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信州から世界的ウィスキーを。大軽井沢経済圏が目指す「酒ツーリズム」

Forbes JAPAN のロゴ Forbes JAPAN 2021/04/23 09:00 鈴木幹一

© Forbes JAPAN 提供 コロナ禍以降、東京一点集中から地方への分散の必要性が叫ばれ始めてきた。軽井沢周辺エリアでも、移住が急増している。

本稿では、最近軽井沢に移住・二拠点居住された新しいライフスタイル、価値観を持った方々に加え、その移住者を受け入れる立場の企業・団体・自治体のトップの方々にインタビューし、地域活性化、将来のリゾートテレワーク・ワーケーションの可能性を予見していく。

今回は、大軽井沢経済圏※1の一翼を担う小諸市の小泉俊博市長に、インタビューする。

※1 軽井沢と、周辺エリアの御代田町・小諸市・佐久市・東御市・上田市、本稿ではこのエリアを大軽井沢経済圏と呼ぶ

小諸でウイスキー生産へ

鈴木幹一(以下鈴木):小諸は、歴史溢れる高原城下町として魅力はたくさんあると思います。今回はその中でも最近特に話題のウイスキー蒸留所のお話を中心に、酒類クラスターのお話をお聞かせいただきたいと思います。

小泉俊博(以下小泉):まず、シングルモルトウイスキー蒸留所についてお話しします。蒸留所建設予定地は、浅間サンライン沿いにあり、標高は910メートル、敷地面積は1万平方メートル以上です。蒸留所とショップやバーなどを備えた施設とウイスキー貯蔵所2棟を今年度から建設します。単一蒸留所の原酒のみで造り、こだわりがストレートに反映される「シングルモルトウイスキー」として販売していく計画です。

マスターブレンダーのイアン・チャン氏は、昨年3月まで在籍していた台湾のカバランをわずか十数年で世界に知られる蒸留所にした張本人で、世界トップクラスのウイスキーを目指し「リッチでフルーティー、複雑なのにクリーン」なフレーバーが特徴です。

この地を選んだ理由として、小諸の気候風土が世界最高のウイスキー醸造に適しているからと聞いています。また、イアン・チャン氏の影響もあり、既に「KOMORO」の名は世界から注目されているそうです。

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標高2000メートルの高峰高原から見る雲海(小諸市小泉俊博市長撮影)。高峰高原は、国内有数の星空観察スポットとしても有名。

鈴木:最近日本ではシングルモルトウイスキーブームですから、今からとても楽しみですね。具体的なスケジュールと規模感はどんな感じでしょうか?

小泉:来年春に竣工予定で、年間10万リットル(原酒)程度から始め、徐々に生産量を増やしていく予定です。ショップやバーのほかウイスキーを本格的に学べるアカデミー(エディ・ラドロー氏が担当)も開き、国内のウイスキーファンや欧米や台湾などから年間10万人の来客を目指しています。

鈴木:ウイスキーの蒸留所は南軽井沢にも予定されています。そうなると大軽井沢経済圏で2つのウイスキー蒸留所が出来ることになります。今までのワイン、日本酒の酒蔵、ビール、焼酎に加えウイスキーが加わることによりエリア全体で大きな集客力が期待できると思います。具体的にどのような誘客をお考えでしょうか?

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軽井沢蒸留酒製造株式会社 副社長張郁嵐(イアン・チャン)氏。2005年、台湾初のウイスキーメーカー「カヴァラン」(KAVALAN)の立ち上げメンバー。最も権威ある賞を複数回にわたり受賞。現在、世界のウイスキー品評会(IWSC)の審議員としても活動している。

小泉:首都圏や北陸方面から、お酒好きな方々をターゲットにした酒類ツーリズムを定着させることで来訪者の増加が期待できると思っています。また、最近エリア内に人気のレストランが増えてきていますので、酒類と美食を合わせたツアーも良いと思います。

長野県は味噌・漬物など発酵食品文化が歴史的にも定着しております。長野県全体でも発酵と健康長寿で強力に推進していますので、酒類と美食に加え、健康を組み合わせたガストロノミーツアーも魅力的なコンテンツだと思います。

千曲川ワインバレーの魅力

鈴木:他ではやっていない地域の特性を生かした地域課題解決型ワーケーションですね。とても面白いと思います。あと小泉市長は、千曲川ワインバレー特区連絡協議会の会長を務められております。そのお立場から、最近ワイナリーの規模が拡大している千曲川ワインバレーの現状と今後の展開をお聞かせいただけますか?

