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プラモデル風の「伊勢えび」が、注目を浴びたワケ

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2018/01/24 09:24 アイティメディア株式会社
© ITmedia ビジネスオンライン 提供

 パッケージに「ISE-EBI」――。いきのいいイセエビの絵が描かれているので、パッと見たところ「プラモデルかな」と思ってしまうが、ふたを開けると部位ごとに袋詰めされた本物が入っている。イセエビの姿造りを“組み立てる”ことができるキットが売れに売れているのだ。

 商品名は「対ひとり晩酌用イセエビ」(3980円、税別)。水産仲卸業の海商(静岡県浜松市)が12月1日に受け付けたところ、SNS上で話題に。「箱のデザインが秀逸すぎる」「おいしそうだ」「これは欲しい」といったコメントが相次ぎ、「当初は1日に数個売れればいいかなと思っていたが、約10倍ペースで売れた」(海商)という。

 晩酌用イセエビは1月末まで販売する予定だったが、12月中に完売。自宅に届いた人が「これはおもしろい」「家でイセエビを食べたのは初めて。おいしい」といったコメントを付けて、動画や写真をネット上にアップしたので、再び注目を浴びることに。

 普段は魚や貝などを販売している会社が、なぜ本物かどうか疑ってしまいそうなキットを販売したのか。その秘密を探るために、海商で本企画を担当した京谷隆徳さんに話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。

●メールに「新入隊員に告ぐ」

土肥: 海商は浜松中央卸市場で仲卸をしているんですよね。マグロ、ハマチ、貝などを扱っている仲卸業者が、なぜ晩酌用のイセエビを発売することになったのでしょうか。パッケージはプラモデルをイメージしたレトロなデザインになっていて、ふたを開けると、イセエビの刺身(39グラム)、頭部と胴体の殻、おちょこ1個が入っている。殻が入っているので、自分で組みたてなければいけません。「ちょっと変わった商品だなあ」と思うのですが、それだけではありません。

 ネットで注文をすると、メールが届きますよね。「新入隊員に告ぐ。大根を用意し、訓練用物資到着に備えよ。………通信終わり。」と書かれている。まだあります。晩酌用イセエビは袋に入って届くわけですが、その袋にも「KAISHO-GCFS 部隊 訓練用物資」といったシールが貼られている。まだまだありますよね。開発の経緯がこのように書かれている。

 『KAISHO開発チームは、単独任務を主とする傭兵向けに対ひとり晩酌訓練用イセエビキットの頒布を開始した――。

 赤褐色の甲殻防御障壁と硬い殻に覆われた2対の索敵用触角により、高い防御性を持つイセエビはマーケットにて高値で取引されている。よって、民間人居住区域では入手ルートが僅少である。しかし、我らKAISHO-GCFS部隊はイセエビと対峙した際、怯むことなく安全にかつ美しく処理する能力が求められる。

 対ひとり晩酌訓練用イセエビは、二対の触角を外したフィリピン産イセエビを使用することにより、より多くの傭兵にローコストでの頒布を可能とした。開発チームからは“ひげ無し”の愛称で呼ばれている。

 「各兵士に告ぐ、イセエビ攻略を成功させよ!」』

 自宅用のイセエビなので、通常であれば「箱に商品を詰めて、送って終わり」ですよね。それなのに、なぜ戦隊モノっぽい世界観を表現しているのでしょうか?

●プラモデルに見えてきませんか? 見えますよね

京谷: その前に、会社の説明をさせてください。当社は仲卸なので、「原料」と呼ばれる鮮魚全般を扱っています。その原料を商社やスーパーなどに販売しているわけですが、時代が変わってきました。独自性を出さなければ生き残ることが難しくなってきたなかで、どのようにすればいいのか。工業製品であれば他社にはない商品を開発して販売することができますが、当社の場合は鮮魚。独自商品を持つことができないなかで、会社の付加価値を高めるにはどうすればいいのか。このような課題を解決するために、本プロジェクトを昨春にスタートしました。

土肥: これまでB2Bのビジネスを展開してきたけれど、これからはB2Cにもチカラを入れていかなければいけない。というわけで、晩酌用のイセエビを開発したわけですか?

京谷: それだけではありません。魚食離れが進んでいるなかで、仲卸業者としてこの問題を無視することはできません。原料を企画にすることで、販売することができないか。そうすれば、普段なかなか食べることができないモノでも、自宅で食べることができるかもしれません。そうした考えもあって、晩酌用イセエビを企画しました。

土肥: それにしても「イセエビを組み立てる」という発想はいいですよね。頭部と胴体の殻が付いていて、刺身が入っているなんて。

京谷: イセエビを組み立てることに驚かれた人が多いようですが、私たちの業界では珍しいことではありません。出荷する際に、頭部と胴体をわけていることが多いんですよね。

土肥: なるほど。これまでは捕獲したイセエビをすべて業者に提供していたけれど、その一部を一般の消費者にも……といった感じなのですね。それをプラモデルのように見せる、と決めたのはなぜ?

