古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

Mazda3に見るマツダの第7世代戦略

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2019/03/11 06:42
マツダが「冬の陣」と呼ぶ剣淵テストコースでの雪上試乗会。2019年の主役はMazda3 © ITmedia ビジネスオンライン マツダが「冬の陣」と呼ぶ剣淵テストコースでの雪上試乗会。2019年の主役はMazda3

 毎年冬、北海道上川郡剣淵町のテストコースで開催されるマツダの雪上試乗会にMazda3が用意された。筆者はすでに北米での試乗会で運転して、十分以上に驚いた後なのだが、さらにもう一度驚かされた。北米の記事を書いた時、「池田はいつも驚愕しているな」とコメントされて苦笑いしたが、まあその通り、マツダには本当に毎度驚かされる(関連記事:新型アクセラの驚愕すべき出来)。

 さて、最初にエンジンについて残念なお知らせだ。今回もまたSKYACTIV-Xは登場しなかったし、期待の1.8ディーゼルも助手席で、というか正確には助手席の代わりに取り付けられたグラグラ動くシートで、しかも時速10kmで数百メートル乗っただけ。ハンドルを任されたのは北米仕様の2.5Gと2.0Gだった。

●人間中心を突き詰めるということ

 さて、気を取り直して本題に戻ろう。何に驚いたかの話だ。驚愕は大別して、クルマそのものの出来と、そこへたどり着くプリンシパル(原理・原則)の両面だった。まずはそのプリンシパルの方だ。テーマは「人間中心」。正直「人間中心」という言葉そのものはもうありふれていて、この世のどこにも「ウチは人間中心なんて考えていません」と言うメーカーはない。どこだって言う。「あーそうですか」という感想しか呼ばない。

 ところが、マツダは違った。クルマの運転は「認知・判断・操作」の3段階で行う。これはもう定理であって、これ以上分解できない素数のようなものだと思っていた。しかし、マツダはその素数だと信じられていたものをさらにもう1回開いて見せた。筆者はそれに完敗した。「すごい」と同時に「やられた」と思った。

 「人間中心があってこその、認知・判断・操作です。人が人間工学的に理想的な姿勢をとったときに、認知能力も判断能力も操作能力もより高いレベルで発揮できるのです」

 シートが大事とか、操作系のフィールが自然であることが大事とか、視界が阻害されないことが大事とか、騒音や振動がストレスにならないことが大事とか、そういう個別の大事な事象を全部束ねる言葉こそが「人間中心」であったとマツダは言うのだ。

 例えば、階段を上がるとき、ガニ股にして足首より外側に膝がはみ出すフォームで上がろうとすると、一歩ごとに勢いをつけて「えいやっ!」と階段を上がることになる。しかし、すねをまっすぐに立てて、足首の真上に膝が乗るフォームだと、筋力負荷を最小にしつつ入れる力をコントロールしながら階段を登れる。もちろん前後左右に足首が動く余裕もあるので、バランスも取りやすい。

 クルマの運転も筋力を使って行う以上、骨と関節と筋肉の構造にとって正しい姿勢を取ることで早く正確な操作ができる。

 今回、雪上路でマツダが用意した1つのプログラムがある。積雪の林道を周回するにあたって、1回目は新型Mazda3の白眉とも言える素晴らしいシートに普通に座り、2回目はわざとお尻を前にズラしてだらしなく座ってくれと言われた。同じコースを走って、ステアリング操作や視線移動を室内に設置されたカメラで撮影し、かつステアリングの入力変異グラフや前後左右の加減速Gのグラフと照らし合わせるという実験だ。

 予想通りといえば予想通りだが、だらしなく座ると操作が雑になって、ステアリングもアクセルもブレーキも補正操作が多くなる。つまり1度でピシッと操作できず、切りすぎ踏みすぎからの戻しや再入力が増える。長時間になればそれが蓄積して疲労となり、操作精度を落としていくことになるのは当然だろう。

 それ以前に首や体幹が自由に動かないので、状況把握能力が落ちるし、タイヤの滑りを感知する能力も落ちる。つまり運転に際して、人体はそれ自体がセンサーであり演算回路であり、アクチュエーターなのだから、その固定に細心の注意を払うのは、言われてみれば当然だ。