小泉:このエリアは浅間山の南麓に位置し、日本有数の日照時間の長さと少ない降水量を誇り、1日の寒暖差が大きいことも相まって、ぶどうの生育に適した恵まれた地域です。地形的にも真ん中に千曲川が流れており、右岸と左岸でそれぞれ特徴的なワインが造られ、同一品種でも異なる味わいが楽しめます。特に、欧州系品種には定評があり、メルロー・シャルドネのほか、カベルネソーヴィニヨン・ピノノアール・ソーヴィニヨンブランなどが栽培されています。

また、現在、千曲川ワインバレー東地区(広域ワイン特区を8市町村連携で構成 小諸市(事務局)、上田市、東御市、千曲市、坂城町、長和町、立科町、青木村)には、ワイナリーでマンズワイン小諸ワイナリー、ジオヒルズワイナリー、アンワイナリー、テールドシエル(以上、小諸市)、シャトー・メルシャン椀子ワイナリー(上田市)、ヴィラデストガーデンファーム&ワイナリー、アルカンヴィーニュ、アトリエ・デュ・バン、カーヴハタノ、ドメーヌナカジマ、シクロヴィンヤード、ナゴミ・ヴィンヤーズ、はすみふぁーむ&ワイナリー、リュードヴァン、レヴァンヴィヴァン、ツイヂラボ(以上、東御市)、坂城葡萄酒醸造株式会社(坂城町)、たてしなップルワイナリー(立科町)、ファンキーシャトー(青木村)があります。

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千曲川ワインバレーでは、ヨーロッパ品種のブドウが多く植えられている

さらにこの他に自らのワインを造り始めたヴィンヤードを含めると47で、志の高いワイングロワー(栽培・醸造を行う作り手)たちの実績から、今もなお続々と新規参入しています。大手大規模ワイナリーから個人経営のブティックワイナリーまで個性的なワイナリーが集積していることも特長です。

鈴木:千曲川ワインバレーがなぜここまで盛り上がっているのか、どのような背景が有ったのですか?

小泉:ここまで広がってきたのは、二つ大きな要因があると思います。一つ目が、長野県がワインバレー構想で積極的に生産者を支援してくれている事です。

二つ目が、栽培から醸造までを学ぶことのできるワインアカデミーがエリア内にあることです。この千曲川ワインアカデミーは、千曲川ワインバレーの生みの親であるエッセイスト・玉村豊男さんのご苦労により設立されました。玉村さんの人材育成を重視した強い思いと取り組みのおかげで、ワイン産業がワイン文化へと発展することができ、造り手やワインファンをひきつける源泉になっているのだと思います。その意味で玉村豊男さんのお力はとても大きいと思っております。

鈴木:以前から、試験的に土日だけ軽井沢からマイクロバスでワイナリーを巡回するような試みがありましたし、しなの鉄道では2017年から観光列車である「ろくもんプレミアムワインプラン」を実施、交通機関との連携も盛んです。

ワイン愛好家がワイナリーに行くと、ワインを飲み比べしたくなりますから、なかなか自家用車で行くのは難しいと思います。飲んでも良いようにマイクロバス・タクシー・代行などの移動の手段も重要だと思います。

例えば、小諸までしなの鉄道で来ていただき、駅前のこもろ観光局で「千曲川ワインバレー周遊パック」(例 ワイン購入券、タクシー券・バスの周遊券などがセットになった商品)を割引で購入、ワイナリーを試飲しながら周遊するイメージです。

小泉:確かにワイン愛好家の皆さんは、ワインの試飲をされますから、試飲しても良い移動手段が重要ですよね。生産者との交流が増えているだけでなく、地元も活性化されるとても良いアイディアだと思います。

鈴木:今後の課題と戦略をお聞かせいただけますか?

