古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

EV時代を前に、中国が世界の「車載電池」工場に

JBpress のロゴ JBpress 2017/10/10 花園 祐
中国・上海で開催された工業博覧会の新エネルギー自動車の展示スペース(2016年11月1日撮影、資料写真)。 © CNS/周東潮〔AFPBB News〕 中国・上海で開催された工業博覧会の新エネルギー自動車の展示スペース(2016年11月1日撮影、資料写真)。

 政府の様々な支援策を受け、今や中国は一般乗用車だけでなく電気自動車(EV)に代表される新エネルギー車市場においても世界一の市場となりました。

 直近の2017年1~8月の新エネルギー車販売台数は前年同期比30.2%増の32万台、8月単月では前年同月比76.3%増の5.6万台を記録し、高成長を堅持しています。

 こうした新エネルギー車の普及に伴い、そのコア部品である車載電池(中国語で「動力電池」)も重要性を増しています。その中で、世界の電池工場として日増しに存在感を高めているのが中国です。2016年の中国の出荷量は世界シェアで過半数を上回り、世界一となったと分析されています。

 今回は、中国の車載電池市場の現状と課題について紹介したいと思います。

リチウムイオン電池の種類と長所・短所

 本題へ入る前にまず、現在、車載電池に最も利用されている「リチウムイオン電池」の種類について簡単に説明しましょう。

 そもそもリチウムイオン電池とは、電池の正極材の原材料に「リチウム酸化物」を使用した再充電可能な2次電池のことを指しています。充電量が多く、長寿命で、かつ高出力であることから幅広く応用されており、車載電池においてもリチウムイオン電池を採用する動きが主流になっています。

 ただ、このリチウムイオン電池は、正極材にどんなリチウム酸化物を使うかによって性能が大きく変わってきます。主な原材料をいくつか挙げると、「コバルト酸リチウム」「ニッケル酸リチウム」などがあり、それぞれ「コバルト系」「ニッケル系」などと呼んで区別されています。

 なぜ電池の種類が分かれているのかというと、どの電池も性能に一長一短があり、「正解」がまだ定まっていないからです。

 電池の性能の要素を大きく分けると、充電量を左右する「エネルギー密度」、発火や爆発に対する「安全性」、「コスト」、「生産技術」という4つがあります。これらをすべて満たす電池が理想的なのですが、“エネルギー密度は高いけれど安全性で課題がある”(ニッケル系)、“コストは低いがエネルギー密度が低い”(リン酸鉄系)など、全方面で優れたリチウムイオン電池はまだ存在していません。そのため、電池メーカー、自動車メーカー各社の間で、生産、採用するリチウムイオン電池種類が異なっているというわけです(下の表を参照)。

車載電池の主な種類 © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 車載電池の主な種類

 今後の技術革新によって、主流となる種類が絞られてくる可能性はあります。しかし現状では、各社の戦略によって採用される車載用のリチウム電池種類はバラバラです。逆を言えば、今後、どの種類が優勢となってくるかが、これからの車載電池市場を占う上で非常に重要となってきます。

2年連続で3ケタ成長した中国の車載電池市場

 それでは、本題となる中国の車載電池市場について、まずマクロデータから見ていきましょう。

中国の車載電池市場規模の推移(2011~2016年) © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 中国の車載電池市場規模の推移(2011~2016年)

 中国のハイテク関連ポータルサイト「OFweek」の調査によると、中国の車載電池生産量の前年比成長率は、2014年に368.4%増、2015年に324.3%増と際立った成長を見せました。2016年こそ78.6%増と3年連続の3ケタ成長を逃したましたが、他国と比べれば依然と高い成長率を達成しています。今後も2022年までは中国政府の支援や計画もあって、年複合平均成長率で25%超を維持すると予想されています。

 また、2016年における中国の車載電池生産量の世界シェアは、ほとんどのシンクタンクが6割前後と分析しています。控えめにみても中国が過半数超に達していることは間違いありません。実質的に世界一の車載電池生産市場と言えるでしょう。