 良いクルマとは何か? マツダはそれを人間起点で考え直した。認知は目と三半規管と体幹の筋肉で行われる。頭がしっかり正立してぐらつかないこと。だとすれば、それをスタビライズする体幹の筋肉が自由に動ける状態で上体を支持すること。そして体幹の筋肉の基盤となる骨盤を座面で確実にホールドすること。これが全ての始まりだ。

 タイヤからの入力を混濁させることなく骨盤に伝えることに留意した。マツダは振動のピークを叩くことをプライオリティの1位にするのを止めた。むしろ振動を引きずって長く揺れることを問題視し、シャシーを高剛性化して、振動が別経路を通って遅れて入ってくることを防ぐ設計とした。さらに閉断面に竹の節に似た閉断面構造を入れ、そこに振動を集めて内部減衰の高いボンドで熱に変換している。

 昔から、自動車評論の世界では、「多少鋭い入力があっても短時間にすっきり収まれば気にならない」と言われてきた。マツダはそれを分析し、メソッド化してみせた。揺れが長く複雑だと、体幹の筋肉が長時間負荷を受ける。だから疲れるしバランスが取りにくくなる。

●人の感覚にとって自然に曲げる技術

 さて、今回は技術の主役が3つある。1つはこれまで述べた「人間中心」。2つ目は「GVC Plus」だ。筆者の親しい友人が最近CX-8を購入した。彼は「GVC Plusが効いているのかどうか全然分からない」と言うがそれで良い。分からないように制御するのがGVC Plusの狙いなので、それは褒め言葉なのだ。

 まずは前身であるGVCから説明しよう。GVCは「G-Vectoring Control」の頭文字で、必要な時にフロントに荷重をかけてアンダーステアを消す技術だ。四輪車は前輪が曲がる仕事を後輪が直進する仕事を司る。ハンドルを切っても前輪の荷重がゼロなら曲がらない。例えば、舵角に対して本来発生する横力が足りないとすれば、それは前輪荷重が足りていないのだから、エンジンブレーキで前輪に荷重を掛けてやれば本来の横力を発揮する。これがGVCの仕組みだ。

 マツダの面白いところは「曲げる力をたくさん出す」のではなく「本来の力が出ていない場合、理想的な状態に戻す」のを狙っていることだ。つまりクルマ本来の実力通りに曲げてやることであって、実力以上に曲げることではない。

 それに対してGVC Plusは何が追加されているかというと、片側前輪へのブレーキ作動だ。近年多くのメーカーが片輪ブレーキを曲げることに使っている。筆者の経験から言うとこれはあまり自然な結果を生まない。

 各社によって制御ロジックは多少違うが、原理的に見てみると、いろいろと不自然になる要素があるのだ。まずコーナーの進入でブレーキを残すと、片輪ブレーキは制動に上書きされて機能しない。そこからブレーキを離すと片輪ブレーキが効いてグイッと曲がり、コーナー後半では曲げる必要が薄れるため片輪ブレーキが解除される。場合によってはそこでステアリングを切り増さなくてはならなくなる。

 つまり、舵角に紐づいた横力と全く違う要因で横力を発生させるため、横力の発生源が2系統になり、その総和が横力になる。ところが、片輪ブレーキは人が操作した結果ではないから、ドライバーが関知しない。プログラムがいきなり仕事を始めたり止められたりすると、その差分はドライバーが舵角で調整してやらなければならなくなる。

 GVC Plusの制御はロジックが全く違う。ステアリングを戻したとき、曲げ力を消す方向で片輪ブレーキの微小制御を入れる。クルマを曲げるのではなく、直進に戻す方向で片輪ブレーキを使うのだ。そういうタイミングで片輪ブレーキを使うと、縮んだばねの反力で前輪が浮き上がることを抑えられるので、荷重が安定するとともに、車両姿勢が安定方向へ早く戻る。だからダブルレーンチェンジのような急激な切り返しで段違いで挙動が安定するのだ。

 氷や雪の上でジムカーナ的なことをやったことがある人ならご存じの通り、ダーッと滑り始めるのは曲がり始めか脱出時だ。入り口では減速が足りずにアンダーが出て、出口ではアクセルオンが早すぎてアンダーが出る。GVCはこの入り口側の問題を、そしてPlusで追加された機能は出口側の問題を解決した。