小泉:課題は、生産量と販路・認知度の拡大があると考えています。ワイン産業は、当エリアに新たな経済発展や新しいライフスタイルをもたらしてくれました。SDGsでいくとNo.8, 9, 11に該当します。

また、当エリアのワイン用ブドウ栽培は、かつての養蚕の名残である桑畑等の耕作放棄地を見事なヴィンヤード(畑)に変えてきました。このことは、持続可能な農業展開で大きく地球環境にも寄与する、SDGsでいくとNo.13, 14, 15に該当するモデルにもなっています。世界規模の課題を解決に向けた取り組みを推進するため、長野県やエリアの市町村と連携して栽培地・販路の拡大に取組んでいきたいと思います。

世界基準のワイン産地にしていくことも重要です。幸いなことにマンズワイン小諸ワイナリーは、国際コンクールで数々の受賞歴があり、国賓来日時の晩餐会で採用される世界基準のプレミアムワイン「ソラリス」と再来年に50周年を迎える歴史を持っております。また、シャトー・メルシャン椀子ワイナリーでも、昨年のワールドベストヴィンヤードトップ50に選ばれるなど、プレミアム産地となってきています。

これらの歴史や実績に加えて、地域の信州大学等やIT企業と連携した醸造技術の向上を図ることで、他にはないワインバレーになると確信しています。

このような意味からも、軽井沢をゲートウェイとして周辺エリア(経済圏)が連携することは極めて重要であると思います。

鈴木:いずれも重要な戦略ですね。最近軽井沢のレストランでは、千曲川ワインバレーのワインをラインナップに入れているお店が多くなってきましたし、別荘でのワイン会やBBQでも千曲川ワインバレーのワインが出る事が増えてきたように思います。フランス料理・イタリア料理・中華・和食とマリアージュする機会を増やせば、おのずと消費拡大に繋がると思います。

さらにSNSでワインを飲んでいるレストランやワイナリーの写真や動画を多くの方がアップするような仕掛け(例えば、千曲川ワインバレー愛好家コミュニティーを組織化)も重要だと思います。千曲川ワインバレーの魅力が拡散され、さらにファンが定着していくと思います。

アスリートの誘致、標高2000メートルで合宿、日本有数の晴天率

鈴木:小諸市は、アスリートの誘致に力を入れているとお聞きしています。具体的にどのようなアスリートが来られているのですか?

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高峰高原は国内屈指の標高2000メートルに位置するトレーニングエリア。市街地エリアから車で30分で到着でき、全長約4キロメートルの林道と拠点となる宿泊施設がある。標高650メートル~2000メートル内で、選手やチームへ標高差を活かした様々な練習環境を提供している

小泉:トライアスロン(男女ナショナルチーム)、競歩(男子ナショナルチーム)、駅伝(箱根駅伝:東海大学・日本体育大学、都大路駅伝:佐久長聖高校・長野東高校、クイーンズ駅伝:三井住友海上女子陸上部・肥後銀行)、マラソン、トレイルランニングなど多くのトップアスリートがトレーニングに来ています。

鈴木:なぜ多くのアスリートが小諸に来るようになったのですか?

小泉:国内屈指の標高2000メートルで高地トレーニング合宿ができることがポイントです。また、標高1000メートルの林道やトラック、700メートルの民間スポーツ施設などをトップアスリートは利用し、この地の特性を活かした、様々なトレーニングメニューが可能です。さらに、隣の東御市の標高1740メートルにある50メートルの長水路プールや佐久市の第2種公認陸上競技場などを利用するなど広域連携での取り組みも可能です。

それから日本有数の晴天率(雨雪日は年間約30日、降水量約820ミリ)と気候が冷涼(平均気温12.2度)なのでトレーニングには最適な環境だと思います。

また、官民連携の組織体制──「小諸市エリア高地トレーニング推進協議会」を設置し、病院、商工会議所、JA、企業、体育協会など8団体で構成し、それぞれが得意としている分野で活動しています。

 

さらに、医療サポート体制の充実-緊急医療体制がしっかりしていることは勿論ですが、血液採取などにより高地トレーニングの効果を測定する支援を協議会メンバーのこもろ医療センターが行っています。また、科学的なエビデンスを得るため東海大学のスポーツ医科学研究所と連携を行っています。最終的には、取得したデータなどを市民の健康づくりに反映できるように今後展開していくことを目指しています。

鈴木:万全な体制ですね。最後にウエルネス・アスリートを絡めたワーケーションプログラムも考えられると思いますが、そのあたり如何でしょうか?

