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サンフランシスコ「慰安婦像」の背景に、何があったのか

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2017/11/30 10:35 アイティメディア株式会社
© ITmedia ビジネスオンライン 提供

 数年前のことだが、半世紀以上前に渡米し、首都ワシントンDCの米連邦機関に長く務めた日本人女性を取材する機会があった。

 取材後、クルマで訪れていた私に、彼女は行きたいところがあると言う。そこで、その女性と同世代の友人である日本人女性も誘って一緒にDCの郊外にあるヴァージニア州フェアファックス郡に向かった。

 彼女に指定された郡政府センターの敷地内にある公園の片隅には、第二次大戦中の日本軍に強制させられた従軍慰安婦のための記念碑が設置されていた。

 この石碑の記念碑は、DCの韓国系組織である「Washington Coalition for Comfort Women Issues, Inc.(ワシントン慰安婦問題連合)」が同地域に暮らす韓国系住民だけでなく、ロビー活動で議会議員などの支持を取り付けて2014年に設立したものだ。探すのに苦労するほど離れた一角に置かれたその記念碑にはこう書かれていた。

 20万人以上の韓国、中国、台湾、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナム、オランダ、東ティモールの女性や少女が、第二次大戦中に日本帝国軍によって、強制的に性奴隷にされたり、婉曲的に“慰安婦”と呼ばれた――。

 最近、サンフランシスコで「慰安婦像」が設置されたことで(実際には像は民有地に設置されて市に寄贈された)、大阪市が姉妹都市関係を解消すると発表して話題になっている。これまで米国ではカリフォルニア州グレンデール市とジョージア州ブルックヘブン市で慰安婦像がすでに設置されており、像としてはサンフランシスコで3例目となる。

 実はこのサンフランシスコの像は、米国内の他の像とは少し様相が違う。というのも、その像設置に中心的に動いた団体が韓国関連ではなく中国関連であり、さらにその活動を率いているのが、中国系米国人たちだからだ。そこでその団体から、今回のサンフランシスコ問題の背景に何があるのか見てみたい。

●米国の日系人はどう見ているのか

 本題に入る前に、筆者はこうした慰安婦の記念碑問題が出るたびに、米国の日系人はどう見ているのだろうかと思ってきた。個人的にこれまで、米国での取材を通して多くの日系人と接する機会があったが、最近は機会があればそうした動きをどう思うのかを尋ねてきた。

 基本的に多くが慰安婦関連の動きに否定的だった。またアジア系が多く暮らすカリフォルニア州などでは、特に戦中・戦後から米国に暮らすアジア系住民の間では、いろいろと目に見えない“壁”があることも分かった。

 米国に50年以上暮らす冒頭の日本人女性2人も、フェアファックスの記念碑を前にして、首を傾げながら批判的な言葉を口にした。彼女たちは、もちろん韓国系の友だちもいると言いながら、「これは信じられないことよね」「許してはいけないと思うわ」「なぜこのようなモノをつくるのか、目的が分からない」と嘆いた。

 ロサンゼルス地区に暮らすある年配の日本人女性も、以前、ロスで韓国系が日本人街(リトル東京)で日系人のふりをして幅を利かすようになっていると苦言を呈し、慰安婦についても「韓国に対して戦時中のことで謝罪も賠償もしているのに」と何度も述べていた。サンフランシスコに実家がある、とある若い日系人は、筆者に対していつも、露骨に韓国系米国人がいかに街のトラブルメーカーであるかを口汚く語っていた。

 米国内ではアジア人の間でもお互いにそんな認識が現実として存在しているらしい。もちろんアジア人が人口の35%以上を占めるサンフランシスコも例外ではない。

 そして今回の慰安婦像問題は、これまで米国で設置されている2つの像やいくつもの記念碑とは意味合いが大きく違う。慰安婦像が初めて、サンフランシスコという米国の主要都市で設置されたからだ。これは慰安婦問題の活動を行っている側にとっては大きな勝利だと言える。

 またグレンデールやブルックヘブンの像が韓国系の組織によってつくられたのとは違い、今回のサンフランシスコは韓国系の組織が直接動いて設置を実現させたのではなく、中国系米国人の元判事2人が中心となって動いて設置にこぎつけている。

●“慰安婦”正義連合とはどんな組織なのか

 もともと判事だった中国系米国人の女性2人、リリアン・シン氏とジュリー・タン氏が作った「"Comfort Women" Justice Coalition(“慰安婦”正義連合)」がサンフランシスコの設置を実現させたのだが、この“慰安婦”正義連合とはいったいどんな組織なのか。同連合によれば、メンバーはカリフォルニア州のサンフランシスコ周辺エリアや、ロサンゼルスなどを含む南部カリフォルニア、そして日本にも支援団体がいるという。

 団体の目的は、「何十万人という(慰安婦の)被害者や生存者のための正義をもたらす助けをすることである」とする。公式サイト内には、慰安婦は「40万人」とさらっと書かれていて、かなり盛っている感もある。もう少し冷静に慰安婦問題を提起すれば、建設的な議論ができそうな気もするが、活動とはどうもそういうものではないということか。