 その結果、Mazda3は、ただのFFにもかかわらず、スタッドレスさえ履いていれば全くなんの支障もなく雪道を自在に走り回ってみせた。ペアを組んでテストを回った某一流レーシングドライバーが「四駆いらないよね」と言った言葉が全てを物語る。

●i-ACTIV AWD

 ところが、書き手としては困ったことに四駆のプロトタイプがこれまた素晴らしかったのだ。3つ目の主役はi-ACTIV AWDである。

 トーションビーム(TBA)のリヤサスに駆動軸を組もうとすると、デフはシャシー側に吊るしかない。いわゆるド・ディオン・アクスルのような形式で、リヤのドライブシャフトはセレーションで自由に伸縮する形になる。ねじりばねの役割を部分的に集中させたビーム形状のおかげで横方向の剛性が高いため、駆動力をかけても暴れない。

 今回はMazda3のAWDモデルが間に合わず、その開発のために作られたCX-3のシャシーにMazda3のAWDシステムを組み込んだプロトタイプに乗った。AWDはどうしても粗雑なところがあるものだが、全くそういう感じが見受けられない。FFからAWDに切り替わったり、それが元に戻ったりするところがきれいにつながっている。しかもマツダは「滑りやすい路面でならAWDの方がFFより燃費が良い」と主張する。

 マツダのi-ACTIV AWDは基本FFであり、オンデマンドでリヤタイヤに駆動力を配分するが、デフォルトを100:0にすると、フロントが滑り始めてからリヤに駆動力をつなぐときに段差感が出るし、システム上最初の滑りを許容することになる。そこでi-ACTIV AWDでは基本配分を99:1にした。つまり切り替えによる激変を嫌ってあらかじめ1%トルクを流しておくことで「全てを線形変化」、つまり急変のない連続的な変化にしたわけだ。

 マツダ曰く「1cmたりとも滑らせない」。タイヤを無駄に滑らせなければエネルギーは無駄なく駆動力に変わり、燃費は良くなる。切り替え的変化がなければ圧倒的にフィールが良くなり、しかも全てが電制任せでドライバーは運転に集中できるというわけである。

 実際にスラロームコースを走ってみてFFより優れている点は、パワーオンでリヤのスライドが好きなように起こせるし、その状態からグリップに戻るとき、GVC Plusがうまく介入しているようで揺り戻しが起こらない。

 岩越えやバンパーを擦るほどの穴にタイヤを落とすハードなシチュエーション、つまり1輪が浮くような局面では、クロカン四駆のようにデフロックがないこのシステムでは厳しいだろうが、普通の雪道を普通に走るときの快適性は見事なものだ。

●第7世代

 マツダの第7世代は、これまで積み重ねてきたSKYACTIVテクノロジーを、もう一度「原理・原則」に立ち返って人間中心を軸に組み直したものだ。そして少なくともMazda3を見る限り、他社を一気に突き放すものになっている。モデル末期とはいえ、このクラスの指標となってきたフォルクスワーゲン・ゴルフを完全に凌駕した。スタイルのためにドライバー側に寄せられて寝かされたAピラーの圧迫感。それによる室内空間の健康さの不足を除くと、ちょっと欠点がない。トーションビームアクスルで心配されるリヤサスのバタバタ感も凹凸の多い雪路で全く問題なかったことを見るとネガらしいネガは見当たらない。

 Mazda3はちょっとした革命だと思う。しかも今月5日にはMazda3の車高を上げたクロスオーバーモデル「CX-30」が発表された。乗ってみないで言うのも危険だが、これがMazda3とほぼ同じ性能だとすると商品性でもかなりなことになる気がする。

 と書きながら筆者は思う。今後出てくるマツダ車がこれより良くなったとき、一体どうやって原稿を書いたらいいのだろうか? ダメなものは愛か怒りを持って批判し、褒める時は手加減しないでちゃんと褒めることを信条としてきたが、これ以上良くなると本当に困る。

(池田直渡)

ITmedia ビジネスオンラインの関連記事

image beaconimage beaconimage beacon