した人が増えていったのだ。

ところが、シェアハウスの入居者が十分に集まらず、不動産オーナーへの賃料の支払いが滞り、スマートデイズは経営破綻し投資家には多額の借金が残った。これが事件の概要である。

かぼちゃの馬車事件は、アメリカで起こったサブプライム・ローンと基本的には同じ構造だ。 借りる側の信用情報を無視して、本来貸せる額の数倍のお金を貸していた。このように誰が見ても非常にリスクの高い取引をスルガ銀行が行っていたことが分かる。

こうした状況からも、銀行の従来型のやり方は限界を迎えていることが分かる。今までのやり方を続け収益を生もうとすると、何らかの不正に手を染めることになる。これが破滅的な結果を生んでいるのだ。

大前研一(おおまえ・けんいち)

早稲田大学卒業後、東京工業大学で修士号を、マサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号を取得。

日立製作所、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、現在、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長。著書に、『「0から1」の発想術』『低欲望社会「大志なき時代」の新・国富論』(共に小学館)、「日本の論点」シリーズ(小社刊)など多数ある。

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