京谷: イセエビの頭部や胴体を見ていると、プラモデルに見えてきませんか? 見えますよね(笑)。先ほど「私たちの業界では珍しいことではありません」と言いましたが、この企画に携わったメンバーは魚を目利きすることができません。他の業界からの転職組なので、いわば“素人”なんですよね。ということもあって、イセエビを見ても、プラモデルに見えてしまったのかもしれません。

 あと、私は40代前半でして、いわゆるガンプラ世代なんです。子どものころに「機動戦士ガンダム」のプラモデルをつくっていたので、イセエビを見てもプラモデルのように見えたのかもしれません。

●ガンダムっぽいものはできないか

京谷: 次に、誰に向けて売ればいいのかを考えました。一人暮らしの男性って、家で晩酌をしたときに、高級なモノはなかなか食べないですよね。ましてやイセエビなんて。じゃあ、パッケージをプラモデル風にして、おちょこを付ければいい企画になるのではないかと。

土肥: ネットで注文をすると、「新入隊員に告ぐ。〜〜」と書かれたメールが届く。商品は袋に入って届くのですが、それにも「訓練用物資」と書かれている。パッケージにも「各兵士に告ぐ〜〜」などと記載されていますが、なぜこのようなことを書いたのでしょうか?

京谷: パッケージのデザインをプラモデル風にしたところ、メンバーから「ここまでやるのであれば、もっとこだわってもいいのでは?」といった声がありまして、手にした人が商品の世界観を感じられるモノにしようとなりました。じゃあ、ガンプラが好きだったので、ガンダムっぽいものはできないかと。

 ガンダムには「地球連邦軍」などが登場しますよね。晩酌用イセエビはひとり暮らしをしている男性向けの商品なので、単独任務をしている「兵士」という設定にしてはどうか。本部から届けらえれた訓練用の物資というストーリーにすると、うまくつながるのではないかと考えました。

土肥: ふむふむ。

京谷: これまでにはなかった形でイセエビを販売することになったのですが、原料について、私たち企画部の人間は何も手を加えていません。当社には目利きができる職人がいますので、その職人から紹介されたモノに対しては、自信があります。

土肥: 「追加で販売したら、もっと売れるよ」といった声もあったのでは?

京谷: 追加販売をして、もしイセエビの品質が落ちてしまったらどうなるか。いけませんよね。パッケージはたくさんつくることができますが、イセエビは無尽蔵にとれるわけではありません。だから、追加販売は絶対にしません。

●「一発屋」と呼ばれないように

土肥: 誰に売るのかを変えて、どのように見せて売るのかを決めた。こうして商品が形になったわけですが、大変なことはなかったですか?

京谷: 社内調整ですね。12月1日に受け付けを始めましたが、社内でゴーサインが出たのは2日前なんです。

土肥: なにがあったのですか? ひょっとして「必要数のイセエビを確保することが難しかった」とか。

京谷: いえ、そういうわけではありません。繰り返しになりますが、会社は仲卸で、玩具店ではありません。創業してからずっと鮮魚を提供してきたので、「こーいうモノをつくるんです」と説明しても理解されないかもしれない。そうした懸念があったので実物ができるまで、企画の内容を伏せていました。

 社内の人間に実物を見せたのは11月末。社内シークレットで進めていたので、ものすごく怒られました(涙)。「これはなんだっ!」と。じゃあ、どのように説得したのか。商品は会社のブランディング向上にも寄与するはずなので、販促物に近い。「広告費として考えるのであれば、販売したほうがプラスになりますよ」と説明して回りました。

土肥: もし売れなかったら?

京谷: 一般の消費者用だからといってイセエビに何か手を加えているわけではありません。注文が入らなければ業務用として販売することができるので、損失は最小限に抑えることができるんです。

土肥: 第一弾が成功したので、次も考えているのですか?

京谷: はい。今回は一人暮らしをしている男性向けに販売しましたが、多くの人に鮮魚の良さを知ってもらいたいので、次は違う層をターゲットにした商品を提供することになるかもしれません。

土肥: 「次も成功しなければいけない」といったプレッシャーがあるのでは?

京谷: 「一発屋」と呼ばれないようにしなければいけません。

(終わり)

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