古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

「円高で訪日客が減る」が絶対に間違いな理由 日本には為替に左右されない魅力がある

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2016/07/11 11:00 デービッド・アトキンソン
日本は「観光資源の魅力」さえ磨けば、観光客が増える国だ(撮影:梅谷 秀司) © 東洋経済オンライン 日本は「観光資源の魅力」さえ磨けば、観光客が増える国だ(撮影:梅谷 秀司)  

 「インバウンドが活況なのは円安だったから。円高に振れる今後は、『インバウンドバブル』は弾ける」

 という説がある。しかし、それは「全体」を見ていない誤解だという。

 書籍『新・観光立国論』や、その続編『国宝消滅』などで日本の観光政策に関する提言を続けているイギリス人アナリスト、デービッド・アトキンソン氏が解説する。

「円高になると外国人観光客が減る」は本当か?

 最近よく耳にするのは、日本で外国人観光客が増えたのは、「円安」が大きな追い風となったインバウンドバブルであり、「円高」になるにつれてこのバブルははじけてしまうという主張です。

 確かに、2011年9月に1ドル76円だった為替レートが、訪日客数が過去最高を記録した2015年には1ドル120円台まで円安になったことを考えれば、そのように言いたくなる気持ちもよくわかります。実際、2011年から2016年までの為替と訪日客数の相関係数は約0.91でした。

 日本でインバウンドが増え始めた2012年以降、円高から円安に転じています。この動向と、訪日客数の推移を単純に比較してみると、両者に強い相関関係があり、「円高になると外国人観光客が減ってしまう」という主張になりやすいのはよくわかります。

 しかし、それは本当なのでしょうか。

 実は、この主張には3つの問題があります。

 1つ目は、構造変化である「ビザの緩和」です。2013年から日本政府は、訪日観光客増加に大きな効果が見込まれるタイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、そして中国からの観光客のビザ発給要件を大幅に緩和しています。その効果は顕著にあらわれており、これらの国からの観光客が目に見えて急激に増えました。つまり、訪日客数増加には、このビザ緩和が大きなパラダイムシフトとなっているのです。

 このように訪日客数というデータの「基礎」に大きな変化があるなかで、為替の動きと比較して因果関係があるという結論に結びつけるというのは、分析としては問題があると言わざるをえません。

 2つ目の問題は、「一本調子問題」ということです。

 確かに、最近の為替と訪日客数の動向を見ると、両者には相関関係があるように見えます。ただ、逆にこれが問題でもあるのです。というのも、この時期、為替も観光客数も「右肩上がりの一本調子」になっているからです。

 

 分析の基本理論上、2つのデータは一定期間中、下がったり上がったりという動きが重なるのであれば、間違いなく一定の相関関係があると言えます。しかし、一本調子の右肩上がり傾向にある2つのデータを比較すると、本当は一次的な関係はないにもかかわらず、その2つにあたかも深い関係があるように見えてしまい、相関関係があるという仮説を導いてしまっているおそれも否めません。

 ちなみに、2015年に入ってからは円高になっているにもかかわらず、訪日外国人観光客数は増え続けています。2015年から2016年までの相関係数は、2011年から2015年までの相関係数の数値より急激に下がっています。まだ十分にデータはそろっていませんが、両者の相関関係はすでに弱くなりつつあります。

 ただ、私がこの分析を問題だと感じる最大の理由は、3つ目の「データ分析の期間」です。

「インバウンドバブル説」最大の問題点

 2つの出来事に相関関係を求めるには、できるだけ多くのデータ、つまり長い期間の数値を出して比較をしなくてはいけないというのは、分析の基本です。

 では、実際に長期間で訪日客数と為替を見てみると、相関係数は約0.3まで下がります。

 よりわかりやすいところで言えば、1990年代は1ドル140円前後で、現在の1ドル110円前後と比べても、顕著に円安でした。にもかかわらず、日本の外国人観光客は、現在と比べても極めて少なかったのです。観光客数が増加したのは円安だからと言うのであれば、1990年代はもっと円安だったのに、訪日客がそれほど来ていなかったことを説明する必要があります。

