古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

中国恒大集団がデフォルトしても人民元が高値を付ける理由

マネーポストWEB のロゴ マネーポストWEB 2021/12/15 07:00
中国恒大集団がデフォルトしても人民元高になるのはなぜか(Getty Images) © マネーポストWEB 提供 中国恒大集団がデフォルトしても人民元高になるのはなぜか(Getty Images)

 格付け会社フィッチ・レーティングスは12月9日、一部のドル建て債券について利払い猶予期間を終了しても利払いが行われていないことを理由に、中国恒大集団(03333)とその金融子会社など2社のレーティングについて、CからRD(部分的な債務不履行状態)に引き下げた。

 恒大集団は12月3日、債権者から2.6億ドルの担保(債務保証)義務の履行を求められているが応じられない可能性があり、さらに他の財務責任についても債権者から履行要求が加速する可能性があると発表していた。

 これを受けて中国人民銀行は3日夜、ホームページを通じてコメントを出している。

〈海外債券市場は高度に市場化されている。投資家は成熟しており、評価能力は高い。関連する問題の処理についてはしっかりと法律規定に従ってなされるだろう〉と突き放す一方、中国国内に関しては、〈短期的に個別不動産企業においてリスクが発生するだろうが、中長期における市場の正常な融資機能に影響はない。最近では、国内不動産の販売、土地仕入、借入などの日常業務は回復に向かっている〉と強調している。

 恒大集団は9月以降、フィナンシャルアドバイザーや法律顧問とともに、資本ストラクチャーや資金流動性の状況について分析・評価を行っており、それをもとに債権者と話し合いを続けており、企業リストラを行い処理しようとしている。広東省政府は問題処理に向けて対策チームを派遣すると発表している。現状では、当局のサポートの下で、個別案件ごとに粘り強い話し合いによって問題が処理されようとしている。

他の先進国ではできない「強力で迅速な対応」

 中国の金融システムはオフショア、オンショアの壁がはっきりと設けられている。香港などのオフショア(海外)市場で起きているデフォルトはあくまでも、国際ルールに基づいて処理されるが、オンショア(国内)市場では国内の監督管理スキームの中で処理される。

 4大商業銀行、交通銀行、中国郵政儲蓄銀行といった国有銀行が総資産でも、総預金額、総貸出額でも、上位を占めており、それに中信、招商、光大といった中央系投資公司、地方政府系銀行が続く。国内金融はほぼ国有資本によって支配されている。民営で規模の大きな銀行といえば民生銀行があるが、この民生銀行であっても、中国銀行保険監督管理委員会による細かい規制を受ける。国家の方針に逆らって、自らの利益の最大化だけを貫くようなことはできない。共産党が金融市場の安定を重視している以上、金融機関はその任務を遂行しなければならない。

 今回のデフォルト騒ぎは、恒大集団が当局の指導から大きく逸脱した拡大路線を長年続けてきた結果である。“住宅は住むためのもので、投機の対象ではない”。同社を筆頭に業界全体が投機を助長するような拡大戦略を長年採り続けてきたが、これ以上許容できなくなった共産党が、強力な国家権力によって、唐突に財務面でのルールを“後付け”するといった強硬手段で、バブルを退治し、同社を厳しく粛清しようとしているというのが実態である。

 当局が主導して現在のデフォルト騒ぎが起きている以上、当局は用意周到に対処を進めている。国内金融機関は貸し渋りも、貸し剥がしも到底許されず、債務不履行リスクも経済に影響が出ると当局が判断すれば、追い貸しでも、モラトリアムでもあらゆる方法を以て対処されることになる。

 一方で、問題企業は存続に向けて必死の努力を続けることになり、できなければ解体、資産売却される。利害関係者間の話し合いを重視するとはいえ、まとまらなければ最終的には当局の裁量で処理案は落ち着く。“強力で迅速な対応ができること”、それが他の先進国にはない中国金融行政の最大の強みでもある。

 こうして見ると、国内金融市場が大きなダメージを受ける可能性は低い。だが、そうした実態に関して、海外のマスコミが報じることはほとんどない。それどころか、一部のマスコミは、この問題がグローバルな金融危機を引き起こしかねないと報じてきた。これに対して欧米金融機関はどう考え、どう対応したのだろうか。

中国当局が望まない人民元高

 人民元の上昇が続いている。恒大集団のデフォルト懸念が大きく広がったのは7月以降だが、人民元対ドルレートはその前の5月を安値にしっかりとした上昇トレンドが発生している。

 12月9日には一時、1ドル=6.343元まで人民元高が進んだ。これはトランプ大統領が本格的に中国製品に懲罰関税をかけ始める直前の2018年5月以来の高水準だ。

 しかも、この人民元高は、決して当局が望んだことではない。中国人民銀行は12月9日夜、金融機関の外貨流動性を管理するため、外貨預金準備率を2ポイント引き上げ、9%にすると発表した。実施は12月15日からである。

 中国人民銀行は6日夜、預金準備率を0.5ポイント引き下げると発表したばかりであり、実施は同じく12月15日からだ。当局は人民元の流動性を高める一方で、外貨については引き締めようとしており、明らかに人民元高を警戒している。

 足元の人民元高は海外からの資金流入が主な要因となっている。特に中国国債の“外国人買い”が進んでいる。11月の海外投資家による買入額は879億元(1兆5646億円、1元は17.8円で計算、以下同様、データはチャイナボンド)で1月以来の高水準であり、外国人の中国国債保有額は過去最大の2兆3900億元(42兆5420億円)に膨らんでいる(ブルームバーグニュースより)。

 内外の金利差、中国の強力な輸出力を背景とした貿易黒字の継続や、コロナ禍に対する防疫システムの強さなどが人民元買いの主な要因であるが、その背景には中国金融システムの高い安定性が評価されている面もあるだろう。

 欧米機関投資家が、「中国の経済、金融システムは先進国のシステムとは決定的に異なること」を理解していないはずがない。彼らの中には投機的な取引を行う者も当然いるが、そうした投資家の中には香港をはじめグローバル株式市場で売り仕掛けを行う者もいる。バイデン政権が対中強硬策を打ち出す中での恒大集団のデフォルト見通しは恰好の売り材料である。

 市場に溢れる情報と現実との間にはしばしば大きな乖離がある。そのことを中国人民銀行が警戒するほどの足元の“中国への資金流入”が示している。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。

マネーポストWEBの関連記事

マネーポストWEB
マネーポストWEB
image beaconimage beaconimage beacon