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とんねるずがここまで時代錯誤になったワケ 視聴者も「パワハラ芸」に辟易している

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/08/26 10:00 ラリー遠田
記念スペシャルバラエティー「ハレバレとんねるず 略してテレとん」収録 「ハレバレとんねるず 略してテレとん」の会見であいさつする石橋貴明(左)、木梨憲武=2012年8月15日(写真:日刊スポーツ) © 東洋経済オンライン 記念スペシャルバラエティー「ハレバレとんねるず 略してテレとん」収録 「ハレバレとんねるず 略してテレとん」の会見であいさつする石橋貴明(左)、木梨憲武=2012年8月15日(写真:日刊スポーツ)

 30年近く放送を続けたフジテレビを代表する人気バラエティ『とんねるずのみなさんのおかげでした』(以下、『みなさん』)はなぜ終わってしまったのか。

 その決定的な要因の1つは視聴率が下がってきたことだろう。『みなさん』が視聴者の支持を得られなくなってしまったのは、番組の中にある本質的な部分が飽きられ、時代遅れになってしまったからではないか。

 ここ数年、とんねるずはコンビとして『みなさん』以外のレギュラー番組を持っていなかった。とんねるずというタレントにとって、この番組こそが生命線だった。だからこそ、ここに懸ける彼らの意気込みも尋常なものではなかった。『みなさん』が多くの視聴者に飽きられてしまったのだとしたら、それはとんねるずという芸人が飽きられつつあるということを意味する。

 具体的に言うと、とんねるずの「パワハラ(パワー・ハラスメント)的な笑い」が今の時代に合わなくなっているのだ。

とんねるずの笑いの原点は「素人芸」

 とんねるずの笑いの原点は「部室」にある。スポーツの名門である帝京高校の野球部とサッカー部の出身だった石橋貴明と木梨憲武は、高校生のころから、物まねやギャグで周囲にいる仲間を楽しませる明るいキャラクターの持ち主だった。

 デビューしてからの彼らは、なりふり構わない暴力的な芸風で話題になった。当時の若者に人気があった『オールナイトフジ』『夕やけニャンニャン』(ともにフジテレビ系)などに出演した際には、一般人にも容赦なく暴言を吐いたり、スタジオの観覧席に飛び込んで乱闘を繰り広げたり、何をするかわからない、危なっかしい魅力を放っていた。

 彼らは、自分たちの芸は「素人芸」であると公言していた。普通の芸人は漫才やコントなどのネタを考えて、劇場でその芸を披露して腕を磨いていくものだが、とんねるずはそのようなプロの芸人の王道を行こうとはしなかった。あくまでも「目立ちたがり屋の素人がふざけているだけ」というスタンスを崩さなかった。その分だけ、彼らは自由奔放に振る舞うことができた。それが当時の若者にはたまらなく魅力的に見えた。

 特別な芸があるわけでもなく、顔がいいわけでもなく、歌やダンスがうまいわけでもない。何も持たないただの「素人」が、強がって共演者や観客に暴言を吐いたり、自由に暴れ回ったりする姿は、今よりずっとハードルが高かった芸能界では異彩を放っていた。

 そんな彼らは、歌をうたったり、ドラマに出演したり、コント番組に出たりして、どんどん成り上がっていった。芸人とはあまり積極的につるんだりせず、ミュージシャン、アイドル、俳優などの別のジャンルの芸能人たちと交流を深めていった。素人感を売りにしていた彼らは、いつしか本物の芸能人になった。

 彼らはどんなに自分たちの地位が上がっても、かたくなにその芸風を変えようとはしなかった。今でも番組側に用意された企画や台本に縛られず、あえて後輩芸人に冷たく接したり、ひどい目にあわせたりして予定調和を崩そうとする。素人芸こそが自分たちの本質であり、そこから離れてしまうと魅力が一気に失われてしまうことになる、というのがよくわかっているからだ。

「パワハラ芸」は今の時代にそぐわない

 しかし、徹底して「負け顔」を見せない強気な姿勢が、パワハラを嫌う今の時代の空気には合わなくなってきた。とんねるずはデビュー当時、何も持たないただの若者だった。だから、彼らが好き放題に暴れて上の者に噛みつくのが同世代の若者に熱狂的に支持されたのだ。