 像については、「第二次大戦中の1931年から1945年に、11カ国の何十万という少女や女性が日本帝国軍によって性的に奴隷にされた。多くは中国、韓国、フィリピン、オランダ領インドネシア、さらにはビルマや東ティモール、日本、マレーシア、台湾、タイ、ベトナムなどといった国々の人たちだ。少女や女性たちは、強制的に、詐欺的に、また残忍なほど暴力的に、彼女たちの短い人生で毎日、搾取や言葉にできないような苦痛、拷問の対象になった。彼女たちは日本帝国軍の“慰安婦”だった。“慰安婦”とは要するに性奴隷のことである」と書かれている。

 今回のサンフランシスコの慰安婦像設立には、一説には中国関連の組織が背後で動いたとの指摘も出ている。というのも、リリアン・シン氏とジュリー・タン氏のこれまでの活動は中国との関係がちらついているからだ。

 シン氏とタン氏は共に判事をしながら、1997年に「Rape of Nanjing Redress Coalition(南京大虐殺救済連合)」を立ち上げ、『ザ・レイプ・オブ・南京』の著者である中国系米国人作家のアイリス・チャン氏とも一緒に行動してきた。チャン氏は後に自殺するが、その直前には、シン氏とタン氏、そしてチャン氏の3人で、昭和天皇を起訴する模擬裁判まで行なっている。

●2人の活動の動機はどこにあるのか

 2人はその後、人体実験を行なっていた日本軍の731部隊を糾弾すべく、米ニューヨーク・タイムズ紙に多額を支払って意見広告を出している。とにかく日本が戦時中に行った行為を何としても糾弾したいようにも取れる。

 もちろん戦時中とはいえ、日本軍が人道的に問題のある行為を行ったことは事実。だが彼らは話を誇張しすぎるきらいがある。今回のサンフランシスコの慰安婦像も、大阪市の吉村洋文市長が言うように、「日本軍が強制連行し、数十万人の女性を性奴隷にし、そのほとんどが捕虜のうちに亡くなった」というのは、あまりに一方的な主張である。

 2人の活動の動機はどこにあるのか。それは、17年11月の韓国のハンギョレ新聞のインタビューで垣間見ることができる。同記事では、なぜ15年以降に慰安婦問題に目をつけて、活動を始めたのかをこう語っている。「南京問題よりも重要ということではないですが、慰安婦の問題はさらに大きな戦いであることに気が付いたのです。私たちは日本が積極的に歴史を否定しているのを見ている」

 これまでの活動遍歴やこの言葉から分かるように、どうも「日本憎し」の感情が先に立っているようだ。しかも、その他のコメントを見ても、日本人の文化と歴史を到底理解させることは難しいだろうと思わせるコメントも出てくる。例えば高校まで上海で育ったというシン氏は「私の母から聞いた話では、日本兵が通りかかると、上海の人たちはあいさつとして彼らにお辞儀をしなければならなかったそうです。そこには、中国人は日本の奴隷であるという考えがあったからです」

 あまりに飛躍した話であるのは言うまでもない。こんな誤解は、日本人と話をする機会があればすぐに間違いであると気が付くと思うのだが、感情と目的が先に立っているためか、そもそも日本を知ろうともしないのかもしれない。

●議論はできるのか

 インタビューでは、タン氏もこんな話を述べている。「私の家族は戦時中に広東省の村に逃げていました。日本の731部隊はその地域に拠点を置いていた。私の姉2人はその部隊が放出した病原菌に感染して死亡した」

 これが事実だとすれば、肉親を殺された彼女が日本を何としても糾弾したいのは理解できなくもない。インタビューでの2人の発言から伝わってくるのは、2人にとっては、慰安婦云々以上に、日本に対して個人的に深い憎しみを持っているということだ。

 2人は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の記憶遺産に、慰安婦問題関連資料の登録を目指していた。だがご存じの通り、登録は同機関の国際諮問委員会によって17年10月に保留されたばかり。これについて2人は、多くの分担金を払う日本がカネの支払いでプレッシャーをかけていると批判している。

 シン氏はこうも言う。「大阪からもサンフランシスコの慰安婦像を支持する手紙をたくさんもらっている」

 その上で最後に、「私たちは恐怖を抱いている。安倍が平和憲法を改正して、日本を再武装させたがっているからです」と語る。ちなみに原文は、「We're also scared. Abe wants to change the Peace Constitution and re-arm Japan.」で、安倍は呼び捨てだ。判事をしていた人物なのだから、言葉遣いも意図的だと考えていいだろう。

 そして日本人についてもコメントをしている。「一般の日本人は歴史を本当に知らない。なぜなら日本では教えないからです。過去の過ちは繰り返される可能性がある。私たちはそれが起きないように活動しているのです」

 筆者は第二次大戦の日本軍の行為をすべて正当化するつもりはない。一方で、いつまでも感情的な一方的攻撃を受け続けるのもいかがかと思う。また本当に慰安婦に同情しているのなら、米ニューヨーク・タイムズ紙が指摘しているように、韓国政府が女性を拘束して米兵のために慰安婦として働かせていた事実などに対しても声を上げるべきだろう。また慰安婦問題についての15年末の日韓合意についてもきちんと言及すべきだ。「ゴールポスト」が合意後に動くなら、はじめから合意など意味はない。

 ならば、やはり議論を続けていくしかないという結論に行き着く。だが少なくともサンフランシスコから活動を行うシン氏とタン氏は、インタビューから察するに、日本の言い分に耳を傾けようという気はさらさらなさそうだ。

(山田敏弘)

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