 為替と訪日客数に、まったく関係がないということはないでしょう。しかし、日本政府の観光戦略が2013年に、それまでと大きく異なるパラダイムシフトを迎えたのは紛れもない事実です。このようにデータの背景事情に大きな変化があるにもかかわらず、円安の右肩上がりと、訪日客数の右肩上がりを比較するのは、分析として無理があります。

 そもそも、「円高になると外国人観光客が減る」というのは、「観光立国」を目指していくうえでは表面的な議論であり、もっと本質的なことを議論すべきだと私は考えています。

 それは、たびたび繰り返し主張をさせていただいている、日本の観光資源の魅力についての議論です。

日本には為替に左右されない力がある

 「NHK大河ドラマ」の舞台になる、伊勢志摩サミット、ゆるキャラ、ご当地グルメ、有名人を起用したイベントなどなど、観光PRができて情報番組などで紹介されれば、観光客は黙っていてもやって来る。日本の観光関係者とお話をしていると、やはりまだこのような考え方が残っていると感じます。

 それは一言で言えば、観光客数を重視をして、「ブーム」を狙う考え方です。

 日本の人口が右肩上がりで急増している1990年代までの時代なら、この観光戦略で問題ないと思います。観光資源の整備や、魅力を磨くことなく、とにかくPRに力を入れて何かしらの「ブーム」を仕掛けることができれば、分母が増えていくので、観光収入もそれなりに得ることができたはずです。

 しかし、今は国内の人口が減り続けていることによって国内観光客の母数が減少しており、海外からインバウンドを迎える時代です。

 こうなると、国内観光産業は、「リピーター」を増やし、ひとりあたりの単価を上げていくことが求められます。国民の人口減少分を補うため、ひとりあたりの滞在時間をのばし、それに耐えられるだけの観光資源の魅力を磨くのです。企業の経済活動的な表現で言えば、顧客満足度を上げていく必要があるのです。

 それは、海外観光客誘客戦略も同様です。

 これまで主張してきたように、観光の基本は多様性ですので、この多様性によって、為替の影響を最小限におさえるということも当然、可能です。

 近隣諸国の観光客は比較的、所得の低い人の比率が高くなります。たとえば中国人団体ツアーである程度は地元が潤ったというところもあるでしょうが、このマーケットは相対的に、為替に敏感です。

 外国人観光客誘致の本質は、近隣諸国からの観光客と遠い国からの観光客を、できるかぎりバランス良く誘致することです。遠い国からの観光客は相対的に所得が高い傾向が強いので、為替変動にそれほど敏感に反応しないことが確認されています。

 その一方で、遠くからわざわざ訪れている人々なので、低所得観光客よりも、要求する満足度が高くなる傾向があります。そうなると、やはりこちらも魅力ある観光資源によって、ひとりあたりの滞在時間をのばし、客単価を上げていくのが進むべき道だという結論に至ります。

 つまり、今の日本のような人口減少国家では、高付加価値のサービスを提供し、顧客満足度を上げていくという観光戦略こそが求められるのです。

日本はフランスに匹敵する観光先進国になれる

 かつての「ブーム」を仕掛けて数を稼ぐという薄利多売的なモデルは、人口急増国家ならではの古いモデルです。それは言い換えると、とにかく情報発信をすればいいという時代が終焉を迎え、観光資源の魅力を磨けば観光客が増える時代になったということです。観光資源の魅力を磨けば、単価を上げて収入を増やせる時代と言ってもいいかもしれません。

 その「観光資源の魅力」があれば、多少の円高であっても耐えられるはずだ、と私は考えています。根拠はフランスです。「観光大国」としてさまざまな魅力を有するフランスの観光客数は、データで比較をしてみても、あまり為替の動向に左右されていません。

 拙著『新・観光立国論』などで何度も述べているように、日本の観光資源は、フランスに匹敵するポテンシャルがあります。つまり、日本は為替で一喜一憂するような国ではないのです。

 いまやるべきは「円高だから」などと言い訳をしているのではなく、持てる観光資源の魅力を磨き、人口減少国家ならではの「観光先進国」を目指していくことなのではないでしょうか。

東洋経済オンラインの関連記事

東洋経済オンライン
東洋経済オンライン
image beaconimage beaconimage beacon