 こうした中国車載電池市場の急成長の背景には、中国政府の新エネルギー車への優遇政策があります。中国政府は「2040年までにガソリン車を全面的に禁止」する方針を打ち出すだろうと言われています。今後も、中国政府は新エネルギー車に補助金を支給するなどの優遇策を継続すると見られ、車載電池市場も有望視されています。

群雄割拠が一転、CATLが業界トップに

 続いて、中国国内の車載電池市場はどうなっているのでしょうか。

 中国ではこれまで、EV生産も手掛ける比亜迪(BYD)グループが、中国の車載電池市場でシェアナンバーワンを維持してきました。ただ業界トップとはいえ、シェアは30%には達していませんでした。急成長市場ということもあり、やや混沌とした群雄割拠のような状態で市場が形成されていました。

 それが今年2017年に入ると、それまで2位だった寧徳時代新能源科技(CATL)が一挙にシェアを拡大して、トップに躍り出ました。2位に陥落したBYDとの差も徐々に広げ、業界トップリーダーとしての地位を固めつつあります。

 同時に、CATLとBYDのトップ2社が3位以下を大きく突き放し、中国車載電池市場シェアの約半分を握るなど、市場の寡占化も進んでいます。

電池搭載量で見た中国の電池メーカーランキング © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 電池搭載量で見た中国の電池メーカーランキング

主流はリン酸鉄系から三元系へ?

 CATLとBYDのトップ交代の背景には何があるのか。中国のメディアや専門家の間では、両社が製造する電池の種類が勝敗を分けたとする見方が多く見られます。

 中国の車載電池市場では、これまで「リン酸鉄系」リチウムイオン電池が主流で、2016年は全出荷量に対する比率が73%を占めていました。エネルギー密度が低いものの、安全性が高く、コストの安い鉄を正極原材料に使う電池です。

 しかし近年、エネルギー密度や安全性の面で優位のあるコバルト、ニッケル、マンガンの3種類の材料を正極材に使用する「三元系」リチウムイオン電池の需要が高まっており、自動車メーカーの間でもこちらを採用しようとする動きが出てきました。

 三元系リチウムイオン電池は高い生産技術が要求されるのですが、CATLはかねてからこの分野に強く、整備されたサプライチェーンと生産技術を既に有していました。そのことが今年の躍進につながったと分析されています。

 また、CATLは中国の電池メーカーの中で、唯一、BMWをはじめとした外資系高級車ブランドにも車載電池を納品しており、品質面で高い評価を得ていたことも影響しているでしょう。

 一方、これまでリン酸鉄系に偏ってきたBYDも、市場の動向を受けて三元系への対応に動いています。今年8月には、三元系リチウムイオン電池に強い業界4位の合肥国軒高科動力能源有限公司(国軒高科)との提携を発表し、三元系リチウムイオン電池のサプライチェーンを強化する方針を打ち出しています。

 中国政府も、リン酸鉄系から三元系への技術転換を国内の電池メーカーに促しているといいます。こうした動きから、現時点では今後の電池の主流は三元系が有力であると各所で予想されています。

外資を現地生産に引き込む世界最大市場

 前述の通り、中国は新エネルギー車が世界で最も売れている市場です。自動車メーカーに電池を供給する電池メーカーにとっても、現地での生産、販売は当然メリットが大きく、世界の大手各社が中国での生産拡大に動き出しています。

 トヨタ自動車や米テスラモーターズに電池を供給している車載電池世界最大手のパナソニックは、今年4月、遼寧省大連市に新たな車載電池工場を開所しました。同社は電池関連の投資を大連市へ集中させており、今後、同社にとって一大拠点となることは間違いありません。

 世界最大の新エネルギー車市場という“地の利”を持つ中国が、今後も車載電池市場の発展において中心的立場を維持することは間違いないでしょう。ただ、かつてはリチウムイオン電池の世界シェアの9割が日本メーカーによって占められていた時期もあります。それだけに、こうした状況を座視していていいのかという思いも禁じえません。

 今となっては時すでに遅しですが、それこそ安倍首相にはトランプ大統領ばりに「世界の電池をすべて日本製にしてやる!」などと発破をかけて産業奨励をしてもらいたかった、というのが筆者の本音です。

JBpressの関連リンク

image beaconimage beaconimage beacon