 だが、現在のとんねるずは、地位も名誉もお金も、何もかも手に入れてしまった絶対強者である。そんな彼らが権力者としてふんぞり返っている姿は、それだけで反感を買ってしまいやすい。

 『みなさん』で数年前から行われてきた、とんねるずが後輩芸人に自腹で数十万円から数百万円もする高級時計を買わせるという企画は、典型的な「パワハラ企画」だと言える。もちろん、その場のノリで半ば強引に時計を買わせてしまうというこの企画は、パワハラ的だからこそおもしろいのだ。しかし、職場などで本物のパワハラに苦しめられた経験のある人にとって、彼らの振る舞いは笑えないものとなってしまう。

 現在、とんねるずのタレントとしての好感度は地に落ちている。特に石橋がひどい。『日経エンタテインメント!』(日経BP社)の「嫌いな芸人ランキング」では石橋が2016年、2017年、2018年に3年連続で1位になっている。とんねるず的なパワハラの流儀は今や完全に時代遅れになっているのだ。

 2015年に出版された拙著『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』の中で、とんねるずとダウンタウンを対比させるために私は「ヤンキー的/オタク的」という言葉を用いた。体育会系のノリでハッタリを駆使して芸能界をのし上がろうとするとんねるずの石橋貴明は「ヤンキー的」であり、笑いという知的ゲームで自らが最強であることを示そうとするダウンタウンの松本人志は「オタク的」である、というふうに定義した。

 ここ数十年で世の中の流れはヤンキーからオタクに傾いている。「ヤンキーは格好いい、オタクはキモい」という時代から「ヤンキーはダサい、オタクは普通」という時代に移り変わったことで、ヤンキー的な価値観を貫くとんねるずは苦戦を強いられている。

 初期の『みなさん』では、コントの中にしばしば番組スタッフが出演していた。とんねるずは身内のスタッフを表舞台に引っ張り出して、時には殴る、蹴るの暴行を加えるそぶりをしたり、水に突き落としたりした。そのような暴挙がおもしろいものとして受け止められていたのは、とんねるずとスタッフがかもし出す「業界」の雰囲気が、多くの一般人にとってあこがれの対象だったからだ。

 芸能界やテレビ界が今よりもっとキラキラと輝いていた時代には、テレビの中であえて「内輪ウケ」を志向するとんねるずが格好よく見えた。コントでスタッフがどんなに理不尽な目に遭わされても、とんねるずとスタッフのあいだには確固たる信頼関係がある、というふうに視聴者が好意的に解釈をしていた。

 しかし、今の時代の若者にとって、芸能界にはそこまでの魅力はない。そもそも好意的に見ていない場所で、理不尽な暴力やセクハラ、パワハラまがいのことが横行していれば、それはありのままにネガティブなものとして受け取るしかない。

「保毛尾田保毛男」で明らかになった時代とのズレ

 とんねるずと今の時代のズレがあらためて浮き彫りになったのが「保毛尾田保毛男騒動」である。

 2017年9月28日放送の『みなさん』の『30周年記念SP』で、石橋が久々に保毛尾田保毛男の格好をしてロケに臨んだのだ。青ひげにピンク色の頬がトレードマークの保毛尾田保毛男は、同性愛者に対する悪意に満ちた偏見を凝縮させたような往年の名物キャラクターだった。

 LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の関連団体などがこの件についてフジテレビに謝罪を求める声明を発表した。ネット上でも多くの人から抗議の声が上がった。これらを受けて、放送翌日の9月29日には、フジテレビの宮内正喜社長が定例会見で謝罪した。

 おそらく、つくり手やとんねるず自身は、長年この番組を見守ってきたファンを楽しませたい一心で、過去のキャラクターを復活させてみただけだったのだろう。しかし、LGBTに対する人々の意識も高まっているこの時代に、ノスタルジーだけで過去のキャラクターをよみがえらせるのには無理があった。

 『みなさん』が終了して、とんねるずが窮地に追い込まれているのは、彼らが根城にしてきたテレビ界や芸能界という「業界」そのものが、人々から見捨てられつつあるからなのだ。

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