古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

「株を売れ、金を買え」の潮流は本物なのか 英国EU離脱で大変容するマネーの動き

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2016/07/11 07:59 中川 雅博,井下 健悟
「株を売れ、金を買え」の潮流は本物なのか © 東洋経済オンライン 「株を売れ、金を買え」の潮流は本物なのか  

 英国ショックを受けて日々の株価や為替の動きに目が奪われがちだが、相場のプロが刮目するのが金だ。

 経済アナリストの豊島逸夫氏は、市場に大波乱を巻き起こしたブレグジット(英国のEU離脱)について、「金相場の反応はリーマンショックと真逆。金の世界から見ると今回の危機の質が分かりやすい」と話す。豊島氏は、三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、外資系銀行での外国為替金属ディーラーを経てワールド・ゴールド・カウンシルの日本代表も務めた金の第一人者だ。

 リーマンショックのあった2008年は金価格が一時3割近く下がった。この時の値崩れは「ほとんどの投資商品が値下がりし、世界中のファンドや投資家がデリバティブ(金融派生商品)取引で追加証拠金に支払う必要に迫られた。そこで金を売って現金を捻出しなければならなかったため」(豊島氏)。

ブレグジットで大幅な値上がり

 一方、今回はどうか。英国の国民投票が結果が判明した6月24日、ニューヨーク金先物相場は前日比100ドル以上高騰し、2年ぶりの高値となる1トロイオンス=1362ドル台をつける場面もあった。そこから1週間以上経っても値崩れは起きていない。豊島氏は現在の金相場について、「底堅い動き。短期的な値上がりではなく、中長期のトレンドとして上昇していくとみられる」と分析する。

 週刊東洋経済は7月16日号(11日発売)で『まるごとわかるEU危機』を特集。歴史の転換点ともいえるEU危機の本質を探り、金や株、為替のほか、国際政治へのインパクトまで英国ショックが与える影響について幅広く分析した。

 金相場から見える危機の質の違いについて、豊島氏は「2008年のように金融機関の債務返済能力や市場の流動性が危機的な状態に陥ったわけではなく、今回は経済の長期停滞リスクが顕在化したといえる。国民が抱くエスタブリッシュメント(体制)への反感が移民問題を契機にして表出し、保護主義・孤立主義が強まる中で経済が徐々に縮小していく構図だ」と解説する。

 英国のEU離脱はまさにソブリンリスク(国の信用リスク)であり、市場が最も恐れるもの。実際、国民投票以後に英ポンドは大きく売り込まれ、1ポンド=1.3ドルを割り、31年ぶりの安値を更新している。 

 予期せぬ事態で通貨の信用が低下する一方で、「実物がある金は価値の保蔵手段として優れている。いわば『無国籍通貨』なのでソブリンリスクにさらされない。これまで金の欠点はイールド(金利)を生まないということだったが、マイナス金利が普通になってくるとハイイールド(高利回り)といわれたりもする。相場を長年見てきたがこんな状況は初めてだ」と、豊島氏は驚きを隠さない。

 現在、「金買い」に動いている市場のキープレーヤーは主に2つ。「一つは米国の著名投資家であるジョージ・ソロスやスタンレー・ドラッケンミラーら、中長期の視点で資産運用を行うヘッジファンド。ドラッケンミラーは今年3月の時点で、『株を売れ、金を買え』と話していた。彼らは欧州分裂のシナリオを念頭に、5年後にユーロが存在しているのかを疑問視し、現在はフランスやイタリアなどでの離脱ドミノのリスクを注視している。今日買って明日売る人たちではない。長いタームで持つので金価格も底堅くなる」(豊島氏)

市場の「不安感」が上昇材料

 もう一つの買い手として注目されるのが各国の中央銀行だ。「IMF(国際通貨基金)のデータを見ると、中央銀行の金買いが増えている。特に外貨準備の多くをドルやユーロが占める新興国勢は、急速に金を買い始めた。こうした動きは通貨に対する不信認と取れる。新興国からするとドルの一極支配は受け入れられないし、かといって人民元も信用できない。ユーロはもはやリスクが高すぎる。それだけに、金は資産運用や外貨準備のヘッジ的な役割を担っていくだろう」というのが豊島氏の見立てだ。

 今後の金価格について、豊島氏は「世界情勢の大きな不安感が払拭されない限り、長期的には上昇する。1~2年であれば上値は1400ドル、20年ごろには1700ドルとなるだろう」と予想する。金と米ドルの兌換が停止された1971年のニクソン・ショック以降、「金はおカネにあらず」とされてきた。だがその流れを否定するかのように、金の立ち位置が今見直されているようだ。言い方を変えれば、マネーの流れの変化が金相場の動きに現れているといえる。

 ブレグジットは一過性のショックではなく、さまざまな相場の動きに大きなトレンドの変化をもたらす歴史の転換点かもしれない。今求められているのは、目先の株価に一喜一憂せず、世界を俯瞰する視点なのだろう。

東洋経済オンラインの関連記事

東洋経済オンライン
東洋経済オンライン
image beaconimage beaconimage beacon