小泉:コロナ禍でワークスタイルが大幅に変わり、オンラインがメインになってきました。眼精疲労、腰痛、猫背などの症状も多いと聞いています。そのようなワーカーを対象に、軽井沢をゲートウェイとして浅間南麓の御代田町、東御市、上田市、佐久市、小諸市が連携した、広域でのウェルビーイング型ワーケーションや、飲食メーカーや飲食店のワーカーを対象とした酒類クラスターの課題解決型ワーケーションも考えられると思います。企業側も福利厚生費で社員を参加させることが出来るのではないでしょうか。

また、小諸市と佐久市には最近注目されているノルディックウォーキングのポールのメーカーがあります。ノルディックウォーキングの動きは身体にある90%の筋肉が使われることや場所を選ばず1年中できるため、「最もヘルシーなスポーツ」と認められています。

ここ数年、高齢者、若者を問わず健康維持のため、ノルディックウォーキングをする地域住民が増えてきています。都会のワーカーの皆さんにもぜひ健康維持や心身ともにリフレッシュするため、大自然の中でノルディックウォーキングされることをお勧めします。

インタビューを通じて

地方経済の活性化の重要性は昔から言われていました。ただ行政区分の縦割りの考えが有り、なかなかエリア全体で地域の魅力を掘り起こし地域経済を活性化することが思うように進まなかったのが現状です。コロナ禍以降、地方経済の疲弊は加速度的に進んでいますので、今こそ広域地域連携が重要だと思います。

小泉市長とは、2018年より、浅間山麓観光地域づくり、「発酵食品」を中心としたローカルガストロノミー、軽井沢町・御代田町・小諸市の3首長による「広域観光連携(食とワークとアート)で地域活性化をテーマとした、「大軽井沢経済圏地域価値創造フォーラム」などを小諸・東京・軽井沢で過去5回開催してきました。これからも広い視点で広域連携による地域の活性化はますます重要度が増すと思います。

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日本を代表する活火山「浅間山」。雄大な山容と四季折々で姿を変える妖艶な姿は見るものを魅了する。唯一の登山口が小諸市にあり、年間を通じて多くの登山客が訪れている

小泉俊博◎長野県小諸市長。1963年(昭和38年)4月生まれ(現在58歳)。駒澤大学法学部法律学科卒。故井出正一厚生大臣・衆議院議員秘書を経て、行政書士事務所開業。長野県行政書士会理事(総務部長)・佐久支部長、長野県商工会議所青年部連合会長、小諸商工会議所青年部会長などを歴任する。5人の争いとなった2016年4月の小諸市長選挙に出馬し、初当選。現在2期目。

市長就任以来、民間出身の市長としてユニークな発想でPR動画「小諸がアツ・イー」シリーズなど小諸市のシティプロモーションの取り組みや、公営墓地の合葬墓を返礼品とした特色ある「ふるさと納税返礼品」などでマスコミから注目を集める。2期目の現在は、小諸版ウエルネスシティを掲げ、人口減少社会において選ばれるまちとなるべく、移住定住、関係人口の創出に力を入れている。

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小諸市の旧北国街道沿いの江戸時代の脇本陣を改装してオープンした宿「粂屋」(くめや)。参勤交代では加賀藩の家臣が宿泊したとの記録が残っている。収容員数:宿泊19名、カフェ20名・客室5部屋・貸室2室

長野県小諸市の紹介

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小諸高原美術館・白鳥映雪館と北アルプスを臨む。小諸インターチェンジに近く、浅間サンライン沿いに位置する美術館などが建つ飯綱山公園は、Park-PFIの活用によりより質の高い利用を目指す

かつては養蚕、製糸業などで栄え「商都こもろ」と呼ばれたまちで、地域経済の中心地であった。現在は、小諸市の中心市街地は、国土交通省が推進している「地方都市リノベーション事業」の第1号に採用され、小諸駅を起点とし小諸城址懐古園や都市機能を集積し、郊外と公共交通で結ぶネットワーク型コンパクトシティを進めている。

江戸時代に宿場の中心として旅籠や店が並んでいた旧北国街道沿いには商家の町屋づくりの街並み、駅から浅間山に向かって連棟式の商店街や昭和の香りを残す居酒屋街など情緒のある通りが存在している。

また、小諸・藤村文学賞や虚子・こもろ全国俳句大会などを主催したり、県内唯一の音楽科を有し、プロの音楽家を輩出する小諸高校やTBSこども音楽コンクールの小学生の管楽合奏部門や合唱部門で日本一になるなど文化活動も非常に盛んである。

連載:『人生100年時代 豊かな生活をおくる次世代ライフスタイル学』

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