なぜ警察庁は「免許不要」にしてまで電動キックボードを普及させたい? 危険な実験データ公開! 緩和理由を警察庁に聞いてみた!
なぜ電動キックボードは免許不要に? 警察庁に「規制緩和の理由」を聞いてみた!
警察庁は2021年12月、電動キックボードなどを含めた「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」の報告書を発表しました。
同年4月19日には参院本会議で改正道路交通法が可決。2年以内に施行されることになります。
【画像】これは危険! 電動キックボードは無法地帯!? 免許必要な実態を見る!(13枚)
現在は道交法、道路運送車両法のいずれでも「原付」と同様の扱いとなっている電動キックボードですが、2024年4月頃までには「ほぼ自転車並み」に規制緩和された新たな法律のもとで利用することになります。
法改正のポイントは以下の2点です。
(1):時速20kmまでなら免許不要(車道を走行)、ヘルメット着用は努力義務
(2):(1)に加えて時速6kmまでなら歩道(自転車走行レーンを持つ)走行可能
しかし、電動キックボードの違法行為による事故は急増しており、最近では飲酒運転(もちろん道交法違反)も問題となっています。
警察庁は、2021年9月から2022年2月の間に全国で電動キックボード利用者による道交法違反容疑が168件あったと報告。
そのうち半分以上となる86件は、禁止されている歩道を走行するなどの「通行区分違反」で、続いて信号無視と一時不停止が各20件。
指導や警告を受けたのは、ナンバープレートやミラーの不備といった整備不良や無免許などが多数ありました。
「免許不要でもOK」となった時点で、違法行為がさらに激増することは目に見えていますが、なぜこのタイミングで電動キックボードの規制緩和ともいえる改正道交法が可決・成立に至ったのでしょうか。
筆者(加藤久美子)は警察庁に質問状を送り「規制緩和の理由」と「速度規制」について聞いてみました。
――電動キックボードに関して規制緩和をしてまで普及させる理由を教えてください。
一般的な電動キックボードは、現行法上は原動機付自転車等に区分されていますが、その使用実態をみると、性能上、歩行者や自転車並みの速度でしか走行できないものもあるところです。
このような実態を踏まえ、当庁の有識者検討会の報告書においては、「一般的な原動機付自転車等と必ずしも同様に扱うことが適当ではないと考えられる場合があることから、最高速度や車体の大きさに着目して車両の区分を定め、それに応じた交通ルールを定めることが適当である」旨の提言がなされたところです。
そこで、現在、当庁では、電動キックボードのうち、性能上の最高速度や大きさが自転車と同程度のものを原動機付自転車から切り出して、自転車と同様の交通ルールを定めることを検討しているところであり、これにより、守るべき交通ルールが明確化され、その内容を周知徹底することにより、交通秩序の確立につながるものと考えています。
一方、性能上の最高速度が原動機付自転車などと同程度の電動キックボードについては、引き続き、原動機付自転車等に区分することとしています。
このように、今回検討している道路交通法の改正案は、電動キックボードの性能や、使われ方などを踏まえて、それぞれにふさわしい交通ルールを定めることとしたものであり、単に「規制を緩和」して普及させることを目的としたものではありません。
――時速20km、時速6kmに制限するというのは、その速度しか出ないように電動キックボード側を調整するということでしょうか。
現在、当庁では、電動キックボードのうち、性能上の最高速度や大きさが自転車と同程度のものを原動機付自転車から切り出して、自転車と同様の交通ルールを定めることを検討しているところであり、ここでいう「性能上の最高速度」とは、車体の構造上原動機を用いて出すことができる最高の速度をいい、運転者がアクセルを操作してもそれを超える速度を出すことができない構造であることを想定しています。
筆者注:要するに免許不要の時速20km、歩道も走れる時速6kmのいずれの電動キックボードも運転者がそれ以上の速度を出せない構造にすることを想定しているようです。
埼玉県警で実施された「矛盾だらけ」の走行実験とは?
このような警察庁の回答でしたが、埼玉県警では「矛盾だらけ」の走行実験が実施されたようです。
警察庁が「時速20km以下なら免許不要」とした理由がここに記されています。
2021年3年1月から2月の間に埼玉県警察運転免許センターで電動キックボードの「走行実験」が計4日間にわたりおこなわれました。
「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会報告書」によれば、実験に参加したのは「免許あり50名/免許なし50名」の計100名です。
いずれも電動キックボードを運転したことがない人たち(16歳から17歳/18歳から19歳/20歳から39歳/40歳から59歳/60歳以上の各10名ずつ)となっています。
これらの参加者を電動キックボードでテストコースを走行させ、教習指導員などにより各自の運転行動を記録・採点したといい、その結果は以下の通りです。
●違反回数
・18歳から39歳と60歳以上では免許の有無で4倍近い差が出てきている。
・全体で免許ありは26.6回、免許なしは69.94回
●差が大きかった違反(違反行為別平均点数/上位6行為)
指定場所不停止:免許あり347点/免許なし1337点
信号無視:176点/541点
右側通行(逆走):64点/235点
右左折方法違反:58.1点/91.3点
歩行者保護不停止等:44点/84点
横断者保護違反:24点/22.4点
ほかにもさまざまな「免許がない人がいかにたくさんの違反をしたか?」ということが分かるデータがありました。
電動キックボードを免許不要の乗り物にすることが、多くの違犯や事故、そして死傷者を増やすことは容易に予想できそうです。
ではなぜ、この結果をもって「免許不要」としたのでしょうか。この調査結果には「かなり矛盾」する結論が出されています。
前述の「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会報告書」においては次のようにまとめられています。
「多くの違犯ではさほど差が見られず、全体的には運転者の運転行動に大きな差はなかった」
「運転免許を受けている者と受けていない者との間で、一部の項目を除き、運転者の運転行動に全体的には大きな差はないと言うことができる。
個々の違反行為では大きな差が生じているものもあるが、これらはもっぱら交通ルールに関する知識の差が要因となっているものと考えられる」
この調査における個々の違反行為で大きな差が生じている理由を「交通ルールに関する知識の差が要因」としていますが、それは免許を持ってなければ当然のことです。
この矛盾する実験結果と結論がベースとなって「時速20km以下なら免許不要。6km以下なら歩道走行もOK」という歴史的な改正となる道交法が誕生することになりました。
これから施行までの2年間で、免許を持たない電動キックボード利用者に対して警察はどのような指導をしていくのかが注目されています。